カルメン【小説とオペラの違い】あらすじ&ロマ(ジプシー)への視線

カルメン【小説とオペラの違い】あらすじ&ロマ(ジプシー)への視線

サクラさん
カルメンといえば、
オペラやバレエの
情熱的なヒロイン
ですよね(😻)

ハンサム 教授
男を狂わせるその情熱が
どこまで本気なのか
わからない魔性の女
でもありますね;^^💦

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サクラさん
そうなんですか(🙀)

日本の映画や歌謡曲にも
『カルメン故郷に帰る』
『河内カルメン』、
それにピンクレディー
の『カルメン』などが
あって、魔性っぽい側面
はあっても根は純情
なのでは?…

ハンサム 教授
そのへんは多分すべて
オペラのカルメンから
来るイメージだろうと
思います。

サクラさん
『カルメン故郷に帰る』
の続編に『カルメン純情
す』というのもあって、
私は”純情”な熱情家だと
思っていたんですが、
プロスペル・メリメの
原作小説ではそうでも
ないということ❓


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ハンサム 教授
ええ。どちらかというと
娼婦的で、男を狂わせる
魔性の女──宿命の女
(ファム・ファタル)──
の気配が濃厚ですね。

サクラさん
それはますます面白い。

違いをじっくり説明
してもらえます?


というわけでおなじみ”あらすじ暴露”
サービスの第245弾(“感想文の書き方”
シリーズとしては第332回)となる今回は、
『カルメン』(Carmen)❕💃💃💃

その焦点はもちろんヒロインのカルメン❣

あまりにも有名なジョルジュ・ビゼー
作曲のオペラ(1873-4)のカルメンと
プロスペル・メリメの原作(1847)とでの
人物像の違いを浮き彫りにするとともに
この問題に関ってくる彼女の出自──
「ジプシー」(ロマ族)──の描かれ方を
めぐって、リサーチしていきます。




まずどんな世界かというあらましを、
英国ロイヤル・オペラの予告編で
ご覧いただきましょう。👇 
   

というわけで、本日の内容は
ザッと以下のとおり。



オペラの簡単なあらすじ

まずはオペラ『カルメン』全四幕の
あらすじを簡単にたどっておきましょう。

その途中、メリメの原作小説と大きく
異なる部分に👉➎のような印を
つけていきます。

その下線部をクリックすれば、後半の
原作小説がオペラと違うところ」で
まとめてある違いの理由・背景の解説
➊~➎に飛んでいけるという仕組みです。

  
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💃【第1幕】セビーリャ、タバコ工場前の広場

セビーリャのタバコ工場前の広場に
竜騎兵(衛兵)たちがたむろしている。

伍長である👉➊ドン・ホセ・
リザラベンゴア
を訪ねてきたのは
👉➋郷里のフィアンセ、ミカエラ

が、不在だと言われ出直すことにする。

トランペットが交代を告げると
そのドン・ホセが兵士を従えて入場。

タバコ工場の休憩を告げる鐘が鳴ると
若い女たちがタバコを吸いながら
出て来、男たちが寄ってくる。

そこへ男たちのお目当てのジプシー女、
カルメンが登場し、男たちは口々に
口説こうとするが、カルメンは
「恋は野の鳥、決してなつくことはない」
と歌い、一人だけカルメンに関心を
示さないホセに花を投げつける。


女たちが工場に戻ると、ミカエラが
再登場してホセと再会。

ホセの母から手紙を預かってきた
ミカエラはホセと親しく語り合い、
手紙を読んだホセはミカエラとの
結婚を誓う。


やがて工場で喧嘩騒ぎが起こり、
その張本人として連行されて
きたのがカルメン。

上官のスニガにホセに彼女を牢獄へ
繋いでおくようにと命じる。

カルメンはホセに誘いをかけ、
城壁近くの酒場に行こうと誘う。

誘惑に負け、👉➌ホセは縄を解いて
カルメンを逃がしてしまい

営倉入りとなる。

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💃【第2幕】セビーリャの城壁近くの酒場

多くの男女が踊り、飲み騒ぐところへ
花形闘牛士のエスカミーリョが登場し、
みなに請われて闘牛士の歌を歌う。


カルメンに目を付けて口説くものの、
軽くあしらわれ、その場を後に。

人気のなくなった酒場でカルメンらは
密輸商人たちから仕事に誘われるが、
カルメンは「ホセが来るから」と断る。


そこへ営倉から出てきたホセが登場。

歓待したカルメンが踊りだしたところへ
帰営ラッパが響き、ホセは兵舎に戻ると
言い、カルメンは不機嫌に。

ホセは以前カルメンが投げつけた花を
取り出し、「俺のすべてを君に
あげよう」と歌う。

愛しているなら一緒に逃げようとする
はずと言いだすカルメンに、ついには
別れを告げるホセ。

そこへ上官のスニガが現れ、カルメンを
巡って争い合ううちに、背後に隠れて
いた密輸商人たちに捕まり、結局、
カルメンともども👉➍密輸グループの
仲間に加わる羽目に



💃【第3幕】山の中

暗い山中で休息する密輸グループ。

仲間たちとカード占いに興じるカルメンに
出るのは死を暗示する不吉なカードばかり。

そんな山中へミカエラがホセを
連れ戻そうと、「何も怖くないわ」
と自らを鼓舞しながらやって来る。

そこへカルメンを思いきれずにいた
👉➎エスカミーリョも来て、ホセと
決闘しそうになる
が、カルメンら
一同が二人を止める。

  


エスカミーリョはいつか決着を付ける
ために皆を闘牛へ招待すると言い、
その場を去る。

物陰に隠れていたミカエラが出てきて
ホセと再会し、一緒に帰ろうと哀願
するが、ホセはカルメンから離れない
と拒む。

ところが、ミカエラが母の危篤を
告げると、ホセはとたんに態度を変え、
「必ず戻ってくる」とカルメンに
言い残してミカエラとともに去っていく。

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💃【第4幕】闘牛場の前の広場

賑わいを見せる闘牛場の前の広場へ
闘牛士たちが入場してくると、その中に
エスカミーリョとカルメンの姿も。

カルメンの友がホセが来ているから
用心するようにと知らせるが、
「彼なんか怖くはない」と気にとめない。

闘牛場へと人々が入場すると、残された
カルメンのもとへホセが姿を現し、
「過去は忘れて二人で新しい人生を
はじめよう」と迫る。

「私たちの仲はもう終わった」と言う
カルメンにホセはなお食い下がるが、
「殺されようともエスカミーリョを
愛している」とカルメン。




自分の贈った指輪をカルメンが
投げ捨てるのを見て激昂したホセは
ついにカルメンを刺し殺す。

「俺が殺した!」と叫びながら
カルメンの名を呼び続けるホセ。

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原作小説がオペラと違うところ

さてここからは、上記「あらすじ」中の
ところどころ、➊~➎のに印をつけて
きましたオペラと原作とはこう違うという
5つの注目部分について、その違いの内容や
変えられたことの意味・理由について
多角的な考察を加えていきます。

なお小説からの引用文堀口大学訳
『カルメン』(新潮文庫)によります。


➊ドン・ホセの素性は?

「ドン・ホセ・リザラベンゴア」という
フルネームはオペラでは一度出てくる
だけで、それについて何かが言われる
ことはありません。

が、原作小説は、フランスから来た
考古学者である「私」が全体の語り手
としてホセからの伝聞として物語を伝える
という構成で、この「リザラベンゴア」は
「バスク」貴族の姓名だとホセ自身が
説明します。
👉「バスク」はスペイン北東部から
フランス南西部にかけての地域に居住する
少数民族の名で、その言語は周辺諸言語と
まったく系統を異にすることが
知られています。


(バスクの民族衣装;写真出典👉Pinterest)

より詳しくはこちらで。
👉 Wikipedia バスク地方


つまり「私」と出会った時点でのホセは
すでに「ドン・ホセ・ナヴァロ」の名で
知られる凶悪な山賊として追われる身なの
ですが、もとは高貴で少数民族出身者でも
あるのです。

生粋のスペイン人ではないという点で
カルメンの「ジプシー」と通じ合うわけ
ですが、小説では事情はもう少し複雑で、
住み着いた地域の言語を自在に話すように
なるというジプシーの一人として、彼女は
バスク語も「かなりよくあやつる」と
されているのですね。

このことがホセのカルメンに対する
気のゆるみ、そして愛への動因となって
ゆくのですが、詳しくは👉➌カルメンは
どう逃げたか
へ。


➋許嫁のミカエラが訪ねて来る?

このミカエラと彼女に手紙を託すホセの
母親(登場はしない)とがオペラの
ストーリーでは重要な役割を果たして
いますが、どちらも小説には出てきません。

つまりミカエラの存在によって
カルメン⇔ホセ⇔ミカエラ》という
悩ましい三角関係を作り、これを後半
ホセ⇔カルメン⇔エスカミーリョ
というもう一つの三角関係に重ねます。

オペラはこれで話が盛り上がるわけ
ですが、小説の三角関係は後者のみ…

というか、《ホセ⇔カルメン⇔X》で、
X には多くの男が代入されていく
ことになるのですね。

   


また母親を思う気持ちやその死の
ショックも、オペラではホセの葛藤の
重要な要因となりますが、小説には
ありません。

メリメの小説は、全体の語り手がフランス
から来た考古学者だという設定もあって、
知的に乾いた筆致で進んでいきます。

オペラの脚本はこれをぐっとロマンティック
(またはメロドラマティック)な形に変形した
ものだということが、原作を読むとよく
わかります。

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➌カルメンはどう逃げたか

オペラでは酒場に行こうという誘惑に
負けたホセがカルメンの縄を解いて
しまうという展開ですが、小説では縄で
縛ることはなしに、連行する途中で、
会話によって巧みに油断させられ、
逃げられてしまうのですね。

カルメンがバスク語をあやつることは
➊ドン・ホセの素性は?のところでふれ
ましたが、彼女はそのバスク語で、
自分はもともとホセと同じナヴァレの
生まれだが、ジプシーにさらわれて
セヴィーリャへ来て、故郷の母のもとへ
帰る金をためるために働いているのだと
切々と語りかけるのです。




が、これは「すべて嘘」。

「あの女の口から出るこうしたことの
全部が、すべて嘘でした」とホセは
「私」に語ります。

「あの女が一生のあいだに、ただの
一度でも本当のことを言ったことが
あるかどうか」さえわからないが、

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そのくせ、あの女に何か
言われると、私はそれを信じて
しまうのでした。
あの女のバスク語はへんてこでした。
そのくせ私はあの女をナヴァレ生まれ
だと信じました。
あの目だけでも、それにあの口、
どの一つを見てもジプシーに
ちがいない女ですのに

👉「ジプシー」(Gypsy)は現在では「ロマ族」
と呼ぶのがPC(政治的に正しい)とされる、
ヨーロッパ各地に分散した流浪の民。

その語源が「エジプト」(Egypt)から来ている
ことも示すように発祥の地は中東ないし
インドと見られ、肌は浅黒く、目は黒く鋭い
人が多いといわれています。

つまりだいたいこんな外見。 👇


(写真出典:SHAREAMERICA)

ロマ族をめぐっては、こちらでさらに
詳しく情報提供・検討していますので、
どうぞご参照ください。

愛を読む人のハンナはロマ族(ジプシー)出身?原作本を照合すると…
   
   
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こうして「正気をなくし」「酔っぱらい
みたいになって」いたホセに、カルメンが
「あなたを突くからころんでくれさえ
したら…」とささやきます。

ついこれに乗って「やってごらんよ」と
言ってしまったが百年目、カルメンは
ただちにそれを実行し、あっという間に
逃げ去ってしまったのです。

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➍どのように密輸業者の仲間入りをするか

ホセが営倉からどうやって出て来るかも
オペラでは描かれませんが、小説では
まずカルメンがやすりと金貨の入った
大きなビスケットを差し入れます。

やすりはもちろん脱獄を勧めるもの
ですが、それが大罪と知るホセは
脱獄は考えず、金貨も「つっ返して
やりたい」と思います。

やがて解放されると、連隊長の家の
歩哨に立たされますが、そこへ聞こえて
きたのが、ジプシー仲間とともに歌い、
笑うカルメンの声。

顔も見え、彼女が士官らに言い寄られる
声も聞こえてくると、ホセの「顔へ血が
逆流し」ます。

どうやら私はこの日から
本気であの女を愛するように
なったらしいのです。
なぜかというに、私はあの中庭
(パテオ)へあばれこんで、
あの女に甘くささやいている
青二才どもの横腹に、自分の腰の
サーベルで、風穴をあけてやろうと
三度も四度も思ったほどでしたから。

     


この「拷問」が一時間も続いたあと、
カルメンは行きずりにホセを見つめて
いわく「故郷のお兄さん、おいしい
揚げ物が好きだったら、トリアナの
リリアナ・パスチアの店で召し上がれ」

こうなると、ホセがその店へ行かない
わけもなく、そこで例の密輸仲間に
取り込まれていきます。

しかもオペラとは違って、それが
カルメンのホセへの愛から来るものか
どうかは疑わしく、役人との対応などに
軍人がいるのが都合がよい(つまり
汚職をさせる)というのが主な
動機のようなのですね。

カルメンは状況次第で「あたし、あんたに
惚れてるらしいわ」などと口にしますが、
➌カルメンはどう逃げたかのところで
見たとおり、「あの女の言うことは
すべて嘘でした」というホセの述懐が
正しければ、これももちろん「嘘」
ということになります。

➎ホセの恋敵は闘牛士だけか

オペラでは、ホセの恋敵となる人物は
花形闘牛士のエスカミーリョ一人に
絞られますが、小説の方ではこれが
何人も次々に出てくることは
➋許嫁のミカエラが訪ねて来る?
ふれたとおりです。

そしてホセはそれらの男と次々に闘って
殺していくことで、完全に犯罪者と
なっていくのですが、男たちのうち
最後に登場してホセを苦しめるのが
やはり闘牛士なのですね。

ただし名前は違って、リュカス。

オペラでなぜエスカミーリョになった
のかはわかりませんが、ただのリュカス
よりいかにも大層な名前で、歌にする
のにゴロがよかったのかもしれません。


小説のカルメンは「それほどリュカスが
好きなのか」とホセに訊かれて
「あんたに惚れたと同じように」
あの男に惚れたけれど、今はもう
「だれにも惚れてはいない」、あんたと
暮らすのももういやだと言います。

本当かと念を押すホセに対して
「いやっ! いやっ!」と地団駄を
踏んで、かつてホセの贈った指輪を
草むらに投げ捨てるや、ホセは彼女を
刺し殺してしまう…




このラストシーンは、それ自体としては
オペラと原作とでそう変わらないように
見えます。

ただその背景──カルメンはホセ以外の
男たちも誘惑して、ホセと闘わせて
きたことなど──に大きな違いが
あるのですね。 

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付録【日本のカルメン】

さあ、これでもう十分におわかりですよね。

オペラ『カルメン』とメリメの原作小説
『カルメン』との間に、ヒロインの
人物像、描かれ方にどんな違いがあるか。


ん? 冒頭の会話で言及されていた
“日本のカルメン”はどうなのか?

そうそう、それが残っていましたね。

それではまず、ピンクレディーの
1977年のヒット曲『カルメン ’77』を
ご視聴ください。 👇



そういえば、カルメン・マキという
芸名の歌手もいましたね。

ともかくそれぐらい、”カルメン”の名は
昭和日本の大衆文化に魔性のパワーを
及ぼしていたのです。

映画でも、タイトルに”カルメン”を
含む作品を挙げだしたらキリがない
かもしれません。

ここはその中から、よりすぐりの名作
2本を紹介しておくにとどめましょう。

まずは木下恵介監督、高峰秀子主演の
『カルメン故郷に帰る』(1951 👇)


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もう一つは鈴木清順監督、野川由美子
主演の『河内カルメン』(1964 👇)です!


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まとめ

さて、ともかくこれくらいの知識・
情報があれば、もうバッチリでしょう。

カルメンをめぐって、誰かさんにちょいと
知ったかぶりをしてやろうかという場合も
あるいは読書感想文やレポートを
書こうかという場合も。

もしそれをジプシー(ロマ族)の
民族問題に絡めて書いたりすれば。
非常に高度なレポートになる
可能性もありますよ。
👉ロマ族の問題でドイツ・アメリカ
合作映画『愛を読むひと』に興味を
もたれた方は、是非こちらも
ご参照ください。

愛を読む人(泣ける映画と原作) ハンナはなぜ怒った?他5つの”なぜ”

愛を読む人⦅缶だけ受け取るマーサー他5つの”?”⦆原作照合ネタバレ

     


ん? 書けそうなことは浮かんで
きたけど、具体的にどう進めていいか
わからない( ̄ヘ ̄)?

そういう人は、ぜひこちらを
ご覧くださいね。
👉当ブログでは、日本と世界の
文学や映画の作品について
「あらすじ」や「感想文」関連の
お助け記事を量産しています。

参考になるものもあると思いますので、
こちらのリストからお探しください。

「あらすじ」記事一覧

≪感想文の書き方≫具体例一覧


ともかく頑張ってやりぬきましょー~~(^O^)/


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