春琴抄で感想文【1600字の例文つき】谷崎潤一郎の性癖と佐助犯人説 | 笑いと文学的感性で起死回生を!@サイ象

春琴抄で感想文【1600字の例文つき】谷崎潤一郎の性癖と佐助犯人説

サクラさん
谷崎潤一郎の『春琴抄』
には圧倒されました。

ラブストーリーの
極限というか、よくも
そこまで…

ハンサム 教授
一夜にして絶世の美貌を
失った女主人の顔を
見まいとして自ら失明
する奉公人…(😻)


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サクラさん
あれ、実話をもとに
してるんですよね?

ハンサム 教授
いいえ。谷崎は「ほん
とうらしく見せる」
ための工夫に苦心した
と言っています。

サクラさん
オヨヨ(🙀) これは
完全にだまされました…

ハンサム 教授
読者をだましてしまう
ところが芸術の極み。

ところで春琴に熱湯を
かけて大やけどさせた
犯人は誰だと思います?

サクラさん
え? 春琴にバチで
叩かれたあのアホな
ぼんぼんじゃないん
ですか?

ハンサム 教授
これが実は佐助その人
だという説もあるん
です。




サクラさん
ギョエ~(叫び)
二度びっくり。

なんでそんなことが❔❔

ハンサム 教授
そこもまた芸術!

そうとも読めるように
書いてありますよ。

サクラさん
う~む。これは読書
感想文のネタになり
ますね。

もう一度読み返して
挑戦してみよっと!


というわけで、おなじみ”感想文の書き方”
第133回は文豪・谷崎潤一郎(1886-1965)の
傑作『春琴抄』(1933)で行って見まひょ。
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原作は文庫本で60ページ程度とはいえ、
その文体が掟破り(文法無視)の
凝(こ)りに凝った流麗無比の日本語!

読んでみようとはしたものの、ついて
行くのがしんどくてギブアップ…
という方もいらっしゃるかも
しれませんねえ…;^^💦
👉そういう人のためにこちらで
「あらすじ」を用意しています。
しかもそれが「簡単/詳しく」の
2ヴァージョンという親切さ。👇

谷崎潤一郎 春琴抄のあらすじ:簡単/詳しくの2段階で


それも面倒だという方は、2008年映画
(斉藤工・長澤奈央共演)の予告編を
チラ見するだけでも、少しは分かって
いただけることでしょう;^^💦 👇



1600字の例文

それではそろそろ取りかかりましょうか。

今回は字数制限1600字(原稿用紙4枚)
という想定でサクラさんが書き、
ハンサム教授が添削指導したという
設定の例文をお目にかけます。

感想文というよりは批評文と呼ぶべき
かもしれず、大学・大学院の読書レポート
としても十分に通用する内容!

まずはじっくりとご熟読を。

 谷崎潤一郎の小説『春琴抄』を
読む気になったのは、同名の映画を
見て結末で佐助がしたことに仰天し、
原作でも同じことをしているか
確かめたくなったからだ。

読み始めると、まずその特異な
文体に圧倒されてしまった。

学校で教わる句読点などの文法を
無視し、これが本来の日本語だと
言わんばかりの流麗な文章で、
私にはとても新鮮だった。

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 初めは戸惑ったものの、じきに
慣れて非常に快く読み進め、結末
近くでは、佐助はやはり映画と
同じことをしたので、私は映画の
時と同じつらい思いをもう一度
しなければならなかった。

すなわち三味線の師匠である
盲目の美女、春琴(九歳で失明)
が夜中、何者かに熱湯を注ぎ
かけられ、顔に大やけどを
負ってしまう。

   やかんcopper-kettle-276939_640
    
二目と見られぬ顔になった春琴の
心を察した奉公人の佐助は
「必ずお顔を見ぬように致します
ご安心なさりませ」と告げてから、
自分の目に縫い針を突き刺して
両目をつぶしてしまうのである。


 十日ほどして完全に視力を失い、
春琴にこの経緯を告げた佐助は、
「痛くはなかったか」と訊かれて
「いいえ痛いことはござりませ
なんだ」と平然と答える。

これにはぎくりとさせられた。

しかもこの会話の前にあった
春琴の長い沈黙について、佐助は
「この世に生まれてから後にも
先にもこの沈黙の数分間程楽しい
時を生きたことがなかった」と
まで言うのである。


 そして春琴がおそらく生まれて
初めて、「嬉しゅう思うぞえ」と
素直に喜びを伝えると、佐助は
「その御言葉を伺いました嬉しさは
両眼を失うたぐらいには換えられ
ませぬ」と答える。

これも驚きだが、春琴が何を
それほど喜んでいるのかといえば
「今の姿を外(ほか)の人には見られ
てもお前にだけは見られとうない
それをようこそ察してくれました」
という点なのである。

このことからわかるのは、春琴は
自分では見ることのできない自身の
美貌をつねに意識し、かつそれを
人に──とりわけ佐助に──
見られることを支えに生きてきた
人であること、そしてそのことを
すべて佐助が「察して」いたと
いうことである。

 この佐助については、「春琴に
熱湯をかけたのも実は彼だ」と
いう”佐助犯人説”もあるとの
ことだが、右のような経緯、また
とりわけ徹底した「察し」の人
として造型された性格からして、
ありえなくないように私は思う。

つまりこの説で行けば、佐助は
「春琴と同じ盲目になる」という
年来の理想を実現するために、
自ら目をつぶすことの苦痛も想定
した上で、この計画的犯罪を
実行に移したということになる。

その可能性は十分あると思うのだ。

    針needle-8621_640

 ただ、そうだとすると、佐助に
とって重要なのは「自分が春琴の
美をめでる」という状態そのもの
の有無であって、春琴の美貌自体や、
やけどによって受ける苦痛の問題
などは二の次だったということに
なる。

となると、彼の春琴への感情を
「愛」と呼ぶことにも疑念が
生じてくる。

というのも、人を愛すれば、
その人のことを思いやり、喜び
多く苦しみ少なくしてあげたい
と思うのが自然の情だと思うが、
佐助の行動はこれに一致しない
からである。


 「『醜くなった自分を見られたく
ない』という春琴の期待に応える」
という自分の喜びのために、相手に
ひどい苦痛を与えるのだとしたら、
その行為は愛というより、一種の
エゴイズムではないだろうか。

その意味では、この佐助解釈こそ
実はむしろ作者谷崎自身をよく
映し出すものなのかもしれない。


  右端が松子夫人  

 
つまり相手を”女王様”の地位に
祭り上げる谷崎のマゾヒズム的な
傾向は有名で、三人目の妻、松子
夫人への求愛の手紙には、自らを
佐助と同じ奉公人の地位に貶めた
言葉が連綿と記されている。

ところが、そうして実現した結婚
生活では、妊娠中絶を強いるなどの
経緯もあり、妻を思いやる良い夫
だったかどうか疑わしいのだ。

このように見ると、佐助という
人物は谷崎の理想を託される
一方で、現実を暴露する結果に
もなっている。

今回、谷崎について調べて
非常に面白く思ったのは
その点である。       
(1600字ちょうど)
     
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どうです?

さすがによく書けてるでしょう。

これをそのままコピペすることは
もちろん厳禁ですが、適宜、自分らしい
ものに文章を変えて使ってもらうのは
かまいませんよ~;^^💦

400字とか、もっと短い字数で書く
場合は、あらすじを書いているところ
とか、必要なさそうな部分を
切り捨ててスリム化してください。


逆にもっと字数がほしい場合は、
自分の経験や考えをどんどん入れて
膨らましていけばいいわけです。

いやもちろん上記の感想文は一例に
すぎず、あくまで参考ですから、
まったく違う内容で書いて行って
もらえれば、それに越したことは
ありませんけどね;^^💦


マゾヒズムとは?

ん? 感想文自体より谷崎自身の
松子さんへの手紙の文章とか、
マゾヒズム的な性癖とかが気に
なった?

というか、自分もそれに関連した
ことが書きたいけれども、
そのためには知識不足?


なるほど。

それではここで、そういう人のために
もう少し突っ込んでマゾヒズムの
講釈をさせていただきましょうか。

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ん? なんでお前はそんなことに
詳しいのか?

それはまあ私自身、そういう傾向が…
(オッと、それ以上言わせていじめる
のはナシですよ:^^💦)


まず松子さんへの手紙の一部を
お目にかけましょう。

一生あなた様に御仕へ申す
ことが出来ましたらたとひその
ために身を亡ぼしてもそれか
(が)私には無上の幸福で
ございます
〔中略〕
私には崇拝する高貴の女性か
(が)なければ思ふやうに創作
か(が)出来ないのでございますが
それがやうやう今日になつて
始めてさう云ふ御方様にめぐり
合ふことか(が)出来たので
ございます

   031698
さらには…

御寮人(ごりょん)様にお願いが
あるのでござりますが、今日より
召し使ひにして頂きますしるしに
御寮人様より改めて奉公人らしい
名前をつけて頂きたいので
ござります、

「潤一」と申す文字は奉公人
らしうござりませぬ故「順市」
か「順吉」ではいかがで
ござりませうか。

柔順に御勤めをいたしますことを
忘れませぬやうに「順」の字を…
     (1934/09/02 書簡)

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召使いは主人で、女王様は人形

こうして「召し使ひ/奉公人」にして
いただく形で結婚した松子夫人。

ところが、その夫人が「産みたい」と
嘆願したお腹の子を、妊娠5ヶ月という
危ない時期に中絶させたのもまた
「順市」ならぬ潤一郎だったのですね。

とすると谷崎先生、その実態は「召し使ひ」
でも「奉公人」でもなくて、完全に権力を
掌握した主人──あるいはむしろ暴君──
だったというべきでは?

 

上記感想文の結論部でも「佐助という
人物は谷崎の理想を託される一方で、
現実を暴露する結果にも…」という
矛盾が指摘されていましたね。

実はこのような矛盾こそ、マゾヒズムに
ついてまわる厄介な要素なのです。


谷崎自身それには自覚的だったはずで、
『春琴抄』の5年ほど前のエッセイ
「日本に於けるクリップン事件」
(1927)で自ら解析して見せている
くらいです。

マゾヒストが喜ぶ「虐待」が心の領域で
「軽蔑」のような形で加えられる場合、
それを「喜ぶ」のだといっても…

実のところはさう云ふ関係を
仮に拵へ、恰(あたか)もそれを
事実である如く空想して喜ぶ

のであって、云ひ換へれば
一種の芝居、狂言に過ぎない。


第一「心から彼を軽蔑する」女なら彼を
相手にするはずもないし、そんなことは
マゾヒスト自身にもわかっている…と。

    

つまりマゾヒストは「実際に女の奴隷に
なるのでなく、さう見えるのを喜ぶ」
にすぎないというのです。

故に彼等は利己主義者であって、
狂言に深入りをし過ぎ、誤って
死ぬことはあらうけれども、
自ら進んで、殉教者の如く
女の前に身命を投げ出す
ことは絶対にない。
〔中略〕
彼等は彼等の妻や情婦を、
女神の如く崇拝し、暴君の如く
仰ぎ見てゐるやうであつて、
その真相は彼等の特殊なる
性欲に愉悦を与える一つの
人形、一つの器具として
ゐるのである。


いわゆる”女王様”も「真相」は「人形」で
それは「器具」にすぎない以上、子を
産むかどうかの決定権など認められる
はずもない……

もしこの論理が佐助にも共有されて
いたとすると、春琴も「女神/暴君」
として仰ぎ見て喜びながら、現実の
レベルでは彼に愉悦を与えるための
人形/器具」にすぎなかった…
ということになるのですね。
 
      


それなら、自分の喜びをより大きくして
いくために、それをあえて傷つけたり、
わざと美を壊したりして苦しめるような
行為に走っても不思議ではありません。

そう考えれば、”佐助犯人説”も決して
奇をてらった珍説の類ではなく、十分に
ありうることと見えて来ませんか?

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マゾヒズムの元祖は?

さて、それでは谷崎も使っていたこの
「マゾヒズム/マゾヒスト」という
言葉がどこから来たのかについても
概観しておきましょう。

その語源となった人は、誰あろう、
19世紀オーストリアの作家レオポルド・
フォン・ザッヘル=マゾッホ(1836-95)
にほかなりません。

代表作『毛皮を着たヴィーナス』は
その趣味のない人にも是非おすすめ
したい、”小説の小説”的小説の傑作です。
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“小説の小説”とは?

つまりマゾヒズムの世界は谷崎御大も
ご指摘の通り、恰もそれを事実である
如く空想して喜ぶ
“物語”的な空間。

ですので、小説全体の”物語”の内部に
より小さな”物語”が作っていかれる
のですが、そういう”箱の中の箱”のような
“物語”は、相方が途中で舞台を下りて
しまえば、それでオシマイ…
という危うさをはらんでいます。

この危うさを小説的な面白みに
しているところが傑作なんですね。
👉詳しくはこちらの記事を
ご参照ください。

マゾヒストの心理を元祖マゾッホに問う 苦通がなぜ喜びに?

    
    (画像出典:Freud Quotes

👉マゾヒズムの世界に特有の
“小説の小説”的な特質は谷崎自身の
作品にも読み取ることができます。

たとえばこちら。

谷崎潤一郎 刺青のあらすじと考察:若尾文子主演映画も鑑賞

谷崎潤一郎 痴人の愛のあらすじ⦅ナオミと譲治のM的結末⦆

鍵(谷崎潤一郎)のあらすじ 原作小説が映画の何倍も凄いワケ
    

👉そのほか谷崎の本を早く安く
手に入れたいという場合は、
こちらが便利です。


谷崎潤一郎の本:ラインナップ
IMG_0024

またマゾヒズム的な趣向の顕著な
日本の作家としては、江戸川乱歩を
挙げることもできます。
👉『陰獣』がその代表的なもの
ですが、ほかにも色々と
その嗜好は見られるようで…。

江戸川乱歩 陰獣のあらすじ:ネタバレ御免で結末まで

江戸川乱歩 人間椅子のあらすじ(ネタバレあり)とその解釈

江戸川乱歩 孤島の鬼はBLの世界)))ネタバレありで結末まで

 


まとめ

さあ、読書感想文・読書レポートを
書こうという場合も、これだけ情報が
あればもう十分でしょう。     


ん? 書けそうなテーマは浮かんで
きたけど、でもやっぱり自信が…

だってもともと感想文の類が苦手で、
いくら頑張って書いても評価された
ためしがないし(😿)…
具体的に何をどう書けばいいのか
全然わからない( ̄ヘ ̄)…?

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う~む。そういう人は発想を転換して
みるといいかもしれない;^^💦

そもそも日本全国で盛んに奨励されている
読書感想文の発祥の源は「コンクール」。

 

各学校の先生方の評価基準もおのずと
「コンクール」での審査に準拠する
形になっているのです。


だから、読書感想文の上手な人は
そのへんのことが(なんとなくでも)
わかっている人。

さて、あなたはどうなのかな?
👉「コンクール」での審査の基準を知るには
実際に出品され大臣賞などを受賞している
感想文をじっくり読んで分析してみるのが
いちばんの早道。

こちらでやっていますので、
ぜひご覧ください。

読書感想文の書き方【入賞の秘訣4+1】文科大臣賞作などの分析から

セロ弾きのゴーシュで読書感想文!コンクール優秀賞作(小2)に学ぶ

    

アルジャーノンに花束を の感想文例!市長賞受賞作【2000字】に学ぶ

 

そちらで解説している「書き方」を
踏まえて、当ブログでは多くの感想文例を
試作し提供してきましたが、このほど
それらの成果を書籍(新書)の形にまとめる
ことができましたので、ぜひこちらも
手に取ってご覧ください。
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という人は、こちらでどうぞで。

読書感想文 書き方の本はこれだ!サイ象流≪虎の巻≫ついに刊行!!!

    


👉上記の本『読書感想文 虎の巻』は
当ブログで提供し続けてきた「あらすじ」
や「感想文」関連のお助け記事の
ほんの一部でして、載せきれていない
記事もまだまだ沢山あります。

気になる作品がありましたら、
こちらのリストから探して
みてください。

「あらすじ」記事一覧

≪感想文の書き方≫具体例一覧


ともかく頑張ってやりぬきましょー~~(^O^)/
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