夏目漱石は何から読む?小・中学生~シニア 人生経験により順番も違う

夏目漱石は何から読む?小・中学生~シニア 人生経験により順番も違う

サクラさん
夏目漱石って、ただの
お笑い作家のようでも
あり、気難しくエラい
先生のようでもあり、
なんだかよくわから
ない人ですね。

ハンサム 教授
ええ。色んな顔をもって
いた人で、作品もこれ
みんな同じ人が書いた
のかと驚くほどテンデン
バラバラですね;^^💦


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サクラさん
私は花が好きなので
『虞美人草』を読もうと
してみたんですが、
言葉が難しくてなかなか
前へ進みません(😿)

ハンサム 教授
う~ん…『虞美人草』は
文章が凝りに凝っている
ので若い人には敷居が
高いでしょう;^^💦

逆に後期の『行人』とか
未完の大作『明暗』とか
は文章はやさしくても
内容的に…

サクラさん
難しい❓

ハンサム 教授
というか、人生にも
読書にもある程度、
年季を積んで熟練して
いないとね;^^💦

サクラさん
それじゃ私なんかは
どの本から手に取れば
いいんすか?(🐱)

ハンサム 教授
いま名を挙げた3作
などは上級(➌)に取って
おきましょう。

高校の授業でも扱う
『こころ』なんかは中級
(➋)としてもいいかな。




まったく初めてという
初級(➊)の人はやはり
『坊ちゃん』や『吾輩は
猫である』から入って
いくのがいいでしょう。

これからこの3段階で
「おすすめの本」を紹介
していきますので、
自分に合う本を探して
ください。


というわけで本日の探求課題は、日本
近代文学第一の文豪、夏目漱石先生の
本を何から読むか

読んでおきたい本はたくさんありますが、
それらをどういう順番で読むのがよいのか。

それは読者さん各自の年齢や現在までに
積んでこられた人生経験によって大きく
違ってきますので、一概には言えません。

そこで、ここでは主な作品を初級・中級
・上級の3段階に分けて、簡単な
⦅あらすじ⦆と、それから感想文や
レポートに向けてのポイントを解説した
⦅読みどころ⦆を述べていきますので、
自分に合いそうなところから入っていって
もらえればと思います。

内容はザっと以下のとおり。

📚 もくじ

➊初級(小・中学生から)
  1. 『坊ちゃん』

  2. 『吾輩は猫である』

  3. 『夢十夜』

  4. 『三四郎』

➋中級(高校生以上)
  1. 『こころ』

  2. 『それから』

  3. 『文鳥』(ほか短編)

  4. 『草枕』

➌上級(大学生からシニアまで)
  1. 『虞美人草』

  2. 『門』

  3. 『行人』

  4. 『明暗』

まとめ


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➊初級(小・中学生から)

まずは入門編。というか、誰でも
入っていきやすいところから。

読みにくい言葉がないわけではあり
ませんし、内容的にも難しく考えれば
難しい問題を含んではいますが、
全体的には「まだ若いからわからない」
ということはなさそうで、いつかは
読んでおきたい必読書がこの4点。
  1. 『坊ちゃん』(明治39/1906)
  2. 『吾輩は猫である』(明治38-9/1905-6)
  3. 『夢十夜』(明治41/1908)
  4. 『三四郎』(明治41/1908)

1.『坊ちゃん』

⦅あらすじ⦆
東京で婆やの清(きよ)から「坊ちゃん」
と呼ばれて育った主人公が、四国の
中学校(旧制)に数学教師として赴任。

赴任早々の宿直の夜、蚊帳の中に
イナゴを入れるいたずらをされた
問題を発端に、教頭の「赤シャツ」
一派とその不正を批判する「山嵐」
という教師間の力関係が見えてくる。

   
   道後温泉、坊ちゃん広場の「坊ちゃん人形」
   (左からのだいこ、赤シャツ、山嵐、マドンナ、”坊ちゃん”、うらなり、狸)


赤シャツが「うらなり君」を左遷した
のは婚約者「マドンナ」を奪おうと
してのこと…
など赤シャツの悪事を知った
主人公は、山嵐と組んで彼らに
鉄拳制裁を加える。

学校には辞表を出し、東京で
路面電車の技手に再就職する。

⦅読みどころ⦆
笑いながら楽しく読めば、それで
OKなのですが、いろんな問題も
埋め込まれているので、それらを
発見・考察していけばますます
面白くなってきます。

たとえば
  1. 赤シャツの横恋慕は”恋愛の自由”
    の範囲内の問題であって、第三者が
    干渉すべきではないのではないか。

  2. 赤シャツが悪いとしても、暴力で
    懲らしめるのはいかがなものか。

  3. 一連の騒動には東京人が四国人を
    「田舎者」と見下す心理が関係して
    いるのではないか。
👉より詳しい情報はこちらで。

坊ちゃんのあらすじを簡単に 夏目漱石の名作 ポイントはどこに?



2.『吾輩は猫である』

⦅あらすじ⦆
中学教師、苦沙弥(くしゃみ)先生
の家に拾われた猫の「吾輩」が
知識人の集まる苦沙弥家のサロンや
その周辺で活動し、猫の目からみた
人間の世界のおかしさを語っていく。

  


富豪金田家の鼻子夫人と苦沙弥との
闘いを軸として物語はゆるやかに進み、
最後に吾輩はビールに酔って甕(かめ)
に転落して水死する(叫び)。

⦅読みどころ⦆
第一章は中学校の国語教科書に載っている
ぐらいですから、注釈を見ながら笑って
読めるのですが、二章以降はサロンでの
知的な会話を中心に進み、内容も高度に
なってきます。

無理に全部読もうとせず、ところどころ
つまみ食い的に読んでもいいのですが、
目のつけどころとしては、たとえば…
  1. 車屋の黒、芸事の師匠の家の
    三毛など、飼い猫が主人の
    人格を反映する面白さ。

  2. 漱石ファンだった魯迅が
    「吾輩」の視点をヒントに
    『狂人日記』を構想したこと。

  3. 「吾輩」の死につながる
    「自殺倶楽部」の話題(十一章)。
👉より詳しい情報はこちらで。

吾輩は猫である(夏目漱石)のあらすじを簡単に【&詳しく最後まで】

3.『夢十夜』

「こんな夢を見た」に始まる
10篇の夢語り。
  • ⦅第一夜⦆「百年待って」という
    女の遺言を男が守り、ついに
    白い百合に出会う。



  • ⦅第二夜⦆「悟れ」という老師の
    挑発を受けながら公案が解けず
    苦しむ男。

  • ⦅第三夜⦆盲目の息子を背負って
    歩く男が、ついにその子を殺害
    した記憶をよみがえらす。

  • ⦅第四夜⦆子供に取り巻かれる
    飴売りの爺さんが、まっすぐ進んで
    河に入ったきり、出てこない。

  • ⦅第五夜⦆捕えられて夜明けには
    処刑される武士が、愛する女を
    待ち続ける。

  • ⦅第六夜⦆運慶の彫り出す仁王は
    もともと木に埋まっているのだ
    と聞いた明治の男が、自分も
    やってみる。

  •     

  • ⦅第七夜⦆船上の男が絶望して
    海へ飛び込むが、空中で
    後悔し続ける(叫び)。

  • ⦅第八夜⦆床屋に入った男が
    鏡に映る女に注目するが、
    外へ出るといない。

  • ⦅第九夜⦆戦地の夫の無事を祈る
    妻が、泣く子を拝殿の欄干に
    括りつけてお百度参りする。

  • ⦅第十夜⦆美女に連れていかれた
    絶壁で、飛び込まないと豚に
    舐められると言われた男が、
    出て来る豚を叩き続ける。
      


⦅読みどころ⦆
それぞれの夢物語について学者からは
色々と深刻な解釈が提出されていますが、
そういうものは気にせず、上に並べた
あらすじの気に入ったものから読んで
みましょう。

目のつけどころとしては、たとえば…
  1. 相手が「こうだ」と言えば、
    すぐにその通りになってしまう
    夢の世界の気持ち悪さ(第一夜、
    第三夜、第四夜、第八夜など)。

  2. はた目にはたやすく傑作を
    仕上げるが、まねのできない
    名人芸の不思議さ(第六夜)。

  3. 鏡の気持ち悪さ(第八夜)。

  4. 焦燥、罪悪感、孤独、死の
    恐怖などのリアルな表現(第二、
    三、五、七、九、十夜)。
👉より詳しい情報はこちらで。

夢十夜 全篇のあらすじと第三夜の感想文【1000字の例文つき】

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4.『三四郎』


⦅あらすじ⦆
熊本の高等学校を出て東京帝国大学に
入学した三四郎が、広田先生や与次郎、
同郷の先輩の野々宮らと交遊。

その過程で、野々宮の友人里見の
妹である美禰子の謎めいた魅力に
引き寄せられていく。

  

自分にも野々宮にも気があるように
見える美禰子の真意ははっきりと
しないまま、彼女はやがて、
突然登場する紳士と婚約する。

⦅読みどころ⦆
前期三部作の第一作ですが、続く
『それから』『門』より語り口は
ユーモラスで、大学や文学に関わる
ウンチクも深まる、明るい作品。

その一方で男女の愛と三角関係、
自然/不自然・偽善など、漱石文学
固有の問題にも入り込んでいます。

目のつけどころとしては、たとえば…
  1. 複数の男に気があるように
    見せかける美禰子の心理や性格、
    立場はどのようなものか。

  2. 「可哀想だた惚れたて事よ」
    とか「同年配なら男より女が万事
    上手(うわて)だ」とかの与次郎の
    言葉が暗示するもの。

  3. 三四郎と名古屋駅前で同宿し
    「度胸のない方」と笑った女は
    何者? その出て来る意味は?
👉より詳しい情報はこちらで。

夏目漱石 三四郎のあらすじを簡単に【&章ごとに詳しく】2段階で解説


➋中級(高校生以上)

「初級」4作から見ると、言葉も内容も
多少は難解な部分があるとはいえ、
読み通すこと自体はそう難しくない本。

なんといっても『こころ』は売上No.1を
続けてきた大人気作ですし、『草枕』は
漱石『朝日』入社の決め手になった傑作。

『それから』『文鳥』もそれぞれに
漱石ならではの名作で、これらを
読まずして漱石愛読者とはいえません。
  1. 『こころ』(大正3/1914)
  2. 『それから』(明治42/1909)
  3. 『文鳥』(明治41/1908)
  4. 『草枕』(明治39/1906)

1.『こころ』

⦅あらすじ⦆
明治末期、大学生の「私」は、鎌倉の
海水浴で知り合った「先生」の、
東京の家に出入りし始める。

毎月、友達の墓に参るなど謎が多い
先生の過去に「悲劇」があると
嗅ぎつけた私が問い詰めると、
先生は時が来れば話すと約束する。

大学を卒業し、帰省した私は
父の病状悪化のため、帰京の日を
先延ばしにしていたが、父がいよいよ
危機に瀕したところへ、先生から
分厚い手紙が届く。

   

「私」一人に宛てた遺書として
綴られたその長い手紙は、自分の
生い立ちから始めて、大学生時代の
恋愛・結婚を経て現在に至るまでを
語るもの。

それによると、現在の妻は学生時代の
下宿の「お嬢さん」で、自分が下宿に
入れた亡友、Kにも思いを寄せられる
ことになった。

Kからこの思いを打ち明けられた
先生は、その直後にKを出し抜いて
求婚し、受け入れられて結婚が決まる。

Kの自殺はその直後のこと。

明治の終焉、乃木大将の殉死に感じ
入り、自分も死ぬことに決めた。

⦅読みどころ⦆
高校現代文の教科書掲載ということも
あり、今日まで最も広く読まれてきた
漱石作品。

漱石が追求しつづけた男女の三角関係
問題が「自殺」という形で炸裂して
しまうわけですが、その詳細な経緯を
遺書として書いた先生が、これを妻に
見せるなと「私」に命じていることも
意味深で、様々な憶測を呼びます。

目のつけどころとしては、たとえば…
  1. お嬢さん(先生の妻)はKに
    気があったのか、それとも
    全然なかったのか。

  2. 前半での先生の妻と「私」との
    やりとりから、先生の死後この
    二人が結ばれるという説があるが、
    これをどう考えるか。

  3. 「私」の心は先生への「恋愛」
    で動いていると先生自身が指摘
    するが、これは同性愛なのか。
👉より詳しい情報や多様な読み方・
解釈はこちらで。

こころの先生とKとはBL?腐女子による漱石新解釈で名言も見直すと…

こころ(漱石)のお嬢さんはなぜよく笑う?先生はそれが嫌いだった?

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2.『それから』

⦅あらすじ⦆
裕福な実業家の次男、長井代助は、
大学卒業後も働かず、父の金で優雅に
生活していたが、三年ぶりに帰京した
親友平岡の妻、三千代への恋心を
再燃させる。

代助は学生時代、三千代を平岡に
「義侠心」で譲ったのだった。

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いま平岡夫妻は借金苦で不仲でも
あると知り、また三千代の側でも
代助への思いを示すにつれ、
彼女を取り返そうという情念は
強まっていく。

ついに三千代に思いを告げて
平岡とも話をつけた代助は、
長井家からは縁を切られ、
職業を探しに飛び出していく。

⦅読みどころ⦆
恋人を友人に譲るという以前の不自然な
行為を悔いて「自然の昔に帰るんだ」
と決意する男。

男の勝手さに翻弄されながらそれを喜ぶ
しかない人妻は、姦通罪の適用され
かねない命がけの恋に飛び込む…。

目のつけどころとしては、たとえば
  1. 「自然の昔に帰る」「自然の制裁を
    受ける」のような言い方が頻出
    するが、その「自然」とは?

  2. 再会後の三千代の代助への
    働きかけはどのような動機に
    もとづいていたのか。

  3. 終盤で代助は平岡を「君は三千代
    さんを愛さなかった」となじるが、
    上記のような経緯で結婚した夫婦が
    愛し合えるのか。
👉より詳しい情報はこちらで。

漱石 それからのあらすじと解説 《自然》に復讐された男?

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3.『文鳥』(ほか短編)

⦅『文鳥』のあらすじ⦆
「三重吉」の勧めで文鳥(白い品種)を
飼い始めた「自分」。

二、三日後の朝、籠を箱から出して
やると、文鳥は「いきなり眼(め)を
しばたたいて、心持首をすくめて、
自分の顔を見た」。

  

その時「昔し美しい女を知っていた」
と記述は過去に飛び、この女の首筋
あたりに「いたずら」をした「自分」
の少年時代がよみがえる。

ある日、文鳥の籠を縁側に出して
いたら猫の襲撃を受けたらしく、
その後、弱った文鳥はついに死ぬ。

「自分」は下女に死骸を放り投げて
「餌をやらないから、とうとう死んで
しまった」と怒鳴りつける。

子供たちが文鳥の墓を作る。

⦅読みどころ⦆
『文鳥』の第一の読ませどころは、
文鳥と眼を合わせた主人公の意識が、
瞬間的に過去に飛ぶ、その移行の
鮮やかさでしょう。

この手法は、作品内にも名前の出て来る
弟子、鈴木三重吉の傑作『千鳥』の
向こうを張ったものと思われ、その
『千鳥』はそもそも漱石『倫敦塔』の
圧倒的な影響下に書かれたものでした。

『倫敦塔』『文鳥』のほかにも『漾虚集』
や『永日小品』に収録された短篇小説の
いくつかが、この種の冴えを見せています。

目のつけどころとしては、たとえば
  1. 『文鳥』の「自分」が文鳥の
    死について下女を責めるのは
    責任転嫁だと自分でも
    意識しているのか?

  2. 『文鳥』が「白」なら『倫敦塔』は
    血の「赤」――ほかの短編でも冴える
    漱石の色使いの鮮やかさ。
👉より詳しい情報はこちらで。

文鳥(夏目漱石)で読書感想文/読書レポート【2000字の例文つき】


4.『草枕』

⦅あらすじ⦆
日露戦争中、30歳の画工(えかき)
である「余」が、那古井の志保田家に
逗留し、出戻りのお嬢さんだという
美女、那美を知る。

志保田家の温泉に入っていると、突然
そこに現れるなど、床屋の親方が
「気狂(きちげえ)」と評する奇矯な
振舞いに翻弄されつつ、「不人情」
とは違う「非人情」の接触を続ける。

 
 松岡映丘画『湯煙(草枕)』(1928。部分)

親しくなるにつれ、那美は美人ながら
絵にするには「何だか物足らない」
との思いが残っている。

満州へ出征するいとこの久一を皆で
見送る停車場。

汽車が出て窓から久一の顔が消え、
続いて思いがけず那美の元夫の
「野武士」のような顔が出る。

その瞬間、那美の顔に「憐れ」が
浮かび、「胸中の画面」は完成する。

⦅読みどころ⦆
「智(ち)に働けば角(かど)が立つ。
情(じょう)に棹(さお)させば流される」
という書き出しで有名。

「とかくに人の世は住みにくい」が、
どこへ引っ越しても同じと悟った時、
「詩が生れて、画(え)が出来る」。

というわけで、漱石流の芸術論を
繰り広げながらの物語なので、
文章にも内容にもそれなりの
難しさはあり、それがまた快い
読み応えともなっています。

目のつけどころとしては、たとえば
  1. 那美さんは「余」に恋して
    いたのか、それとも遊びの
    気持ちだったのか?

  2. 「憐れ」がプラスされれば
    絵として完成するという「余」の
    女性観は古臭い男性中心主義の
    名残りと見るべきか、否か?
👉より詳しい情報はこちらで。

夏目漱石 草枕のあらすじを簡単に【&詳しく/現地写真・絵画つきで】


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➌(大学生からシニアまで)

ここには「初級」「中級」の作品を
読んでいない人がいきなり読もうと
すれば挫折しかねないけれども、
いつかは読んでおきたい漱石の傑作・
問題作を並べています。

『虞美人草』は文章の読みづらさという
点では漱石文学最大の難関ながら
内容的にはむしろわかりやすく、逆に
『行人』や『明暗』は文章は平易でも
内容的に……
結婚やそれに近い経験をした人でないと
わかりにくいかな❓と思える部分を
多く含んでいます。

『門』も同様ですが、これには『それから』
を読んでからでないとわかりにくい
という別の問題もからみます。
  1. 『虞美人草』(明治40/1907)
  2. 『門』(明治43/1910)
  3. 『行人』(大正1-2/1912-3)
  4. 『明暗』(大正5/1916)

1.『虞美人草』


⦅あらすじ⦆
帝国大学卒の甲野欽吾は実父母に
死なれ、今は継母とその娘、
才色兼備で驕慢な藤尾と暮らす。

亡父には、この藤尾を親戚で欽吾の親友
でもある宗近一(はじめ)に嫁がせたい
意向があったが、当人は、兄の友人で
個人授業をしてくれている文学士(博士
論文準備中)、小野清三との結婚を
考えている。

  
  虞美人草ブームに便乗した三越百貨店の
  ポスター(橋口五葉画。部分)
 

その小野には恩人である井上孤堂の娘、
小夜子との間に婚約に近い合意があり、
彼女といっしょのところを藤尾に
目撃されて悶着に。

外交官試験に合格し、晴れて藤尾に
求婚しようとした宗近は、欽吾らに
止められてこれを断念。

小野は孤堂に小夜子との破断を
申し入れて激怒を買う。

宗近は関係者一同を自宅に集めて
事態を収束しようとするが、そこで
小夜子と結婚するという小野の意志を
告げられた藤尾は怒り、急死する。

⦅読みどころ⦆
東大を辞職して朝日新聞専属となっての
第一作ということで、力みかえった感も
あり、「俳句を重ねた」ような華麗な
文章をたどるのは、現代人には少々骨が
折れるかもしれません。

ただストーリーは劇的な仕掛けに満ちて
いますので、文章にさえ慣れれば、
面白く読んで行けます。

連載開始後、藤尾が大人気となって
弟子の小宮豊隆が手紙でそれを賞賛した
ところ、「あいつを殺すのが一篇の
趣意だ」と漱石が答えたことは有名。

目のつけどころとしては、たとえば
  1. 藤尾は作者によって殺され
    なければならないほど悪いのか。

    彼女を悪役に仕立てたのは漱石に
    残る男性中心主義によるのでは?

  2. 宗近に説教されてただちに
    小夜子との結婚を決める小野の
    性格はイージーすぎて不可解。

  3. 藤尾が擬せられるクレオパトラ
    はシェイクスピア戯曲のヒロインで
    喜劇的な側面もある。
👉より詳しい情報はこちらで。

虞美人草(夏目漱石)のあらすじ【簡単&詳しく】藤尾はクレオパトラ!?

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2.『門』

⦅あらすじ⦆
東京の崖下の借家に暮らす野中宗助は、
京都帝大在学中に友人(安井)から
奪う形で妻(お米)と結ばれ、その
せいで大学も除籍になった男。

崖上に住む家主の坂井は、お互いに
大学出身だと知り、子だくさんで
賑やかな家に宗助を招待する
ようになる。

子供のことを言われたお米は、かつて
易者に、人に対して済まない事をした
「その罪」のせいで子は育たないと
言われたと話す。

正月、坂井の家で話すうち、モンゴルで
活動する弟が明後日、友達の「安井」を
つれて来るから是非会って…
という話になって宗助は衝撃を受ける。

思い悩む宗助は、やがて休暇を取り、
鎌倉円覚寺に参禅する。

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収穫もないまま帰京して、日常生活に
戻るが、やがて昇級もあり、お米は
ご馳走を作って祝う。

⦅読みどころ⦆
好評だった『それから』の次の新聞小説で、
題名を弟子に一任したところ「門」と
決まってしまい、それに合わせて書き
出されたという奇妙な生い立ちの小説。

終盤の参禅の経緯には漱石自身の20代の
経験が書き込まれていますが、それが
前後と滑らかに接合しているかは…❓

昔、お米を奪った経緯も「大風は突然
不用意の二人を吹き倒し」という以上の
ことは書かれないのが肩透かしですが、
この夫婦の淡々とした生活や、”良き妻”
お米のたたずまいがファンの心を
つかんできました。

目のつけどころとしては、たとえば
  1. 『それから』で三千代と平岡に
    起こったのに似た”結婚後の
    問題”がこの夫婦にも発生
    するはずでは?(谷崎潤一郎
    「『門』を評す」の視点)

  2. 「安井」の名を聞いた宗助の
    心に瞬時に過去がよみがえる…
    あたりは『文鳥』などで発揮され
    来た漱石得意(かつ愛好)の心理描写。

  3. 参禅した宗助は、彼なりの
    見解(けんげ。公案への回答)を
    示すも「もっとぎろりとした所」
    を持ってこいと退けられる。

    「ぎろりとした所」とは?
👉より詳しい情報はこちらで。

夏目漱石 門のあらすじを詳細に 感想文はどう書けばいいの?


3.『行人』

⦅あらすじ⦆
⦅友達⦆
大阪に旅行中の「自分」(長野二郎)は
急病で入院した友人・三沢を見舞い、
精神を病む出戻りの娘さんの話を聞く。

⦅兄⦆
母と兄夫妻(大学教授の一郎と直)も観光に
来て次郎と合流する。

その折、一郎は二郎に「直はお前に
惚れてる」との疑念を打ち明け、
二人で和歌山へ旅して、妻の節操を
試すよう依頼する。

拒否しきれず直と二人で出かけた
二郎は嵐による停電の中、兄嫁との
危うい一夜を過ごすが、心底は
探れないまま。

     

⦅帰ってから⦆
東京へ戻り、先延ばしにしていた報告を
迫られた二郎は、直の不貞など「貴方の
頭にある幻」にすぎないと答える。

一郎は「士人の交わり」の出来ない奴
だと激怒し、二郎は家を出て下宿する。

⦅塵労⦆
ある夜、その下宿を訪ねた直は、一郎
との関係の悪化を言い、女は「鉢植え」
と同じで「立ち枯れになるまでじっと
しているほかない」などと訴える。

二郎は両親と相談の上、一郎を旧友の
Hに頼んで、旅行に連れ出してもらう。

旅先から届いたHからの手紙には、
一郎の言葉として「神は自己だ」
「僕は絶対だ」、自分には「死ぬか、
気が違うか、それでなければ宗教に
入るか」しかないといった哲学的な
叫びのほか、「どんな人の所へ
行こうと、嫁に行けば、女は夫の
ために邪(よこしま)になる〔中略〕
幸福は嫁に行って天真を損われた
女からは要求できるものじゃない」
という夫婦観も記されている。

⦅読みどころ⦆
前作『彼岸過迄』同様、短編をつなぎ
合わせて一つの長編小説をなす目論見
でしたが、胃潰瘍の再発で中断。

半年後に再着手された「塵労」は、
前三篇の中心にあった夫婦の問題は
棚上げして、より一般的な人生問題を
追求するものにずれ込んだ感が…。

この意味では失敗作ながら、各篇に
埋め込まれた挿話や考察に光るものが
あり、重視されてきた作品。

目のつけどころとしては、たとえば…
  1. 「誰と結婚しても女は邪に
    なり、邪な女に幸福は望めない」
    という一郎の論理は、結婚の幸福は
    ありえないと言おうとするものなのか。

  2. 男の下宿を夜、一人で訪ねる
    (当時としては非常識な行為)直は、
    実際に二郎に気があり、奪い去られ
    たいと考えていたのか。

  3. 三沢の語る精神病の娘さんや、
    「帰ってから」で父親の語る、
    捨てられて二十何年後もその理由を
    知りたいと訴える女性の挿話が
    挿入されることの意味は?

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4.『明暗』

⦅あらすじ⦆
津田はお延と結婚して6か月になるが、
結婚以前に、愛し合ったはずの清子が
突然彼を捨てて他の男に嫁いだという
お延には知らせていない過去がある。

京都の父からの月々の仕送りを盆暮に
返す約束のある津田夫妻だが、津田は
痔を悪化させ、この約束も履行できず
手術費の当てもないまま入院。

その病室やお延のいる留守宅に、
津田の妹で美人妻のお秀や、会社の
上梓の妻である吉川夫人、友人で
社会主義者の小林などが来てそれぞれ
かなり長く会話し、これらが新しい
認識と行動を生むことで物語が進行する。

  

お延は結局、手術費を叔父の岡本から
引き出すことに成功するが、そこに
至る諸々のやりとりから、夫の
過去への疑念も生じる。

清子との経緯を知る吉川夫人は津田に、
いま清子は温泉場で療養中だから、
そこへ行って変心の理由を訊いて
未練を断ち切るよう勧める。

退院した津田はそれを実行し、
果たして清子と再会する。
(中断)

⦅読みどころ⦆
漱石の小説としてすでに最大の長さに
達し、傑作の予感を濃厚に漂わせながら、
『行人』と同じく胃潰瘍によって中断、
そのまま絶筆となった意欲作。

書かれなかった結末をめぐっては諸説が
唱えられ、『明暗』自体に匹敵する
長さの『続明暗』という小説さえ
現れました(水村美苗、1990)。

目のつけどころとしては、たとえば…
  1. “日本文学最初の美人でない
    ヒロイン”とされるお延は「嬌態」を
    示す技巧的な女(『三四郎』の美禰子
    の系譜)であり、かつ自分の「予言」
    に不思議な自信をもつ特異な造型。

  2. 「技巧」に対する「自然」の優位を
    説いてきた漱石文学の流れからすれば、
    大詰めで清子が「自然」を体現する
    ものとも見えるが、お延の作品内での
    パワーから見ると、話はそう単純
    ではないらしいこと。

  3. 「未練はない」と言う津田に
    対して「それが未練のある証拠です」
    などと言いくるめてしまう吉川夫人の
    論理は滅茶苦茶なのか、正しいのか。
👉作中で岡本が述べ、お延が
「屁理屈」だと反発する男女観
(男女は惹かれ合うが反発し、
一つになれない)については、
こちらで考察を加えています。

理論と論理の違いをわかりやすく言うと?理屈と屁理屈の違いも…


まとめ

さて、いかがでしょう。

漱石文学の楽しさ、またその底知れぬ
深さをいささかでも感じ取って
いただけたでしょうか。

興味を感じた作品があれば、さっそく
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👉もう少し内容を知りたいという人の
ために、各作品の紹介の後に追加情報の
記事へのリンクを張っておきましたが、
それら以外にも、漱石関係では次の
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是非ご参照ください。

夏目漱石「月が綺麗ですね」の出典は?I love youはこう訳せ

オセロ(シェイクスピア)の名言/セリフ 東大で漱石はどう講じたか

      

夢十夜の第一夜で感想文どう書く?【800字の例文つき】

夢十夜 第二夜の意味は?ついに現前しない”無”について解説

・・夢十夜「第六夜」で読書感想文【1000字の例文つき】主題は何か

それから(漱石)で感想文【読書レポート2000字の例】愛の言葉は…

         

夏目漱石 草枕//冒頭の名言を意味付きで解説「智に働けば…」

夏目漱石 こころの感想文を簡単に【800字/400字例文つき】


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ん? ところで「漱石のことならなんでも
知ってるぞ」とばかりにエラそうに
書いてきたお前はいったい何者なんだ?

はい、実はわたくしサイ象、何を隠そう
かつては大学で教え、別名で何冊か
漱石関係の本も出してきた専門的な
研究者なんです。

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日本と世界の種々の文学作品について、
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「あらすじ」記事一覧

「感想文の書き方」一覧


それではまたお目にかかりましょう!(😸)

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