鍵(谷崎潤一郎)のあらすじを簡単に//原作小説が映画の何倍も凄いワケ | 笑いと文学的感性で起死回生を!@サイ象

鍵(谷崎潤一郎)のあらすじを簡単に//原作小説が映画の何倍も凄いワケ

サクラさん
美しいまま50代で亡く
なった川島なお美さん。

主演映画でいちばんいい
のが谷崎潤一郎原作の
『鍵』(1997)だと思い
ますが、この映画、
作品として面白いかと
いわれると…(😹)

ハンサム 教授
ええ。原作はイタリア
作品を含め6回も映像化
されていますが、どれも
なんというか…;^^💦


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サクラさん
原作のスゴさに太刀
打ちできてない?

ハンサム 教授
そう思う谷崎ファンが
多いんじゃないかな。

原作の芸術性は性描写
などより、相手の真意を
つかみきれない二人の
心の葛藤、駆け引き、
腹の探り合い…

   

それらがエスカレート
して命さえ危うくなる
という、愚かといえば
愚かな人間のサガの
表現とでもいうか…

サクラさん
そういう心の動きや
変化をお互いが日記に
書き、かつそれが相手に
覗き見されることを意識
しながらだという…

ハンサム 教授
だから実質的には
“素知らぬ顔でする”
交換日記;^^💦

そんな複雑怪奇な夫婦の
心理のアヤなんて映像で
表現できます?

サクラさん
これはもう原作を読む
しかないですね(😻)


というわけで、今回でついに第150弾と
なります”あらすじ”暴露サービス!
(感想文の書き方シリーズ第225回)

採り上げるのは、世界数か国語に翻訳
されたばかりか、イタリアでは映画も
制作された、文豪谷崎潤一郎、後期の
傑作『鍵』(1956)!
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ここでは下の川島なお美・柄本明主演の
映画『鍵 The Key』(1997年、池田敏春
監督)も横目に見ながら、上記の文庫本に
依拠して「あらすじ」を、まずはまずはごく
簡単に短く紹介して、そのあとで、かなり
詳しく追っていきますよ~。


ごく簡単なあらすじ

⦅あらすじ⦆
初老の大学教授が、若い妻(郁子)への
性的奉仕を目的として、嫉妬による
興奮を得ようとし、その経緯を日記に
書いていく。

娘の敏子との縁談を自ら持ちかけた
弟子の木村を、妻に故意に接近させ
ようとし、酔い潰れて浴室で全裸で
倒れた郁子を木村に運ばせたり、
昏睡する郁子の裸体を撮影し、
その現像を木村にさせたり…。

  
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実は郁子も日記をつけており、
教授は郁子に日記を読ませようと、
日記を隠している引き出しの鍵を
あえて落とす。

が、郁子はいつでも夫の日記を盗み読む
気はない、また自分は夫の期待通りに
興奮を与えようと嫌々ながら木村と
接しているのだ、自分も日記を書いて
いることを夫は知らないはずだ…
などと日記に書く。

こういう無理と不摂生な生活のせいで
教授は健康を害し、ついに病死する。

郁子は日記に書く。

自分は日記を夫が盗み読んでいることを
承知で、彼を病死に追い込むべく嘘を
書いていたし、木村との関係にもむしろ
積極的にのめり込んでいたのだ…と(叫び)。

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ん? なんだかややこしくて
よくわからない?

ズバリ映画の予告編で視覚的に(👀😻;^^💦💦)
ご理解いただきましょうか.


ん? やっぱりわからない?

まあ、そうかもしれませんね;^^💦

相当に複雑な仕掛けのある小説で、
文学大国フランスの作家たちをも
感嘆させたほどですから。


夫婦での交換日記…のような小説

つまり大学教授の夫(56歳)とその妻郁子
(45歳)が互いに「秘密」に書いている
日記の文章が交互に置かれていく形なん
ですが、「秘密」とは言いながら、
実はそれが怪しい。

互いに相手に盗み見られていることに
気づきながら、素知らぬ顔で書き続けて
夫婦間で一種の心理ゲームの状態に入って
いることが徐々にわかってくるんですね。


その日記の文章が一月一日(夫)に始まって
四日(妻)、七日(夫)、八日(妻)と
連綿と続いていくのですが、夫側の記載は
四月十五日で中断し、翌十六日から六月
十一日までは妻側の記述だけとなります。

なぜそうなるかと言いますと(いきなり
ネタバレ📢になりますが)、夫は四月
半ばで死んでしまうから。

         

そのあとの妻の日記(これが小説全体の
約1/3の長さ)では、それまでの記述について
あの時はこう書いたけれども、それは夫に
読ませるためのウソで、実際はこうだった…
等々の回顧・総括がなされて行くんです。

これで読者はいちおう納得できますが、
ただ妻のこの記述にウソや記憶違いがない
という保証もないわけで、その意味では
サスペンスを残すエンディングとも
言えます。

まだわからない…という人はともかく
「詳しいあらすじ」の方を読んでいただく
死かありません;^^💦


かなり詳しいあらすじ

さて、そんな次第ですから、以下の
「あらすじ」では、わかりやすさを第一に、
夫婦の日記が交互に置かれる部分
(前半2/3)を「起承転結」に分割し、
そのあとに「妻による回顧」を置くという
五部構成で行きたいと思います。

で、前半でもこの「回顧」に照らすと
「実は○○だった」とわかる部分などには
👉印の注釈で徹底ネタバラシ📢
やっていきます。

そこまで知るのは興ざめだから
知りたくないと思う人は飛ばして
くださいね。


「 」内や「”」印の囲みは上記
文庫本からの引用。

夫の日記は普通ひらがな書きするところを
カタカナで書いていますので、区別は
つけやすいと思います。

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【起】(1月1日~1月30日)

京都の大学教授である夫(日記では
「僕」)は妻「郁子」の肉体に強く執着
しており、特に「足ノfetishistデアル」。

郁子が実は「淫蕩」でありながら「陰性」の
性格と古い教育のせいで(明治44年生れ)
寝室で解放的でないことに不満だ。
👉fetishist(フェティシスト)はいわゆる
「フェチ」の語源。

いきなり「足ノfetishist」と出て、谷崎の
愛読者なら「おお、先生、相変わらずですな」
とニンマリするところでしょう。

文豪に一貫したこの嗜好はこちらの作品でも
ご堪能いただけます。

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若い木村を家に出入りさせているのは、
20歳すぎの娘「敏子」と結婚させる考えが
あるからだが、当の木村はむしろ
郁子に気があるようにも見える。

このことで夫には「嫉妬」が起こるが、
「元来僕ハ嫉妬ヲ感ジルトアノ方ノ
衝動ガ起ル」ので「ソノ嫉妬ヲ亮楽
シツツアッタ」ともいえる。
👉主な登場人物はこの4人で、ほぼ4人だけの
絡み(二つの三角関係)を軸にストーリーが
展開していきます。

ここでその相関関係を図に表して
おきまましょう。



1997年映画では川島さん演じる郁子は
後妻で、敏子は夫の連れ子ということに
なっていますが、原作ではれっきとした
実の親子。

また木村(大沢樹生)は不良っぽい女たらしで
絵に描いたような悪役ですが、原作は違い、
大学で夫に師事する忠実な(…と見せて
いる)学者です。

「試験デ忙シイ」(3月3日)とあるところを
見ると、まだ学生(大学院生か?)の
ようですが、なにしろジェームズ・
スチュアート似のイケメン(😻((((((ノ゚⊿゚)ノ

  
  往年のハリウッド・スター、ジェームズ・スチュアート


夫はといえば眼鏡をはずすと醜くて正視
できない顔で、郁子は彼を「半分は激しく
嫌い、半分は激しく愛している」
(と日記に書く)。

夫の「執拗な、変態的な愛撫」には
ホトホト当惑しながら、その愛に報い
なければ「済まない」とも思う。

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1月28日、木村をまじえての夕食後に
郁子はブランデーを飲みすぎたか
風呂場で倒れ、人事不省に陥る。

眠り込んだ郁子を脱がせて蛍光灯で
照らした夫は、結婚以来はじめて
目にした裸体の美しさに興奮し、
たまらず愛撫を始める。

このとき郁子の口から「『木村サン』ト
云ウ一語ガ譫言(うわごと)ノヨウニ洩レ」
夫は妻が本当にそんな夢を見ているのか、
それともそう見せかけることで何かを
伝えようとしているのか、判断に迷う。
👉後段の「妻による回顧」部分(6月10日)で
郁子はこれが「その中間ぐらい」だったと
明かします。

実際に木村との行為を夢に見て口走った
言葉だったが、それを夫に聞かれて
「よかったと云う気持ちもあった」。

ただ二日後の同じ譫言は意図的な
「寝たふり」をしての「見せかけ」
だったけれども…。

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【承】(2月9日~3月26日)

フランス語を習っている娘の敏子が、
静かに勉強したいという理由で
家を出て、関田町に下宿。

郁子の「木村サン」という譫言が続き、
夫はそれが偽装だと確信するようになるが、
その動機を考えると「アナタヲ嫉妬サセテ
刺激ヲ与エル」ことで「忠実ナル妻」を
続けていますよ…という意味なのか、
それとも…❔と思い悩む。


木村に教えられて写真に撮ることを
思いついた夫は、例によって昏睡に入った
郁子の裸体を何枚も撮り、少し迷ってから
それらを木村に現像させ、日記に
貼っておく。

 

それを盗み見た郁子は「浅ましい趣味」
とは思いながら「夫に忠実な妻の勤め」
として忍耐しようと思う。

その「代償として、私の限りなく
旺盛なる淫欲を充たさして貰って
いる」のだから(と日記に書く)。


3月に入ると、夫は物が二重に見えたり、
ひどい物忘れをするなど「心身ニ或ル
種ノ異状ヲ来タシ」てくる。


18日、関田町の下宿で敏子、木村と
3人で飲んでいた郁子が風呂でまた倒れる。、

タクシーで駆けつけて連れ帰った夫が
介抱すると、「木村サン木村サン」と
盛んに呼び続ける。

妻をこのような「積極的ナ女性ニ変エタ
ノハ木村デアル」と思うと、夫には激しい
嫉妬とともに「感謝」の念もわく。

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郁子は夫のいない所で木村と会いはじめて
いたが、その3回目に木村が言う。

奥さんの写真を先生が僕に現像させるのは、
写真の「誘惑」で僕を苦しめ、かつその
反映で奥さんも苦しめることにあって、
先生は「そこに快感を見出して
いるんです」。


その写真の1枚を木村が敏子に貸す本に
挟んでおいたことを郁子は知っていた
ので、その意図を問いただすと…

それは自分が敏子の「イヤゴー的な性格」を
知っているから、それによって彼女が
動いて、18日の晩(郁子が倒れた)の
ような場を設定することを予期した
からです、と木村。
👉「イヤゴー」(Iago)はシェイクスピア
四大悲劇の一つ、『オセロ』の悪役。

周囲の人々にあることないことをささやき、
主人公のオセロが妻への嫉妬に狂うよう
陰謀を推し進めます。

夏目漱石は、初期の谷崎が敬愛しかつ
批評した作家ですが、このイヤゴーの
造形に賛嘆しきりで、これだけでも
シェイクスピアの知的な「えらさ」が
わかると東大での講義で延べました。

詳しくはこちらで。

シェイクスピア オセロのあらすじ ☯漱石講義のコメントつきで

  

つまり木村はもちろん、敏子もけっこう
「陰険」なクセモノで、『鍵』のドラマは
この4人の欲望と思惑の絡み合いが進展
させる形になっているんですね。


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【転】(4月1日~4月16日)

郁子の夫への気持ちは「この頃は日々
嫌悪一方に傾いて行きつつある」が、
それでも木村とのことは「最後の一線を
越えずにいる」(と日記に書く)。

夫の心身の変調は昂進する一方だが、
実は郁子も1月以来不調で、10年ほど前に
あった喀血が再開しており、この前、
泥酔するまで飲んだのも「いずれは長く
ない命」だという「焼け半分の心持」が
手伝っていた(と日記に書く)。
👉この喀血などの病状が「すべて根も葉もない
虚構」であったことが、後段の「妻による回顧」
部分(6月11日)で明かされます。

それは夫を一日も早く死の谷へ
落とし込む誘いの手として
書いたのであった。

私も死を賭しているのであるから、
あなたもその気におなりなさいと…

         

郁子は頻繁に外出し、たまに現れる
敏子は母と木村とのことを父親の
耳に入れる。

「奥サンハ先生ニ対シテイマダニ
貞節ヲ保ッテオイデデス」と木村は
言うけど「ソンナ阿呆ラシイコトヲ
私ハ真ニ受ケハシナイ」。


郁子はそんな女ではないと言う父に、
敏子は「フフ」と笑ってみせる。

あるいは「汚サレルヨリハ一層不潔ナ
方法デ或ル満足ヲ…」などと言い出す
ので、叱りつけると、去っていく。

【結】(4月17日~5月1日)

昼間、木村と「ありとあらゆる秘戯の
限りを尽し遊んだ」郁子は、夜は夫に
例によってビフテキなど血圧の上がりそうな
食事をさせた上で、ベッドでは医者の
禁じている性愛の相手を進んで行う。

「私は愛情と淫欲を全く別箇に処理する
ことが出来るたちなので」、なんてイヤな
男だと嘔吐を催しながら、いっしょに
「歓喜の世界」に入り込んでしまう…

    
    英訳本の表紙 


その絶頂で、夫が脳溢血の発作を起こす。

入院した夫はもはや声が出ず、口の動きから
「きーむーら」とか「びーふーてーき」
とか「にーき」(日記を見せろ)などと
言いたいらしいことがわかる。


【妻による回顧】(6月9日~6月11日)

5月1日に夫が二度目の発作を起こして死去。

それ以来、日記を書かなかったのは、
書き継ぐ興味というか「張り合い」が
なくなったからだ。

日記帳のすべて(読まれたくないので
分断した4月17日以降の部分を含め)が
夫にも敏子にも読まれていたことを、
夫の死ぬ日に知らされたけれども、
こちらも夫の日記を「疾(と)うから
盗み読みしていたのである」。

  

敏子については「容貌姿態の点に於いて
自分が母に劣っており」、かつ木村の
愛も母に注がれていることを意識して
策をめぐらしているとわかっていた。

が、実は「自尊心」で傷つきたくない
郁子の側でも、若さでかなわない
敏子への嫉妬があった。

つまり夫の嫉妬の強烈さは、木村が「一途に
私一人を愛している」という確信に支え
られているのだから、もし敏子も愛して
いるように見えれば、(夫も望んでいる
はずの)嫉妬の土台が崩れてしまう…
という焦りもあったのだ。


ともかく木村の計画では、敏子は彼と
形式的な結婚をしてこの家に同居しながら
実際は「母のために犠牲になる」という
筋書なのだが…

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まとめ

さて、楽しんでいただけましたか。

ん? やっぱりよくわからん?


まあそれは「あらすじ」だけでわかろうと
いうのが、そもそも無体な話なので…

サスペンスや心理の機微を十分に
味わいたい場合は、やはり小説全文を
通読してもらうしかないんですよね。

   


ともかく、芸術的なミソになっている
ところが、性愛の相手になってくれている
の心理が十分にわかりきらない不安。

芝居をしているだけ、あるいはゲーム的に
ふるまっているだけなのではないか…

というマゾヒズム的な性愛にどうしても
つきまとう心理の機微にあるのだろうと
思う次第です。
👉谷崎の文学的生涯を貫いたともいえる
このマゾヒズムの問題をめぐっては、
こちらもご参照ください。

マゾの心理??? そのゲーム(契約)的構造を映画・文学から解き明かす

    
 


👉また谷崎といえば、忘れてならないのが
大長編『細雪』。

『鍵』の郁子は、そのヒロインの一人で最も美しい
「雪子」として描かれた人がモデルで、敏子は
さらに晩年の作『瘋癲老人日記』の「颯子」と
同じ女性がモデルかといわれています。

『細雪』についてはこちらで詳しく
情報提供しています。

谷崎潤一郎 細雪のあらすじ 映画とは違う原作の芸術性は?

谷崎潤一郎 細雪で感想文を ”下痢の美女”か”新しい女”か
        
  IMG_0026  


👉この『細雪』と『鍵』との両方の
ヒロインのモデルになったといえるのが
松子夫人の妹、渡辺(旧姓森田)重子さん。

彼女を中心に戦後の谷崎の「家族王国」の
葛藤を描いたスキャンダラスな問題小説、
桐野夏生さんの『デンジャラス』をめぐっては
こちらで詳しく情報提供しています。

デンジャラス(桐野夏生) のあらすじ 谷崎潤一郎を囲む女たちの執念

       

👉そのほか谷崎の本を早く安く
手に入れたいという場合は、
Amazonが便利です。
こちらから探してみてください。

谷崎潤一郎の本:ラインナップ

👉当ブログでは、日本と世界の種々の
文学や映画の作品について「あらすじ」や
「感想文」関連のお助け記事を
量産しています。

参考になるものもあると思いますので、
こちらのリストからお探しください。

「あらすじ」記事一覧

≪感想文の書き方≫具体例一覧

ともかく頑張ってやりぬきましょー~~(^O^)/


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