かちかち山のたぬきはかわいそう?太宰版では愛ゆえの試練と恐怖も… | 笑いと文学的感性で起死回生を!@サイ象

かちかち山のたぬきはかわいそう?太宰版では愛ゆえの試練と恐怖も…

サクラさん
「かちかち山」といえば
兎が正義の味方で、
悪い狸を徹底的に退治
する痛快な昔話(😸)

まず火傷(やけど)させて
から患部に刺激物を塗り
さらには泥舟に乗せて
沈めます…


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ハンサム 教授
ちょっと執拗すぎ
ませんか?

いっそ、ひと思いに
殺してあげた方が:^^💦

サクラさん
悪い奴だから仕方ない
し、それにバカだから
兎の”だまし”にひっか
かるんですよ(😼)

ハンサム 教授
いや決してバカでは
ないし、悪いかどうか
も…❓ですよ。

お婆さんを殺した時は
大いに知恵を働かせて
いますし、畑を荒らす
のはそうしないと生きて
いけないからで、悪い
とは言いきれません。

サクラさん
ふ~む。でも頭いいん
なら、なぜあんなに
何度も兎にだまされ
るんですか?

ハンサム 教授
それはたぶん兎に
恋しているから。



だから彼が沈みながら
吐く最期の言葉は
「惚れたが悪いか」…

というのが太宰治版
「カチカチ山」です。

サクラさん
そうか~。恋物語
だったのか~(😻)


というわけで、きょうのお話は
「かちかち山」。

どんなストーリーか実はよく知らないという
人のために、まず「あらすじ」をしっかり
とたどった上で、兎による懲罰の”やりすぎ”
感と恐怖、狸の阿呆さの謎など、上記の
会話でも指摘されている諸問題に迫って
いきたいと思います。


となれば、まず無視できないのが、上でも
ふれている太宰治の「カチカチ山」(連作
短編集『お伽草紙』(1945)中の一篇)
なのですね。
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これ実は『人間失格』も『斜陽』も押し
のけて太宰全作品中の最高傑作に推す
声もあるほどの異色の短編!

なので、読書感想文やレポートを書く
ことを考えている人には、この太宰版
「カチカチ山」も視野に入れることを
おすすめしながら、この物語の怖さに
探りを入れて参ります。

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昔話のあらすじ

まずはあらすじを押さえておきましょう。

室町時代末期には成立していたとされる
基本的なストーリーは以下のようです。

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おじいさんとおばあさんが耕す畑に
毎日、悪い狸が来て、せっかく
まいた種や芋をほじくり返して
食べていました。

怒ったおじいさんはこの狸を罠(わな)で
捕まえ、狸汁にするようにおばあさんに
言ってから畑仕事に向かいました。

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縛られた狸が「もう悪さはしません、
家事を手伝います」と言うので、
おばあさんが信用して縄を解くと、
狸はおばあさんを杵(きね)で撲殺し、
その肉を鍋に入れて「婆汁」
(ばばあじる)を作ります。

さらにおばあさんに変身し、帰って
きたおじいさんに「狸汁です」と
偽ってこの婆汁を食べさせてから、
嘲り笑って山へ逃げました。


おじいさんから事のてんまつを
聞いた仲よしの兎は、憤慨して
狸を懲(こ)らしめることを考えます。

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    江戸時代の草双紙『兔大手柄』から

まず金儲けだと言って狸を柴刈りに
誘い、その帰り道、狸の背負った柴に
後ろから火打ち石で火をつけます。

火打ち道具を打ち合わす「カチカチ」
という音を不思議に思った狸が兎に
尋ねると、「ここはカチカチ山だから、
カチカチ鳥が鳴いている」と答え、
狸は背中にひどい火傷を負いました。

次に、狸を訪問した兎は薬と称して
トウガラシ入りの味噌を渡し、これを
塗った狸はさらなる痛みに苦しみます。


1887(明治30)年、イギリスで出版された
『かちかち山』の挿絵(欧米人は狸を
知らなかったので自由な描き方に
なっています;^^💦)



最後に、木の舟とそれより大きな
泥の舟を用意した兎は、狸を漁に
誘い出して舟を選ばせます。

思わく通り狸が泥の舟を選ぶと、
自分は木の舟に乗って沖へ出て
しばらくすると、泥の舟は溶けて
沈んでしまいます。

助けを求める狸を兎は艪(ろ)で
叩き、舟は沈み、狸は溺れて
死にました。

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「狸さん、かわいそうね」

どうです? 面白いでしょう?;^^💦

さて太宰治ですが、だいたいこんな話だった
と思われる絵本の「かちかち山」を彼が
5歳の娘に読み聞かせたのは、東京大空襲
真っ只中の1944(昭和19年)のこと。

読み終えた時に娘さんがぽつりと
「狸さん、かわいそうね」と言い、
これにハッとさせられたというんですね。

そこから発想されたのが太宰版
「カチカチ山」だった、と。


もちろんおとぎ話の改作なのですが、
出てくる兎を16歳の美少女に、狸は自称
17歳、実は37歳のモテない男に設定し、
大いに苦笑させられる”恋愛小説”に
仕上げているのです。

話の成り行きと結末は原話どおりで、
兎の計略どおり泥の舟に乗せられた
狸がまんまと沈められてしまいます。

  
  『講談社の絵本 かちかち山』より
  (1941年刊行で絵・尾竹国観。太宰が防空壕で
   娘に読み聞かせた絵本もこれだったかも…)



それにしても、お婆さんをだまし、
殺して逃げた時にはあれほど賢かった
狸が、後半ではなぜこうもやすやすと、
しかも三度まで兎の計略に乗せられて
しまうのか。

これはもう惚れてしまったということ
以外に考えられない。

つまりは「恋は盲目」…
というのが太宰版「カチカチ山」のミソ
というか(辛口なので「唐辛子みそ」と
いうべきか)、ともかく基本的なモチーフに
なっている次第で、そこがまた、たいへん
切なく泣けてくる部分なんですね。
(モテる男にはわからない
かもしれませんが;^^💦)

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🐰 兎の酷薄さ

ラストシーンで、助けを求める狸に
兎は言い放ちます。

 「うるさいわね。泥の舟だもの、
どうせ沈むわ。
わからなかつたの?」

「わからん。理解に苦しむ。
筋道が立たぬ。
それは御無理といふものだ。
お前はまさかこのおれを、
まさか、そんな鬼のやうな、
いや、まるでわからん……」

狸はごちゃごちゃと訴え続けますが、
兎はこれをすべて無視。
  
      ウサギ2 082275

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ぽかん、ぽかん、と無慈悲の櫂
(かい)が頭上に降る。

狸は夕陽にきらきら輝く
湖面に浮きつ沈みつ、
「あいたたた、あいたたた、
ひどいぢやないか。

おれは、お前にどんな
悪い事をしたのだ。

惚れたが悪いか。」と言つて、
ぐつと沈んでそれつきり。

兎は顔を拭いて、
「おお、ひどい汗。」と言つた。


どうです?

「おお、ひどい汗。」という
ラストの1行がまた凄いですね;++💦


「かわいい」はずの兎もなんだか「悪い」
ようでもあり、ともかく酷薄というか
冷酷というか、哀れな狸になんの慈悲も
示していませんね。

これ、意外でした?

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でも考えてみますと、兎ってもともと
そうそう善良でかわいい役ばかり割り
振られてきたわけではないんですよね。

イソップの「うさぎとかめ」では怠け者
ですし、『不思議の国のアリス』に出る
2匹はともに主人公を常識的な世界の
外へと導く危険な存在ともいえます。
👉『不思議の国のアリス』がどんな世界かは
こちらで覗いていただけます。

不思議の国のアリス 原作のあらすじ ハチャメチャすぎて怖い?
      



🐰 男はなぜバニー・ガールが好き?

そもそも「バニーガール」とかいって、
かわいい(または妖艶な)接客女性が、
なんで兎の耳をつけて出てくるのか
知ってます?

あれは要するに性的誘惑のシンボル。

兎が非常に繁殖力旺盛な動物で、特に
アナウサギは1年じゅう発情している
(人間と同じですね;^^💦)という
ようなことから、アメリカの高級ナイト
クラブ「プレイボーイクラブ」が
ウェイトレスの正式なコスチュームに
採用したことに始まるんです。


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振り返って日本の伝統を探ってみても、
兎は必ずしも善玉ではなかった
ことがわかります。

最も古い兎物語と思われる「因幡の白兎」
にしても、そもそもワニザメに皮を
はがれて赤裸にされたのは、彼らを
だましたことへの懲罰とも解されます。

ここでまた勘ぐれば、ワニザメたちが
やすやすとだまされたのも、「カチカチ
山」の狸同様、兎の性的魅力に目を
くらまされてしまったから…
という仮説も成り立つのです!
👉「因幡の白兎」をめぐっては
こちらを参照してください。

因幡の白兎のあらすじを簡単に🐰 古事記はこう語っていた

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こういう兎のキャラクターのルーツを
探る場合、中国、さらにはインドへと
話を広げることもできます。

こちらもどうぞ。

月でうさぎがお餅つき 🐰その由来は釈迦、前世での焼身…?

       

👉とは言いましても、これら「お話」の中の
兎や狸は、もちろん人間が勝手にくっつけた
イメージにすぎないわけで、自然界に生きて
いる動物としてのウサギやタヌキたち
自身とはなんの関係もありません。

たとえば今やいろんなキャラとして
「かわいい、かわいい」ともてはや
されている「熊」。

これ、本来は人間に害を及ぼす凶暴な
猛獣ですよね。

なぜこうなってしまったのか?

この問題についてはこちらで
詳しく検討していますので、
ぜひご参照ください。

熊がかわいいのはなぜ?怖い猛獣にやさしく抱かれ…という心理の歴史

   



まとめ

さあ、これでもうおわかりですよね。

「かちかち山」のあらすじとその背景に
ある人間中心的な”善悪”の考え方。

そしてその”善悪”を恋愛の場面へとずらす
ことで見事な悲喜劇を創出した太宰治の
「カチカチ山」…。

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読書感想文なりレポートなりを書く場合も
これくらいの情報と考察が仕入れてあれば、
なんとか書いていけるのでは?

👉太宰治の世界に興味をもったは
こちらの記事なども
覗いてみてください。

太宰治の本でおすすめは?人間やめたくなった時こそ読みたい15作!

太宰治 グッドバイのあらすじ//未完の原作に映画はどうオチをつけるか

     


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太宰治 津軽のあらすじと感想文:タケ母子との心の交流を…      

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銀座のバー”ルパン”でくつろぐ太宰(林忠彦撮影)


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また当ブログでは、太宰のみならず
日本と世界の種々の文学作品について、
「あらすじ」や「感想文」関連の
お助け記事を量産しています。

参考になるものもあると思いますので、
こちらのリストからお探しください。

「あらすじ」記事一覧

≪感想文の書き方≫具体例一覧


ともかく頑張ってやりぬきましょー~~(^O^)/

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