サクラさん
森鴎外の『山椒大夫』
って、香辛料の山椒に
関係あるんですか?

ハンサム 教授
なさそうですね;^^💦

説経節の演目「さんせう
太夫」をもとにした小説
ですが、この”さんせう”
は”三つの荘園”の意味だ
とか諸説あるようです。


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サクラさん
「安寿と厨子王」として
語られてきた説話と
同じ話ですよね。



ともかく鴎外の小説で
私がいちばん感動した
のは、自分は犠牲に
なる覚悟で弟を逃がす
安寿の賢さと強さ…。

ハンサム 教授
死の覚悟をもって冷静
に行動するところが
いかにも鴎外好み。

だからあれはあくまで
鴎外の安寿なんで、
説経節の安寿は自殺する
わけではなく、水責め・
火攻めの拷問で惨殺
されるんです。

サクラさん
あらいたわしや(叫び)

これは説経節によく
はさまれる合いの手
ですが、そんなグロい
説経節を鴎外がどう
変えていったかを見て
いけば、鴎外文学への
理解が深まりそう
ですね。


というわけでおなじみ”あらすじ暴露”
サービスの第219弾(“感想文の書き方”
シリーズとしては第306回)となる今回は
森鴎外の名作短編小説『山椒大夫』
(1915/大正3年)に挑戦です((((((ノ゚🐽゚)ノ
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この作品について、まずは「ごく簡単な
あらすじ」を紹介した上で、次に「やや
詳しい」ヴァージョンのあらすじを
たどりながら、元ネタの説経節の物語と
大きく異なる部分をピックアップして
鴎外の狙いを分析していきます。

さらにはその映画化として国際的評価の
高い1954年映画『山椒大夫』(溝口健二
監督 👇)も採り上げ、鴎外版から変更
されている部分についても考察します。


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その予告編をどうぞ(英語版ですが)  👇



というわけで本日の内容は
ザッと以下のとおり。


ごく簡単なあらすじ(要約)

ではまず鴎外版『山椒大夫』の、
ぎゅっと縮めた”ごく簡単”な
あらすじ(要約)から。

東北の岩代から筑紫の父のもとへ
徒歩で旅する安寿、厨子王の
姉弟と母、女中の四人が直江津で
騙されて人買いの手に渡る。

母は佐渡へ、姉弟は丹後の富豪、
山椒大夫に買われ、奴隷の身に。

  
  1930年代の絵本 

半年近く後、安寿は厨子王ひとりを
逃亡させる計画を実行し、自身は
罰を受ける前に入水する。

寺にかくまわれて追手を逃れた
厨子王は京へ上り、関白師実に
出会うことで素性を認められる。

元服して丹後の国守となった
厨子王は人身売買や奴隷制を
やめさせた後、佐渡に渡り、
母との再会を果たす。

という物語で、後半で厨子王の出会う
貴人が「関白師実」だという以外は
鴎外が元ネタとした説経節の話と
ほぼ同じと言えます。

ただ、より詳しくストーリーをたどって
いくと、二つの『山椒大夫』には
かなり大きく異なる部分がいくつも
あることがわかってくるんですね。

というわけで、それらも知りたいという
読者さんには”やや詳しい”ヴァージョンの
あらすじに進んでいただく必要が
あるわけです;^^💦

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やや詳しいあらすじ

それでは参りましょうか。

私の判断で「起承転結」の4部に分け、
説経節の記述と内容が大きく異なる箇所に
👉❶のような印をつけていきます。

その下線部をクリックすれば、後半の
「原作(説経節)との違い」でまとめて
いる、違いの内容やその理由・背景の
解説➊~➎に飛んでいけるという
仕組みです。

👹 【起】母子、離れ離れに

紅葉の候、越後(新潟県)を徒歩で旅する
母(30すぎ)、姉(安寿、14)、弟(厨子王、
12。いずれも数え年)、女中(姥竹、
40くらい)の四人連れ。

通りかかった潮汲女(塩づくりのため
海水を汲む女性)に宿を尋ねると、
「近辺は『悪い人買い』が出るため
宿を貸すことを国守が禁じている、
橋の下で野宿するしかない」と言う。

橋の下で寝る準備をしていると、
山岡大夫と名乗る男が現れ、「自分は
国守の禁に背いて旅人を救っている。
芋粥でも進ぜるから来なされ」と
親切気に言うので、感謝して従う。

直江の浦にある大夫の家で食事し、
母が「自分は岩代(東北のどこか。不明)
の者で筑紫(福岡県)へ行った夫のもとへ
行こうとしている」と相談すると、
大夫はただちに船路を勧める。

夜明け前、大夫は四人を舟に乗せて
岸沿いに南下し、ある岩陰で二人の
船頭(宮崎の三郎、佐渡の二郎)と交渉。


左上から右へ厨子王、安寿、宮崎の三郎、佐渡の二郎、
母、姥竹、左下に山岡大夫(説経本『さんせう大夫』より)
 

二人の子は宮崎の、女性二人は佐渡の
舟へと売り渡される。

二つの舟がどんどん離れていき(叫び) 、
抗議も無視されて諦めた母は
「安寿は守本尊(まもりほんぞん)の
地蔵様を、厨子王はお父様の下さった
護刀(まもりがたな)を大切にをし」
などと叫ぶ。

姥竹は「ええ。これまでじゃ」と海に
飛び込み、母も後を追おうとするが、
佐渡は「大事な貨(しろもの)じゃ」
と彼女を縛って転がす。

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👹 【承】姉弟、山椒大夫の奴婢に

宮崎は越中、能登、越前、若狭の
津々浦々に停泊し、二人の子を
売ろうとするも交渉不成立。

ついに丹後(京都府北部)の由良へ来て、
「人なら幾らでも買う」ことで知られる
富豪、山椒大夫の奴頭(やっこがしら)に
売りつける。

宮津市 由良


大夫の奴婢(ぬひ)にされた姉妹は、
名を言わぬのでそれぞれ垣草(しのぶ
ぐさ)、萱草(わすれぐさ)と名づけられ、
潮汲みと柴刈を命じられる。

二人は働き始め、安寿は伊勢(三重県)
から売られてきた小萩と親しくなる。


新参小屋で十日を過ごした後、男女別の
宿舎に分けようとすると、二人は
「死んでも別れぬ」と言うので、
大夫の次男、二郎が父をとりなして
二人を一つの小屋にいさせる。

その小屋で逃亡の相談をしている
ところを三男の三郎が立ち聞きし、
「逃亡の企(くわだて)をしたものには
烙印(やきいん)をする」掟だと脅す。

二人はなんとか弁解してその場は
見逃してもらうものの、その夜、
👉➊額に焼き印を十文字に押される
という同じ夢を二人が同時に見る。


二人が守本尊の地蔵尊を伏し拝むと
その額に十文字の疵(きず)が
あざやかに見える。

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👹 【転】厨子王の逃走、安寿は…

春となり、戸外の仕事が始まる日、
見回りに来た二郎に、安寿は弟と
一緒に柴刈に行かせてほしいと嘆願。

二郎は大夫にとりなすが、三郎が
「そんなら垣衣を大童(おおわらわ)
にして山へやれ」と言い、大夫も
笑って賛同したと奴頭が言いに来る。

胸を刺されるような思いの厨子王を
よそに、安寿はむしろ喜びに輝いて
鎌を差し出し、長い髪をざっくりと
切らせる。

  
   この絵本では安寿の「喜」が表現されていないのが残念 
  
翌朝、二人で山のふもとまで来ると、
安寿は厨子王に、「あの中山を越して
いけば、都はもう近い」と伊勢の小萩から
聞いている、お前ひとり逃げて都へ上れ
と言う。

姉の身を案ずる厨子王だが、
「物に憑かれたよう」な安寿の
言葉に抵抗できない。

安寿は「この地蔵様をわたしだと思って、
護刀と一しょにして、大事に持っていて
おくれ」と守本尊を渡し、追手が来ても、
運があれば中山のお寺で隠してもらえる
はずだと励まし、厨子王は姉に
別れを告げる。


後に捜索に来た大夫一家の追手が
👉➋沼の端に安寿の履(くつ)を
見つける。



多勢を率いて中山の国分寺へ来た三郎は
「ここへ逃げ込んだ奴を出せ」と息巻く
が、住職の曇猛(どんみょう)律師は
「そのものは当山にいぬ」、当山は
勅願の寺院ゆえ、もし荒らすと国守が
責めを負わされると警告。

そこへ山椒大夫に顔の似た鐘楼守(16歳で
家出した長男の太郎)が大声を上げ
「そのわっぱは南へ急いだ」と言う。

三郎の一行はただちにそれを追う。

👹 【結】奴婢解放と母子再会

安寿の入水を聞いた曇猛律師は、
頭を剃(そ)った厨子王を連れて旅立ち、
都にほど近い朱雀野権現堂で
激励して別れる。

都に上った僧形の厨子王は清水寺の
籠堂(こもりどう)に一泊し、翌朝、
目覚めると枕元に高貴そうな老人が
立っていて問う。

「お前は誰の子じゃ。何か大切な
ものを持っているなら、どうぞ
己(おれ)に見せてくれい。
👉➌己は関白師実(もろざね)じゃ

「わたくしは陸奥掾正氏(むつのじょう
まさうじ)と云うものの子で…」と事情を
話した上で、厨子王が守本尊を出して
みせると、「これは兼ねて聞き及んだ、
尊い放光王地蔵菩薩の金像じゃ」と
師実は驚く。

     
      鹿鳴文庫「諸宗仏像図彙」より) 

これを持つからには「お前は(かつて
ある事件に連座して)筑紫へ左遷せられた
平正氏が嫡子に違いあるまい」と言い、
館へ連れ帰る。


師実の清水寺参拝は娘の病気平癒を
願ってのものだったが、厨子王の
守本尊を拝むとたちまち回復。

師実の後見で還俗・元服した厨子王は
正道と名のり、その年の秋には
丹後の国守に任ぜられる。


正道は最初の政(まつりごと)として
「丹後一国で人の売買を禁じた」ので、
👉➍山椒大夫も奴婢をすべて
解放し、給料を払うことに。



正道(厨子王。左手前)と山椒大夫(中央)
──映画『山椒大夫』より
 

大夫は一時それを大損失のように思うも、
実際はこの時から農工の技術も向上し、
一族はさらに富み栄える。

曇猛律師は僧都(そうず)に昇格し、
安寿をいたわった小萩は帰郷。

安寿は懇(ねんごろ)に弔われ、
また入水した沼の畔に尼寺が
建立されることに。


これだけの事業を終えた正道は
休暇をとり、忍びで佐渡へ渡る。

国府の役人に調べさせても母の行方は
知れず、思案にくれながら歩く。

とある百姓家の生垣内の広場で襤褸
(ぼろ)を着た盲目の女がすわって、
干した粟の穂に来る雀を長い竿で
追いながら、こんな歌をつぶやいている。

安寿恋しや、ほうやれほ。
厨子王恋しや、ほうやれほ。
鳥も生(しょう)あるものなれば、
疾(と)う疾う逃げよ、逐わずとも。


感動した正道は女の前にうつ伏し、
守本尊を額に押し当てる。

歌を止めた女がじっと前を見ると

その時干した貝が水に
ほとびるように、両方の目に
潤いが出た。

女は目が開いた。

「厨子王」と云う叫が
女の口から出た。

👉➎二人はぴったり抱き合った。

      (終わり)

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原作(説経節)との違い

さてここからは、鴎外の小説がその原作
である説経節『さんせう大夫』と大きく
異なる5つの部分──上記「あらすじ」中の
➊~➎──について多角的な
考察を加えて参ります。

説経節のテクストは最も入手しやすい
東洋文庫版(👇)に依拠します。


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焼き印は夢だけだった❓

鴎外版でも小屋で寝ている姉弟が目を
覚ますと、三郎がいて、山椒大夫の
もとへ引っ立てられ、二人とも額に
焼き印を押されてしまう…

という記述なので衝撃を受けますが、
守本尊のお地蔵様を取り出して拝むや
火傷の痛みも痕(あと)も消え失せて、
ああ、ありがたや、だった…
という流れになっています。


これが説経節では夢でもなんでもなく、
二人の額に「金真赤(かねまっかい)に
焼きたて、十文字にぞ当てにける」、
すなわち文字通り”焼きを入れた”(叫び)
のです。

厨子王はけなげにも、姉はなんの「科
(とが)」もない上に「あのように、
みめ形もよい姫」ゆえは許されて
「焼金を二つなりともそれがしに」と
嘆願しますが、それもむなしく。

  


とはいえ、地蔵菩薩がその十文字の
痕を自分の額に吸収してくれる形で
二人の額が元に戻ることは説経節も
同じなので、鴎外も原作通りに現実
こととして描いてもよかった
かもしれません。

そこをということにした鴎外の
意図を忖度するなら、極度に残虐な描写は
避けるという、ほぼ全編にわたる傾向の
一環とみなすことができそうです。

この傾向は結果として、山椒大夫の悪虐さを
薄め、ラストで善人になって荘園を改革
するという変更も多少は受け入れやすい
ものにしているかもしれません。

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安寿の死は入水❓

なんとか一緒に逃げてみようという
厨子王の必死の説得を頑として聞かず
(時間かせぎなど、戦略上の意味も
あって)、安寿がひとり領地に
とどまることは説経節も同じ。

ただこちらは入水などしないまま
捕らわれて、弟の行く先を吐けと
「湯責め水責め」、錐で膝の皿を
揉み込むなどの拷問を受けます。

さらには火にあぶって「熱くば落ちよ」
と三郎らは責め続け、ついには
「十六歳を一期となされ、姉をば
そこにて責め殺す」のです。

    
     映画『火刑台のジャンヌ』(1954)ポスター

この壮絶な最期を避けて、安寿に
入水の道を選ばせたところは
いかにも鴎外…と言えそうです。

正義または肉親の幸福のため自らは
従容として死に就くヒロイン像は
鴎外のこよなく愛するところで、
『山椒大夫』翌年の『最後の一句』
(1916)の十六歳の娘「いち」が死に
臨む毅然たる態度には安寿に通じる
ものがあります。
👉「いかに死ぬか」が鴎外文学の
大きなテーマの一つだったことは
異論のないところでしょう。

やはりこの主題に関わる名作『高瀬舟』を
めぐっては、こちらもご参照ください。

高瀬舟のあらすじを簡単に【動画つき】森鴎外は何が言いたかった?

高瀬舟の感想文/批評文どう書く【400字/800字の例文つき】

               


厨子王を庇護したのは藤原師実❓

説経節ではこれは師実でなく
「梅津の院」という架空の皇族。

それをあえて関白師実に変えた理由
としては「梅津院と云ふ人の身分が、
わたくしには想像が附かない」からだ
と鴎外は書いています。

つまり「梅津大臣」と呼ばれたのは
藤原基実だが、彼は「永万二年に
二十四で薨じた」ので時代も年齢も
ふさはしくない。

そこでピンチヒッターのように
「寛治六七年の頃、二度目に関白に
なつてゐた藤原師実を出した」
のあと(「歴史其儘と歴史離れ」)。


こういう方法で鴎外の歴史小説では
原話に色々と変更が加えられるの
ですが、そうするようになった
基本的な動機としては、

史料を調べて見て、
其中に窺はれる「自然」を
尊重する念を発した。  (同前)

ということを述べています。

これを裏返すと、史料にあっても
不自然に見える部分はなるべく
「自然」に近づけるようにしたい
というのが鴎外の「念」でもあった
と解釈できます。

山椒大夫が奴婢解放し、給料制にした❓

あの強欲・冷酷な悪党、山椒大夫が
国府のお達しで奴婢を解放する…
というところまでは一応うなずける
としても、「給料を払う」ところまで
行ったというのは、ちょっと信じがたい
気もしますね。

この改革によって大夫一家はさらに
富を増したという後日談ともども、
あまりに近代的な見方で、時代を考え
あわせればむしろ「不自然」と
見えなくもありません。

ここはまあ、鴎外個人の理想が色濃く
反映した改変と見るべきでしょうか。


説経節の方の山椒大夫がどうなったかと
言いますと、「大夫には、広き、黄泉
(よみ)の国を取らせよ」という正道の
下命のもと、国分寺の広庭に堀った穴に
肩から下を埋め込まれ、その首を、子の
うち一人で悪事を請け負った感のある
三郎にノコギリで切らせるという
強烈な懲悪の末期(叫び) 。

 
                   


しかしそこはさすが三郎、腹を固め
「死出三途(さんず)の大河をば、
この三郎が、追い越して参らすべきぞ」
と作業にかかります。

一(ひと)引き引いては、千僧供養、
二(ふた)引き引いては、万僧供養、
えいさらえいと、引くほどに、
百に余りて六つのとき、
首は前にぞ引き落とす。 


最後の仕事を終えた三郎は浜へ連行
され、「行き戻りの、山人たちに、
七日七夜、首を引かせた」とあります。

いささか残虐すぎるようにも見えますが、
説経節の世界はこんなもので、鴎外は
そうした過激な描写はすべて落として
近代小説に仕上げていったのですね。

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二人が抱き合って終わり❓

「二人はぴったり抱き合った」という
最後の一句はリズムもよく、それ以上
何も書かずに締めたのも、余韻を残す、
鴎外一流の芸術と言えます。

説経節の方はどうかと言いますと、
こちらは余韻もへったくれもないわけで、
ともかく誰はしまいにどうなったかと、
いちいち細かく語っていきます。

なにしろ出てきた人物すべてが
善いか悪いかのどちらか。

勧善懲悪のケジメをキッチリつけて
納得・安心のうちに聞き終えさせる
必要があったのでしょうね。


母子再会の場面でも二人は多くの言葉を
交わして互いの身の上を説明し、
「泣き潰(つぶ)した」とされている
母の両眼が視力を回復する経緯も
だいぶ詳しく語られます。

膚の守りの地蔵菩薩を、
取り出(い)だし、母御の両眼に、
当て給い、「善哉(ぜんざい)
なれや、明らかに。
平癒し給え、明らかに」と、
三度、撫でさせ給いければ、
つぶれて久しき、両眼が、
はっしと、明きて、鈴を
張りたるごとくなり。


こうして眼が開いて始めて、母は
この男を厨子王と認知するのです。


が、説経はまだ終わりません。

この母を「玉の輿」にのせて帰国した
正道は、直江津へ飛んで、母子を売買した
あの山岡太夫を「柴漬け」(ふしづけ。
簀巻きにして水中に投げる)の刑に処し、
海中に飛び込んだ姥竹の死亡を確認する
など、いささかの心残りもない幕引きが
準備されていくのです。

丹後には守本尊の地蔵菩薩を安置する
御堂(後に「金焼き地蔵菩薩」と崇めら
れる)を建立してから、十万余騎を引き
連れて父母ともども陸奥(みちのく)の
領地に戻り、その後は「富貴の家と
栄え給う」という次第。

こう比較してみると、鴎外版の近代小説
らしさが、ラストの締めでもしっかり
打ち出されていることがわかりますね。

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「ほうやれほ」のメロディは?
(リアル説経節を聞こう)

ラスト部分で大きく異なることのわかった
鴎外版と説経節の両『山椒大夫』ですが、
どちらもほとんど同じで、かつ最も哀切に
心に突き刺さるのが、視力を失った母の
歌っていたあの歌ですね。

安寿恋しや、ほうやれほ。
厨子王恋しや、ほうやれほ。
鳥も生(しょう)あるものなれば、
疾(と)う疾う逃げよ、逐わずとも。


ところでこの歌、自分も口ずさんで
みたいと思った場合、どんなメロディ
(節まわし)で歌えばいいのでしょうか。

そこはもちろん、リアルに説経節を
受け継いでこられた師匠の実演を
聞いてみるしかありません。

三代目若松若太夫さんの独演会動画で
どうぞ(歌は37分あたりから)。  👇



いかがでした?

歌えそうですか? 
なかなか素人には難しいかも
しれませんね;^^💦

映画(溝口健二監督)の変更部分

さて、お待たせしました。

映画『山椒大夫』(溝口健二監督、1954)
の話に入りましょう。

ヴェネツィア国際映画祭での銀獅子賞
受賞など、海外でも高く評価され、
たとえばジャン=リュック・ゴダールは
『気狂いピエロ』(1965)でラストの
海辺の場面を再現して見せたほどの
気に入りようでした。

  


ところでその母子再会を海辺に設定
したのは鴎外の演出であって、
説経節ではただの町中の家です。

そのことも示すように、映画はあくまで
鴎外版『山椒大夫』を原作としている
のですが、その鴎外版から変更されて
いる部分として、大きなものはこの
2点かと思われます。
  1. 厨子王が兄、安寿が妹とされた。
  2. 山椒大夫に囚われてから逃亡までに
    10年が経過している。
とも、映画をうまく盛り上げる
ための変更として、わからないことでは
ありません。

14-5歳の安寿と12-3歳の厨子王
そのままでは、演じきれそうな役者
(子役)が見つかるとは思えなかった
でしょうね。

そこで10年が経過したという設定で
役者も途中交替させることにした
(安寿:榎並啓子→香川京子。厨子王:
津川[当時 加藤]雅彦→花柳喜章)の
でしょうが、それはよいとしても、
厨子王を兄に安寿を妹にと逆転させる
必要はどこにあったのか❓

浮上する大きな疑問はこれですが、
あるいはこれも俳優が先に決まった
ことからの変更なのかもしれません。


ともかく、もし鴎外がこの映画を見たなら
この点に落胆したのではないでしょうか。

なぜって、少なくとも鴎外版は安寿が
姉でないとほとんど成り立たないような
物語になっているからです。

その山は、二人で柴刈に行くことを
許されてから訪れますが、髪を切られる
際を含め、安寿の顔はなぜかつねに
「喜(よろこび)」に輝いています。

そしてついに、一人で逃亡するようにと
厨子王に命じて歩いて行く場面。

厨子王はなんとも思い定め兼ねて、
ぼんやりとして附いて降りる。

姉は今年十五になり、弟は十三に
なっているが、女は早くおとなびて、
その上物に憑かれたように
聡(さと)く賢(さか)しくなって
いるので姉の詞(ことば)に背く
ことが出来ぬのである。

        
        映画『山椒大夫』(英語版)ポスター 

これに続いて企図を語る安寿の周到さと
覚悟は、厨子王の全身に伝播するかの
ようでもあって、

足の運びも前とは違って、
姉の熟した心持が、暗示のように
弟に移っていったかと思われる。


「暗示」は大正初期ではまだ比較的
新しい和製漢語で、催眠術を強く
連想させるものでした。

催眠的な「暗示」の恐ろしさに鴎外が
強い関心をもっていたことは短編『魔睡』
(1909)が示すとおりで、「物に憑かれた
よう」な安寿の魂が厨子王に「憑く」ように
移る様が「暗示のように」と表現された
のだと読めます。

    


このあたりの機微は、姉の強い意志が
やはり「暗示のように」弟妹に浸透する
『最後の一句』などでも描かれるもので、
鴎外お気に入りのテーマであったと
考えられます。

溝口映画の姉弟逆転はこのモチーフを
弱めてしまったように見えますが、
そのあたりに目をつぶるならば、
さすがに世界をうならせただけの
ことはある秀作と評価できます。

まとめ

さて、いかがでしょうか。

これだけの情報があれば、もう
怖いものなしですよね、こと
『山椒大夫』に関するかぎり。

読書感想文でも、レポートでも
何でも来い!
ってところではないでしょうか。
👉その読書感想文ですが、どうも
うまく書けないから例文を見て
みたいという人は、こちらに用意
していますので、よろしければ
参考にしてください。

山椒大夫で読書感想文【1200字例文つき】安寿はなぜ喜びに輝いていたか

           


またほかの作品も読むことで、
森鴎外について知識を増やしておく
ことも有力な武器になってきます。

『高瀬舟』についての情報提供記事は
上記「原作(説経節)との違い」➋の
ところで紹介済みですが、もう一つ、
鴎外と言えば忘れちゃいけない名作
『舞姫』についてはこちらでどうぞ。

舞姫のあらすじ(現代語訳)を簡単に/&詳しく結末まで【動画つき】

舞姫で感想文どう書く? 400字/800字の例文つきで解説

     


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なると、具体的なやり方・書き方が
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