春琴抄で感想文 🐈佐助犯人説を谷崎先生、どう思います?

 


吾輩は猫である。
名前はまだない。
どこで生まれたかとんと……

いや、挨拶はもう、  猫男kadnip_medium
抜きにさせてもらうが、本日しゃしゃり
出たのは、わが漱石先生なきあとの日本で
文豪と呼べる数少ない作家の一人、
谷崎潤一郎先生(1886-1965)の名作
『春琴抄』(1933)のことでである。
  


すなわちこの小説で読書感想文を書こうと
されている諸君のために、谷崎先生とは
いささかの面識もある、明治生まれの
“妖猫”吾輩の”猫の手”を貸りたいという
サイ象君の指令である。

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🐈 「感想文」の書き方は?

同君の頼みとあらば無下に斥けるわけにも
ならず、今回は吾輩が「感想文の書き方」
を請け負うことにしたんであるが、気が
つけばこのシリーズも、な、なんと
第133回を数えるんであるな((((((ノ゚⊿゚)ノ

さて、その「感想文」であるが、
猫なんかに教えられて、ハイわかりました
と言うことを聞いてくれる人が
ほんとにいるのかしらん。

いないようにも思われるんで、ここは
いっそのこと、”妖猫”の魔力を発揮して、
冥界の谷崎先生を訪ね、ご自身にお会い
して話を聞いてくるのが、便宜かつ読者
にもありがたいんではあるまいか。

A gray domestic cat looking serene

え? そんなことがほんとにできるのか?

それはお読みくださればわかる。


なに? 「感想文」云々以前に、
まだ作品の内容を知らない?

呵呵、是非もない。

それならばサイ象君が汗水たらして
仕上げたこちらの「あらすじ」記事を
読まれるとよい。

谷崎潤一郎 春琴抄のあらすじ:簡単/詳しくの2段階で


🐈 吾輩、谷崎先生に再会す

―やあやあ谷崎先生、これはこれは
久方ぶりでござる。

―おお、これは夏目先生んちの
”吾輩”ではないか。

どうだ、あちらの「この世」では
元気にしておるのか。

―はい、お陰様で。

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ご承知のように酔っ払って溺死
しましてから、こちらのいわゆる
「あの世」へ参りまして、その後新しく
おいでになった谷崎先生ともお近づきに
なった次第ですが……

―うんうん、そうであったな。

―またその後、サイ象という妙な男の霊力で
「この世」に呼びもどされまして……

―ああ、そうであった。

どうだ、生きることはやはり楽しいか。

―はは、それはやはり、楽あれば苦あり、
苦あれば楽あり…といったところで
ございましょうか。

―ふむ、さすがにうまいことを言う。

「楽」即「苦」、「苦」即「楽」とは
わが谷崎文学の世界を端的に表現した
ようで、言い得て妙であるな。

―まさにそれを申したつもりでござる。



🐈 佐助犯人説

―さて先生、本日は先生の稀代の傑作
『春琴抄』についてお聞きしたいことが
あって参りました。

―ふむ、よろしい。

生前はまあ、謎は謎のままに残した方が
”谷崎神話”のさらなる増殖を呼ぶだろう
というような魂胆もあって、あまり
多くを語らぬようにしておったんだが、
死んだからにはもうかまわん。

なんでもバラしてしまうぞ。

―ははは、さすが谷崎大明神、豪気な
ものでござるな。

さて、それでは単刀直入に
お尋ねします。

たぐいまれなる盲目の美女、春琴の      
顔面に熱湯を注いで二目と見られぬ
顔にしてしまった犯人は結局、
誰だったんでござるか。

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―ふむ。それを小生に言え、と。

―はい。と申しますのは、先生がこちらの
「あの世」へいらして10年ほどしましてから
犯人は実はあの佐助ではないか、という説が
河野多恵子、野坂昭如といった有力な作家や
多田道太郎、千葉俊二という学者らによって
唱えられ、「この世」はその噂で
もちきりとなったのです。

はい。事件のあと自ら目に針を入れて春琴と
同じ盲目となり、事実上の夫ともなった
あの佐助。

映画では三浦友和さんや斉藤工さんが
演じられた、モト丁稚の佐助です。


🐈 春琴は松子夫人のイメージで書かれた?

―フッフフ、嗅ぎつけられたか。

いや、しっかり読んでもらえて
ありがたいことだ。

完全にそのつもりで書いたわけではないが、
そうも読める、その可能性も残るように…
というつもりでは書いておったな。

―ははん、これはしたり。
吾輩の睨んだとおりですな。

―ん? 生意気を申す猫だな。

どう睨んだのか、それなら
一つ、説明してもらおうか。

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―はは、それでは猫の分際で
はばかりながら、申しあげます。

『春琴抄』は、驕慢な美女に拝跪する
男の、完全に隷属しかつ痛めつけられる
ことの喜びを追求した至純の芸術品で
ございますね。

これと比肩しうる小説といっては
ザッヘル=マゾッホの『毛皮を着た
ヴィーナス』以外に見当たりません。

―ふむ。まあ、そんなところだろう。

なかなかよく読んでおる猫だな。

―はい。そして先生はこの芸術的理想を
文学の世界にとどめておくことなく、
実生活においても追求されました。

第3の妻であり終生の伴侶となった
松子夫人は『春琴抄』を書くときも
つねに念頭に置かれていましたよね。

―ああ、そのことは随筆などに書いた。

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🐈 身を亡ぼしても無上の幸福

―そしてまた松子夫人に寄せられたお手紙も
”芸術的”というか、芸術世界に属する
ような文章ですよね。

一生あなた様に御仕へ申す
ことが出来ましたらたとひその
ために身を亡ぼしてもそれか
(が)私には無上の幸福で
ございます
〔中略〕
私には崇拝する高貴の女性か
(が)なければ思ふやうに創作
か(が)出来ないのでござい
ますがそれがやうやう今日に
なつて始めてさう云ふ御方様に
めぐり合ふことか(が)出来た
のでございます

   (1934/09/02 書簡)

―ぐっふふ、懐かしいのう。

―少し後にはこんなことも 
お書きになりましたね。

御寮人(ごりょん)様にお願いが
あるのでござりますが、今日より
召し使ひにして頂きますしるしに
御寮人様より改めて奉公人らしい
名前をつけて頂きたいので
ござります、

「潤一」と申す文字は奉公人
らしうござりませぬ故「順市」
か「順吉」ではいかがで
ござりませうか。

柔順に御勤めをいたしますことを
忘れませぬやうに「順」の字を…

    031698
   
―も、もうよかろう。

顔に血が上るではないか、血液は
一滴もないはずながら、ハハ(;^^A)…

―いやいやスサマジイ”芸術的”追求に
畏れ入るばかりでござる。

―そうだ、”芸術”だ。


🐈 中絶を強いられた松子?

―ですから、その松子夫人が「産みたい」
とおっしゃっていたお子を、妊娠5ヶ月
という危ない時期に、ついに中絶おさせ
になったのも……ひとつの”芸術”。

というか、あくまでも”芸術”第一で、
松子夫人のイメージがいささかでも
壊れることを許さなかった、という
ことでござるな。

―そのことも書いたし、松子も
自分の随筆に書いておるだろう。

―はい。それで、松子夫人が先生の
命令に従われたのだとしますと、
事実上、夫人の方こそ「御仕へ申」して
いらっしゃる「召し使ひ」であって、
ご夫人の方で、命令する側…権力者は
実は先生の方だった、ということに
なりませんか……

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―うーむ。猫のくせに…というか、
いや、むしろ猫ならではの傍若無人、
反=権力的ツッコミというべきか…。

―いやいや吾輩は先生を吊るし上げ
ようと思って「あの世」へ来た
わけではござらん。

あくまで”芸術”信奉者でござる。

―そうか。ふむ。それならば
あけすけに申してやろう。

『春琴抄』を書く5年ほど前に、
マゾヒズムを分析したエッセイを
発表しておるんだが…。

―「日本に於けるクリップン 126133
事件」(1927)でございますね。

―なんだ、持ってきておるのか。
手回しのいい猫だな。

結局、そこに書いたことがすべてだ。

多少修正したいところがないではないが、
本質的な部分は変わっておらん。

マゾヒズムは、少なくとも小生に
あってはそのようなものであるから、
小生の作品であれ、生き様であれ、
そこに述べた内容に沿って理解して
もらってかまわん。

―さようでござるか。

それではこれから、その論旨を
かいつまんで述べさせていただき
ますので、ご確認願えましょうか。

―よろしい。



🐈 谷崎自身のエッセイから

―ここで先生が問題にされておるのは、
マゾヒストが喜ぶ「虐待」が肉体ばかり
でなく「心」の領域で「軽蔑」のような
形で加えられる場合でござるな。

それを「喜ぶ」のだといっても

実のところはさう云ふ関係を
仮に拵へ、恰(あたか)もそれを
事実である如く空想して喜ぶので
あって、云ひ換へれば一種の
芝居、狂言に過ぎない。

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と先生は言い切っておられます。

第一「心から彼を軽蔑する」女なら彼を
相手にするはずもないし、そんなことは
マゾヒスト自身にもわかっている、と。

つまりマゾヒストは「実際に女の奴隷に
なるのでなく、さう見えるのを喜ぶ」
のだ、という論旨です。

故に彼等は利己主義者であって、
狂言に深入りをし過ぎ、誤って
死ぬことはあらうけれども、
自ら進んで、殉教者の如く女の
前に身命を投げ出すことは
絶対にない。
〔中略〕
彼等は彼等の妻や情婦を、女神の
如く崇拝し、暴君の如く仰ぎ見て
ゐるやうであつて、その真相は
彼等の特殊なる性欲に愉悦を
与える一つの人形、一つの
器具としてゐるのである。


      博多人形  IMG_0024

女王様も「真相」は「人形」であり
器具」にすぎないんであるから、
子を産む自由など認められなくても
当然…と、こういう論理になると見て
よろしゅうございますか。

―うーむ。なかなか切っ先するどい
爪をもつようだな。

まあ、そういうことだ。

―であれば、佐助にとっての春琴も
「女神/暴君」として仰ぎ見て喜び
ながら、究極的には彼に愉悦を与える
ための「人形器具」にすぎない。

だから、自分の喜びをより大きくして
いくためなら、それを毀損すること、
美を壊してしまう行動に出ることも
十分ある、と。

―ふむ。いやらしい猫め…
ああ、そのとおりだ。

佐助を犯人と見る解釈の余地というか
一種の”亀裂”を小生はあえて残した。

それは、マゾヒズムのこの側面も
消さずに生きのびさせようという
意識があったからだ。

消してしまった方が芸術としての
純度は高くなったかもしれん。

だが、人間の真相を描いたもの
としては、いくぶん嘘になる。

―はい。『春琴抄』以前の     仮面masks-310474__180
傑作に『痴人の愛』(1924-25)が
ございましたが、あそこでの「女神/
暴君」ナオミと主人公の関係などは
”亀裂”の入りまくりと申しますか、
むしろそこが面白かったわけで……

―ハハハ、そうであろう。
『春琴抄』ではそいうった”亀裂”のない
最高純度の芸術品を目指したんだが、
やはり残ってしまった、ともいえる。

―そこもまたご愛嬌で。

いや今日はお疲れのところ、
まことにありがとう御座いました。

今後とも、といいますか、なお一層の
ご冥福をお祈り申し上げます。


🐈 で、どう書く? 感想文

とまあ、このようにして吾輩は谷崎先生への
インタビューを終え、またふらりと「この
世」へ戻って来たんである。

さて、いかがかな?

読書感想文を書こうとされる方に
いささかなりと参考に
なったであろうか。

ただ、念のため云っておくが、上記は
冥界の谷崎先生に語らせる形で述べた
吾輩の妄言にすぎんので、だから
あまり鵜呑みにしてはいかん。

それにそちらでの話題はマゾヒズムに
集中してしまったけれども、それ以外
にも、もちろんいろいろとテーマは
見つけられるはずである。

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とまれ、マゾヒズムを考えるなら
『春琴抄』に表現されたその傾向の愛を
たたえるもよし、またそれを、結局は
男の勝手な願望として断罪するもよし……
といったところが吾輩の進言となる。


もしこれを機にマゾヒズムに興味を
もたれたなら、これについてもっと
勉強して書くのがよろしかろう。

第一にはやはりこの言葉の由来に
なった人物、19世紀オーストリアの
作家レオポルド・フォン・ザッヘル=
マゾッホ(1836-95)であるな。

こちらの記事を参照されたい。

マゾヒズムの元祖 マゾッホの指責めで痛いほど笑って感想文?

蜘蛛女 pet_spider_girl


もちろん谷崎先生の他の作品と
比べてみるのもよい方法である。

初期の短編『刺青』にはすでに
「マゾヒズム」が燦爛としておる。

こちらの記事を参照されたい。

谷崎潤一郎 刺青のあらすじと考察:若尾文子主演映画も鑑賞

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そのほか谷崎先生の本を早く安く
手に入れたいという場合は、近ごろでは
Amazonが便利である。
こちらから探してみられよ。


谷崎潤一郎の本:ラインナップ€


マゾヒズム的な趣向を作品に採り入れて
いった日本の作家としては、(文学の
質は大違いながら)江戸川乱歩君を
挙げることもできる。

『陰獣』がその代表的なものだが、
その他の作品にもチラホラ出るので
こちらから発見されるとよい。

江戸川乱歩 陰獣のあらすじ:ネタバレ御免で結末まで
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影男(江戸川乱歩)のあらすじ:ネタバレ御免で結末まで

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🐈 まとめ

さあ、これでもう書けるであろう、感想文。

なに? 書けそうなことは浮かんで
きたものの、具体的にどう進めていいか
わからなん( ̄ヘ ̄)?

それならば当シリーズ中「感想文の
書き方《虎の巻》」を開陳している
記事のどれかをご覧くだされ。

当ブログでは、日本と世界の種々の
文学作品について「あらすじ」や
「感想文」関連のお助け記事を
量産しておる。

参考になるものもあろうかと思うので、
こちらのリストから探されよ。

「あらすじ」記事一覧

≪感想文の書き方≫具体例一覧

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ではまたどこかで
お目に掛かりたいものである。

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