握手(井上ひさし)のあらすじ 簡単/詳しくの2段階で解説
やあやあサイ象です。
「感想文の書き方」シリーズもはや第51回。
「あらすじ」暴露サービスとしては第28弾。
今回は、中学校の国語教科書などにも
採用されている井上ひさしの傑作短編小説、
『握手』(短編集『ナイン』〔1983〕
所収)で行ってみましょう。
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さて、一口に「あらすじ」をといっても、
話の骨子だけでいいという場合から、
読書感想文を書くんだからもう少し
詳しくないと…という場合まで、
千差万別でしょう。
そこで出血大サービス((((((ノ゚🐽゚)ノ
「ごく簡単なあらすじ」と
「やや詳しいあらすじ」の
2ヴァージョンを用意しましたよ~(^^)у
ごく簡単なあらすじ(要約)
まずは、ぎゅっと要約した「ごく簡単なあらすじ」をどうぞ。
語り手は「わたし」で、職業などは
書かれていませんが、作者の井上ひさし
その人を思わせますね。
という児童養護施設にいた「わたし」
が、戦前にカナダから来日してそこの
園長をしていたルロイ修道士と
料理店で久々に会って話す。
昔は痛いほどだったルロイの握手は
今は実に穏やかで、二人はなつかしい
昔話に花を咲かせる。
やがてルロイが「わたしはあなたを
打(ぶ)たなかったか」と尋ねたり、
仕事がうまく行かないときは、
「困難は分割せよ」の言葉を思い出せ、
などと言い出すので、「この世の
暇乞い」に回っているのではないか
とわたしは感づく。
トラピスト修道院(北海道)
別れ際に「死ぬのは怖くありませんか」
と尋ねると、天国が「あると信じる方が
たのしい」、そのために「神様を
信じてきた」という。
わたしがはげしく握手すると、
「痛いですよ」とルロイ。
やがてルロイは仙台の修道院で死んだ。
どう解釈すべき?
どうでしょう。どんな話か、だいたいわかりましたよね?
え? ストーリーは一応わかったけど、
感想文や批評文を書くとか、あるいは
これを教材とした指導案を考える
とかいうことになると、どこをどう
突っ込んでいいものか……
なるほど、なかなかむずかしい
かもしれませんね。
そのへんに入り込むためには、もう少し
詳しい内容を知る必要がありますね。
全文を読んでしまうのが一番手っ取り早い
わけですが、読んでもスッキリと見えて
こない部分があるかもしれません。
たとえば、この作品の面白みというか、
芸術作品としてすぐれている点の一つに、
語り(意識)の流れが現在と過去を
行き来するという現代小説的な技法が
あるわけですが、「ごく簡単なあらすじ」
ではそういう部分は見えてきませんね。
というわけで、やはり「やや詳しい」
ヴァージョンのあらすじを見てもらう
必要があるわけですね。
やや詳しいあらすじ
こちらでは現在と過去の行き来もよく見えるよう工夫しています。
たとえば、
👇
「わたし」は中学3年から高校卒業まで、
というふうにあれば、差し出された
「大きな手」を見た語り手の意識が
過去(緑字部分)に飛んでいく、
という意味です。
なお原作に切れ目はありませんが、
私なりの解釈で「起承転結」の
4部に分けています。
👍【起】
待ち合わせた料理店に現れたルロイ修道士は、呼び出したことを謝り、
故国カナダへ帰ることにしたと告げて
大きな手を差し出す。
👇
「わたし」は中学3年から高校卒業まで、
ルロイ園長の天使園(カトリック系の
児童養護施設)にいたが、入園の際の
握手が「万力よりも強く」、
腕がしびれたものだ。
意外にも「じつに穏やかな握手」のあと、
ルロイは園児の近況などを語り、
オムレツが来ると両手をすり合わせるが、
昔のように「ぎちぎちとは鳴らない」。
👍【承】
わたしは、ルロイのつぶれた人さし指に言及。
👇
戦時中、日本人監督官に潰されたもの
なので、ルロイは「心の底では日本人を
憎んでいる」との噂もあったが、
それはすぐ消えた。
「日本人は先生にたいして、ずいぶん
ひどいことをしましたね」とわたしが
言うと「日本人を代表してものを云う」
のは傲慢だし、日本人とかカナダ人
とかがあるのではなく、「一人一人の
人間がいる」だけだ、とルロイ。
「わかりました」とわたしは
ルロイの癖をまねて「右の拇指
(おやゆび)をぴんと立てる」。
同様に親指を立てたルロイは、
「おいしいですね」といいながら
あまり食べず、「わたしはあなたを
打(ぶ)たなかったか」と尋ねる。
「一度だけ」とわたしは経緯を語る。
👇
「両手の人さし指をせわしく交差させ、
打ちつけている」ルロイ。
これは「危険信号だった」。
高2のころ何人かで、ルロイから
もらった衣類などを闇市で売って
金をつくり、無断で東京へ脱出
したことがあり、仙台へ戻ると、
その「危険信号」のあと、
平手打ちされた。
👍【転】
ルロイは例の「危険信号」をしながら笑い、「仕事がうまく行かないときは、
『困難は分割せよ』ということばを
思い出してください」などと話す。
わたしはルロイが「この世の暇乞い」に
かつての園児を訪ね回っているのでは
ないかと感づき、長く日本に暮らして
「たのしかったことは?」と尋ねる。
「それはもうこうやっているとき」
天使園で育った子が一人前に働いている
のを見るときです、とルロイは答え、
かつて捨て子だった市営バスの運転手、
今は指を立てて挨拶してくれる
上川くんのことを話す。
「一等悲しいときは……?」の
問いには、天使園で育った子が
自分の子を預けに来るときだと答える。
👍【結】
時間が来ると、ルロイは右の人さし指に中指をからめて掲げるが、これは
「幸運を祈る」「しっかりおやり」
という意味の指言葉。
駅の改札口で「死ぬのは怖くあり
ませんか」と尋ねると、「天国へ行く
のですからそう怖くはありませんよ」。
「(天国は)あると信じる方が
たのしいでしょうが」……そのために
「神様を信じてきたのです」
わたしが右の拇指を立ててからルロイの
手をとって握り、上下にはげしく
振ると、「痛いですよ」とルロイは
顔をしかめてみせる。
やがてルロイは仙台の修道院で
なくなり、その葬式で身体中が悪い
腫瘍の巣だったと聞いたわたしは、
「知らぬ間に両手の人さし指を交差
させ、せわしく打ちつけていた」。
感想文・批評文のとっかかり
さあ、どうでしょう。これでもう書けますよね、
感想文だろうが、批評文だろうが…。
突っ込めるポイントは
いろいろあるでしょう。
ルロイ修道士という人の生き方。
そのやさしさ、信仰、死生観……
といったところを作品のテーマと見て、
正面から攻めていくという
「王道」的な行き方が一つ。
それもちろんいいんですが、
もうちょっと脇道というか
横から攻める方法もあると思うんですね。
たとえば上の「やや詳しいあらすじ」に
見てきた現在と過去を行き来する
手法のうまさ。
それがどのように組織され、
どんな効果を上げているか…とか。
あるいは「指言葉」に目をつける。
「指言葉」に何を読むか
会食中にルロイ修道士が繰り出す何種類かの「指言葉」は、現在と過去を行き来する
ための仕掛けとして働いていますね。
それと同時に、「わたし」を含む天使園の
子供たちが覚えてまねをするようになった
身体の記憶として、ルロイと「わたし」の
感情的な交流をずんずん促進していって
いるようでもあります。
なにしろ、
知らぬ間に両手の人さし指を交差
させ、せわしく打ちつけていた。
という結びのの1文も、ズバリ「指言葉」
なのですから、作品の生命にかかわる
といってもいい重要度。
作者の思い入れの強さがうかがえます。
この1文で作品を読み終えたあなたの
脳裏には何が広がっているでしょうか。
あるいは、これによって、
作者は何を暗示しているのか……。
このあたりで思いついたことを自由に
書いていってみたら、どうでしょう。
👉感想文についてさらに詳しい情報は、
こちらでどうぞ。
・井上ひさし 握手で感想文 👌天国はある。その方が楽しいから?
とにかく、井上ひさしさんといえば、
こういった小道具を使いながら
心の交流を描く短編小説の名手ですね。
👉もう一つの傑作、『ナイン』についても
やはり感想文の書き方などについて
書いていますので、参考までに。
・ナイン(井上ひさし)のあらすじ:「簡単/詳しい」の2段階で解説
・井上ひさし ナインで感想文:小説の内容から「自分なら」へ
また井上さんは劇作家としても有名。
中でも異色の大作『天保十二年のシェイク
スピア』は『天保水滸伝』などの侠客談義に
シェイクスピア諸作品の設定や人物像、
名言・名セリフを絡み合わせた、複雑怪奇、
波瀾万丈、痛快無比の壮大な作品です。
こちらで詳しく分析していますので、
ぜひ覗いて見てください。
・天保十二年のシェイクスピア あらすじ⦅井上ひさし大作舞台を詳しく⦆
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ほーら、いろいろと
とっかかりはあるでしょ?
こういうふうにして、どこかに
突破口を見つけて掘り進んでいけば、
感想文なんかへっちゃらですよ。
ん? 書けそうなテーマは浮かんで
きたけど、具体的にどう進めていいか
わからない( ̄ヘ ̄)?
そういう人は、「感想文の書き方
《虎の巻》」を開陳している記事の
どれかを見てくださいね。
👉当ブログでは、日本と世界の
種々の文学作品について、
「あらすじ」や「感想文」関連の
お助け記事を量産しています。
参考になるものもあると思いますので、
どうぞこちらからお探しください。
・「あらすじ」記事一覧
・≪感想文の書き方≫具体例一覧
ともかく頑張ってやりぬきましょー~~(^O^)/
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