俳句と川柳の違いは?子規・漱石にその極意を尋ねれば…


マザコンと
言われて母に
相談し    
          

いきなりで失礼しました、サイ象です。

さてこの句、なかなか傑作……
ではないですか?

「句」といっても「俳句」ではなく
「川柳」だということになるんですが……
そいうえば、俳句と川柳ってそもそも
どこがどう違うんでしょうかね?

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❐ 俳句と川柳はどう違う?

「575」の計17文字(正確には「文字」でなく
拍〔モーラ〕ですけど)の定型詩だという
点で同じなんですが、一般に思われている
違いとしては、以下のような点が
挙げられますね。

  1. 川柳は笑えるふざけたもので、
    俳句はまじめ…というか風流に
    風景を詠んだりする。

  2. 言葉づかいが俳句は文語的で
    川柳は口語的。

  3. 俳句には「季語」(季節を表す
    言葉)があり、川柳はなくていい。

  4. 俳句はには「切れ」があり、
    これを「や」とか「かな」とかの
    「切れ字」で作ることが多いが、
    川柳にはないのが普通。
より正確にいえば、俳句にはもっと細かい
規則もいろいろあって、またその規則を
固く考えるか、ゆるく見るかも俳人や
学者によってそれぞれ違うので、川柳との
違いも一概に定義できないんですね。

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たとえば、俳句に「季語」は
絶対必要だとする人もあれば、

せきをしても
ひとり
          尾崎放哉

のような、「季語」もなければ「575」の
韻律さえ壊してしまった「無季俳句」・
「自由律俳句」も広く「俳句」と認める
立場もあるわけです。


それから上記4.の「切れ」というのは、
たとえば、かの有名な松尾芭蕉の

古池や
蛙(かわず)飛び込む
水の音
           weatherman-849792_640

という俳句なら、上の句「古池や」で
「意味の流れがいったん切れる」という
ことを言っているんですが、これも川柳には
全然ない…というわけではありません。

たとえば、江戸期の古川柳で、

亭主をば
尻に 他人は
腹へのせ  

なんていうのは、「亭主をば」で
切れているともいえるんじゃ
ないでしょうか。



❐ 俳句は笑えない?

また上記1.の笑えるかという点ですが、
上にみた「古池」の句にしても、また
「せきをしてもひとり」にしても、ある
意外な発見が人を微笑させる…という
笑いの要素が含まれているとは
いえますよね。

またもっとしっかり笑える、笑わせる
俳句というのも沢山あります。

たとえば、

あら何ともなや
きのふは過ぎて
河豚汁(ふくとじる)
          松尾芭蕉

鶯や
餅に糞する
縁の先
          同

よって来て
話聞き居る
蟇(ひきがえる)
          正岡子規

        
桃太郎は
桃 金太郎は
何からぞ
          同

叩かれて
昼の蚊を吐く
木魚哉
          夏目漱石

     126381

両方に
鬚のあるなり
猫の恋
          作者不詳

最後の「猫の恋」(これが春の季語)の
句は、ある句集に載っていたのを漱石が見て
ゲラゲラ笑っていた、と鏡子夫人が回想して
いるものです(『漱石の思い出』)。

         


❐ 内容的・本質的な違いは?

つまり俳句もけっこう笑えるものだと
いえるんですが、それでも川柳の笑いとは
どうも性質が違うような気がする……

あるいはこの違いにこそ、俳句と川柳とに
線を引く分水嶺――根本的・本質的な違い――
が横たわっているのではないでしょうか?

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そこに目を付けることから、上に見てきた
ような「形式」上の違いではなく、むしろ
「内容」に立ち入っての本質的な相違を
指摘できるのでは……?

もしそのあたりを明快に説明できたなら、
周囲の人のあなたを見る目も俄然変わって
くること請け合いですよ~y(◎◎)y。


というわけで、今日はこの笑いの性質の
違いというところにこだわって、近代芸術
としての「俳句」の確立者たる正岡子規と、
その子規と切磋琢磨して俳句の腕を磨いた
親友、夏目漱石の言葉に耳を傾けながら、
考えていきたいと思うんです。

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❐ 江戸・現代の川柳:傑作選

はじめに、川柳の笑いの質を体感して
いただくために、私が傑作と思う作品を
いくつか並べてみますね。

上に一句だけ紹介した古川柳は、「川柳」
という呼称の元になった大師匠、柄井川柳の
編纂した『誹風柳多留』(1765~)掲載の
句で、そこにはほかにもこんな傑作が
ザックザクあります。

本降りに
なって出て行く 
雨宿り 

寝ていても
団扇のうごく
親心

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役人の
子はにぎにぎを
よく覚え

わが尻は
言わず たらいを 
ちいさがり

どうです? 笑えました?

では次に「サラリーマン川柳」などとして
さかんに制作されている現代の作品から。

テレビ欄
号泣とある
生放送

痩せていた
証拠のスカート
捨てられず

      野球猫matsui-anime

イチローを
超えたと二浪の
息子言い

腹の子が
胸なでおろす
披露宴  



❐ 抱腹絶倒か雅味か

笑っていただけましたよね?

そして、上に見た「笑える俳句」の
かもしだす笑いとの性質の違いも
体感していただけたでしょうか。


う~ん、微妙……ですか?

この違いについて子規はこう論じています。

川柳の滑稽は人をして抱腹絶倒
せしむるにあり。
        

俳句の滑稽はその間に
雅味(がみ)あるを要す。

  (『俳諧大要』明治28年/1895)

この根本的な違いがあるゆえに「俳句にして
川柳に近きは俳句の拙なる者」で、逆に
川柳で「俳句に近き」も「拙なる者」だと
斬り捨てるのです。

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なるほど、そう言われればそんな気もします……

でもそれなら、俳句に必要とされるその
雅味」って一体なんなんでしょうか?


たとえば『日本』新聞の記者になった子規は
明治30年3月の同紙に連載した「明治
二十九年の俳句」で、当時まだ無名だった
漱石を「滑稽思想を有す」俳人として紹介
しましたが、そこに並べられた中には
こんな句がありました。

長けれど
何の糸瓜(へちま)と
さがりけり

明月や
丸きは僧の
影法師
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鶏頭や
代官殿に
御意(ぎょい)得たし 

ふ~む、なるほど。

意外なことの発見による笑いが、
ふふっとこみ上げては来ますよね。

でもそれは「抱腹絶倒」させるかもしれない
川柳的な笑いとは根本的に
違うような感じです。

雅味」とは、このあたりの微妙な違いを
言い表そうとして持って来られた
語のように思われます。


ここで、話をわかりやすくするために、
子規が上記『俳諧大要』で「俳句とは
いふべからず」とまで完全否定した
有名な俳句を挙げておきましょう。

朝顔に
釣瓶(つるべ)取られて
もらひ水
           加賀の千代女

これなんか「俳句にして川柳に近きは
俳句の拙なる者」と子規がけなした
「拙なる」俳句の典型例……ということに
なるんじゃないでしょうか。

え? 言ってることがわからない?


それではやはり、俳句と川柳という兄弟が
(兄弟には違いないんですが、性格が
だいぶ違います)そもそも何を母胎として
生まれたものか、おさらいしておく必要が
ありそうですね。



❐ 立ち上げるか、落とすか

兄弟の母胎ととなったのは「俳諧の連歌」
といわれるもので、これは「連歌」ですから
一人ではできず、何人かが「運座」と称して
座敷に座るなどして始めます。

最初に口火切った人の575の歌(発句)に
別の人が77の下の句を付け(付け句)、
さらに別の人がそれに575をの句を
付け……というふうに連綿と続けて
行くんですね。

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           松尾芭蕉像(平泉中尊寺) 

この「発句」が一人歩きをはじめ、やがて
独立した芸道のようになったのが「俳句」で
それは松尾芭蕉によって大成され、子規に
よって近代芸術化された、ということに
なっています。

これに対して川柳は、あとから付ける
「付け句」の575が独立してできた
別個のジャンル、というわけ。


俳句と川柳は、それぞれどうしても
この生い立ちを逃れることができません。

無粋なたとえをお許しいただければ、
俳句が「問題提起」的・「序論」的に
世界を立ち上げるのに対して、川柳は
すでにある世界を「結論」的に、または
落語のオチのように落とします。

だから俳句の場合は、立ち上がった
いいが、落ちないままに終わって、
読者を投げ出し、途方に暮れさせてしまう
ようなこともままあるんですね。

      

もともと「付け句」である川柳は
答えを出す側なので、読者に””をつきつける
ようなことはないわけですが、
「発句」を出自とする俳句は、むしろ””を
投げかけることこそが身上なのです。


この意味で、加賀の千代女の「朝顔」の
句は完全に落としてしまっている点で
まさに川柳的といえますね。

これは子規にいわせれば「俗極まる」もの
(『俳諧大要』)、それこそ「雅味」の
正反対ということになります。

子規のこの俳句観で芭蕉の
有名な「古池や」の句を解釈すると
どうなるか、関心おありの
向きはこちらへ。

芭蕉の俳句「古池や」の意味は?太宰・子規・漱石に聞く

また子規の俳句作品をめぐっては
こちらへどうぞ。

正岡子規の俳句:「雪の深さを…」ほか代表作8選を解説



❐ 連想の世界を暗示する「扇のかなめ」

千代女の「朝顔」の句は、漱石もまた英国
留学中から書きためた『ノート』のなかで
「拙句」と斬り捨てていますが、それは
この『ノート』全体のキーワードになって
いる「暗示」(サジェスチョン)追求の
志向からして当然でした。

俳人として認められ始めた明治29-30年の
ころ、漱石は熊本の第五高等学校の教授
でしたが、そこの生徒だった寺田寅彦に
「先生、俳句とは一体どんなものですか」
と問われて、こう即答したといいます。

扇のかなめのような集注点を指摘し
描写して、それから放散する連想の
世界
を暗示するものである。 
         
  (寺田寅彦「夏目漱石先生の憶い出」)

        

        
立ち上げられた「扇のかなめ」(集注点)から
放散し暗示される連想の世界
読者各自が心に描くところにこそ俳句の
雅味があるわけで、「もらひ水」の
ように落としてしまうのは、もはや
俳句ではないと言うんですね。


それでは、この尺度からするならば、
どのような句をもって秀句と
すべきなのでしょうか。

同じ時に寺田寅彦に漱石が示した
秀句はこれでした。

秋風や
白木の弓に
弦(つる)張らん
           向井去来

実はこの句、子規も『俳諧大要』で
「有難き佳句」と大いに称揚しているの
ですが、これに暗示されて連想の
世界
を広げて見よといわれても……
う~む┐( ̄ヘ ̄)┌ 現代人にはちょっと
厳しいんじゃないでしょうか。

これつまり…弓は神聖な武器で、武士は秋に
なると(夏はニカワがはげるので)弓に
新しく弦を張って稽古に励んだものだった
……というような知識が背景にあってはじめて
生き生きとした連想の世界
広がるわけですよね。

      

なので、平成の世にこれを秀句として
持ち出すのはかなり苦しいに違いない
わけですが、ともかく「佳き俳句」とは
どういうものかという批評尺度においての
子規と漱石の一致を見事に示す句だった、
ということになります。

上記の『ノート』や『文学論』に展開
された俳句論など、漱石の文学論・
芸術論にかんしてはこちらの
記事などもご覧ください。

夏目漱石「月が綺麗ですね」の出典は?I love youはこう訳せ?
森鴎外 舞姫でレポート・感想文:若き漱石・子規の反応は?
井伏鱒二 山椒魚:結末部分の削除を”俳句美学”で解釈すると



❐ まとめ

さあ、これでもうあらかた
ご理解いただけましたよね。

俳句と川柳との本質的な違い。


最後にもう一つ、去来の師匠でもある
「俳聖」芭蕉の雅味ある笑いの句を
挙げておきましょう。

おもしろうて 
やがて悲しき 
鵜舟かな   
          227134

「鵜舟」は鵜飼に使う舟ですね。

この句、「結論」(落とし)まで行って
しまったようにも見えますが、やはり
「問題提起」(暗示)的にとどまって
いるとも言えます。

何がどう「悲しい」かは読者の連想の
世界
にゆだねられているからです。

鵜飼に興味を持たれた方は
こちらの記事もご覧ください。
木曽川鵜飼の女性鵜匠 稲山琴美さんの舟にはいつなら乗れる?

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同じ意味で上に見た子規の
桃太郎は
桃 金太郎は
何からぞ

というのも、「抱腹絶倒」の川柳的笑いの
句のようでありながら、「何からぞ」と
問うて読者の連想の世界を喚起している
点で俳句的雅味の句だといえるわけです。

金太郎・桃太郎に関心をお持ちの
読者はこちらもご覧ください。

金太郎の正しいあらすじ:頼光の家来になって鬼退治?
桃太郎の真実は悪?「悪くない鬼を退治した」から?
       
                 IMG_0009


俳句も川柳ももともと「俳諧」で、「諧」
の字は要するに「諧謔」(滑稽、ユーモア)
の意味ですね。

この「諧謔」精神に発するものですから、
所持万般について「おもしろうて」…と
笑える発見をまず立ち上げてくれる
ことが前提です。

さらにその先に「悲しき」まで見えてくる
ような笑いか、そうでないか……そのへん
にも俳句と川柳の違いがありそうですね。


みなさんも、俳句か川柳かどちらか一句
(どちらでもいいけど、どちらかに決めて)
ひねってみませんか~:*:・( ̄∀ ̄)・:*:


             

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