愛を読む人⦅缶だけ受け取るマーサー他5つの"?"⦆原作照合ネタバレ

愛を読む人⦅缶だけ受け取るマーサー他5つの”?”⦆原作照合ネタバレ

サクラさん
映画『愛を読むひと』は
心にズシリと重いものを
残しましたが、“❓”
部分も残ってます。

たとえばラスト近く、
ニューヨークの家で
あのユダヤ人女性作家は
中身のお金は拒否する
のになぜ容器の紅茶缶
だけもらうことにする
んでしょうか❔

ハンサム 教授
非常にデリケートな
部分ですが、そこは原作
『朗読者』も同じです。


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サクラさん
そもそもあの作家は強制
収容所の火災を奇跡的に
生き延びた人ですが、
ハンナ(ケイト・ウィン
スレット)が裁かれる
例の裁判には出廷して
いましたっけ?

ハンサム 教授
はい。でも別の若い
女優(アレクサンドラ・
マリア・ララ)が演じて
いて、最後に出てくる
のは、裁判では老いた
母親の役をしていた人
(レナ・オリン)がだいぶ
若返って出て来る…
という少々ややこしい
ことになってるん
ですよ;^^💦

サクラさん
あ~ そうなんだ~(🙀)
道理で彼女が出て来た
時はなんだか見たこと
ある顔だな~って
思ったんですよ。



そのへんも原作通り
ですか?

ハンサム 教授
いや、そこもまた微妙に
違います。

原作ではその本が出版
されるのは裁判が終わ
ってからのことで、
著者とその母が出廷する
こともありません。

サクラさん
じゃあ、彼女とマイケル
(レイフ・ファインズ)は
ニューヨークで初対面
だった?

映画では裁判所の廊下で
出廷前に目が合って
お互いニコッとして
ましたけど…

ハンサム 教授
そうなんです。

20年後の彼女がこの対面
を思いだしたかどうかは
わかりませんでしたが、
再会場面での彼女は様々
な感情に突き動かされて
興奮しつつも、やがて
その興奮を鎮めたように
見えましたね。

サクラさん
ええ。そこにはマイケル
への好感も作用している
のかなと思いました。

ああいう人でなければ
まったく違う反応に
なっていたかも……

ハンサム 教授
それは彼がハンサム
だから?

サクラさん
ま、それも含めて(😻)…

ともかくそういった
微妙な違いを含め、
紅茶缶やあの作家を
めぐる“❓”を一つ一つ
取り上げて解説して
もらえませんか(😹)


というわけでおなじみ”あらすじ暴露”
サービスの第234弾(“感想文の書き方”
シリーズとしては第321回)となる今回の
素材は、ケイト・ウィンスレットが見事に
オスカーをゲットしたアメリカ・ドイツ
合作映画『愛を読むひと』(The Reader,
スティーブン・ダルドリー監督、2008)
   👇 

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第81回アカデミー賞では主演女優賞の
ほか作品賞を含む5部門にノミネート
されたこの名作に、感動しながらも
残ってしまうかもしれない“❓”

それらの疑問に、原作小説『朗読者』
(👇)を照合しながらお答えしていこう
というのが本日の課題です。


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なお作者はドイツの作家ベルンハルト・
シュリンク、原題はDer Vorleser
英訳題は映画と同じThe Reader


まずは未見、または忘れてしまった
という方のために、映画予告編を
お見せしておきます。👇 
   

というわけで、本日の内容は
ザッと以下のとおり。


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簡単なあらすじ(ネタバレなし)

まずは、ごく簡単なあらすじを
ネタバレにならないよう配慮しつつ、
後半の半ばまでご紹介します。

1958年、ドイツの高校生マイケル
(15歳)は下校中に急病を発し
嘔吐しているところを、通りすがり
の市電の車掌ハンナ(36歳)に
助けられる。

1週間後、お礼を言いに行った
ことが機縁で二人は深い仲に。

彼が高校で様々な本を読んで
いることを知ったハンナは、
性行為の前後などに本の朗読を
させては熱心に聴き入る。




やがてハンナは上司から事務職への
昇進が言い渡されるが、その日の
うちに姿を消してしまい、
マイケルとはそれっきりになる。

1966年、法学部生になっていた
マイケルは研究のため傍聴に行った
ナチス戦犯の裁判で、被告席に
ハンナの姿を見る(叫び)。

強制収容所の看守の一人であり、
また火災の際に収容所を開錠
しなかったせいで300人の
ユダヤ人を死なせてしまった
ことについて責任を問われて
いたのだ…

👉結末を早く知りたいという人は
原作小説も参照しながらラストまで
詳しくたどったくネタバレありのあらすじを
こちらでご覧ください。

愛を読む人(泣ける映画と原作) ハンナはなぜ怒った?他5つの”なぜ”

    



原作照合で解く5つの“❓”

さてここからは、映画全体を鑑賞した
けれども、いくつかの“❓”が残ってしまった
という人を主な対象として、原作小説
との照合や、映画作品自体の精細な
分析によって、疑問点の解明を
進めていきたいと思います。

まずは、事実確認から。

➊あの本のタイトルと著者名は?

例の裁判で裁判長が持ち出して「これを
知っていますか」とハンナに尋ねる
あの分厚い本ですが、そのタイトルは
Mother and Daughter:A Story of Survival
(母と娘──生存者の物語)。

  


ん? ドイツ語原題は?

それはないと思います。

なにしろ原作では、裁判後にそういう
本が出たと書かれるだけで、タイトルにも
著者名にも言及がありませんから。


だからあくまで映画ででっちあげられた
名前ですが、著者は Ilana Mather
(イラーナ・マーサー〔ドイツ語読み
ではマーター〕)。
 
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➋作家(娘)が証言したハンナの「噂」とは?

で、このまだうら若きイラーナ・マーサーが
証言台に立ち、まず居並ぶ被告たちの顔を
確認しながら、ハンナを含めこの6人
全員が看守だったと証言します。

そして、次にハンナだけは他の看守と違う
ことをしているという「噂」があったと
暴露し始めるのですね。

それすなわち、「お気に入り」の若い娘に
食物とベッドを与え、夜には部屋に呼んで
いたという異例の事実。

ここでマーサーは「私たちの想像は…」と
言いかけて、それ以上は言わず(多くの
人が性的なことを想像したでしょう)、
実際は「本を読ませていた。自分の
ために…」と証言したのです。

     


この言葉の直後、カメラはマイケルの表情を
捉えますが、それは当然で、これを聞いて
彼は邸内でただ一人、また別の意味で
ギクリとしていたはずなんですね。

つまり「本を読ませる」というのは
かつて愛し合っていたころ、ハンナが
彼にしきりにねだったことでも
あったから。


これに続けてマーサーは、だから自分たちは
ハンナのことを「知的で人間味のある」
(more sensitive and human)、また
「〔他の看守より〕親切な」(kinder)
看守だと思っていたと告げます。

この好意的とも聞こえる言葉は、ハンナ
への擁護につながることを一瞬、期待
させますが、それがをたちまちしぼむ
というのも切ない展開でした。

つまり彼女が続けて、声を震わせながら
口にするのは、その娘たちもハンナは
結局アウシュヴィッツへ送った、
「それが親切ですか?」(Is that kinder?)
というもの。
  
  

つまりマーサーは、裁判官や他の証言者
たちと違い、ハンナの人間性について
一応の理解を示しはしながら、でも、
彼女を救いたいというような気持ちは
一切なかったことが、ここではっきりと
示されたといえます。

すでにふれたように、原作ではこの本が
出版されるのは裁判終了後なので、
この一連のシーンは映画だけのもの。

であれば、これがあるとないのとでは、
20年後のマイケルとの再会においての
マーサーの心理も、原作と映画とで
違いが出て来るはずですよね。

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➌ハンナはなぜ報告書を書いたと認めたのか

裁判でのハンナは、彼女が責任者だったと
する他の5人の看守の示し合せた偽証と、
イラーナ・マーサーの上記の証言により、
ますます不利な立場に追い込まれます。

それでも彼女は、自分は職務上の責任を
果たしていただけだと主張し、裁判長に
「あなたならどうしていましたか」とか、
「そもそも就職したこと自体が悪いのか」
とか問いかけるなど、抵抗の姿勢を
崩しません。


ところが、この姿勢が一転してしまうのが
筆跡鑑定のためにペンと紙を渡された時
なのですね。

      


つまり収容所の火災(これによりマーサー
母子以外の全員を死なせてしまった)の
報告書を実際に書いたのはハンナだと
5人の看守が口をそろえて主張したため、
潔白なら筆跡が違うことを証明しろと
求められたわけです。

そして、なぜかハンナはここで、
報告書は自分が書いたと認めて
しまうのです。


映画を終りまで観た人に浮かぶであろう
もどかしい“❓”は、すなわち、なぜここで
ハンナは「読み書きのできない私に報告書が
書けるわけはありません
」と言って
しまわなかったのか?
ということでしょう。

これについて原作の主人公(ミヒャエル)は、
のちのち様々に思いめぐらしてから、
こういう結論に至っています。

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彼女がその子たちを選んで
朗読させたのは、どっちみち
アウシュヴィッツに送られて
しまう前に、最後の一か月だけ
楽をさせてやりたかったからだ。
〔中略〕
彼女には計算や策略はなかった。
自分が裁きを受けることには
同意していたが、ただそのうえ
文盲のことまで露頭するのは
望んでいなかったのだ

彼女は自分の利益を追求したの
ではなく、自分にとっての真実と
正義のために闘ったのだ。

     

法廷で「文盲の私に書けるはずがない」
と言ってしまえば、彼女の刑期は他の
元看守と同じ4年程度ですみ、「無期
懲役」は免れていたにちがいないのですが、
それでもそれは言いたくなかった。

ひょっとすると(これは原作にも書かれて
いないことですが)、法廷でハンナは
マイケルの存在に気づいていましたから、
文盲であることをほかでもないマイケルに
知られる
ことだけは死んでも避けたい……
という心理が働いたのでしょうか❔

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➍マーサーはなぜ紅茶缶だけ受け取るのか

その後、ドラマが以下のように展開する
ことは映画も原作もほぼ同じ。

  1. ハンナの服役
  2. マイケルの結婚・離婚
  3. 朗読テープを刑務所へ送り続ける
  4. ハンナの文字習得
  5. 出所前の面会
  6. ハンナが金をマイケルに託して自殺
  7. マイケルがマーサーに面会

上記の「面会」の際のマイケルの
態度があんなに素気ないものでなかった
ならば、あるいはハンナは死を選ば
なかったのでは❓

とも思わせますが、ともかくその遺書には
銀行口座にある全財産を「あの娘さん」に
渡してほしいというマイケル宛ての遺言が
あり、マイケルはこの遺志を重く受け
とめてニューヨークへ飛んだのです。


面会しての会話の内容には映画と原作で
そう大きな違いはありません。

ただ映画では対面する二人の表情にいかにも
深く屈折した複雑な感情がにじみ出ていた
のに対して、原作に心理描写は少なく、
コトはむしろ淡々とほとんど事務的に
進みます。

マーサーが感情をむき出しにするのは、
マイケルが15歳でハンナと関係を持って
いたことに言及した際ぐらいでしょうか。

なんて粗暴な女なのかしら。
十五歳でもてあそばれることに、
あなたは耐えられたんですか?


映画のマーサーがこんなことまでは言わない
ところを見ると、やはり彼女は原作より
いくぶんか多くマイケルに(そしてハンナ
にも?)同情と敬意を感じていたのかな?
と思わされます。

    


そして、小さな紅茶缶に入れられた紙幣
(原作では小切手)の受け取りはあくまで
拒否しながら、容器として使われたこの
缶だけはもらっておくという決断は
原作も同じ。

「この缶だけ、いただいておきます」
という彼女の言葉が、原作ではこの章を
締める最終行になっていて、その理由に
ついて説明があるわけではありません。

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ただ、その前に彼女が言っていたこと──
収容所にいたころに同じような缶を持って
いて、子供ながらに大事なものを入れて
いたのに盗まれてしまった──を思い出して
非常に懐かしい感情に襲われた…

という映画でもしっかり表現されていた
事情が大きく関与していることは
明らかでしょう。

もちろんまったく同じ缶ではないけれど、
子供時代の自分とまったく同じように
大切なものを缶に入れておいたハンナに
ここではじめて、彼女は心の通じ合いの
ようなものを感じたように思われます。

  


もしハンナに対して憎しみしかないので
あれば、この缶という形見を貰い受ける
こともなかったでしょうから。

しかも彼女は、この缶を卓上に飾って
あった家族写真(自分以外はおそらく
死者ばかりの)の横にさりげなく
置きますよね。

これは一つの「家族扱い」とまでいうのは
言い過ぎだとしても、ある種の「ゆるし」
の感情がなければできないことなのでは
ないでしょうか。

この意味で、マーサーの最後のこのさりげない
行為は、映画の観客に(原作にはない)
「救い」をもたらすものとなっています。
👉この”後年の”マーサーを演じている
女優が、冒頭の会話でもふれたように、
裁判場面では母親役をしていたのと
同じ人で、レナ・オリンです。

彼女の魅力が全開した30年前の映画
『存在の耐えられない軽さ』に
ついてはこちらをご参照あれ。

存在の耐えられない軽さ(小説/映画)の哲学を考察【あらすじと名言】

         


➎マイケルはなぜ娘とハンナの墓に参るのか

原作にない「救い」といえば、映画には
さらに、上記のニューヨークでのシーン
のあとに続く、本当の意味でのラスト
シーンがありますが、これもまた一つの
「救い」として働くように作られていた
ように思われます。

つまり映画には初めと終わりに1995年の
こととされる額縁的な部分があって、
ここに、マイケルのすでに成人した娘が
登場するのですが、これも原作には
まったくないことなんですね。

そしてこのラストシーンで、娘を車で
連れ出したマイケルは、彼女をハンナの
墓へ案内します。

  


これは大変、示唆的なエンデイングで、
その意味をどう読むかは観客個々人に
ゆだねられるのでしょう。

ただハンナの霊魂に寄り添いたい人に
とっては、立派な墓を作ってもらえ、
お参りもしてもらえてよかった…
という一つの「救い」として受けとめ
られるのではないでしょうか。

そしてその墓参に、愛した男の娘──
両親の離婚によっていくぶんか不幸な
少女時代を過ごした、その点で自分と
通じ合うかもしれない若い女性──も
来てくれた。

マイケルは地下のハンナにそんなことも
感じ取ってほしかったのかもしれません。
👉ひょっとしたらこれとつながっている
のかもしれない、第6の”❓”として
ハンナの出自──ロマ族の可能性──
の問題を挙げることができるかも
しれません。

それについてはこちらで詳しく
情報提供・検討しています。

どうぞご参照ください。

愛を読む人のハンナはロマ族(ジプシー)出身?原作本を照合すると…

   

👉ロマ族の女性をヒロインとした有名な小説で
オペラやバレエにもなっているのが
『カルメン』。

そのあらすじや民族問題については
こちらで詳しく情報提供しています
ので、是非ご参照ください。

カルメン【小説とオペラの違い】あらすじ&ロマ(ジプシー)への視線

    


またルーマニア(トランシルヴァニア地方)の
ロマ族が登場する有名な小説がブラム・
ストーカーの『ドラキュラ』。

その内容や問題性についてはこちらで。

ドラキュラのあらすじ【簡単&詳しく】原作小説と日本の意外なつながり

    



まとめ

さて、これでもう十分ご理解
いただけましたよね?

映画『愛を読むひと』の5つの“❓”

やはり原作小説『朗読者』をきっちり
読みこむことで見えてくるものが多い
ということもまた、よくわかって
いただけたのではないでしょうか。



ともかくこれくらいの知識・情報が
あれば、もうバッチリでしょう。

誰かさんにちょいと知ったかぶりを
してやろうかという場合も、あるいは
読書感想文やレポートを書こうか
という場合も。

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ともかくテーマは愛であるのと同時に
戦争、そしてその事後処理、責任追及
…という重い、重い問題です。

ほかの戦争映画と比較してみるという
のも、レポートなどを書くには
よい方法ですね。
👉『シンドラーのリスト』など第二次世界大戦を
扱った映画や、『夜と霧』などの記録文学を
めぐっては、これらの記事で詳しく
情報提供しています。

ぜひご参照ください。

シンドラーのリスト 赤い服の女の子の意味は?詳しいあらすじ(原作照合)




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夜と霧 あらすじと感想文/レポートの書き方【2000字の例文つき】

 

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👉またレイフ・ファインズやケイト・
ウィンスレットの演技に感動して、彼らの
ことをもっと知りたいと思われた方は
こちらの記事もぜひご参照ください。

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ん? 書けそうなことは浮かんで
きたけど、具体的にどう進めていいか
わからない( ̄ヘ ̄)?

そういう人は、ぜひこちらを
ご覧くださいね。
👉当ブログでは、日本と世界の
文学や映画の作品について
「あらすじ」や「感想文」関連の
お助け記事を量産しています。

参考になるものもあると思いますので、
こちらのリストからお探しください。

「あらすじ」記事一覧

≪感想文の書き方≫具体例一覧


ともかく頑張ってやりぬきましょー~~(^O^)/


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