カフカ 変身のあらすじを簡単に/&⦅虫の種類を含め詳細・明快に解説⦆

カフカ 変身のあらすじを簡単に/&⦅虫の種類を含め詳細・明快に解説⦆

やあやあサイ象です。

「感想文の書き方」シリーズもはや第65回、
「あらすじ」暴露サービスとしては
第42弾となります。

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今回はフランツ・カフカの名作『変身』
(1915)で参ります。
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さて、一口に「あらすじ」をといっても、
話の骨子だけでいいという場合から、
読書感想文を書くんだから、ある程度
詳しくないと…という場合まで千差万別。

そこで出血大サービス((((((ノ゚🐽゚)ノ

「ごく簡単なあらすじ」と「やや詳しい
あらすじ」の2ヴァージョンを
用意しましたよ~(^^)у


ごく簡単なあらすじ(要約)

まずはぎゅっと要約した
「ごく簡単」ヴァージョンのあらすじ。

セールスマンのグレーゴル・ザムザは、
ある朝自室のベッドで目覚めると、
自分が巨大なに変わっている
ことに気づく。

予定の時間を過ぎても出られないので、
ついに会社の支配人が来訪し、ドアまで
這いずって姿を現すと、みんな仰天。

 


父のふるったステッキで傷を負って
逃走し、それ以降、自室に閉じこもる。

グレーゴルが意思を伝えようとして
姿を表すと、母親は気を失ってしまい、
折しも帰宅した父親はリンゴを
投げつけ、深手を負ったグレーゴルは
満足に動けなくなる。


間借り人として入ってきた3人の紳士の
所望で、妹のグレーテがヴァイオリンの
演奏を始めると、これを聴いて感動した
グレーゴルが自室から這い出てくる。

グレーゴルの存在を知った紳士たちに
間借りの解約を通告されて
落胆する両親。

「もう縁切りにしなくちゃ」という
グレーテに父母も同意する。

やっとのこと自室に戻った
グレーゴルは「消え失せなくては
ならない」と思い定め、
やがて息絶える。

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え? 簡単すぎてよくわからない?

では、この動画をご覧いただき
ましょうか。👇



ホーラ、だいぶよく分かったでしょ?

でも主人公が変身したそのの姿が
ほとんど出ないので、やっぱり分からん?

ハイ、そうですね。

でもそれは、カフカ自身もこの作品を
本にして出す時、表紙に虫の絵は
描かないように強く希望したとのこと
なので、作者の意向を重んじるという
意味でも、正しい方法なのかも
知れませんね。

   変身 150px-Metamorphosis
   『変身』初版本 表紙

そもそもこのですが、訳者によって
「甲虫」「毒虫」など異なる訳語を用いて
いる場合もあって、日本人にはこれまで、
なんだかよくわかりませんでした。

それが2015年になって出た、作家の
多和田葉子さんによる新訳で、かなり
明確なイメージを与えられたのです。


生け贄にできないほど汚れた虫

有名な冒頭部分の多和田新訳は
こんなふうです。

グレゴール・ザムザがある朝のこと、
複数の夢の反乱の果てに目を醒ますと、
寝台の中で自分がばけもののような
ウンゲツィーファー(生け贄にでき
ないほど汚れた動物或いは虫)

姿を変えてしまっている
ことに気がついた。
(『すばる』2015年5月号)

   

と説明つきで訳してくださったんですね。

ウンゲツィーファー」(Ungeziefer)は、
辞書によれば、ネズミや、ばい菌なども含む
「害のある小動物」で、イメージとしては
主に「虫」のようです。

いま試みに「Ungeziefer 画像」で検索して
みますと、出てきた写真の多くは各種の
ゴキブリで、そのほかこんな図も
見られました。



つまりドイツ語圏の人がウンゲツィーファー
と言われてイメージするのはまずゴキブリ
ようで、さらに気味悪いというか怖いこと
には、魔女狩り盛んなりしころのドイツで
発刊されていた『魔女新聞』「(1672~)で
「魔女」とされた人々もウンゲツィーファー
と呼ばれていたのです。

ただし!

博学なるユダヤ系の批評家ハロルド・
ブルームのこの本(👇)によれば、


カフカ自身が本を出すに際して、この虫を
具体的に表現する挿絵を入れないよう釘を
刺していたという事実もあるようですから
(p.257)、「あ~、やっぱゴキブリね」と
決めてしまわない方がよいのでしょう。
👉ちなみに魔女狩りされた「魔女」の
1割以上は男性でしたが、そのことはこちらで。
👉 Wikipedia


ただ、『変身』本文を読み進めればわかる
ように、脚は無数にある(🐛)とされて
いますから、このウンゲツィーファー
昆虫ではなく、したがってゴキブリでも
ないはずなのですが、これまで刊行されて
きた『変身』(翻訳を含め)の絵入り本を
見ていくと、完全にゴキブリのイメージで
描いたものが多々見受けられます。

その一例がこちら。

  
(画像出典:Pinterest: Explore ideas


まあ基本はゴキブリで、その胴体はやや
長く、そこから無数の脚が出ている…
といったところが『変身』で主人公が
変身する「毒虫」の原作に最も忠実な
姿ということになるのでしょうか。

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やや詳しいあらすじ

では、上記のような「毒虫=ウンゲツィー
ファー」のイメージを念頭に”やや詳しい”
ヴァージョンのあらすじに進みましょう。

ひっかかるかもしれない部分などには
👉印で注釈を入れていますが、
うるさいと思われたら飛ばしていただいて
かまいません。

「  」内と「”」のついた白い囲みは、
原文(上記”白水ブックス”の池内紀訳)
からの引用です。


【第一章】

セールスマンのグレーゴル・ザムザは、
ある朝自室のベッドで目覚めると、
自分が巨大なウンゲツィーファー)に
変わっていることに気づく。
👉「ザムザ」はチェコ語で「私は孤独である」
という意味をもつとは、上記のブルームの
本での解説(p.257)。


突然のことに戸惑いながらも、
もう少し眠ろうかとも思うが、
眠るのにちょうどよい姿勢に
体を動かすことができない。

仰向けの姿勢のまま、父が商売の
失敗で作った多額の借金を完済する
ために続けている今の仕事への
不満に思いを募らせる。

時計を見ると予定していた出発時間を
とっくに過ぎており、心配する家族から
ドア越しに声がかけられる中、何とか
体を動かして寝台から這い出ようと
するが、うまくいかない。



やがて様子を見に来た会社の支配人が
怠慢を非難し、グレーゴルは部屋の
中から弁解するが、こちらの言葉が
通じないらしい。

なんとかしてドアまで這いずり、
口で鍵を開けて姿を現すと、母は床の
上にへたり込み、父は泣き出す。

声を立てて逃げ出した支配人に
追いすがろうとするが、父のふるった
ステッキに傷を負い、自室に逃走する。

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【第二章】

それ以降、グレーゴルは自分の部屋に
閉じこもり、17歳の妹、グレーテが
食べ物を差し入れ、また部屋の掃除を
するようになる。

食べ物に対する嗜好は大きく変わり、
新鮮な食べ物を口にする気にはなれず、
腐りかけた野菜やチーズに食欲が湧く。


            


日中は窓から外を眺めて過ごし、
眠る時や、妹が入ってくる時には
寝椅子の下に身を隠した。

ドア越しに聞こえてきた会話で、
一家にはわずかながらも貯えがあり、
父親が勤めに出て母親も内職をし、
また使っていない部屋を間借りに
出すことで、これからの生活を
しのごうとしていると知る。

     
部屋の壁や天井を這い回るという
グレーゴルの新しい習慣に
気づいたグレーテは、這い回るのに
邪魔になる家具類を彼の部屋から
どけてやろうと考える。

母親と協力して運び出しはじめ、
グレーゴルも当初は気を使って身を
潜めているものの、彼女たちの会話を
聞いてふと、自分が人間だった頃の
痕跡を取り去ることに疑問を抱く。

     


グレーゴルが自分の意思を伝えようと、
壁際にかかっていた雑誌の切り抜きに
へばりつくと、その姿を見た母親は
気を失ってしまう。

折しも帰宅した父親が投げつけた
リンゴで、グレーゴルは背中に
深手を負う。

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【第三章】

父親の投げたリンゴはグレーゴルの
背にめり込んだまま腐り、彼はその傷に
1ヶ月もの間苦しめられる。

その間に妹も勤め口を見つけ、
グレーゴルの世話もおざなりに
なっていく。
  

自ら解雇を懇願した女中の代わりに
雇われた老女は、グレーゴルを
怖がらず、むしろからかいに来る。

間借りした3人の紳士は大変横柄に
振る舞うが、ザムザ家は要求に
従わざるをえず、結果、グレーゴルの
部屋は物置のようになってしまう。

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ある日、居間にいた紳士の一人が
グレーテが弾くヴァイオリンの音を
聞きつけ、気まぐれからこちらに来て
演奏するように言う。

グレーテは言われたとおりに紳士の前で
演奏を始めるが、紳士たちはやがて
飽きてタバコをふかしはじめる。

    バイオリンmusic-748118_640

一方グレーゴルは彼女の演奏に感動し、
ここでなく私の部屋で弾いてほしいと
告げるために自室から這い出て
きてしまう。

グレーゴルの存在を知った紳士たちは、
ただちに間借りの解約を通告し、
これまでの間借り代を払わないばかりか
慰謝料を請求するとさえ宣言する。


落胆する両親にグレーテが、
「このへんな生き物を兄さんなんて
呼ばない。だから言うのだけれど、
もう縁切りにしなくちゃ」と言つと、
まず父が、やがて母も涙ながらに
同意する。

   蜘蛛女 pet_spider_girl

やっとの思いでグレーゴルが自室に
戻ると、ドアが激しく閉じられて
錠が下ろされ、「やっとね!」と妹。


もはや体の動かないことに気づいた
グレーゴルは、全身の痛みも弱まって
いくようで、「どちらかというと
快適な気分だった」。

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家族のことを懐かしみと
愛情をこめて思い返した。

消え失せなくてはならないと、
たぶん、妹以上に彼自身が
思い定めていた。
〔中略〕
それから彼の頭が意志と
かかわりなくガクリと落ちた。

鼻孔から最後の息が
弱々しく流れ出た。


翌日、グレーゴルは手伝い女によって
すっかり片付けられる。

   

休養の必要を感じた家族は
めいめいの勤め口に欠勤届を出し、
3人で電車に乗り、郊外へ出る。

「ますます生き生きしてきた娘」を
見たザムザ夫妻は、そろそろ「いい
相手を見つけてやるころあいだ」
と「新しい夢」を思う。


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介護される《虫》

さあ、いかがでした?

これでもうOKですよね、
感想文だろうが、なんだろうが。


まずは自分がグレーゴルだったら……
と考えてみる、というのが感想文の
王道なんでしょうけど、それ以外にも、
目のつけどころはいろいろありますよね。

たとえば結末をどう解釈するか。

消え去ることへのグレーゴルの覚悟と、
それに続く一家3人のピクニックという
ラストシーン。

   074266

これを考える鍵としては、妹グレーテの
存在、その兄との関係が浮かび上がって
くるでしょうね。

グレーテもいろんな角度から見ることが
できるわけですが、その一つが
介護する人という視点ですね。
👉『変身』で書く読書感想文や読書レポートで
ユニークなものを狙うなら、まず考えられる
のがこの「介護」問題に関連しての
グレーテへの着目ですね。

こちらで詳しく追求していますので、
是非ご参照ください。 

読書レポートの書き方(大学生用) &例文(カフカ『変身』2000字)

カフカの変身をどう解釈?「兄=虫を介護する妹」で感想文?



二つ目の「カフカの変身をどう解釈?」
では、2002年のロシア映画『変身』
(ワレーリイ・フォーキン監督)の内容に
立ち入っていますが、ここではロイヤル・
バレエ団の前衛的なバレエ『変身
METAMORPHOSIS』のDVD予告編をどうぞ。👇




脳も変わって心も《変身》?

それからまた別の問題としてこんな疑問も
浮上するかもしれません。

すなわち、もしからだ全体が《虫》になる
のであれば、その一部である脳も《虫》の
脳になるはずで、そうなるとの意識
(心に思うこと)ももはや人間的でなく
《虫》的になるはずでは?…と。

   


その場合、かつて人間だったという記憶さえ
ないでしょうから小説にならないわけ
ですが、これが《虫》でなく、別の人間への
変身、たとえば脳の移植で別人格になって
しまうというような場合はどうでしょうか。

小説でその実験をやってみたのが、
東野圭吾さんの『変身』(1994)なんですね。
👉こちらで詳しく紹介しています。

東野圭吾 変身 ☯原作小説のあらすじ⦅ネタバレ📢⦆と感想

  



まとめ

さて、カフカの代表作といえば、ほんとは
『変身』でなく長編の『城』か『審判』
(訴訟)を挙げるべきかもしれませんね。

これらを挙げにくいのは未完に
終わったから…ということもあるんですね。

でも面白いことは請け合いです!
👉特に『城』は絶対オススメ。
是非こちらで覗いてみてください。

カフカ 城のあらすじ【ネタバレ】 🏰 “もてる男”Kをどう解釈?
         
    kafka
    フランツ・カフカ

👉ところで、カフカについてよく言われ
ているのが、彼の死後にさかんになった
不条理の文学の始祖・先駆者といったことです。

ではその不条理とは何か?
それについてはこちらで。

愛のサーカスの問題とは?別役実ドラマのテーマ考察からテスト対策へ

      

またこの不条理の文学や哲学・思想を
広く見渡そうという場合は、是非これらの
記事にもお目配りください。

ペスト(カミュ 小説)のあらすじ⦅2020コロナ禍の予言がここに?⦆

    

ニーチェ ツァラトゥストラは読みやすい 😹笑って読める訳は?

ニーチェ:人生の名言「復讐と恋愛にかけては女は男より野蛮

さ、これでもう感想文もレポートも
ばっちりですよね。

ん? 書けそうなテーマは
浮かんできたけど、具体的に
どう進めていいかわからない( ̄ヘ ̄)?

そういう人は、「感想文の書き方
《虎の巻》」を開陳している記事の
どれかを見てくださいね。
👉当ブログでは、日本と世界の多様な
文学や江小鹿野作品について、
「あらすじ」や「感想文」関連の
お助け記事を量産しています。

参考になるものもあると思いますので、
どうぞこちらからお探しください。

「あらすじ」記事一覧

≪感想文の書き方≫具体例一覧

ともかく頑張ってやりぬきましょ~~(^O^)/



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6 Responses to “カフカ 変身のあらすじを簡単に/&⦅虫の種類を含め詳細・明快に解説⦆”

  1. […] 今思えば勘違いもあったと思います。 しかしまるでカフカの『変身』の主人公 ザムザのように突然変わった自分と周囲の 関係性になじめず、閉じこもりがちに 数年間を過ごしました。 […]

  2. サイ象 より:

    コメントありがとうございました。

    カフカの『変身』のこういう角度からの
    読みは、私も気づいてまだ
    間もないところです。

    こちらの記事もご参照いただけると
    幸いです。

    カフカの変身をどう解釈?「兄=虫を介護する妹」で感想文?

  3. 君の歌は僕の歌 より:

    記事にある部分がまちがってます。

    >グレーゴルの存在を知った紳士たちは、
    ただちに間借りの解約を通告し、
    これまでの間借り代を払わないばかりか
    慰謝料を請求するとさえ宣言する

    グレゴールの存在を知って紳士たちが間借りを解約するのではなく、音楽を聴きにきたグレゴールに対する父親の反応を見て間借りを解約するんですよ。

    この間違い(読み落とし)は物語の中でかなり痛いです。

    男達はあくまでも紳士であり第三者なのです。客観的な存在でありグレゴールに直接介入しません。

  4. サイ象 より:

    君の歌は僕の歌 さん

    間違いとは思いません。

    「グレゴールの存在を知って」の解約であると解する理由は、3人の紳士の真ん中にいる人が解約の理由として父親に告げた口上として「この家とこの家族のなかにある嫌悪すべき事情にかんがみて」(山下肇訳)とあることです。

    この「嫌悪すべき事情」が「グレゴールの存在」を指すのでないとしたら何を指すのでしょうか。

    ご教示いただければ幸いです。

    • 君の歌は僕の歌 より:

      サイ象さんの仰る「グレゴールの存在」というものが、どのように解釈されているのかがわかりませんが、
      私的にこの場面は一家と他人が交わり、グレゴールの虫という外面的な解釈から、より「グレゴールの存在」の内的な解釈へつながり、物語を深くしている所だと感じています。

      さらに、「この家とこの家族のなかにある嫌悪すべき事情にかんがみて」(山下肇訳)とあるので、確かに家族にとって「グレゴールの存在」であるのは間違いないと思います。
      ただし、「グレゴールの存在」一言で指摘してするのが危ういと思うので私は簡略化されたあらすじに対して強く否定しました。

      以下私のまとめと解釈です。
      ■ヴァイオリンの音色を聞いたグレーゴルの状況
      忘れていたヴァイオリンの音、妹の音楽を聴いてグレーゴルはひどく感動します。そしてヴァイオリンを聞いている誰よりも感動します。また、ひどく感動しながら、妹の純粋な感性を汚さない配慮も行います。ただただ妹の音楽が聞きたく、純粋な目・心で妹をみている。

      >グレーゴルには姿を変えて以来ヴァイオリンの音を耳にした記憶がたえてなかった。
      >音楽にこれほど魅了されても、彼はまだ動物なのであろうか。グレーゴルは自分が憧れ求める道の滋養分への道が示されているような気がした。
      >実際ここではグレーゴルがしようと思うほどにはだれも妹の労をねぎらいはしないのだ。
      >もっとも妹をおれの部屋にとどまらせておいてはならない。妹の自由意志でなければならない。

      ■グレーゴルがでてくる前の紳士達・父親の状況
      娘の技量はわかりませんが、紳士達は娘に気をつかい、ヴァイオリンの演奏をきくことにしています。
      そして父親・母親はヴァイオリンの演奏というよりはヴァイオリンを弾いている娘を見てほしい行動を行います。
      >「そう願えますか、では」と父親はまるで自分がヴァイオリンをひいているみたいに返答した。
      やがて父親は譜面台を、母親は楽譜を、妹はヴァイオリンをそれぞれに持って茶の間に入ってきた。妹は落ち着いて演奏の準備万端を整えた。

      >紳士達はただ非礼にわたることを避けようという気持ちからしぶしぶ聞いているにすぎないということは明々白白であった。

      ■グレーゴルが紳士達に見つかってからの状況
      紳士達はグレーゴルを見て「自由意志」の興味を見せます。父親
      は慌て、紳士達の気持ちを余所にグレーゴルではなく三人を部屋へ追い戻し、グレーゴルの方を見る事ができないようにしたため怒りだしました。

      >中央の紳士は最初は頭を振りながらほかのふたりにちょっと笑いかけて、それからふたたびグレーゴルを見た。
      >とはいえ三人の紳士はすこしも興奮してなどいなかったし、それにヴァイオリンの演奏よりもグレーゴルのほうが彼らを興がら
      せるように見受けられた。

      物語はその後、こう続きます。
      >父親の態度に怒り出したのか、ないしはグレーゴルのような存在が隣の部屋にいたなどとは夢にも思わなかったのに、それがいま自分たちにわかってきたというので怒り出したのか、これはもう誰にも分らなかった。

      紳士達は父親に釈明を求めますが、紳士達への尊敬を忘れ、部屋に押しに押しこめてしまい、妹は紳士達の寝床を手馴れたように整えて、バイオリンをさっさと畳み部屋の外へ出てしまうのです。
      以上がまとめです。

      さて物語上、ヴァイオリンの音色よりも、グレーゴルに興味を示した紳士達は「グレーゴルの存在」だけで、契約解除する考えいたったのでしょうか。
      物語を読むと父親の対応・家族の対応を省くことはできないと考えます。それはなぜか、、

      私はこの場面の「グレーゴルの存在」を音楽に対する「純粋な意思(自由な意思)」の代弁者として捉えています。

      音楽に惹かれ、娘の感性の美しさを見出したグレーゴルは自由な意思で出てきます。

      逆に紳士達は家族に気を使い、本当に楽しめてはいません。
      両親が娘を装飾しようとしているのを感じ取っているのかいないのか、娘の演奏が上手くないのかはわかりませんが、娘が弾いている譜面台が見える方向(同じ視点)にまで来ているのです。

      それが、グレーゴルが出てきた時に、ヴァイオリン以上に紳士達もまた同じ興味をもった眼差しを向けます。しかし父親に阻まれてしまい、音楽を演奏していた家族はあっさりとやめてしまうのです。
      ここでグレーゴルを「純粋な意思(自由な意思)」の代弁者とすると、この場面の根幹であるヴァイオリンを楽しむという本質が見事に形骸化するのです。虫の抜け殻のようになくなるのです。

      純粋に家族達が音楽を演奏したい意思を尊重し、礼儀を重んじ気を使っていた紳士達は、音楽への「純粋な意思(自由意思)」で出てきたグレーゴルを見たとたん、すぐに何の釈明もなく父親に部屋に押し込められてしまうのです。ましてや紳士達は日頃のグレーゴルの扱いを知らないのです。グレーゴルが音楽を聞いてそうだったように、紳士達はグレーゴルに対して「純粋な意思(自由意思)」をもっていたかもしれないのにです。

      結果、おもてなしされていないばかりか、この場には最初から「純粋な意思(自由意志)」がないばかりか、家族達のわがままばかり見せられ、受け取らせられていると紳士達が怒ったのではないでしょうか。

      この場面は非常に「グレゴールの存在」を客観的・社会的に浮き出す場面だと思います。家族一人一人がまるで一人の人間精神のように統合し、外部者である紳士達と向き合うことで物語の本質へと向かっている部分だと解釈しています。

      グレーゴルに対するなりふり構わずな対応で、彼らが家族の闇に気づき、押し付けられたと感じたため、賠償まで求めたのではないかと考えます。

      すなわち、「この家とこの家族のなかにある嫌悪すべき事情にかんがみて」契約解除を申し立てたのです。

      簡単なあらすじにしても契約解除の理由が「グレーゴルの存在」だけでは、客観性にかけると思った次第です。

      私は「グレーゴルの存在」は他者との境界よりも深い所にある、純粋な愛だと解釈しています。
      最後グレーゴルは死んでしまいますが、
      私はグレーゴルは私たちに抜け殻を残して、深く深く沈んでいったのだと思います。

      (僕の歌は君の歌)

  5. 君の歌は僕の歌 より:

    「簡単に」俯瞰して言うとお父さんの反応を見てから紳士達は「グレゴール」に気づく訳なので人によっては解釈がずれるかなと思った次第です。
    その後のコラム楽しく拝見させていただいてます。
    (流行ってますね。猫)

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