カミュ 異邦人のあらすじ//太陽のせいで殺人!その”不条理”とは?
やあやあサイ象です。
“感想文の書き方”シリーズもはや第68回。
あらすじ暴露サービスとしては第44弾。
今回はアルベール・カミュの
問題作『異邦人』(1942)に挑戦です。
ここではまず、どういうお話かまったく
知らないいう人のために「ごく簡単な
あらすじ」を紹介し、しかるのちに
「より詳しいあらすじ」に入っていきます。
そしてそこに出て来る、自らの殺人に
ついての主人公の弁明に出て来る
「太陽🌞のせい」((((((ノ゚🐽゚)ノ
という衝撃的とも不条理ともいえる
キーワードをめぐって、解説・考察を
加えていきたいと思います。
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ごく簡単なあらすじ
まずはぎゅっと要約した「ごく簡単」ヴァージョンのあらすじ。
海水浴で女性と遊び、映画を見て
情事を持った「私」(ムルソー)は、
隣人の暴力沙汰に関わり、アラビア人に
発砲して殺害してしまう。
逮捕され、何度も尋問を受け、
やがて法廷に立たされる。
母の埋葬の日に無感動だったことなどが
不利に働いて死刑を求刑され、
裁判長から発砲の「動機」を問われると
「それは太陽のせいだ」と答える。
残された望みは、処刑の日に大勢の
見物人が「憎悪の叫びをあげて、
私を迎えることだけだった」。
え? よくわからない?
これのどこが面白いのか?
ま、それはそうでしょうね。
なにしろこの作品、日本でも一世を風靡
した不条理文学または実存主義文学
(カミュ本人はこの呼称を否定)を
代表する名作。
広津和郎と中村光夫の論争も引き起こし
ましたし、難解な哲学が込められている
ようでもあって、正確な理解を望むので
あれば、本当は「あらすじ」はおろか
日本語訳でもアヤフヤ……
フランス語の原文に当たってもらうしか
ない…というシロモンなんですよ。
ベン・オクリによる英語劇化版
そういうわけで、これから述べます
「やや詳しいあらすじ」も、完璧から
ほど遠いものではありますが、
できるだけ間違い少ないよう、
客観性を期していく所存です。
「 」内と「”」のついた白い囲みは、
原文(上記新潮文庫の窪田啓作訳)
からの引用です。
おっと、その前に映画化作品その一部を見て
イメージをつかんでいただきましょうか。
巨匠ルキノ・ヴィスコンティ監督、
名優マルチェロ・マストロヤンニ主演、
アンナ・カリーナ共演の1968年作品です。
より詳しいあらすじ
🌞【第一部】
きょう、ママンが死んだ。
もしかすると、昨日かもしれ
ないが、私にはわからない。
養老院から電報をもらった。
「ハハウエノシヲイタム、
マイソウアス」
これでは何もわからない。
👉「ママン」(maman)は英語の
「ママ」に当たるフランス語。
これをそのまま書き言葉に
したところも、当時としては
新しかったわけですね。
「私」(ムルソー)は二日間の
休暇を取り、アルジェから80キロの
マランゴにある養老院へ向かう。
院長に面会し、生前は宗教のことを
考えていなかった母が宗教に則して
埋葬されたいと漏らしたと聞かされる。
死に顔を見るかと聞かれて断り、
棺のかたわらで門衛と二人でタバコを
吸い、コーヒーを飲んで雑談する。
👉上の動画の情景はこのあたり。
翌日の土曜日、私は海水浴に行く
ことにし、そこで職場の元同僚
マリイに出くわす。
海で遊んでから映画を見て、
マリイは私の部屋に泊まっていく。
月曜日、よく働いて帰ると、
「女を食い物にしている」と
いわれている隣人レエモンに誘われ、
彼の部屋でワインを飲みながら話す。
いざこざのあった「情婦(れこ)」を
懲らしめるために手紙を書きたいんだが、
その文句をつくってほしいと頼まれ、
承知する。
土曜日、マリイと泳いで、彼女を自宅に
泊めた私は、翌朝、愛しているかと
尋ねられ、「それは何の意味もない
ことだが、おそらく愛していない
と思われる」と答える。
そのとき、レエモンの部屋で女に
暴力をふるうらしい騒ぎが勃発。
警察を呼んだら、とマリイは言うが、
「巡査はきらいなんだ」と「私」。
後日、私はレエモンとともに警察へ
行き、女が「レエモンを裏切った」
と証言する。
翌週、マリイが来て自分と結婚したいか
と尋ね、それは「何の重要性もない」
が、君がそう望むのなら、してもいい
と答え、結婚は「重大な問題だ」と
詰め寄るマリイに「違う」と答える。
私とマリイはレエモンの誘いで、
レエモンの友人マソンがもつ浜辺の
小別荘を訪れる。
そこにレエモンが痛めつけた女の
兄を含むアラビア人の一団に属する
二人が現れ、対峙する。
レエモンとマソンが殴りかかり、
レエモンは匕首で腕をえぐられ、
口を切られる。
手当てしてから、また浜に出るという
レエモンに私はついて行く。
そこへ例の二人がまた現れて、
にらみ合いになり、私はレエモンから
ピストルを渡される。
アラビア人たちはいったん逃げたが、
その後、私が一人で歩いているところへ
一人が現れてポケットに手を突っ込む。
焼け付くような太陽の光に堪えかねて、
一歩前に踏み出すと、アラビア人が
抜いた匕首の刃に光が反射して
「痛む眼をえぐった」。
「ピストルの上で手が引きつ」り、
耳を聾する轟音。
動かない体になお四発撃ち込んだが、
「それは私が不幸のとびらをたたいた、
四つの短い音にも似ていた」。
🌞 【第二部】
逮捕された私は、何度も尋問を受ける。母の埋葬の日に感動を示さなかった
点について問われて答える。
「私は深くママンを愛していたが、
しかし、それは何ものも意味して
いない。健康なひとは誰でも、多少
とも、愛する者の死を期待する……」
弁護士に遮られ、二度とそんな
ことは言わないよう約束させられる。
自分の行為を悔いているか、という
予審判事の問いには「悔恨よりもむしろ、
ある倦怠を感じている」と答える。
マリイは面会に来て、出所したら
「結婚しましょうね!」と叫ぶ。
女やタバコなど、自由人がもつのと同じ
欲望にとらえられて数カ月は苦しかったが、
「それから後は、もう私には囚人の考え方
しかでき」ず、追憶にふけることを
覚えてからは退屈することもなくなる。
裁判が始まる。
養老院の院長と門衛が、母の埋葬で私が
涙を見せず、母の年齢も知らず、死に顔も
見ようとしなかったこと、タバコを
よく吸ったことなどを証言する。
検事の勝ち誇った視線や「傍聴席の
全体を激昂させているあるもの」を感じ、
この数年来はじめてのこと
だったが、私は泣きたいという
ばかげた気持ちになった。
それは、これらのひとたちに
どれほど自分が憎まれているか
を感じたからだった。〔中略〕
はじめて自分が罪人だという
ことを理解した。
隣人たちや、マリイ、レエモンらの
「私」に好意的な証言も、かえって
弁護には不利に働いてしまう。
「この男はインテリ」で、理解力は十分
ありながら、悔恨のかけらも示さない、
と検事に指摘され、私は「彼に道理が
ある」と認める。
真実何かを悔いるということが
私にはかつてなかった。
〔中略〕
私はいつでもこれから来たる
べきものに、たとえば今日とか
明日とかに、心を奪われていたのだ。
検事が死刑を求刑し、裁判長から
「あなたの加害行為を呼び起こした
動機」を問われた私は、自分の滑稽さを
承知しつつ「それは太陽のせいだ」
と言い、廷内に笑い声が上がる。
長時間の陪審が終了し、
裁判長が斬首刑を言い渡す。
上訴のことを考えるが「人生が生きるに
値しない、ということは、誰でもが
知っている」し、死ぬのが「いつとか、
いかにしてとか」いうのも意味がない
と考え、私は上訴の却下を承認する。
司祭が来て「おろさねばならぬ罪の重荷」
について語るが、「罪」とは何か私には
わからず、ただ自分は「罪人」だと
人から教えられ、償いをしている
のだから、「誰も私にこれ以上
要求することはできない」と答える。
「わが子よ」
「私はあなたとともにいます」などと
続く司祭の言葉に「私」はいらだち、
法衣の襟をつかんで、大声でののしる。
君は死人のように生きて
いるから、自分が生きている
ということにさえ、
自信がない。
〔中略〕
しかし、私は自信を
持っている。
〔中略〕
私の人生について、来たるべき
あの死について。
〔中略〕
いつも、私は正しいのだ。
私はこのように生きたが、また
別な風にも生きられるだろう。
何ものも何ものも重要ではなかった。
司祭が出て行くと、久しぶりに
母のことを思う。
「ママンはあそこで解放を感じ、全く
生きかえるのを感じた」に違いないが、
自分もいま「全く生きかえったような
思い」で「世界の優しい無関心に、
心をひらい」て幸福だ。
一切がはたされ、私がより
孤独でないことを感じる
ために、この私に残された
望みといっては、私の処刑の
日に大勢の見物人が集まり、
憎悪の叫びをあげて、私を
迎えることだけだった。
19世紀の断頭台(ギロチン):フランスでは1981年まで使用された。
自分でも笑う「太陽のせい」
さて、いかがでした?不条理文学の代表的名作。
その不条理のエッセンスといいますか、
凝縮的な表現となっている言葉が
「太陽のせい」だともいえるわけですが、
その場合、不条理という硬い日本語を
あまり硬く受け取るのは間違いのもと。
原語の”absurde”(フランス語)はもともと
「ばかばかしい」ということなんですから、
そこに「滑稽さ」や「笑い」の要素を
読んでいいはずなんです。
現にムルソーは「加害行為」の「動機」に
ついて裁判長に「それは太陽のせいだ」と
答えて廷内を「笑い声」で沸かせますが、
これは、上記「より詳しいあらすじ」でも
赤字で示したとおり、そういう「自分の
滑稽さ」を十分「承知し」た上での発言
だったのです。
ただ、笑われることは「承知」でも、
「太陽のせい」発言はウソではありません。
アラブ人殺害の場面をもう一度見直せば、
殺害に至る経緯は次のようです。
- 「頬が太陽で焼けつき、眉に汗の
しずくがたま」り、「太陽に焼かれる
のに耐えられなくなって」前進。 - それに反応して相手の取り出した
ナイフが「陽光が刃ではねかえり、
輝く長い剣のように」額に刺さった。 - 同時に、「眉にたまっていた汗」が
一気に流れ落ちてまぶたを覆い
「両目が見えなくなった」。
その結果、発砲するしかなかったという
のですから、これを「太陽のせい」と
称するのは、それはそれで「条理」が
立っているといえます。
ただ不条理なのは、それが法廷の
その場面で言われる論理としては
常識を離れすぎており、それゆえに
笑いさえ誘ってしまうこと、かつ
笑われると「承知」しながら発言して
いる…というあたりでしょう。
そしてムルソーはこの不条理、
あるいは世間の常識への反逆を文字通り
命がけで、死刑もいとわない頑固さで
やりぬいてる…というわけです。
👉さて、この不条理というやつ、
どうもよくわからん…
という感想をお持ちの方が多い
かもしれません。
不条理とは何か?
その条理(すじみち)の構造については
こちらで論理的に解析していますので、
どうぞご参照ください。
・愛のサーカスの問題とは?別役実ドラマのテーマ考察からテスト対策へ
「条理」の立った感想文へ
さあ、いかがでしょう。ここまで考察を進めることができれば、
もう書けるのではないでしょうか、
読書感想文でもレポートでも。
「不条理文学」だから文章も不条理に
笑えるものでいい?
いやいや、やはり書く以上はそれなりの、
「条理」を立てなければなりません。
👉その具体的な書き方については
ズバリ、こちらをご参照ください。
・異邦人(カミュ)で感想文どう書く?🌅【800字の例文つき】
👉またカミュの世界や「不条理」の文学・
・哲学に関心をもたれた方は是非
こちらもご覧ください。
・ペスト(カミュ 小説)のあらすじ⦅2020コロナ禍の予言がここに?⦆
・カリギュラ(舞台) カミュ原作のあらすじを簡単に【&詳しく結末まで】
・カフカ 城のあらすじ⦅ネタバレあり⦆ “もてる男”Kをどう解釈?
・カフカ 変身のあらすじ 簡単/詳しくの2段階で解説
・ニーチェ ツァラトゥストラは読みやすい 😹笑って読める訳は?
・ニーチェ:人生の名言「復讐と恋愛にかけては女は男より野蛮
ん? 書けそうなテーマは浮かんで
きたけど、具体的にどう進めて
いいかわからない( ̄ヘ ̄)?
そういう人は、「感想文の書き方
《虎の巻》」を開陳している記事の
どれかを見てくださいね。
👉当ブログでは、日本と世界の
種々の文学作品について、
「あらすじ」や「感想文」関連の
お助け記事を量産しています。
参考になるものもあると思いますので、
こちらのリストからお探しください。
・「あらすじ」記事一覧
・≪感想文の書き方≫具体例一覧
ともかく頑張ってやりぬきましょー~~(^O^)/
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