夏目漱石 草枕//冒頭の名言を意味付きで解説「智に働けば…」 | 笑いと文学的感性で起死回生を!@サイ象

夏目漱石 草枕//冒頭の名言を意味付きで解説「智に働けば…」

吾輩は猫である。

名前はまだない云々はもはや申し上げる
までもあるまい。

    猫男kadnip_medium

さて吾輩は、近ごろは無性に人生(正しくは
は猫生)の意味というようなことを考え込む
ことが多くなり、「自分探しの旅」に
出かけてみよう決心した。

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そこで吾輩も眼鏡にネクタイなどして
人間に化けた次第。
(なにしろ猫では列車にも乗せて
もらえんので)

で、どこがよいかと考えと考えて、ただちに
吾輩の脳裏に去来したのは、吾輩の生みの親
である夏目漱石先生の名作『草枕』(1906/👇)の
かの有名な冒頭の数行である。
   

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ちなみに最新の英訳がこちら。
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そのような次第で、本日の記事の内容は
ザッと以下のとおりなんである。


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『草枕』冒頭の数行を読む

さて、『草枕』はこう始まる。

山路(やまみち)を登りながら、
こう考えた。

智(ち)に働けば
角(かど)が立つ。

情(じょう)に棹(さお)させば
流される。

意地を通(とお)せば
窮屈(きゅうくつ)だ。

とかくに人の世は住みにくい。


住みにくさが高(こう)じると、
安い所へ引き越したくなる。

どこへ越しても住みにくいと
悟(さと)った時、詩が生れて、
画(え)が出来る。

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    漱石が実際に立ち寄った「峠の茶屋」
 熊本市「峠の茶屋公園」内に復元されたもの
 


人の世を作ったものは
神でもなければ鬼でもない。

やはり向う三軒両隣(りょうどな)
りにちらちらするただの人である。

ただの人が作った人の世が住みにく
いからとて、越す国はあるまい。

あれば人でなし人でなし
国へ行くばかりだ。

人でなしの国は人の世よりも
なお住みにくかろう。

越す事のならぬ世が住み
にくければ、住みにくい所を
どれほどか、寛容(くつろげ)て、
束(つか)の間(ま)の命を、
束の間でも住みよくせねばならぬ。


ここに詩人という天職が出来て、
ここに画家という使命が
降(くだ)る。

あらゆる芸術の士は人の世を
長閑(のどか)にし、人の心を
豊かにするが故(ゆえ)に
尊(たっ)とい。
 (下線部は原文では傍点の
振られた部分)

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ふーむ( ̄ヘ ̄)。なるほど。

そうすると、サイ象君の顧問を引き受けた
この吾輩にしても、住みにくい世を
どれほどか「束の間でも住みよく」したい
との思いから、今日もこうして肉球で
キーボードを打ってるんだから、
「芸術の士」と言われんこともない訳だ。

   猫ピアノCat-s

なに? 日本語が難しくて分からん?

それでは吾輩が、せめて紫字の部分
だけでも、わかりやすい現代語で
解説して進ぜよう。

理知・理屈で割り切った行動ばかり
していると世間と摩擦が生じるし、
個人的な感情を優先させれば、それに
引きずられて事態を悪化させる。
👉「棹」は船を進める櫂のことで、
「棹差す」とはこれを川底に突き
立てて、力を入れて進めること。

流れのあるところへ「棹差」せば、
推進力は倍増して流される、という
ことであって、「流れに逆らう」
という意味ではない。

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また意志を強く持ってそれに固執
すれば、窮屈な生き方を強いられる。

そのようなわけで(「知・情・意」の
いずれに力点を置いても)、人間社会に
生きてゆくことは容易ではない。

お分かりいただけたかな?

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那美さんの「きじるし」な魅力

さて、そのようにして始まる『草枕』だが、
上に見た冒頭の文章ような、いささか
難しい人生論や芸術論が多く書き込まれ、
そのぶんストーリー的な展開には乏しい
ので、ラノベなんかを読み慣れた今の
若者にはなかなか読みづらいかもしれん。
👉とにかく全体のあらすじを早く知りたい
という向きは、まずはこちらをご覧あれ。

夏目漱石 草枕のあらすじ☆感想文に向けて内容を解説

        


ただ「読書感想文」などを書こうという
場合は、筋を押さえるばかりでなく、
何らかの面白味を見つけていかねばならん
だろうが、その場合、イチ押しの方法は
ヒロインの那美さんに目を付け、彼女の
言動を追ってゆくことだろうと思う。


なにしろこの人は、「狂印(きじるし)」
とまで称される(五章)奇矯な
キャラクターながら、「ミレーのかいた、
オフェリヤの面影」

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   “Ophelia”(部分)ロンドン、テート美術館蔵
   (この写真は、吾輩が渡英して撮ってきたんである)



にも重ねられる(二章)、
たぐいまれな美女である。 
👉「オフェリヤ」は「オフィーリア」と
言っても同じ、Ophelia。

シェイクスピアの傑作悲劇『ハムレット』
の水死してしまうヒロインである。

詳しくはこちらを参照されたい。

ハムレットのあらすじを簡単に【&詳しく】オフィーリアの狂気はなぜ?

ハムレットの名言 英語原文では何と? 生きるべきか死ぬべきかetc.

    


この那美さんにももちろんモデルがあって、
それは前田卓子(つなこ)といって、
熊本の有力者、前田案山子(かがし)の娘。

漱石が熊本の第五高等学校(現在の熊本
大学)の教授であったころ、近郊の温泉郷
「小天(おあま)」の前田家を訪ねて
二人は知り合い、その後もいささかの
因縁があったようである。

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熊本大学構内に保存されている「第五高等学校記念館」

👉その前田別邸は、現在は温泉旅館に
改造されており、👇

「小天温泉 那古井館」

その横には実際に漱石が使った部屋や浴場も
残されておる。


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『草枕』の「余」が湯に浸かっている
ところへ那美さんがいきなり裸で入ってくる
(七章)とか、部屋で英語の小説を読んで
やっていると「女の呼吸(いき)が余の髭に
さわ」るほど接近してしまう(九章)…

     

等々の際どいシーンは、『草枕』の強烈な
魅力をなしているわけだが、これらを
実地検分して臨場感を味わいたい向きは、
実際、そこへ足を運べばできて
しまうんである。


そこで吾輩もこの旅館に一泊し、二人に
ニアミスのあった浴場も見学したん
であるが、使用をやめて久しいようで、
浴槽に湯は張ってなかった。



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絵になって、小説も終わる

さて『草枕』のストーリーだが、
「きじるし」那美さんの行動に沿う形で
【あらすじ】をザッと見ておこう。

上記の「呼吸が余の髭にさわ」るほど接近
する場面のあとで、那美さんは「私が身を
投げて浮いている所を……奇麗な画にかいて
下さい」などと言い出して、それこそ
(伏線通りというべきか)「ミレーの
かいた、オフェリヤの面影」に
重なってゆく。

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  “草枕の里”熊本 小天温泉山腹からの風景


で、主人公は画工(えかき)であるから
近辺の「鏡が池」(これも現存するが、
現在、私有地のため立ち入り不可)に
美女の浮いている絵をかこうと考え、
やがて那美さんの顔を思う。

が、それがどうも、どこか物足りない。

足りないものは何かと考えるうち、
それは「憐れ」の情緒だと気づく。

   


この情が彼女に「ひらめいた瞬時に、
わが画(え)は成就するであらう」

そう画工は考え(十章)、いくらかの
人間ドラマを経た後、結局、その通りに
なって(十三章)、小説は終わる。

この展開には賛否両論、いろんな見方が
あろうから、それを書いていけば
「感想文」は難しくあるまい。
👉『草枕』からさらに羽を伸ばして
漱石の文学を渉猟してみたい…
という方は、まずこれらの記事で、
漱石の名言や作品から、自分に
ピッタリのものを探してみてください。

恋は罪悪で神聖?宇宙的の活力?男女は一つになるか…【漱石の恋愛名言12】

夏目漱石は何から読む?小・中学生~シニア 人生経験により順番も違う

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終わりに

まあ、ややこしいことは抜きにしても、
漱石先生が実際に歩いたこの小天温泉周辺、
『草枕』にも出る「峠の茶屋」あたりなど、
美しい自然の緑のなか、ゆるりと
散策するのは心の健康によいこと、
この上なさそうである。



一度お出かけになっては、いかがかな( ̄∀ ̄)

それでは吾輩はこれで失礼する。

またどこかでお目にかかりたいものである。

mew-s

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👉また当ブログでは、漱石以外にも
日本と世界の種々の文学作品について、
「あらすじ」や「感想文」関連の
お助け記事を量産しておる。

こちらで探索してみられよ。

「あらすじ」記事一覧

≪感想文の書き方≫具体例一覧

ともかく頑張ってやり抜かれたし(😺)/



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2 Responses to “夏目漱石 草枕//冒頭の名言を意味付きで解説「智に働けば…」”

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