伊藤計劃 ハーモニー原作のあらすじと考察 "意識のない"未来から… | 笑いと文学的感性で起死回生を!@サイ象

伊藤計劃 ハーモニー原作のあらすじと考察 “意識のない”未来から…

やあやあサイ象です。

“あらすじ暴露”シリーズ第94弾(感想文の
書き方:第146回)の今回はついに伝説の
SF作家、伊藤計劃(けいかく)さんの
遺作『ハーモニー』(2008)に挑戦です!
  

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もちろんアニメ映画『ハーモニー
<harmony/>』(2015)の原作!

こちらで予告編をどうぞ。 



👉この映画、実は今や全編をタダで見て
しまうこともできちゃうんですよ;^^💦

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さて、一口に「あらすじ」をといっても、
話の骨子だけでいいという場合から、
読書感想文を書くんだから多少詳しくないと
という場合まで、千差万別でしょう。

そこで出血大サービス((((((ノ゚🐽゚)ノ

「ごく簡単」と「やや詳しい」の2段階で
「あらすじ」を提供した上で、私なりの
「考察」も加えさせていただくという
3段サービスでお届けしますよ~~(^^)у

出典はこちら
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ごく簡単なあらすじ(要約)

まずはぎゅっと要約した
「ごく簡単なあらすじ」。

2019年の「大災禍」以後「生府」
支配の徹底的な医療福祉社会へ
移行した2060年以降の世界。

そこでは各人の身体に埋め込まれた
ソフトウェアによって、病気の
発生も、また自由な行動や感情も
管理・抑制されている。

そんな世界に反逆して自殺を図った
ミァハ、トァン、キアンの3人の
女子高生の13年後の再会を軸に
物語は進む。

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生き残って「螺旋監察事務局」の上級
監察官となったトァンが、2073年に
突発した世界同時多発自殺事件の
捜査に乗り出す。

バグダッドへ飛び、生府社会の確立に
貢献した科学者の父、ヌァザのほか、
何人かの人物から情報を得る。

やがて事件の首謀者が死んだはずの
ミァハにほかならないことを探知。

チェチェン山中でミァハに再会した
トァンは、その特異な生い立ちを
初めて聞かされたが、父とキアンの
殺害への「復讐」としてミァハを
射殺する。

ん? なんだかよくわからん┐( ̄ヘ ̄)┌?

それにアニメとはだいぶ違うんでね?


アハハ、そうでしょう。

アニメはやっぱり子供向けになって
しまいますからね。


というわけで、よくわからん人や、
アニメとの違いを確かめたい人は、
どうしても「やや詳しい」ヴァージョンの
あらすじへ進んでいただかなくては
なりません。


もちろん、アニメとは違うエグいラストまで
突っ走るネタバレありの暴露サービスに
なりますので、結末を知りたくない人や
刺激に弱い人は絶対に読まないでください。

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やや詳しいあらすじ

では参りましょう。

原作の物語は<part:number=01>から
<part:number=04>までの4章構成で
進行し、結びに<part:number=
epilogue>
が置かれるという形です。

文中「”」印の白い囲みと「 」内は
上記文庫本からの引用です。

<part:number=01>

2019年、アメリカで発生した暴動を
きっかけに戦争と未知のウィルスが
全世界を覆い、各国の体制は瓦解。

この「大災禍(ザ・メイルストロム)」の
後、「世界は政府を単位とする資本主義
消費社会から、構成員の健康を第一に
気遣う生府(ヴァイアガメント)を基本
単位とした、医療福祉社会へ移行した」。


そこでは、WatchMe(ウォッチミー)という
すべての大人の身体に埋め込まれて健康と
行動を管理するデバイスのおかげで、
病気はほとんどなくなっている。

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また子供を「公共的身体」=「貴重な
人的リソース(資源)」と見る「リソース
意識」が徹底的に教え込まれている。


女子高生で「未分化な死への欲望」を
抱える霧慧(きりえ)トァンは、日本人
離れした美貌の友、御冷(みひえ)
ミァハの反生府的な思想に共感する。

やはりミァハの影響下にある零下堂
キアンを巻き込んで、3人で同時自殺を
図るが、キアンの密告により探知されて
失敗し、ミァハだけが死んでしまう。


それが2060年のことで、その13年後、
トァンはWHO(世界保健機構)の一部局、
螺旋監察事務局の上級監察官と
なっている。

「螺旋」は遺伝子を象徴し、元来の
任務は危険な遺伝子操作の有無を監査
することだったが、いつか守備範囲を
広げて「生命権の保全」を題目に
掲げている。


ニジェールの戦場に派遣されていた
トァンは、飲酒・喫煙という違法行為
が露見し、日本に送還されてしまう。


日本でキアンと再会し食事しながら
ミァハのことを話題にする。

と、キアンが突然、無表情になって、
「うん、ごめんね、ミァハ」と
つぶやくと、テーブルナイフを
喉元に突き立てて死ぬ。


同じ瞬間に世界で6,582人の人間が
自殺を試みていたのだった(叫び)。

<part:number=02>

世界同時自殺事件の「犯人」の特定へと
螺旋監察事務局が動き出し、トァンは
その上級監察官の権限を活用して
単独での捜査を始める。

死んだはずのミァハが絡んでいると見た
トァンは、父・霧慧ヌァザのかつての
共同研究者で、ミァハの遺体の引き取り者
でもあった冴紀ケイタの研究所を訪れる。


そこでトァンは、父が人間の意志を
操作する研究を行っていたと知り、
研究仲間ガブリエル・エーディンに
会うためバグダッドに向かう。

その際、自殺直前のキアンがミァハと
通話していたこと、したがってミァハは
生きていると知り、驚く。

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バグダッド行きの途中、インターポール
捜査官のエリヤ・ヴァシロフから接触を
受け、生府上層部にある組織、次世代
ヒト行動特性記述ワーキンググループ

同時多発自殺事件に関与していると聞く。

空港に向かう車内で、実行犯の
犯行声明がテレビ放送される。


この犯行について「恐ろしい」とか
「腹立たしい」とか思うならば、その
感情は「本物」だから「大切にして
ください」と声明は訴える。

「わたしたちの社会は、そうした感情を
抑え込むようにできて」いるけれども、
「みんな、そろそろ息苦しくなって
きているはずです」ともいう。

みなさんは、この『空気』に
縛りつけられた社会から、
逃げたがっているんです。
〔中略〕
わたしたちは新しい世界を
つくります。

そのためにはまず、それが
できる人を選ばねば
なりません。

これから一週間以内に、誰か
ひとり以上を殺してください

〔中略〕
いちばん大切なのは自分の命だ
という感情を、開放して
ください。

それができない人には、
死んでもらいます。


声明の言葉は、トァンの知る
ミァハの思考と完全に重なる。

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<part:number=03>

バグダッドでエーディンに面会した
トァンはその日の夜、「次世代ヒト…
グループ」の中心人物と目される父、
ヌァザからの接触を受ける。

ヌァザがここで完成させようとしている
ハーモニー・プログラムとは、
「大災禍」の再来を防ぐため各人の脳に
干渉し「常に合理的・協調的・平和的な
行動を選択させるようにする」装置。

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また「意識をもたない」特殊な民族が
チェチェン山中に存在し、ミァハは実は
その民族の出生であったため、13年前の
自殺事件後、プログラムの実験体にすべく
死を装って連行されたのだという。


生府社会に適応した「完璧な調和」
とは、もはや「判断を必要としない」、
つまり「決断するための意志はいらない」、
さらには「意識は不要」な人間の世界
だとヌァザは説く。

「意識の消滅」……それは「ある意味で、
死に等しい状況」であって、それを
全人類に押しつけることの是非は
もちろん問われねばならない。

だから、その機能の「発現」は万一の
時のために保留してあると説明する。

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ところが、グループ内には一挙にその
「発現」へ進もうとする異端の
「急進派」が形成されている。

実はミァハこそがそのリーダーで、
同時多発自殺事件は彼女が
「ハーモニー・プログラム」実行の
ために仕組んだ事件だったのだという。


そこにミァハ一味のヴァシロフが現れて
ヌァザを拘束しようとするが、トァンと
相撃ちになって重傷を負い、トァンを
かばったヌァザは銃弾を受けて死ぬ(ドクロ)。


瀕死のヴァシロフは、生まれ故郷の
チェチェンでミァハが待っている
と告げ、トァンはかの地へ向かう。

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<part:number=04>

ミァハの宣言した「一週間以内」が迫る
ころ、隣人の命を奪えず自ら命を捨てる
者が続出し、世界中で暴動が多発。

世界は「大災禍」の再来の様相を呈す。

  

「ハーモニー・プログラム」の実行権を
持つ「次世代ヒト……グループ」の
主流派は、この状況を打開して世界の
安定を図るためプログラムを
起動せざるを得ないはず……

というのが実はミァハの狙いだった。


チェチェン山中の旧ロシア軍基地で
トァンを待ち受けていたミァハは語る。

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「いま、世界中で何万という
男の子女の子が自殺してる。

大人もね。

野蛮を、自然を、徹底して
自分の内側から排除する
ことはできないんだよ。
〔中略〕」
「あなたは思ったのね。
この世界に人々がなじめず
死んでいくのなら――」
「そ、人間であることを
やめたほうがいい」
〔中略〕」
「というより、意識である
ことをやめたほうがいい

もともと『意識のない』民族の一員
だった自分に「意識」が生まれたのは、
かつて「ロシアの売春基地」だった
この地で将校にのしかかられて液体
まみれになっていた時だった…
ともミァハは語る。

「意識なんか不幸になるだけ、
さっさとうっちゃるべきだっていう
異端」の自分は、ヌァザらの主流派に
追われて逃げているのだ、と。

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トァンはミァハに銃口を向け、
「内なる声に耳を傾ける」。

「わたしはここで父さんとキアンの
復讐をする」とトァンは引き金を
引き、ミァハは倒れる。

「これで――許してくれる……」

息を引き取るミァハの最後の願いは
コーカサスの山の見える所で
「意識」の終わりを見届けること。

トァンはこれをかなえる。

<part:number=epilogue>

(不明の語り手による、
etml 1.2で定義された記述)

👉「etml」についての説明はありません
が、<harmony/>という副題や各章の
タイトルのほか、作品全体に散りばめ
られている<null>わたし<null/>のような
特異な記述が「etml」言語によるもの
であったということがここで
明瞭になります。

「etml」は「html」の「h」を「e」
(emotion?)に進化させたマークアップ
言語として想定されたものでしょうか。



「あのコーカサスの風景」の後、
老人たちは「意識の消滅、社会と
構成員の完全な一致を決断」。

もうそこに意識や意志はなかった」。

「わたしはシステムの一部で」あり、
「苦痛を受け取る『わたし』」は
存在しない。

かつていたミァハとトァンは
「我々の『わたし』の最後の
弔い手」だった。

さよなら、わたし。
さよなら、たましい。
〔中略〕
いま人類は、とても幸福だ。


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考察:エンタメを超えた文学的な価値

さて、楽しんでいただけましたか?

いやーさすが、各賞を総なめにした
だけのことはあって、実に緻密に
構成された最先端のSF傑作!
と評してよさそうですね。


各個人の行動や意志まで徹底的に管理・
抑制する未来社会は、現在の「医療福祉
社会」の高度化の果てに実際に出現する
かもしれないと思わせるリアルさで、
ゾッとさせられます。

  Skulls-s

そのあたりの批評性、現代社会への警鐘に
なっているところは、たんなるエンター
テインメントを超えた文学的な価値
として大いに評価できるて部分では
ないでしょうか。


また「意識なんか不幸になるだけ、
さっさとうっちゃるべきだ」という
思想を行動に移してしまう御冷ミァハ
という人物造型にもなかなかの
凄みがありますよね。

意志意識は同じなの?

ただまあ、これは私個人の感想ですが、
その生い立ちとして、チェチェン山中に
実在するという「『意識をもたない』
民族」まで想定したのはいかがなものか…。

そんなもん、あるわけないでしょ?
ここでマンガチックになっちまった…

と私は残念なんですが、「いや、
そんなことはない、想定可能だ」と
あなたは反論するでしょうか?

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そう思われるのだとしたら、それは、
作品中にくどいくらいに反復される、
意志意識とを同一視していく
語りによる混乱の結果だとは
考えられませんか。

たとえば<part:number=03>
「06」で「意識の消滅」について
トァンに説明するヌァザは、
こんな言い方を繰り返します。

もし、完全に合理的な価値割を
行うよう指数的に報酬系が
振る舞いだしたら、決断
するための意志はいらなく
なるんじゃないだろうか、
意識は不要になるんじゃ
ないだろうか。
〔中略〕
人間はね、意識意志
なくともその生存にはまったく
問題ないんだよ。
〔中略〕
意識と文化はあまり
関係がないんだよ。


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意志意識とのこのような同一視は、
<part:number=04>でのミァハと
トァンの対決場面にも持ちこまれます。

「そう。老人たちは『意識の停止』
を死と同義に受け取った。
〔中略〕
意識的な決断は必要ない。
〔中略〕
問題はむしろ、意志を求められる
ことの苦痛、〔中略〕なんだよ」

意志は、そして意識は必要ない。
それとこの世界的な大混乱が、
どうつながるの」


こういった記述で、意志意識とは
まるで区別されないばかりか、そこには
読者がその両者を区別しないところへ
導こうとする作者の「神の手」めいた
ものさえ感じられます。

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不可解なのは、<part:number=04>
「もうそこに意識意志はなかった」という
時点で書かれているものと設定されながら、
「いま人類は、とても幸福だ」というような
意識が記述されていること。


これらは意志意識とを同一視するところから
来る混乱ではないでしょうか。

意識意志と無関係に発生しますし、
意志意識されたりされなかったりします。

意識がなければ意志はないともいえないし、
意志がなければ意識はないともいえません。
(”植物人間”の場合などを想起しましょう)

ま、これが最終的に読者に残される謎…
という目論見なんでしょうかね?


というようなわけで、首をかしげる部分も
ないではありませんが、ただこの瑕疵
(かし。玉にキズ)も作者に今少しの健康と
時間があれば、粘り強く修正されたのでは…
と思わせる力は十分に感じられます。

傑作を置き土産に逝かれた計劃氏に合掌。
👉計劃氏のもう一つの傑作、
『虐殺器官』についての情報は
こちらで。

伊藤計劃 虐殺器官のあらすじ⦅ネタバレ📢⦆アニメ映画の原作

     


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まとめ

少し難癖をつける形になりましたが、
この作品がSFとして日本最高峰の一つを
形作っていることは間違いありません。

読書感想文やレポートの執筆も大いに
挑戦してみてはどうでしょうか。

SFなんかダメと言われそうな場合は
たとえば上に述べました点などを
とりあげて、純文学としても鑑賞に
堪えるものであることを主張しましょう。

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ん? 書けそうなテーマは
浮かんできたけど、具体的に
どう進めていいかわからない( ̄ヘ ̄)?

そういう人は、「感想文の書き方
《虎の巻》」を開陳している記事の
どれかを見てくださいね。

👉当ブログでは日本と世界の
種々の文学作品について、
「あらすじ」や「感想文」関連の
お助け記事を量産しています。

参考になるものもあると思いますので、
どうぞこちらのリストからお探しください。

「あらすじ」記事一覧

≪感想文の書き方≫具体例一覧

ともかく頑張ってやりぬきましょー~~(^O^)/

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2 Responses to “伊藤計劃 ハーモニー原作のあらすじと考察 “意識のない”未来から…”

  1. Y より:

    ボクは途中から「なんか納得行かねーなー」のオンパレードでした。人間の意思は脳の報酬系による会議によって決定されるってのはよく分かるんですけど、人間って最初から全てが自明の世界にいるんじゃねーの?最初からどこにも意識なんてものが入り込む余地は無かったんじゃないか?と思いながら読んでました。

    特に目の前の100万クレジットか、1年後の200万クレジットの問題で。あれは200万クレジット貰えるかの期待値が影響した結果、100万クレジット貰える確率80%、200万クレジット貰える確率20%と脳が経験則から判断したのではないか、そう思っちゃってね。だったらやっぱり100万クレジットって自明の問題じゃん!とね。

  2. サイ象 より:

    そうですよねー。

    人間の意思は脳の報酬系による会議によって決定されるという部分を、もう少し精緻に構想してもらえたら…と残念ですね。

    もう少しの間、健康を維持して、たとえばクルツバンの『だれもが義捐者になる本当に理由』など読まれていたら、また違った展開がありえかたも…と。

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