虐殺器官(小説 伊藤計劃)の感想⦅あらすじ/映画との違いを考察⦆
やあやあサイ象です。
おなじみ「あらすじ」暴露サービスも
今回でなんと第127弾((((((ノ゚⊿゚)ノ
「感想文の書き方」シリーズとしては
第186回となります!
今回はあまりにも若い34歳での夭折が
惜しまれる伝説のSF作家、伊藤計劃
(けいかく)さんのデビュー作。
日本のSFを変えたともいわれる
傑作『虐殺器官』(2007)で感想文を
書くことを目指しての総合的な考察を
試みます!
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もちろん2017公開のアニメ映画
『虐殺器官』(村瀬修功監督)の
原作でもありますね。
こちらで予告編をどうぞ。
考察していく上でまず前提となるのは
もちろん読んでいることですが、実は
未読だという人(映画は見たけれど…
という人も含め)のために「あらすじ」を
用意していますので、まずそちらで
ストーリーを確認しましょう。
しかもここでは出血大サービス((((((ノ゚⊿゚)ノ
「ごく簡単」と「やや詳しい」の2段階で
「あらすじ」を提供した上で、私なりの
「考察」も加えさせていただくという
3段サービスでお届けしますよ~~(^^)у
ごく簡単なあらすじ(要約)
まずはぎゅっと要約した「ごく簡単なあらすじ」。
徹底により先進国ではテロが一掃され、
一方で、後進諸国では内戦や虐殺が
拡大の一途をたどっている。
アメリカ情報軍の特殊検索群i分遣隊大尉
クラヴィスは各地で虐殺を引き起こして
いるらしいアメリカ人言語学者、
ジョン・ポールの暗殺を命じられる。
まずプラハに潜入してジョンの不倫相手
だったルツィアに接近し、やがて
ジョン・ポール自身と対面。
「虐殺文法」理論の説明を聞くことは
できたものの、逃げられてしまう。
次に派遣されたインドでは捕縛し
列車で移送するものの、ジョンを支援
する米国上院議員に派遣された部隊の
襲撃により、また取り逃す。
アフリカの新興国「ヴィクトリア湖沿岸
産業者連盟」ではついに生け捕って
隣国境まで連行するが、ジョンは
そこで軍により射殺される。
軍を退いたクラヴィスは、連行中に
ジョンから渡されたメモ帳のアドレスを
手掛かりに「虐殺の文法」の生成に
成功。
召喚された議会の公聴会でこの文法に
よる「自分の物語」を語り続けると、
狙い通り全米は暴動の渦と化す。
ん? なんだかよく
わからん┐( ̄ヘ ̄)┌?
それにアニメとはだいぶ違うんでね?
アハハ、そうでしょう。
アニメはやっぱり子供向けに
なってしまいますからね。
というわけで、よくわからん人や、
アニメとの違いを確かめたい人は、
どうしても「やや詳しい」ヴァージョンの
あらすじへ進んでいただかなくてはなりません。
もちろんネタバレありの暴露サービスに
なりますので、結末を知りたくない人は
絶対に読まないでください。
やや詳しいあらすじ
では参りましょう。原作の物語は第一部から第五部までの
5部構成で進行し、結びにエピローグが
置かれるという形です。
文中「”」印のグレーの囲みと
「 」内は上記文庫本から
そのままの引用した文です。
わかりにくいところや突っ込みたく
なりそうな部分では👉印で注釈・
解説を入れていますが、うるさいと
思われた場合は飛ばしてください。
💣 【第一部】
近未来(21世紀)の世界。サラエボで発生した核爆弾テロ以降、
テロと戦争が拡散し、先進諸国は
徹底的な認証システムによる
個人情報管理体制を構築していった。
十数年後には先進諸国からテロの脅威が
除かれていく一方、後進諸国では内戦と
民族対立により虐殺が横行するように
なっている。
「ぼく」ことクラヴィス・シェパードは
28歳の白人で、アメリカで今やCIAより
重んじられている情報軍の特殊検索群
i分遣隊の大尉。
暗殺の指令を受けてイスラム圏へ飛び、
大虐殺を続ける某国「暫定政府」を
率いる元准将を捕縛する。
虐殺の動機を訊くと、「なぜ殺した」と
逆に問い返し、自分でも「わからない」
と本気で言い続ける。
限界とみて殺害。
💣 【第二部】
2年後、ぼくは、自分が殺した元准将を含め、後進諸国で虐殺を扇動していると
見られるアメリカ人言語学者、ジョン・
ポールの暗殺を命じられる。
彼の現在の拠点と見られるチェコの
プラハに相棒のウィリアムズらと
ともに潜入。
かつてMIT(マサチューセッツ工科大)に
留学し、そこでジョン・ポールと不倫
関係にあったルツィア・シュクロウプに
チェコ語を習うという名目で接近する。
文学部卒のぼくは言語論やカフカの
話題などでルツィアの心を開かせ
親密の度を加えていく。
👉カフカをめぐっては
こちらをご参照ください。
・カフカ 変身のあらすじ 🐞簡単/詳しくの2段階で解説
・カフカ 城のあらすじ【ネタバレ】 🏰 “もてる男”Kをどう解釈?
フランツ・カフカ
アメリカ情報軍の調査によれば、MITで
ジョン・ポールがルツィアと睦んで
いたころ、その妻と6歳の娘はサラエボの
核爆弾テロの犠牲となっていた。
その後、ジョン・ポールはPR会社に
入って国家を相手として実績を積み、
やがていくつかの国の「文化宣伝担当
閣僚の補佐官」となったが、彼の担当する
国はことごとく内戦状態となり残虐行為が
続発しているのだった。
💣 【第三部】
ルツィアに誘われて訪れたクラブで、政府の情報管理から外れた生活を送る
反管理社会集団のルーシャスらに
会って話す。
ルツィアを監視していたことが露見し、
帰路、襲撃を受けたぼくは捕縛され、
ジョン・ポールと対面する。
彼が最先端の研究を進めていた「言語の
なかにパターンを見つける研究」はなぜ
国家援助を受ける「防衛機密」と
なったのか。
この問いにジョン・ポールは概略、
以下のように答える。
文法解析していた私の研究は、国家の
目にとまって資金援助を得たので、
私は世界のあらゆる虐殺の資料へと
視野を広げることができた。
それらのデータから浮かび上がった
のは「虐殺には、文法がある」こと、
それは「言語の違いによらない
深層の文法だ」ということだった。
そして「深層文法」とは、たとえば
親にとっては取得言語だった英語が
子の世代では母語となっている
「ピジン英語」の場合と同様に
「生得的な」つまり「遺伝子に
刻まれた脳の機能」であり
「言語を生み出す器官」なのだ。
脳に刻まれた言語フォーマットの中に
この文法が隠されているのなら、
政情不安な地域のトラフィックを分析
することで残虐行為の発生を予測・
防止できるというのが国防高等研究
計画局の目論見だった。
が、それならば、逆に、平穏な地域の
人々にこの「虐殺文法」という器官を
目覚めさせていくこともできるはずだ。
PR会社に入ったのはその実験のためで、
これに成功した私はその後、世界
各地にそれを広めている…。
ジョン・ポールが立ち去ると、
ぼくは例のクラブへ連れて行かれ、
ルーシャスやルツィアと話す。
ルツィアはぼくのスパイ行為を知って
泣くが、「ジョンが店の裏で待って
いる」との知らせを受けて消える。
そこへ突如、ウィリアムズ率いる
i分遣隊が突入しルーシャスらは全滅。
💣 【第四部】
核戦争で荒廃したインドで虐殺を繰り広げる武装勢力「ヒンドゥー・
インディア共和国暫定陸軍」の背後に
ジョン・ポールの影を探知したアメリカ
情報軍は、ぼくらに再び出撃を命令。
特殊部隊は出撃前にカウンセリングを
受けることが義務付けられているが、
インドでは高度の「CEEP」すなわち
「幼年兵遭遇交戦可能性」(チャイルド・
エネミー・エンカウント・ポシビリティ)
が想定されるため、感情の「マスキング」
も施される。
すなわち、体に損傷を受けた場合、
通常「痛い」と感じるが、「痛覚
マスキング」を施されていれば、
「痛い」という知覚があるだけで
苦痛は感じない。
「人間の行動や思考は、脳内の
膨大なモジュールの連合として
生成されるもの」だから、特定の
モジュールを操作することで
「マスキング」できる。
同様にして「良心」のような
「感情」も覆ってしまうことができ、
これにより、戦士は「子供でも
ためらいなく殺す」という心構えを
植えつけられる。
👉通常「わたし」とか「意識」
とか
呼ばれているものは、要するに
このような意味での「モジュール」の
集合だと論じられます。
とすると、たとえば人の生死もどの
モジュールの生死で判断する
のかが問題となってきます。
実は「ぼく」は母の安楽死を承諾した
際の「良心」の痛みを引きずっており
「自分を罰してほいい」という意識を
抱え続けるのですが、彼のこの苦悩が
ここでこの「モジュール」論に絡んで
くるわけですね。
意識の「モジュール」に関する最新の
知識はこちらの本(👇)でわかりやすく
解説されています。
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虐殺文法の存在を知った情報軍により
ジョン・ポールを生かしたまま連行する
命じられたぼくらは、現地へ飛び、
多数の少年兵を含む武装勢力と闘う。
やがて暫定政府の要人とともに
ジョン・ポールを生け捕り、
年代物の列車で移送。
車内で再び対面したジョン・ポールは
ぼくの批判に対し、たとえばこんな
ことを言う。
すべての仕事は、人間の
良心を麻痺させるために
存在するんだよ。
〔中略〕
つまり、仕事とは宗教なのだよ。
〔中略〕
きみたちは心に覆いをする。
〔中略〕
幼い命に対して無感覚になる
ことを、自分に許す。
それはある意味で、子供を
殺すことそのものよりも、
ずっと残酷だ。
列車が突如、武装ヘリに襲撃され、
脱輪の末に横転し、ぼくは車両ごと
遠くに吹き飛ばされる。
襲撃したのはジョン・ポールに情報を
漏らしていた上院院内総務の派遣した
強力部隊で、同じく「痛覚マスキング」
を施されていることがやがてわかる。
両軍ほぼ壊滅状態となるうち、
ジョン・ポールは姿を消す。
💣 【第五部】
アフリカの「ヴィクトリア湖沿岸産業者連盟」はドーナッツ状に湖を囲む
新興独立国で、湖で養殖した遺伝子操作
ずみのイルカやクジラの筋肉を
「人工筋肉」の素材として先進諸国に
供給することで潤っている。
その政府にジョン・ポール招かれた
と知った情報軍は、ただちに
特殊検索群i分遣隊に暗殺を指令。
その任務よりむしろ「自分を罰する
ことのできる」唯一の人と思う
ルツィアに会いたいと念じながら
ぼくは現地へ飛び、領内へ。
アクシデントにより隊は散り散りに
なり、ぼくは単独でジョンの潜む
ゲストハウスに潜入する。
光学迷彩により難なく目標の部屋に
たどり着いたはものの、気づくと
背後からジョン・ポールが銃口を
突きつけている。
「どうしてこんなことを続けるんだ」
と問うぼくとの議論で、彼は虐殺も
利他主義的な傾向と同じく、
「進化のニーズ」から発生した
ものだと説き始める。
個体数が減り、食料の
確保が安定する。
そのために虐殺を許容する
ムードを醸成し、良心を
マスキングすることは、
むしろ個の生存には
プラスとなる。
じゅうぶん進化として
残りうる特性だ。
いつかそこに現れていたルツィアが
ジョン・ポールの頭に拳銃を
つきつけている。
サラエボの妻子が爆死したとき、
「わたしと寝ていたあなたは
自分自身が許せなかった」。
だから、あなたは裏切りや、
暴力が……人間の残虐性が……
逃れがたい人間の本性だと
思おうとしたのね。
あなたは罪から逃れるために、
人間の本性のどす黒さを証明
し続けているんだわ。
恐ろしい数の人たちの命で。」
それは違う、自分の目的は「愛する
人々を守る」ことだとジョン・
ポールは口を開く。
新しいセキュリティ・システムの
おかげでアメリカ国内でのテロは
ゼロになったと喜んでいるが、
それは被抑圧者による突発的な犯罪で
いつ壊れてもおかしくないものだ。
そうなる前に、後進諸国の者たち
同士で憎みあい、殺しあい続けて
もらえば、地球は「殺し憎みあう
世界と、平和な世界とに」分断される。
自分が後進諸国に「虐殺文法を散種して
きたのはその実現のためだ、と。
銃を下ろさないと本当に撃つと言う
ルツィアにジョン・ポールは従う。
この人を逮捕してアメリカで裁判に
かけて、と主張するルツィアに
ぼくが従おうとした瞬間、ルツィアは
駆けつけていたウィリアムズに
狙撃され即死。
怒りをぶつけるぼくに、ウィリアムズは
ルツィアの暗殺指令も出ていたという。
ジョン・ポールの手をつかんだぼくは
いっしょに窓から飛び降りざまに
グレネード(手榴弾)を投入。
爆発するゲストハウスを離れ、
ジョン・ポールを引きずりながら
ジャングルを進み、友軍の待機する
タンザニア国境へ。
到着するや否やジョン・ポールは
射殺され(
シェパード大尉。お疲れ様」
とねぎらわれる。
💣 【エピローグ】
ぼくは軍を辞めたが、上院院内総務とジョン・ポールとの
つながりが露見したため議会の
公聴会に召喚され「自分の物語を
繰り返し語る機会に恵まれた」。
ヴィクトリア湖岸のジャングルで
ジョン・ポールから渡された
メモ帳は難解で理解しきれ
なかったが、そこに残されていた
アドレスに「虐殺の文法を
生成することができる
エディターが眠っていた」。
院内総務のスキャンダルはやがて
問題にされなくなったが、それは
公聴会の記録にアクセスした人々の
耳に「虐殺の文法」に根ざすぼくの
言葉が入り込み、それによって
全米が暴動の渦と化したからだ。
罪を背負い「自分を罰する」ことに
したぼくは「世界にとって危険な
アメリカという火種を虐殺の坩堝
(るつぼ)に放りこむ」べく
語り、歌ったのだ。
あなたたちに殺しあって
ほしい、アメリカの外で、
いろんな人が殺しあったように、
と祈りを込めながら
👉アメリカのこの暴動がやがて
世界を覆う「大災禍(ザ・メイル
ストロム)」となって以降の物語が
伊藤計劃の次の、そして最後の
長編となる『ハーモニー』で
語られるわけです。
そこでこの「大災禍」の年とされた
「2019年」はもう過ぎていますので、
ドキッとしますね。
『ハーモニー』については
こちらを参照。
・伊藤計劃 ハーモニー原作のあらすじと考察:”意識のない”未来から…
考察:ミイラ取りがミイラに…?
さて、楽しんでいただけましたか?いやーさすが、「ベストSF2007」
および「ゼロ年代SFベスト」の
国内篇第1位をゲットしたばかりか、
2012年には英訳も出ている…
これぞまさに「世界文学」。
というか、はじめから英語圏、
特にアメリカ人に読んでもらおうと
する意欲満々の野心作ですね。
(英訳はこちら👇)
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作品中、時折こんな文章に出会うのも
楽しみの一つです。
まるで森の向こうはカーツ
大佐の王国で、ぼくらは
そこから帰ってきた
ウィラード大尉とでも
言いたげだ。
(第四部 5)
これ、なんの注釈もないので、わからない
人もいると思いますが、アメリカ映画
『地獄の黙示録』の主要登場人物。
このカーツ大佐とウィラード大尉との
関係がジョン・ポールと「ぼく」こと
クラヴィス・シェパード大尉との
関係にそっくりであることへの
目くばせというか、オマージュに
なっているわけですね。
まあミイラ取りがミイラになると
言いますか、大物の犯罪者を追跡する
者がそのいつか影響を受けて相手に
そっくりになってしまうという物語の
パターンは珍しくありません。
👉近年のアメリカ映画なら
『羊たちの沈黙』が
思い出されますね。
こちらをご参照ください。
・羊たちの沈黙 🐑原作小説の解説つきあらすじ⦅ネタバレ📢⦆
SFとしての面白味をぬきにして
純文学作品として読んでも十分い
鑑賞に堪える作品となった
要因のひとつでしょう。
まとめ
そんなわけで、読書感想文やレポートの素材としても十分手ごたえのある
作品ですので、一つ挑戦してみては
どうでしょうか。
SFなんかダメと言われそうな場合は
たとえば上に述べました点などを
とりあげて、純文学的な観点や
テロリズムなど社会的なテーマを
強調していきましょう。
ん? 書けそうなテーマは
浮かんできたけど、具体的に
どう進めていいかわからない( ̄ヘ ̄)?
そういう人は、「感想文の書き方
《虎の巻》」を開陳している記事の
どれかを見てくださいね。
👉当ブログでは日本と世界の
種々の文学作品について、
「あらすじ」や「感想文」関連の
お助け記事を量産しています。
参考になるものもあると思いますので、
どうぞこちらのリストからお探しください。
・「あらすじ」記事一覧
・≪感想文の書き方≫具体例一覧
ともかく頑張ってやりぬきましょー~~(^O^)/
こんなコメントが来ています