太宰治の作風・魅力とは?笑って泣けるオススメ小説15⦅長・短編の紹介⦆
サクラさん
『走れメロス』に感動
したので『人間失格』も
読んでみたらビックリ。
メロスを裏返したような
サイテーの男、それこそ
「人間」以下にまで
堕(お)ちる…( )
したので『人間失格』も
読んでみたらビックリ。
メロスを裏返したような
サイテーの男、それこそ
「人間」以下にまで
堕(お)ちる…(
ハンサム 教授
でもその男を「神様
みたい」とたたえる人も
いましたし、『ヴィヨン
の妻』の夫は「人非人」
と呼ばれますが、妻は
「人非人でもいいじゃ
ないの」と認めます。
みたい」とたたえる人も
いましたし、『ヴィヨン
の妻』の夫は「人非人」
と呼ばれますが、妻は
「人非人でもいいじゃ
ないの」と認めます。
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サクラさん
“人間でない”ような人が
容認され、祭り上げ
られるのが太宰文学の
世界だと…?
容認され、祭り上げ
られるのが太宰文学の
世界だと…?
ハンサム 教授
そうなると、もちろん
人間ってなんなのさ、
という根源的な問いに
ぶち当たる。
読者をそこまで引きずり
降ろすことが太宰の狙い
だったのでは?
人間ってなんなのさ、
という根源的な問いに
ぶち当たる。
読者をそこまで引きずり
降ろすことが太宰の狙い
だったのでは?
サクラさん
えらく真面目で暗いん
ですね。
メロスには”道化”的な面
もあって、あの明るい
ユーモアが私は好き
でしたが…
ですね。
メロスには”道化”的な面
もあって、あの明るい
ユーモアが私は好き
でしたが…
ハンサム 教授
そういうユーモアのある
作風こそ太宰の大きな
魅力、真骨頂でしょう。
『人間失格』も”道化”
的な生き方の度が過ぎた
男の悲喜劇として読める
と思います;^^💦
作風こそ太宰の大きな
魅力、真骨頂でしょう。
『人間失格』も”道化”
的な生き方の度が過ぎた
男の悲喜劇として読める
と思います;^^💦
というわけで本日は、令和に入って
『人間失格 太宰治と3人の女たち』
『グッドバイ』となど映画化も続き、
人気再上昇中の昭和の作家、あの
太宰治のおすすめの本の紹介です。
15作品と盛りだくさんですが、ここで
オススメするものの多くは短編ですので、
全部読んだとしても、そんなに時間は
かかりません。
それでも時間が惜しいという人は
「➋短編:悲しい笑いの芸術」の方から
入ってお気に入りを探し、多少なりと
読んで感じるものがあったら
「➊中・長編:人間、やめますか?」
の方へ進まれるとよいかと思います。
それぞれ簡単な と、背景や
ポイントを解説した を
解説していきますので、一つでも
自分に合いそうな作品を見つけて
もらえれば嬉しく思います。
採り上げる作品は以下のとおり。
📚 もくじ
まとめ
まとめ
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➊中・長編:人間、やめますか?
「人間失格」だとか「人非人」だとかいって、フツーじゃない人を責め立て
差別する大人が世間の大勢を占めてる
けど、じゃあ、「人間」ってなんなのさ。
あんたらの思う「人間」が人間なら、
あたしゃ人間、やめたいよ…
というような思いにとらわれたことの
ある人なら、まさに自分自身の問題として
飛び込んでくるであろう衝撃作が『斜陽』
と『人間失格』。
世間一般の常識的道徳への反逆を核に
抱えたこの2作に対して、そういった
対決姿勢から一歩引いたところに生まれる
ユーモアでつづられた『津軽』や『グッド
・バイ』(これは新聞連載13回で断絶した
ので、長さとしては短編ですが)。
どちらも太宰治の世界です。
〔( )内は発表年。以下同様〕
- 『人間失格』(昭和23/1948)
- 『斜陽』(昭和22/1947)
- 『津軽』(昭和19/1944)
- 『グッド・バイ』(昭和23/1948)
「恥の多い生涯を送って来ました」
に始まり、「もはや、自分は、完全に、
人間で無くなりました」、幸福も
不幸もなく「ただ、一さいは過ぎて
行きます」に終わる27歳の「自分」
(大庭葉蔵)の手記。
富豪の家に生い立ちながら、幼少から
「人間の生活というものが、見当
つかない」という対人的な疎隔感を
抱えてきた「自分」はこれを得意の
「道化」で乗り切ってきた。
高等学校(旧制)では左翼運動を経て
酒、煙草、淫楽の世界にのめりこみ、
人妻と心中を試みるや、「自分」一人
生き残って自殺幇助罪に問われ、退学。
その後も子持ちの女性やバーのマダム
らとの破滅的な関係にはまりながら、
やがて漫画家として稼ぎ始め、無垢な
女性と平安な生活を営み始める。
太宰治自画像
が、彼女が強姦されたことから再び
自暴自棄になって深酒し、ある晩、
たまたま見つけた睡眠薬で発作的に
自殺を試みるが、これも未遂。
その後の衰弱から結核を発病して
喀血し、治療に使われたモルヒネの
味を占めて依存症となり、モルヒネ
入手を目的に薬屋の奥さんを誘惑して
深い仲になる。
それでも金が足らず、実家に援助依頼
の手紙を送ると、縁者と友人が来て、
連れて行かれた先は「脳病院」。
数か月後には故郷に引き取られて
茅屋に隔離されて生きている。
主人公大庭葉蔵の3つの手記を「私」に
よる「はしがき」と「あとがき」で
はさむ”入れ子状”の小説(日本では
夏目漱石『こころ』が先駆)。
「恥の多い生涯」と自ら認める葉蔵の
写真を「私」は異様に感じますが、
「あとがき」に出て来るマダムは彼に
ついて「神様みたいないい子でした」
とたたえます。
(普通の)「人間」であることをやめた
葉蔵を哀れで滑稽な人物として批判的に
語りながら、その底面でしっかりと彼の
生涯を(普通の)「人間」たちに対して
突き出し、さあ殺せと居直る太宰治、
一世一代の反逆の芸術!
👉より詳しい情報はこちらで。
・人間失格(太宰治)のあらすじ//恥の多い生涯…だからこそ女にもてた?
終戦後、華族の身分を失った29歳の
かず子とその母は、東京の家を
売って伊豆の山荘で暮らす。
戦地から帰還して東京にいる
弟の直治は作家志望で阿片中毒。
6年前、直治に頼まれて届けものを
した際、小説家の上原にキスされて
おり、そのことも絡み、死産もあって、
夫とは離婚に至っている。
その上原にあて、「私は私の恋を
しとげたい」「あなたの赤ちゃんを
生みたいのです」といった内容の
手紙を3通書くが、返事はない。
それでも「人間は恋と革命のために
生まれてきたのだ」と考える。
母の病死後、かず子は東京の上原を
訪ね、一夜を明かし、その朝、
直治が自殺。
懐妊したかず子は上原への手紙に
「古い道徳を平気で無視して、
よい子を得たという満足」がある、
「こいしいひとの子を生み、育てる
事が私の道徳革命の完成」だと書く。
「斜陽族」という流行語を生みだした
大ベストセラー。
太宰に日記を提供してかず子のモデルに
なった太田静子は、2019年映画『人間
失格 太宰治と3人の女たち』ではあの
沢尻エリカさんが演じることになる
美女で、実際、太宰の血を受けた子
(太田治子。作家)を産み育てました。
華族の女がそんな言葉づかいはしない
などと、志賀直哉や三島由紀夫から
しゃらくさい文句が出ましたが、
一般人からどんな目で見られようと
「古い道徳」を打破する「道徳革命」
を生きようとするかず子に、そんな
軟弱な言葉は似合わないでしょう。
👉より詳しい情報はこちらで。
・斜陽(太宰治)のあらすじを簡単に【&詳しく】手紙の内容にも入って結末まで
・チェーホフ かもめのあらすじを短く//太宰の斜陽に取り込まれた?
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ある出版社の企画で津軽の紀行文を
書くことになった「私」が久々に
故郷へ。
青森から蟹田へ向かい、友人N君の
案内で、三厩で一泊してからMさんも
加わって、竜飛岬まで行く。
途中、リヤカーのおばさんから鯛をつい
買ってしまい、三厩の宿で「このまま
塩焼き」でいい、「三つに切らなくても
いい」と伝えるが、出てきたのは頭も
尾も骨もない五切れの塩焼きで、
がっかり。
金木の実家に帰り、兄たちとその家族に
会うが、むしろ「気疲れがする」。
池のほとりに立って、家督を継いだ兄と
実家に迷惑ばかりかけてきた自分との
大きな疎隔のことなど思ううち、
蛙が池に飛び込み、芭蕉の「古池や」
の名句を初めて理解した気になる。
ほとんど母代わりになって自分を育てて
くれた乳母のたけを訪ねると、彼女の
娘さんに出迎えられ、「兄たちに軽蔑
されたっていい。私はこの少女と
きょうだいだ」と強く思う。
学校の運動会をいっしょに観戦し、
たけから煙草の吸いすぎなどに
ついて小言を言われ、心にしみる。
一市民として周囲と調和しながら生きよう
とする姿勢が前面に出ていた中期太宰の、
半分は随筆的な、心温まる小説。
鯛の尾頭付きを食べ損ねた逸話など
お得意の道化的ポーズで笑わせながら、
乳母、たけとの再会や幼時の回想へと
進んで、涙まじり結んでいくあたりは
さすがの出来。
芭蕉の「古池」の句を学校で「ああ、
余韻嫋々(じょうじょう)」などと
教えられたが、実は余韻などない、
「ただの、ぽちゃだ」と初めて知った
というあたり、評論としても面白い。
👉より詳しい情報はこちらで。
・太宰治 津軽で感想文【800字の例文つき】たけとのラストを読み込め
・松尾芭蕉の俳句「古池や」の意味は?太宰・子規・漱石に聞く
34歳の雑誌編集者、田島周二は疎開中に
結婚し一女をもうけた妻を埼玉の農家に
置いたまま、東京に10人近い愛人を
養うという噂の好男子。
そちら方面にかかる資金は闇商売の
手伝いで稼いできたのだが、そろそろ
それらを足を洗って妻子を呼び寄せる
ために、愛人たちと手を切ろう
と考える。
その方法をある老文士に尋ねると、
「すごい美人」を見つけて妻の役を
演じさせれば、女は「皆だまって
引き下がる」という。
その気になった田島が「すごい美人」を
探し求めて歩くうち、声をかけてきた
のが闇商売で関わる「かつぎ屋」の
永井キヌ子。
ひどく汚いなりをしているが、実は
これが「とんでもないシンデレラ姫」
とわかり、彼女を食事と金で釣って
引き込む。
まずは戦争未亡人の美容師、青木さん
で試して成功するや、涙ぐむ彼女の
白衣のポケットに札束を滑り込ませて
「グッド・バイ」。
が、キヌ子が図に乗って金を使い
まくるのに業を煮やし、「ものに
してやれ」ば従順になるかも、
と企んだ田島は汚く臭いアパートに
乗り込む。
しこたま飲まされる羽目になり、
コトに及ぼうとすると持ち前の
怪力で頬を殴られ、退散。
この怪力を利用しようと考えた田島、
大男で乱暴な兄のいる愛人、洋画家の
水原ケイ子との別れにキヌ子を
使おうと作戦を立てる。
『人間失格』とほぼ同時期に書かれて
いたとは驚きの、明るいユーモアに
満ちた新聞連載小説(13回で中断)。
汚いなりの闇の担ぎ屋、キヌ子が実は
「すごい美人」だったというシンデレラ
・ストーリーでもあり、彼女を利用しよう
とする色男が逆に追い込まれ、虚々実々の
駆け引きが進行していきます。
数ある愛人と手を切ろうとする主人公には
太宰自身の願望や焦りが託されているの
でしょうが、そうは問屋が卸さないという
展開は事実を予告するようでもあり…
お~クワバラ、クワバラ(
👉より詳しい情報はこちらで。
・太宰治 グッドバイのあらすじ//未完の原作に映画はどうオチをつけるか<
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➋短編:悲しい笑いの芸術
芸術家としての太宰の手腕が遺憾なく発揮されたのは、むしろ短編小説の
世界でした。
世人一般への挑戦を含んで『人間失格』の
世界を予告する『ヴィヨンの妻』のような
衝撃作から、心温まるユーモアで市民の
生き様を描いて『津軽』に通じる
『黄金風景』などの調和的作品まで、
数知れぬ秀作から厳選しますと…
- 『ヴィヨンの妻』(昭和21/1946)
- 『きりぎりす』(昭和15/1940)
- 『カチカチ山』(昭和20/1945)
- 『浦島さん』(昭和20/1945)
- 『人魚の海』(昭和19/1944)
- 『トカトントン』(昭和22/1947)
- 『女生徒』(昭和14/1939)
- 『黄金風景』(昭和14/1939)
- 『桜桃』(昭和23/1948)
- 『走れメロス』(昭和15/1940)
- 『富嶽百景』(昭和14/1939)
男爵家の次男で今や「日本一の詩人」と
さえいわれる大谷の、フランソワ・
ヴィヨン(中世フランスの泥棒詩人)
ばりの乱行とそれに対処する妻の変容
を、妻の視点で淡々と語り下ろす。
「坊や」が病気でも医者に見せられない
ほど貧窮した家に、何日かぶりに夫が
帰宅したと思ったら、入り浸っている
居酒屋から金を盗み、主人夫婦に
追われているのだった。
フランソワ・ヴィヨンの肖像切手
自分がなんとかするとその場を収めた
妻は、結局自分がその店で働いて返す
ことにし(結婚前は父親とおでん屋を
やっていた)、美人なので客足を
ふやして主人夫婦に喜ばれる。
クリスマスには仮面をつけた大谷が
バーのマダムを伴って現れ、金は
肩代わりされた模様。
妻はその後も店で働くうち、閉店後
自宅までつけてきた若い客に
「手に入れられました」。
翌日、坊やを背負って出勤すると大谷が
いて、自分のことを「人非人」と書いて
いる新聞記事を示して「違うよねえ」、
君たちに「いいお正月をさせたかった
から」盗みまでやったのだと言う。
私は格別うれしくもなく、
「人非人でもいいじゃないの。
私たちは、生きていさえすれば
いいのよ」
と言いました。Sponsored Links
長編・短編を通じて太宰の最も”太宰
らしい”傑作は? と問われたら
挙げたい芸術的逸品。
夫の家族愛などに感動しないところ
まで「人非人」化した妻は『斜陽』の
かず子のいう「道徳革命」をすでに
完成させているのかもしれません。
根岸吉太郎監督映画『ヴィヨンの妻〜
桜桃とタンポポ〜』(2009。モントリ
オール世界映画祭最優秀監督賞)は主演の
松たか子さんが素敵ではありますが、
『燈籠』『桜桃』などの他作品や、
太宰自身の心中未遂事件の経緯やら、
妻夫木聡、堤真一にも愛されるなど、
話を盛りすぎて膨らみすぎの感あり。
「おわかれ致します」と始めてその
決意に至る経緯を淡々と語ってゆく
有名画家の妻。
19歳で嫁いだのは、見合いの話が
あったあなたの絵を見に行って震え、
「この画は、私でなければわからない」
と思い詰めたから。
その後もあなたは売れなかったが
「貧乏になればなるほど、私は
ぞくぞく、へんに嬉しく」
張り合いがあった。
ところが、売れ出してからのあなたは
恩人の陰口などばかり言い、お金に
困っている友人には金のないふりなど
する、がさつな成金と変わらない
「卑劣」な人になってしまった。
ラジオから流れた「私の、こんにち
在るは」というあなたの声を聞いて
私はスイッチを切った。
私の背骨の中で鳴いている気がする
きりぎりすの「小さい、幽(かす)
かな声」を忘れずに生きていきたい。
決意に至る経緯を淡々と語ってゆく
有名画家の妻。
19歳で嫁いだのは、見合いの話が
あったあなたの絵を見に行って震え、
「この画は、私でなければわからない」
と思い詰めたから。
その後もあなたは売れなかったが
「貧乏になればなるほど、私は
ぞくぞく、へんに嬉しく」
張り合いがあった。
ところが、売れ出してからのあなたは
恩人の陰口などばかり言い、お金に
困っている友人には金のないふりなど
する、がさつな成金と変わらない
「卑劣」な人になってしまった。
ラジオから流れた「私の、こんにち
在るは」というあなたの声を聞いて
私はスイッチを切った。
私の背骨の中で鳴いている気がする
きりぎりすの「小さい、幽(かす)
かな声」を忘れずに生きていきたい。
太宰の十八番ともいえる”女語り”の
傑作の一つ。
作家として地位を確立しつつあった
自身の俗物性を、妻の視点から喜劇的に
暴き出し、かつそれに失望して自立して
いく女性の芯(しん)を描いています。
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昔話「かちかち山」の太宰流語り直し。
兎は少女で狸は彼女に恋する醜男
(ぶおとこ)だとは「疑いを容(い)れぬ
厳然たる事実のように私には思われる」
と前置きして、老夫婦の復讐を名目に
続けられる兎のハニートラップと、
惚れた弱みでそこから逃れられない
狸の悲惨な滑稽を描く。
1887年、イギリスで出版された『かちかち山』の挿絵
兎の「無慈悲の櫂(かい)」を頭に受け、
「惚れたが悪いか」とうめいて沈む狸。
兎は顔を拭いて、
「おお、ひどい汗。」と言つた。
愛されないのに愛してしまう男の苦悩を
乾いたユーモアで描き切った傑作。
舟を作る兎を見て、こいつを女房に
すれば俺は遊んで暮らせるかもしれ
ない…と狸が虫のいいことまで考える
あたりに太宰的リアリズムが光ります。
👉より詳しい情報はこちらで。
・かちかち山のたぬきはかわいそう?太宰版では愛ゆえの試練と恐怖も…
『日本書紀』にも記載のある浦島伝説の
太宰流の語り直し。
批評のない世界にあこがれる「風流人」
浦島が知的で饒舌な亀に連れられて
漫才のように問答しながら竜宮へ。
いっさい言葉を発せず、ただ幽(かす)
かに笑う乙姫に、浦島は記憶しきれない
ほど長い間「無限に許された」。
Edmund Dulac,Urashima Taro(1916)
別れを告げると、五彩に輝く二枚貝を
渡され、郷里に戻って誰もいない
淋しさからそれあけると、浦島は
たちまち三百歳の老爺となる。
が、それは「決して不幸では
なかったのだ」。
年月は、人間の救いである。
忘却は、人間の救いである。
一言も発しない乙姫の周りに流れる
不思議な曲は「聖諦」と呼ばれ、
三百歳となって残る命はわずかでも
年月と忘却は「人間の救い」として
これを受け入れます。
人生とその終わりについてのメッセージを
一流の美文とユーモアで織りあげた逸品。
👉より詳しい情報はこちらで。
・浦島太郎に玉手箱をなぜ渡す?”開けるな”の意味はパンドラの箱だから?
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井原西鶴『武道伝来記』の一話「命とら
るる人魚の海」の太宰流語り直し。
海上で人魚を目撃し、弓矢を命中させて
しまった武士金内(こんない)が、
それを城中で話してしまう。
嘘と決めつける意地の悪い同僚から、
事実なら証拠を見せろと侮辱された
金内は、有り金をはたいて多数の
漁師を雇い、海底の人魚の死骸を
捜索する。
人魚は上がらず、漁師らには見放さ
れるも、世には人の「思いも及ばぬ
不思議な美しいものが、あるのだ、
けれども、それを一目見たものは、
たちまち自分のようにこんな地獄に
落ちるのだ」と考えながら、ひとり
海で奮闘。
ついに死体となって浜辺に打ち寄せ
られたが、それから百日ほどして、
真に人魚としか考えられない骨格の
死骸が発見される。
一目見たものは「地獄に落ちる」という
「人魚」は「美」の隠喩(メタファー)
でしょうか。
その「美」の表現に心血を注ぐ芸術家の
命運が、武士の沽券に託されたとも
読める悲喜劇。
👉より詳しい情報はこちらで。
・人魚を食べると不老不死に?八百比丘尼とマグリットのシュールな出会い
26歳の男(私)が「某作家」に送った
長い手紙。
兵士の身で天皇の戦争終結宣言を
聞いた私は「死ぬのが本当だ」と
思いつめるが、その瞬間「金槌で釘を
打つ音が幽(かす)かに、トカトントン
と聞こえ」、一転して「なんともどう
にも白々しい気持」になってしまう。
その後、小説を書くことや、恋愛や
政治運動に情熱を燃やしたが、
いずれもその頂点に達しようとする
時、あの「トカトントン」が聞こえ、
自殺を思っても、あなたにこうして
手紙を書いていても、それは
鳴り続けている。
「某作家」の短い返信にいわく、
「真の思想には、叡智より勇気を
必要とする」と教えるイエスの言に
「霹靂を感ずる事が出来たら、
貴君の幻聴は止む筈です」。
戦時中は一市民作家としてせっせと
勤労してきた太宰に、敗戦とともに
初期のあの底知れぬ虚無と徒労の
感覚が戻ってきたのでしょうか。
「某作家」が持てという「勇気」を
太宰自身、持てたかは疑問で、
否定したくてもしきれない虚無感の
芸術的表現として卓抜の作品。
母と二人ぐらしの14歳の女生徒が、
朝の目覚めから就寝まで、1日の
経過を細密につづる。
二匹の犬、通学中や学校で出会う
生徒や教師、帰宅後は来客などに
接して揺れ動く心理や、死去した
父や遠方の姉を慕う気持ち。
「哲学のシッポ」を追いかけ、
「女はいやだ」「少女のままで
死にたくなる」とも思う。
19歳の女性読者から送付された日記を
素材に「『意識の流れ』風の手法を、
程よい程度に用ゐて」(川端康成評)
書きあげられた名作。
俗物的な他者に厳しい目を向ける
厭世家で、美人でもあるらしい
ヒロインは魅力十分です。
👉より詳しい情報はこちらで。
・女生徒(太宰治)のあらすじと解説 女はいやだ…曲折する意識
富裕な実家から追放され、ようやく
作家として食えるようになった
「私」は、幼時、お慶という
「のろくさい」女中に腹を立てて
足蹴にし、「一生おぼえております」
と泣かれた記憶がある。
その私のところへ戸籍調べに来た
巡査がたまたま同郷の人で、しかも
あのお慶と結婚していることを告げ、
次の休日に家族連れで挨拶に来る
という。
その日、彼らが現れると私はうろたえ、
用事があると言って出てしまうが、
30分後に戻って、海岸に出ると、
お慶の一家三人が笑って話している。
「あのひとは、いまに
偉くなるぞ」
「そうですとも。そうですとも」
お慶の誇らしげな高い声である。
「あの方は〔中略〕目下の
ものにもそれは親切に、
目をかけて下すった」
私は立ったまま泣いていた。
憎まれていると長く思いこんでいた
人が、実はむしろ自分を誇りにさえ
思ってくれていたと知る驚きと安堵、
奇妙な、明るい敗北感。
家族問題などで悩まれた方なら
落涙必死、かつ希望も湧くであろう
珠玉の名作。
「子供より親が大事、と思いたい」
と書き出される「夫婦喧嘩の小説」。
障害ある(らしい)四歳の長男を
抱いて死にたいと思うこともある
「私」は、妻が口にした「お乳と
お乳のあいだに、……涙の谷」という
一言から広がった気まずさを耐えがたく
思い、いつもの飲み屋へ逃げる。
出された桜桃をまずそうに食べては
種を吐き、「心の中で虚勢みたいに
呟く言葉は、子供よりも親が大事」。
最後の短編で「桜桃忌」の由来とも
なった私小説。
「子供より親が大事」と全面的に思える
なら自分もこんなに苦しみはしない…
という心の叫びを酒でまぎらわす
作家をダメな父親と突き放すか、
むしろ寄り添うか。
それは読者次第なのでしょう。
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羊飼いのメロスは、シラクスの
ディオニス王の暴政に激怒し、
暗殺を企てるが、摘発され、
死刑を言い渡される。
メロスは王に「妹の結婚式のため
3日間待て、親友のセリヌンティウス
を人質に置くので、自分が帰って
来なければ彼を殺せ」と申し出る。
王もセリヌンティウス自身もこれを
承諾し、メロスは村に帰って式を
済ませ、3日目の未明、走り出す。
障害や不運に出あい、一度は逃げる
ことを考えるものの、日没直前、
セリヌンティウスの処刑寸前に
到着し、執行を中止させる。
メロスは友に、一度だけ裏切ろうと
したことを告げ、自分を殴れと言う。
セリヌンティウスもまた一度だけ
メロスを疑ったことを告げ、二人は
殴り合い、抱き合って号泣する。
王は敗北を認め、自分も「仲間の
一人にしてほしい」と言う。
「信頼」の尊さ、裏切りの誘惑とその
克服を前向きにうたいあげ、国語
教科書の定番となった名作。
メロスが自身の全裸に気づいて
赤面するラストなど、太宰一流の
ユーモアもにじみます。
👉より詳しい情報はこちらで。
・走れメロス(太宰治)のあらすじを簡単に【&詳しく】心理を考察して…
・太宰治 走れメロスで感想文:人質や王の心理を考えよう
先輩作家の井伏鱒二氏に呼ばれ、
甲州御坂峠の天下茶屋に身を寄せた
「私」が、そこで話の持ち上がった
甲府の娘さんと見合いし、結婚を
決めるまで。
折々に、富士の見え方について
美的な考察が加えられて
随筆的にもなる。
特にバスから見えた月見草の残像は、
富士に「立派に相対峙(たいじ)して
いる」ようで心に残り、「富士には、
月見草がよく似合う」と思う。
明るく前向きで、かつ”日本一の山”
富士が美的に鑑賞されることも
あってか、国語教科書によく採用
されてきた私小説。
太宰ならではの美意識とユーモアが
随所に光ります。
まとめ
さて、いかがでしょう。堕罪(だざい/罪におちる)してしまい
そうで危なく、またそれゆえにこその
妖しい魅惑でいざなう太宰治の世界。
その底知れぬ魅力の一端を感じ取って
いただけたでしょうか。
一つでも面白そう、自分に合いそうと
思われた作品があれば、さっそく
本を入手して読み始めてくださいね。
感想文やレポートの素材としても
どれも、もちろん文句なしですよ!
👉上記以外のものを含め、太宰の本を
早く安く手に入れたい
という場合は、Amazonが便利です。
こちらから探してみてください。
太宰治の本:ラインナップ
銀座のバー”ルパン”でくつろぐ太宰(林忠彦撮影)
ん? 感想文に書けそうなテーマは
浮かんできたけど、具体的に
どう進めていいかわからない( ̄ヘ ̄)?
そういう人は、「感想文の書き方
《虎の巻》」を開陳している記事の
どれかを見てくださいね。
👉当ブログでは、日本と世界の
種々の文学作品について、
「あらすじ」や「感想文」関連の
お助け記事を量産しています。
参考になるものもあると思いますので、
こちらのリストからお探しください。
・「あらすじ」記事一覧
・≪感想文の書き方≫具体例一覧
ともかく頑張ってやりぬきましょー~~(^O^)/
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