太宰治 女生徒の名言【あらすじと解説】 女はいやだ…曲折する意識

太宰治 女生徒の名言【あらすじと解説】 女はいやだ…曲折する意識

やあやあサイ象です。

「感想文の書き方」シリーズも
早いもの今回で第148回となり…

「あらすじ」暴露サービスとしても
いよいよ大台に迫る第96弾。

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今回は短篇の名手太宰治の傑作中の傑作
『女生徒』(1939。新潮文庫『走れメロス』
所収👇)にちりばめられた名言を拾い
ながら、あらすじと解説をお届けして
いきますよ~((((((ノ゚🐽゚)ノ
   

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ごく簡単なあらすじ(要約)

さて、その「あらすじ」ですが、
ぐっとつづめて言ってしまうと
要するにこれだけのことなんです。

母と二人ぐらしの女生徒の、朝の
目覚めから就寝までの1日の経過。

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通学中や学校で出会う人々、また
家への「お客様」に接して揺れ動く
心理が、亡父や遠方に住む姉の
思い出をはさみながら、感受性
豊かにつづられる。

ともかく、これがなかなかの傑作で、
文芸時評で川端康成らから激賞され、
北村透谷記念文学賞の次席も獲得。

太宰の代表作の一つとなったわけですが、
その素材(元ネタ)となったのは未知の
女性読者、有明淑(当時19歳)が
送り付けてきた日記とのこと。
(👉 Wikipedia「女生徒」

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ん? それで? 
このお話のどこが面白いの?

アハハ、そうですよね。

ストーリーの展開を楽しむ…という
タイプの作品じゃありませんね。


じゃ、何が面白いのかといえば、
みずみずしい文章の流れと、そこに
表現されてゆく感受性の強い人間観察…
といったところになるでしょうか。

そうであれば、感想文とかレポートとか
(ひょっとして論文?)を書こうか
という人は、まずその文章をじっくり
味わってみないとお話になりませんよね。


え? そんな時間はない?

ハハハ、仕方ありませんね。

そういう人のために、できるだけ原文を
入れ込んだ「かなり詳しいあらすじ」を
以下に提供しますので、ぜひ
ご活用ください。

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かなり詳しいあらすじ

それでは参りましょう。

これは名言だ! と言えそうな文章は
青字で示し、また問題になりそうな部分は、
👉を入れて考察・解説を試みて
いますので、是非そこも立ち止まって
見て行ってくださいね。

その👉でも解説していますが、
この小説、語り手の”意識の流れ”を連綿と
追っていく前衛的ともいえる作品。

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だから、切れ目はまったくないのですが、
以下では、わかりやすさに配慮して
これを勝手に「起・承・転・結」の
4部に分けています。

「 」内と「”」印の囲みは
原文の引用で、太宰の名言
いえそうなものも含んでいます。

👩【起】

あさ、眼をさますときの
気持ちは、面白い

👉これが冒頭の第1文。

第2文は「かくれんぼのとき」
に始まって10行も続く長い
もので、目覚めの瞬間の
”意識の流れ”を捉えようと
した凝った文章です。


朝は健康だなんて、あれは嘘」で、
悲しいことがたくさん浮かんできて、
灰色、虚無、「私はいつも厭世的だ」。




「お父さん」と小さい声で
呼んでみる。

へんに気恥ずかしくて、
うれしくて、起きて、
さっさと蒲団をたたむ。

よいしょ、と掛声して、
はっと思った。

私は、いままで、自分が、
よいしょなんて、げびた
言葉を言いだす女だとは
思ってなかった。

👉「私」の”意識の流れ”を
そのままに記述しながら、
とても品のよいユーモアを
かもしだしていますね。

一日の経験を心理的に語って
ゆくこの作品の全体が、
この文体で貫かれます。


眼鏡をかけたりはずしたりして
鏡の中や遠景を見て、
いろいろなことを思う。

「けさから五月」と思うと浮き浮きし、
庭に出ると苺の花が目にとまると
父の死という事実が「不思議になる」。

「死んで、いなくなる、ということは、
理解できにくいことだ。」


二匹の犬のうち、ジャピイだけを
うんと可愛がって、足の悪い
カアには意地悪くする。

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カアは、悲しくて、いやだ。
可哀想で可哀想で
たまらないから、わざと
意地悪くしてやるのだ。

〔中略〕
おまえは誰にも可愛がられない
のだから、早く死ねばいい。
私はカアだけでなく、人にも
いけないことをする子なんだ。
人を困らせて、刺戟する、
ほんとうに厭な子なんだ。

〔中略〕
泣いてみたくなった。
〔中略〕
やってみたが、だめだった。
もう、涙のない女になった
のかもしれない。

お母さんは、誰かの縁談のために
早く出かけたので、一人で朝食。

「おみおつけ」を温めながら、前の
雑木林をぼんやり見ていると、
同じ姿勢で同じことを考えていた
ことが昔にもこれからもあるように
思え「過去、現在、未来、それが
一瞬のうちに感じられる様な、
変な気持ちがした
」。

また、或る夕方、ご飯を
おひつに移している時、
インスピレーションと言っては
大袈裟だけれど、何か身内に
ピュウッと走り去ってゆく
ものを感じて、なんと
言おうか、哲学のシッポと
言いたいのだけれど、
そいつにやられて、頭も胸も、
すみずみまで透明になって、
何か、生きていくことに
ふわって落ちついた様な

〔中略〕感じがしたのだ。

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食事を終えると、雨は降りそうにない
けれど、昨日もらった母の「娘さん
時代」の雨傘を持ち歩きたくて、
それを携帯して登校。

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👩【承】

出がけに門の前の草をむしって
「お母さんへの勤労奉仕」を
すませ、停車場へ急ぐ。

道々いつも厭な言葉を吐きかける
労働者四五人に不愉快な思いを
させられ、電車に乗ってもその
口惜(くや)しさが消えない。

こんなくだらない事に平然と
なれる様に、早く強く、
清く、なりたかった。


席が取れず、吊り革にぶらさがって
雑誌を読み始める。

私は「本に書かれてある事に頼って
いる」人間で、読む本が変われば
人間も「クルッとかわって、
すましている」。

だから「どれが本当の自分だか
わからない」。

      

この雑誌にも「若い女の欠点」として
いろんな人が書いていて「本当の愛」とか
「本当の自覚」とか言うけれども、それが
「どんなものか、はっきり手にとる
ようには書かれていない」。
学校の修身と、世の中の掟と、
すごく違っているのが、
だんだん大きくなるにつれて
わかって来た。

学校の修身を絶対に守って
いると、その人はばかを見る。


変人といわれる。

出世しないで、
いつも貧乏だ。

こういう「違い」に敏感だった
私は幼時、父母によく「なぜ?」と
聞いて、怒られたり笑われたり
したが、父は母に「中心はずれの
子だ」と言っていたそうだ。

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席が空いたので座ると、隣にいた
子供を背負って「年よりのくせに
厚化粧をして、髪を流行まきに」
したおばさんが「あさましく、
ぶってやりたいほど厭だった」。


向かいの席には30歳ぐらいの
「眼が、どろんと濁った」
サラリーマンが四、五人。

「みんな、いや」だが、もし今
私がにこりと笑ってみせれば
結婚まで行ってしまうかもしれない。

女は、自分の運命を決する
のに、微笑一つで沢山なのだ。


おそろしい。

不思議なくらいだ。


電車はお茶の水に着き、女学校へ。

けさの小杉先生は「私の風呂敷
みたいに綺麗」だけど、「あまりに
ポオズをつけすぎる」。

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図画の時間、私の古い雨傘がクラスで
評判だと聞いた伊藤先生から、展覧会に
出す絵をかきたいから、その雨傘で
30分だけポーズをとるようにと
言いつけられる。

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伊藤先生は「話がねちねちして
理屈が多すぎるし、あまりにも
私を意識している故か、スケッチ
しながらでも話すことが、
みんな私のことばかり」で
「ゲッとなりそうだ」。

「死んだ妹を、思い出します」
なんて、やりきれない。
〔中略〕
ゼスチュアが多すぎる。

ゼスチュアといえば、
私だって、負けないで
沢山持っている。

私のは、その上、ずるくて
悧巧に立ちまわる。

本当にキザなのだから
仕末に困る。

「自分はポオズをつくり
すぎて、ポオズに引きずられ
ている嘘つきの化けものだ」
なんて言って、これがまた、
一つのポオズなのだから、
動きがとれない

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👉このあたり、「私」が美人
であることがさりげなく示されて、
作品に魅力が増しますね。
(かえって反発する?…
それも一つの効果)

ともかく「私」は自分の魅力を意識して
ポーズし、そのことをまた意識して
苦しむ女性で、この人が絵のモデルに
なると来ては、漱石『三四郎』の
ヒロイン、美禰子を連想させますね。

『三四郎』と美禰子をめぐっては
こちらをご参照ください。

夏目漱石 三四郎のあらすじ:「簡単/詳しい」の2段階で解説

漱石 三四郎で感想文:美禰子の愛は?”無意識の偽善者”とは?

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放課後はお寺の娘のキン子さんと、
こっそり「ハリウッド」へ行って
髪の毛をセットしてもらう。

キン子さんは「無性格みたいで、
それゆえ、女らしさで一ぱいだ
」。


キン子さんと別れてバスに乗ると、
襟のよごれた妊婦がにやにやして
いるのを見てひどく嫌悪したかと
思えば、また、こうも思い返す。

「ハリウッドなんかへ行く私だって、
ちっとも、この女のひとと
変わらないのだ」
ああ、汚い、汚い。女はいやだ
「いっそこのまま、少女のままで
死にたくなる」……。

    

バスを降り、「大地は、
いい」と思いながら歩く。

青草原に仰向けに寝ころがって、
「お父さん」と呼んでみる。

「みんなを愛したい」と涙が出そうな
くらい思い、「美しく生きたい」と思う。

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👩【転】

帰宅すると、お母さんは「お客様」の
今井田さん夫婦と7歳の良夫のお相手を
して「にぎやかな笑い声」。

私が挨拶して裏へまわると、ちょうど
魚屋さんが来て、大きい魚を置いて
いったので、これでおもてなしの
料理を作ろうと思う。


台所でお米をといでいると、前に
住んでいた家の台所が思い出され、
父や今は北海道にいる姉との楽しい
記憶がよみがえってまた悲しくなる。

幸福も、お父さんがいらっしゃら
なければ、来ないほうがよい
」と
こないだも母は言った。


我に返って料理を始める。

「そうだ、ロココ料理にしよう。
これは私の考案したものでござい
まして」とばかりに、各種食材を
彩り豊かに飾って「お客様を幻惑」
するご馳走にとりかかる。

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   ロココ風装飾の皿


出来上がった夕食をともにいただくが、
「今井田さんの奥さんの、しつこい
無智なお世辞」にむかむかする。

「こんな料理、ちっともおいしく
ございません。〔中略〕私の窮余の
一策なんですよ」とありのままを言うと
「窮余の一策とは、うまいことを
おっしゃる」と夫妻は笑い興じる。

          


「この子も、だんだん役に立つ様に
なりましたよ」と母は笑うが、それは
「私のかなしい気持、ちゃんとわかって
いらっしゃる癖に」相手に配慮して
「そんなくだらないことを言って」
いるのだ。

食事が終わると、用事があるとのことで
母を連れて今井田夫婦は出ていったが、
そのあつかましさが「厭で、厭で
ぶんなぐりたい気持」。

門のところで見送ってから
「泣いてみたくなってしまう」。

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👩【結】

お座敷を掃き、お風呂を沸かして入る。

肉体が、自分の気持と関係なく、
ひとりでに成長して行くのが、
たまらなく、困惑する。
〔中略〕
いつまでも、お人形みたいな
からだでいたい。

      


風呂から出て部屋に戻り、きのう花屋で
買った百合の匂いを嗅ぐと、去年山形の
山腹で「いっぱい」の百合を採って
くれた見知らぬ坑夫を思いだす。

母親が戻り、あなたが見たいという
映画『裸足の少女』を見てもいいが、
代わりに今晩、肩をもんでと
言いつけられる。

「ほんとうに、うれしく、お母さんが
好きで、自然に笑ってしまった」。


私の肩もみを「天才ですね」と母がほめ、
「そうでしょう? 心がこもっています
からね。でも、あたしの取り柄は…」
と素直な思いをそのまま口にすると、
「平静な新しい自分が生れて来る」
ようで、嬉しかった。


オマケとして『クオレ』を読んであげて
母が寝つくと、風呂場で洗濯をし、
窓から月を見て思う。

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大人になりきるまでの、この
長い厭な期間を、どうして
暮らしていったらいいのだろう。


誰も教えて呉れないのだ。
〔中略〕
現在こんな激しい腹痛を起こしている
のに、その腹痛に対しては、見て
見ぬふりをして、さあさあ、
もう少しのがまんだ、あの山の
頂上まで行けば、しめたものだ、
とただ、そのことばかり教えている。


きっと、誰かが間違っている。

わるいのは、あなただ。

洗濯と風呂場の掃除をすませ、寝間着に
着替えていると、母が、あなたがほしい
と言っていた「夏の靴」を今日、
ついでに見て来たよと声をかける。

「うん」と答えて床に就く。

明日もまた、同じ
日が来るのだろう。

幸福は一生、来ないのだ。
〔中略〕
幸福は一夜おくれて来る

ぼんやり、そんな言葉を思出す。
〔中略〕
眠りに落ちるときの気持って、
へんなものだ。
〔中略〕
おやすみなさい。

私は、王子さまのいない
シンデレラ姫。

あたし、東京の、どこに
いるか、ごぞんじですか?

もう、ふたたびお目に
かかりません。

👉「眠りに落ちるときの
気持って、へんなものだ」は
冒頭の「あさ、眼をさます
ときの気持ちは、面白い」と
見事に呼応していますね。

「もう、ふたたびお目に
かかりません」という
結びも意味深。

「死」への意識は作品の随所に
ちりばめられています。


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女になりきれる男性作家

さあ、どうでしょう。

書けそうですか? 
感想文、論文などなど。


何を書いていいかわからないという
人は、上記「あらすじ」中名言として色づけ
した部分のほか、👉の考察・解説を
もう一度じっくりと読み直して
もらえればと思います。

ほーら、アイディアが浮かんで
きたでしょう。

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傑作の少なくない太宰治ですが、なかでも
有名な『斜陽』や『ヴィヨンの妻』は
『女生徒』と同じく女性を語り手に
設定した一人称小説ですね。

そのほか、『燈籠』『きりぎりす』
『待つ』などもそうで、この3作と
『女生徒』とでのオムニバス映画
『女生徒・1936』(福間雄三監督、
2013)も制作されました。

その予告編をどうぞ。



ともかくこの太宰という男、
女になりきって書く…ということに
関してはほとんど天才的だったよう
なんですが、これ、いってみれば
文章での女装

いわゆる「LGBT」の「T」すなわち
トランスジェンダー(transgender)
の問題に引き寄せて考えることも
できるでしょう。
👉太宰のこの文章の女装
傑作『斜陽』でも用いられ
大いに成功していますね。

またこれを逆転した
女性による男性の語り
試みたのが山崎ナオコーラの
『人のセックスを笑うな』
(2004)で、これも面白い。

詳しくはこちらへ。

斜陽(太宰治)のあらすじと感想☀簡単/詳しくの2段階で解説

人のセックスを笑うな 📖原作小説のあらすじ【ネタバレあり】


そのほか文学・演劇による
トランスジェンダーの試みに
ついてはこちらもどうぞ。

三島由紀夫 仮面の告白のあらすじ:LGBT文学の先駆作を解説

寺山修司 毛皮のマリーのあらすじ:LGBTの世界的傑作を解説

       lgbt


👉またほかの太宰作品に関しては、
これらの記事も参考までに。

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太宰治の本:ラインナップ

銀座のバー”ルパン”でくつろぐ太宰(林忠彦撮影)


ん? 書けそうなテーマは
浮かんできたけど、具体的に
どう進めていいかわからない( ̄ヘ ̄)?

そういう人は、「感想文の書き方
《虎の巻》」を開陳している記事の
どれかを見てくださいね。

👉当ブログでは、日本と世界の
種々の文学作品について、
「あらすじ」や「感想文」関連の
お助け記事を量産しています。

参考になるものもあると思いますので、
こちらのリストからお探しください。

「あらすじ」記事一覧

≪感想文の書き方≫具体例一覧

ともかく頑張ってやりぬきましょー~~(^O^)/

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