谷崎潤一郎 春琴抄にモデルがいた?簡単なあらすじと詳しい解説・考察

谷崎潤一郎 春琴抄にモデルがいた?簡単なあらすじと詳しい解説・考察

サクラさん
『春琴抄』には大変な
衝撃を受けました(叫び)

あれは実話なんですか?

ハンサム 教授
「本当らしく見せるのに
苦心した」と作者の谷崎
潤一郎が書いています
から、本当にあった話
ではないということ
でしょうね;^^💦


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サクラさん
そうなんだ~(🙀)

それじゃ谷崎の「本当
らしく見せる」腕前って
スゴいんですね。

ハンサム 教授
文豪の名に恥じない
辣腕ですね。

サクラさん
では、ああいう三味線の
お師匠さんで驕慢な
お嬢さんだった人…
というのもすべて
谷崎の想像の産物❔

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ハンサム 教授
いや、そこまでは
モデルがあったよう
なんです。

サクラさん
で、目が見えなかった❓

ハンサム 教授
さあて、そこはどう
でしょうか;^^💦

小説のあらすじを辿り
ながら検証して
参りましょう。


というわけでおなじみ”あらすじ暴露”
サービスの第57弾(“感想文の書き方”
シリーズとしては第90回)となる今回は、
今回はかの大文豪、谷崎潤一郎の最高傑作
ともいわれる中編『春琴抄』(1933)に
挑戦(((((ノ゚🐽゚)ノ
  
さて、モデル問題に入る前に、話の筋を
まったく知らないという人のために
「ごく簡単なあらすじ」を紹介して
おきますので、まずはそちらをお読み
ください~~(^^)у


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ごく簡単なあらすじ(要約)

まずはぎゅっと要約した
「ごく簡単なあらすじ」。

大阪の富裕な薬種商の娘、春琴は早く
から音曲の技量と美貌でぬきん
でていたが、9歳で失明する。

その後に丁稚として来た4歳年長の佐助が
「曳き手」として彼女に仕え、やがては
音曲の弟子となり、事実上の夫となる。

  
  スペイン語訳Sobre Shunkinの表紙から

春琴の驕慢な仕打ちを佐助はむしろ
喜ぶようでさえあったが、20歳で
師匠として独立した春琴はやがて
門弟の恨みを買ったか、顔に熱湯を
浴びせられる。

治療中の春琴が、包帯が取れて佐助に
顔を見られることを恐れていると
察した佐助はある行動に出る……。

どうでしょう?

え? なんだかよくわからん?

まあそうでしょうね。
一応、ネタバレを避けてますしね;^^💦

結末まできちんと知りたいという人の
ためには「かなり詳しいあらすじ」を
後半で読んでいただけますので、まずは
モデル問題の方を片付けておきましょう。

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(一応の)モデルはこの人

『春琴抄』の春琴そのままでは決してなく、
盲人だったかどうかはよくわからない
のですが、ともかく大阪で谷崎が地歌を
習ったお師匠さんで、『春琴抄』の構想に
ヒントを与えたと言われているのは
菊原初子という人。

祖父の菊植明琴、父の3代目菊原琴治に
師事し、幼少より箏曲を始め、大正8年
父より野川流三弦本手組歌全32曲、
生田流箏曲組歌全49曲を伝授され、
琴友会を継承して主宰。

上方の地歌、箏曲界の重鎮で門下生は
数千人といわれ、昭和54年には
人間国宝にも認定されました。
(詳しくはこちらで。コトバンク)


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というわけなんですが、もちろん
この方は顔に熱湯を浴びせられるなどの
ひどい目にはあっておられません。

そのあたりはもちろん文豪谷崎による
フィクションということになるわけです。

はい、そういうことがあってそれから
どうなるのか、これは読まずには
いられませんよね。

それではどうぞ、「かなり詳しい
あらすじ」の方へ。

かなり詳しいあらすじ

では参りましょう。

原作は文庫本で約70ページ。
これを私の判断で「起承転結」の
4部に分けています。

「 」内や「”」印の白い囲みは
原文(仮名遣いは現代化)からの
引用とお考えください。

💝【起】

春琴は本名を鵙屋琴(もずやこと)と
いい、大阪道修町の富裕な薬種商、
鵙屋の次女。

9歳で失明して後、三味線の
師匠となって「春琴」と号した。

春琴の立派な墓の左脇に「俗名温井佐助
(ぬくいさすけ)、号琴台、鵙屋春琴
門人……」と記した小さな墓があるが、
この佐助は春琴と「事実上の夫婦生活を
いとなんでいた」。

「私」がたまたま手に入れた「鵙屋春琴
伝」という小冊子と、関係者からの
聞き取りに基づいて、特異とも見える
二人の関係を記述していこう。


春琴は5、6歳のころから厳しさで
知られる春松検校のもとで琴や三味線を
習っていたが、9歳の頃に眼病により
失明してしまう。

その後は師匠の家まで十丁(約1km)
ほどの道のりを、毎日丁稚に手を
引かれて通ったが、この役を務めた
丁稚が佐助。

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佐助は春琴より4歳上で、13歳の時に
鵙屋に奉公に上がったので「春琴の瞳の
光を一度も見なかった」が、
そのことを幸福と考えた。

もし失明以前を知っていたら
失明後の顔が不完全なものに
見えたろうけれども幸い彼は
彼女の容貌に何一つ不足な
物を感じなかった最初から
円満具足した過去に見えた。


佐助の抜擢は春琴自身の指名による
ものといい、理由を聞かれた春琴は
「おとなしゅうていらんこと
云えへんよって」と答えた。

もともとは愛嬌のあった春琴だが、
失明以来、陰鬱で笑うことは少ない。

佐助は彼女の笑う顔を見るのが
厭であったという蓋(けだ)し
盲人が笑う時は間が抜けて
見える佐助の感情ではそれが
堪えられなかったのであろう。

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春琴は「もともと我が儘なお嬢様育ちの
ところへ盲人に特有な意地悪さも加わって」
佐助の扱いも厳酷となった。

暑い、寒い、厠へ行きたい等々すべて
察して佐助の側から行動してやらない
と、「もうええ」と怒ってしまう。

佐助もまたそれを苦役と感ぜず
むしろ喜んだのであった彼女の
特別な意地悪さを甘えられて
いるように取り、一種の恩寵の
如くに解したのでもあろう。


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💝【承】

やがて佐助はこつこつ貯めた金で
三味線を買い、人目を忍んで夜中に
音を立てず稽古するようになる。

このことが発覚して番頭が三味線を
没収すると、「聴いてみたい」と
春琴が言いだし、やらせてみると、
みな感心する出来。

そこで(春琴の心慰めになれば、
と周囲もお膳立てしたもようで)
十一歳の春琴が佐助に音曲を
教えることになる。

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が、今度はこの師匠のあまりの
厳しさに周囲は気をもむ。

「阿呆、何で覚えられへんねん」と
バチで頭を殴り、「弟子がしくしく
泣き出すことも珍しくなかった」。

佐助は泣きはしたけれども
〔中略〕無限の感謝を捧げた
のであった彼の泣くのはつらさ
を怺(こら)えるのみにあらず
主とも師匠とも頼む少女の
激励に対する有難涙も籠(こも)
っていた故にどんな痛い目に
遭っても逃げはしなかった。




💝【転】

春琴16歳、佐助20歳の時に両親は
結婚をほのめかしたが、春琴は
これを「甚だしい不機嫌」で峻拒。

が、その一年後、春琴の妊娠が発覚し、
これについて春琴も佐助も関係を
あくまで否定する。

佐助を問いつめると「それを申し
ましてはこいさんに叱られますからと
泣き出してしまい」、こうなると、
両親も察するほかない。

やがて「佐助に瓜二つ」の子が
生まれても「足手まといでござい
ます」と涼しい顔で、養子に
出すことを承諾。


春琴20歳の時、師匠の死を期に
独立して師匠の看板を掲げることと
なり、親の家を出て一戸を構え、
これに佐助も随行。

これまでどおり、入浴も厠の用足しも
何から何まで佐助が面倒を見たから、
春琴は厠から出ても手を洗わない。

「彼女は又非常にお洒落」で、鏡を
見ずとも「己れの容色については
並々ならぬ自信があり」、そのための
贅沢には金を惜しまない。

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鶯の糞を化粧に使う必要から  
鶯を愛育し、佐助ら使用人は
それ以下の待遇のように見える。

冷え性の春琴の足の裏を佐助が胸で
温めるのが慣例であったが、あるとき、
虫歯で頬が熱をもっていたので、足の
裏を頬にあてると「忽ち春琴がいやと
云う程その頬を蹴った」。

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💝【結】

春琴の美貌に惹かれて弟子入りしていた
利太郎という放蕩者の「ぼんち」が、
春琴を梅見に誘って口説こうとする
ものの、袖にされる。

それでも稽古に来るが、態度の悪さに
腹を立てた春琴が「阿呆」と
バチで殴打する。

眉間から流血した利太郎は
「覚えてなはれ」と立ち去る。


その一か月半後、誰かはわからぬが、
何者かが屋敷に侵入して春琴の顔に
熱湯を浴びせ、大きな火傷を負わせる。

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駆けつけて揺り起こそうとした佐助は
「あと叫んで両目を蔽」い、春琴は
「わては浅ましい姿にされたぞ
わての顔を見んとおいて」
と身もだえする。

負傷も快方に向かったころ、包帯で
顔を巻いたままの春琴は、包帯が
取れたらお前にこの顔を見られねば
ならぬ、と包帯の上から両目を
押しぬぐう。

共に嗚咽していた佐助は、やがて
「ようございます、必ずお顔を見ぬ
ように致します」といい、数日を
経た早朝、鏡を見ながら縫い針で
両眼を突き刺し、自ら失明する。

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春琴の前に額づいて「お師匠様私は
めしいになりました」と告げると、

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佐助、それはほんとうか、と
春琴は一語を発し長い間黙然と
沈思した佐助はこの世に
生まれてから後にも先にも
この沈黙の数分間ほど楽しい
時を生きたことがなかった。


春琴ははじめて佐助の身をいたわり
「盲人の師弟相擁して泣いた」。


やがて春琴は佐助に「琴台」という
号を与えて門弟の稽古をすべて
引き継がせる。

正式な結婚についても「気が折れて
きた」が、佐助の側でこれを欲し
なかったのは、あくまでも「驕慢な
春琴」という「永劫不変の観念境へ
飛躍した」からである。

自分は盲目になってから
〔中略〕この世が極楽浄土に
でもなったように思われお師匠
様と唯二人生きながら蓮の台
(うてな)の上に住んでいる
ような心地がした、〔中略〕
お師匠様のお顔なぞもその
美しさが泌々(しみじみ)と
見えてきたのは目しいに
なってからである。


春琴は明治19年、58歳で亡くなり、
その後、21年を長らえた佐助は
明治40年、83歳で死んだ。

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ほんとうらしく見せる工夫

どうでしょう。
ググッと来たでしょうか?

え? 来ない?

二人の心理にぜんぜん感情移入できない?


まあ、そこは読者によって
大きく別れるところでしょうね。

ところで、文豪谷崎がこの作品でいちばん
苦心したところとして自ら述べているのは
「ほんとうらしく見せるための工夫」
ということ。

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これを裏返しますと、物語は「ほんとう」
ではない、つまり完全なフィクション、
ということ。

「私」がたまたま手に入れた「鵙屋
春琴伝」という小冊子とか、仕えた
女中さんへの取材とか、すべて嘘。

ですから、佐助の目の痛みなど
そんなに心配しなくても大丈夫……

いや、ホッとしましたね。

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「佐助犯人説」もあり

つまり、『春琴抄』は谷崎個人の一つの
理想世界に見事に芸術的な形象を与えた
もの、というべきなんでしょう。

そしてその世界にしいて名を与えるなら
「マゾヒズム」ということになり、こう
なって来ると、やはり学校では扱いにくい
ので、いかに傑作でも教科書には出て
こないんですね、残念ながら。

ともかく上記「あらすじ」のうち、
佐助の心理を追った引用文のいくつかを
じっくりと読み直してもらえれば、
感想文やレポートのテーマは
浮かんでくるんじゃないでしょうか。


ぜんぜん共感できない、春琴のような
女は許せん、というような趣旨でも
もちろんいいわけですよ。

       


誰が春琴に熱湯を浴びせたかをめぐっては、
「佐助犯人説」という穿った見方も
作家や研究者によって提出されています。

その線で書く感想文というのもアリでしょう。
👉詳細はこちらをご覧ください。

谷崎潤一郎 春琴抄で感想文【1600字の例文を佐助犯人説で】

     



映画も覗いてみよう

映画化もたびたび試みられていますので、
覗いてみても参考になるかもしれません。

少し古いところでは、山口百恵さん、
三浦友和さんご夫婦の縁結びになった
作品の一つも有名ですが、比較的最近では
あの斎藤工さん、長澤奈央さんによる
この作品がさすがの出来。
   

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その予告編をどうぞ。


ともかくこの「男のマゾヒズムと驕慢な美女」
という谷崎文学が追求した理想世界は、
デビュー作『刺青』やその翌年の『少年』に
すでに鮮明な表現を見ています。
👉これらの作品をめぐっては、
こちらの記事をご参照ください。

谷崎潤一郎 刺青のあらすじと考察 🐉若尾文子主演映画も鑑賞

谷崎潤一郎 少年のあらすじと感想 その妖しいSM/BL的世界

         


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マゾヒズムの元祖は?

ところでこの「マゾヒズム」という言葉の
語源になった人物はご存じ?

19世紀オーストリアの作家、レオポルド・
フォン・ザッヘル=マゾッホ(1836-95)
ですよね。
👉この人に関してはこちらの
記事をご参照ください。

マゾヒズムの元祖 マゾッホの指責めで痛いほど笑って感想文?


(画像出典:Freud Quotes)   



でも谷崎が追求した理想世界は
マゾッホの世界とは微妙に異なります。

『痴人の愛』(1925)はこの方面での
名作の一つですが、この段階では
まあ、マゾッホに近いともいえる。

つまりその世界はどこまでも、半ば
「ゲーム」的なものにとどまります。

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だから”女王様”ナオミはつまるところ、
相手の舞台に上がって望まれるとおりに
演じているだけなので、いつでも
「降りて」しまうことができるんです。

そこにスリルがあり、主人公の苦悩も
発生して、文学的な読み応えも大きく
なるわけですが、最高傑作とも見られる
『春琴抄』では、この種の”ゲーム”性が
かぎりなくゼロに近いですね。

いわば、絶対に「降りられない」
完全真剣勝負のマゾヒズム……
そのような世界を谷崎は理想として
夢見たのではないでしょうか。
👉この『春琴抄』のほか一連の”M系”
谷崎作品をめぐっては、こちらで
まとめて情報提供していますので、
お好みのものをお探しください。

谷崎潤一郎でおすすめの小説は?絢爛豪華 妖艶な文章美で魅了する10冊    
  
      


👉そのほか谷崎の本を早く安く
手に入れたいという場合は、
Amazonが便利です。
こちらから探してみてください。

💝谷崎潤一郎の本:ラインナップ💝


まとめ

さて、いろいろと情報提供してきました。

これでもう書けますよね、感想文。


ん? 書けそうなテーマは浮かんで
きたけど、でもやっぱり感想文は
苦手で、具体的にどうやっていいのか
わからない( ̄ヘ ̄)?

なるほど。

そういう人はまず、そもそも「感想文」
とはどういうもので、自分はなぜそれが
苦手(嫌い)なのかというところから
考え直してみましょう。
👉そういった問題で困っている
人はまず、こちらをの記事を
読んでみてください。

きっと目からウロコですよ。

読書感想文 入賞のコツ4条⦅評価されるのは感想ではなく…何?⦆

      


👉また当ブログでは、日本と
世界の種々の文学作品について
「あらすじ」や「感想文」関連の
お助け記事を量産しています。

参考になるものもあると思いますので、
こちらのリストからお探しください。

「あらすじ」記事一覧

≪感想文の書き方≫具体例一覧


ともかく頑張ってやりぬきましょー~~(^O^)/



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