舞台カリギュラを楽しむのに必須!カミュ原作のあらすじと解説はこちら
菅田将暉さん(2019年)
の主演で人気を集めて
いる『カリギュラ』。
一種のホラーとして
楽しめますが、面白
かった!…といえるほど
理解できてるという
自信は…❔❓❔
はじめ、登場人物の
セリフに難解な部分が
多いことはたしか。
原作者カミュの世界に
ふれたことのない人だと
チンプンカンプンかも
しれませんね。
読んでる人なら、よく
わかりますか?
殺人犯ムルソーに、逮捕
も裁判も拒否できる絶対
的な権力が与えられて
いたら、どうなるか。
それを持ってしまったの
がカリギュラだという
見方もできるでしょう。
ないし、なんのこっちゃ
わかりません(😿)
わかりやすい注釈つきで
ストーリーをたどり
直してもらえませんか?
みましょう。
さてさて、おなじみ”あらすじ暴露”
サービスも今回で第196弾!
(感想文の書き方シリーズ総計では
第279回)
アルベール・カミュの戯曲
『カリギュラ』(Caligula, 1944)
に挑戦です((((((ノ゚🐽゚)ノ
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パリでの初演(1945)は、まだあどけなさの
残る美男俳優、ジェラール・フィリップの
主演で記念碑的な成功を収め、その後も
繰り返し再演されている問題作。
日本でも1968年以来、何度か上演され、
近年では2007年の蜷川幸雄演出作品
(小栗旬主演)、そして栗山民也演出による
2019年の舞台(菅田将暉主演)が評判です。
栗山版のダイジェストをどうぞ。👇
主演のアメリカ映画『カリギュラ』(1980)
の予告編もお目にかけておきましょう。
こちらはカリギュラ即位前から死に至る
までの暴君ぶりを過激に(露骨にエロ
ティックかつグロテスクに)描ききった
もので、ミュ作品にあるような深みや
思想性は感じられませんが… 👇
まいります。
簡単なあらすじ(要約)
さて、一口に「あらすじ」をといっても、話の骨子だけでいいという場合から、
感想文やレポートを書くんだから、
ある程度詳しくないと……
という場合まで、千差万別でしょう。
そこで大盤振る舞い(^0^)📢
「簡単なあらすじ」と「やや詳細な
あらすじ」の2段階でお届けします。
まずはぎゅっと要約した「簡単」
ヴァージョンから。
失踪していた若い皇帝カリギュラは、
3日後に戻ってくるなり、暴君に豹変。
神と同等になったことを示す儀式を
行い、思うがままに貴族らを殺し、
その妻を犯すなど(
狂気じみた圧制を3年間続ける。
奴隷の身から取り立てられた臣下の
エリコンや年長の情婦セゾニア、
そして父を殺されてもなお敬愛し続ける
年少の詩人シピオンらはあくまで
カリギュラを擁護するが、彼ら以外は
みな忍耐の限界に達していた。
カリギュラを深いところで理解する
貴族ケレアもついに立ち上がり、
暗殺の陰謀を進める。
暗殺計画の回状を入手した
カリギュラはケレアを呼び、互いに
腹蔵なく議論したあと、あえて
回状を焼いて証拠隠滅する。
詩人たちに「死」を題材にした詩の
競作をやらせ、反逆のざわめきが
聞こえる中、カリギュラはセゾニアを
絞め殺し、そこへ押し入ってきた
ケレアらの一党に殺害される。
さて、いかがでしょう。
ん? よくわからん?
それではヒントとして、舞台を現代に
移し替えた2011年のパリ公演を
ザッと眺めていただきましょうか。 👇
ん? これでもわからない?
というか、各人物の言葉や心理にもう
少し入っていかないと、どこが面白い
のかもやっぱりチンプンカンプン?
はい、それはまあそうですよね;^^💦
人物のセリフなしにこの劇を鑑賞する
というのは、それこそナンセンス──
“不条理”(この語については後で解説)
な話なんですよ。
主な登場人物(一覧)
というわけで、「やや詳細なあらすじ」の方へ進んでいただくほかないのですが、
そこへ入っていく前に「主な登場人物」
を押さえておくと、理解の助けになるはず。
「あらすじ」を読んでいて混乱しそう
になったら、この一覧表へ戻って
確認してください。
セゾニア:カリギュラの年長の情婦
:奴隷の身から取り立て
られたカリギュラ側近の臣下
シピオン:年少の貴族で詩人(父が
カリギュラに殺される)
ケレア:貴族で文士(のち陰謀を主導)
レピデュス:貴族(息子がカリギュラに
殺される)
ミュシユス:貴族(妻がカリギュラに
犯される)
やや詳細なあらすじ
では参りましょう。「詳細」といってももちろん限界は
ありますが、【第一幕】から【第四幕】
まで、👉印の注釈を入れながら、多少とも
難解な思想内容にも入り込んだ
ストーリー紹介をやっていきます。
引用は上記新潮文庫の渡辺守章訳から。
当然のことながら完全ネタバレになり
ますので、結末の詳細は知りたくない
という人は最後まで読まないで
ください;^^💦
👿【第一幕】
若い皇帝カリギュラは貴族たちから几帳面で「申し分のない」と評される
君主だったが、近親相姦関係にあった
妹が急死すると、突然、宮廷から消える。
三日後に戻ったカリギュラは、汚れた姿で
「月がほしかったのだ」と臣下エリコンに
語り、「月」とは「幸福」あるいは
「不死身の命」、とにかく「この世の
物ではない何物か」なのだと説明する。
さらに「人間はすべて死ぬ、だから人間は
幸せではない」、妹の死はこの「真理の徴
(きざし)」にすぎないなどと言う。
そんな「真理」なら皆うまく折り合いを
つけていますよ…
とエリコンに指摘されると、
それは、おれのまわりのすべてが
嘘で塗り固めてあるからだ、
このおれはな、やつらをこの
真理の中で生きさせてやる!
カリギュラは貴族らを集め、私有財産を
すべて没収し国家に譲渡させると宣言。
「統治するとは、盗むことだ」と誰でも
知っている、自分は「論理的」であろうと
しているだけだ…などと述べ立てる。
貴族らが去り親しい者だけになってから、
そんあことは「不可能です」とシピオンに
批判されると、「まさにそのとおり」、
問題は「不可能を可能にすること」だ
とうそぶく。
そのチャンスを与える「権力」を持つが
ゆえに、それによる「自由を生きなければ
ならないとおれは思う」と。
「気違いじみたこと」を止めさせようと
するセゾニアに対しては
おれは天を海にぶちこみ、美と醜を
混ぜあわし、苦しみの中から
笑いを湧き起こさせてやる。
〔中略〕
やつらにおれは見せてやる、
やつらがかつて見たことの
ないものを、この帝国でたった
一人、自由な人間の姿を!
👉これ以降の壮絶な乱行にも「論理的」な
目的があることを、カリギュラはこれらの
セリフで明快に告げているわけです。
こうした言葉をスルーしてしまうと、
ただでさえ難解な劇がさらに理解しにくい
ものになっていくかもしれません。
👿【第二幕】
三年後。ケレア邸に集まった貴族たちが
カリギュラの悪行をもう許せない
と話し合う。
ただシピオンは父の殺害について
「ぼくに代わって決心をしてくれた
ようなものだ」とも言う。
カリギュラの「恐ろしい情熱」に理解を
示すケレアは、「あの人はわれわれの心の
うちの最も深い部分をおびやかしている」、
その権力を「人間と世界の否定に至るまで
行使」しようとしており、それはそれで
「反駁の余地のない哲学」だと認める。
とはいえ「その思想が勝利を占めたときは、
この世の終わり」になってしまうから、
もはや理屈でなく「剣で倒すよりほかに
道はない」と、行動に出ることを示唆。
が、いま事を起こすより、いずれは来る
「カリギュラの狂気」を待つのがよい
という結論に。
宴会の準備を始めたところへカリギュラが
登場し、「一部の奴隷を解放し、身の
まわりの世話を、直接諸君にしてもらう
ことに決定した」と要求し、貴族らは
とまどう。
宴会が始まると、息子を処刑されて
暗い顔をしているレピデュスに、
あえて「笑え」と命じて絡む。
ミュシユスには愛妻を差し出させ、
「欲望」を「満足させる」と称して
次の間へ連れていく。
再登場して「国営遊郭の経営方針」に
ついての討議をすると告げ、その審議中、
持病の薬を飲もうとした老貴族メレアに
難癖をつけ、床に倒して殺してしまう。
レピデュスとケレアは「事を起こす」
ことを決める。
シピオンも、セゾニアとエリコンに
問われ、カリギュラへの殺意を認める。
そのシピオンに向け、カリギュラは
「自然」や「孤独」について語る。
「人生に対するおれの情熱の烈しい力」
は、「別の世界の人間」であるお前には
わからないと言う。
お前は善の中で純粋なのだよ、
ちょうどおれが悪の中で
純粋であるようにな。
👿【第三幕】
エリコンとセゾニアの取り仕切りでカリギュラを神として祭る儀式が
執行される。
「本日はヴィーナスとござい」と
グロテスクな女装で現れたカリギュラは
ひれ伏した貴族たちに、お帰りは左へ、
右には「諸君を皆殺しにするよう衛兵を
立ててあるのでな」と脅す。
貴族らが慌てて去ると、カリギュラは
シピオンに「神々と肩を並べる」には
「神々と同じく残酷になる」しかないと
哲学を語る。
自分は「神々の愚かしさと憎しみに対する
「埋め合わせ」のために権力を行使して
いるのだと。
自身の暗殺を画策する「回状」を入手した
カリギュラは、その首領たるケレアを
呼び出し、殺す理由などを尋ねる。
ケレアは覚悟して腹を割り、あなたの
心情は理解できるし憎しみはないが、
「有害な人物」だから消えてもらうのは
当然だと話す。
自分は生きて、幸せになりたいが、
ただひたすら不条理というものを
押しすすめ、その結末のことごとくを
知るというやり方では、その
いずれにもなりえぬと思います。
👉カミュ文学のキーワードとされる
「不条理」が出てくるの唯一の箇所。
ここまでカリギュラが「論理」などの語で
表現していたものが「不条理」と呼び換え
られたようでもあり、それを口にできるのは
ケレアにカリギュラへの深い理解・共感が
あることの証拠といえるでしょう。
「同じような魂と同じような自尊心を持った
二人の男」が初めて「心の底を打ち明けて
話しあえ」たと認めたカリギュラは、陰謀の
証拠となる「回状」を松明(たいまつ)で
燃やしてしまう。
「続けるがよい、ケレア」とカリギュラ。
お前の皇帝は休息を求めている。
これが彼独特の生き方なのだ、
彼独自の幸せになる方法なのだ。
👿【第四幕】
カリギュラ暗殺に向け、ケレアから意志を確認されるシピオン。
「ぼくには、あの人に逆らうことができ
ない」「同じ炎がぼくの心を燃やしている」
と迷うシピオンに、自分はそういう部分を
「自分から押し殺してしまったのだ」
とケレア。
「誰一人として正しい人間なんていない!」
と叫ぶシピオンを見つめたケレアは
「わたしは君をそんなふうにしたあの男を
ますます憎む」、これこそが彼の最大の
罪で、殺す理由として十分だと言う。
エリコンもケレアに腹を探られるが、
かつて奴隷だった自分は「貴様の美徳
なんかよりはるかに上等だ」、
「今なおこの悲惨なご主人様を愛する
ことができるからだ」と拒絶。
胃病で血を吐いたカリギュラは、ある
貴族を代わりに死ねと引き立てさせる。
シピオンを含む詩人らを集め、一斉に
「死」を題にした即興の詩を作らせるが、
いずれも気に入らず「詩人どもはおれの
敵だ」と出て行かせる。
反逆のざわめきの聞こえる中、
カリギュラは一同に向け「おれの治世は
これまで幸せでありすぎた」と語る。
「ペストの流行」も残忍な戒律で人々を
苦しめる宗教もクーデターも
起こらなかった…
運命が遠慮して手を出さなかった
分をおれの方で埋め合わせて
やろうと思うのだ。
〔中略〕
つまりこのおれがペストに
なってやるのだ。
👉カミュのノーベル文学賞受賞を決定
づけたと言われる長編小説『ペスト』は
この時まだ発表されていませんが、
構想はあったかと思わせる「ペスト」
への言及です。
この傑作『ペスト』については
こちらをご参照ください。
・ペスト(カミュ)のあらすじ⦅2020コロナ禍を予言する本があった?⦆
カリギュラと二人きりになったセゾニアは
心を入れ替えて「自由に生きてみよう
という気にはなれないのですか?」
と問いかける。
カリギュラはその不可能なゆえんを話し、
「この狂気の幸福を実現した」者は歴史上
二、三人しかいない、「この自由の
おかげで、おれは孤独な人間の神のごとき
洞察力を身につけたのだ」などと言いつつ
セゾニアを絞殺する。
カリギュラは鏡に手をのばし、
手をのばしてもおれが出会うのは
いつも貴様だ、「おれは貴様に対する
烈しい憎悪に燃えている」「おれの
自由は呪わしい自由だ」と叫ぶ。
そこへエリコンが登場して「ご用心を」
と叫ぶが、すぐに刺殺される。
カリギュラもケレアらに切りつけられ、
笑いながら「おれはまだ生きている」
と絶叫する。
“不条理”の世界とカミュ
さあ、いかがでした?ご理解いただけたでしょうか。
実在の皇帝カリグラ(紀元12-41)がどうで
あったかはさておき、カミュの創造した
カリギュラはただの暴君でも狂人でもなく、
それなりに深い哲学をもつ、悩める人物
だった…と。
ん? その”哲学”とやらが難解で、
やっぱりワケがわからん?
まあ、そのへんがカミュのキャッチ・
フレーズになっている「不条理の哲学」と
いうやつで、”不条理”(absurde[フランス
語])というのは文字通り”ワケがわからん”
とか”馬鹿げている”というのが原義。
だから、それでいいのだ!
と開き直ってもかまわないのです;^^💦
その一方で、かなりの程度に理解できるし
共感もするという反応の読者さんも
きっといらっしゃることでしょう。
その何割かは、上でふれてきた『異邦人』
『ペスト』など、カミュの世界に一度は
足を踏み入れたことのある人では
ないでしょうか。
つまりすでにカミュの”毒”にあてられて
免疫のできている人であれば、カリギュラの
極悪・破天荒の言動にもそう驚くことなく、
ケレアやシピオンが示したような共感さえ
感じながら、この劇に深い感動を覚える
ことも可能なのです。
「同じ炎がぼくの心を燃やしている」
と迷うシピオンに、自分はそういう部分を
「自分から押し殺してしまったのだ」
とケレアは答えます(第四幕)。
この伝染性の「炎」こそがカミュ文学の
核心をなしているのかもしれません。
👉最も広く読まれているカミュの中編小説
『異邦人』をめぐってはこちらをご参照あれ。
・カミュ 異邦人のあらすじ//太陽のせいで殺人!その”不条理”とは?
・異邦人(カミュ)で感想文どう書く?【800字の例文つき】
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👉カミュを通じて「不条理」や実存主義の
文学・哲学に関心をもたれた方は是非
こちらもご覧ください。
・カフカ 城のあらすじ⦅ネタバレあり⦆ “もてる男”Kをどう解釈?
・カフカ 変身のあらすじ 簡単/詳しくの2段階で解説
・ニーチェ ツァラトゥストラは読みやすい 😹笑って読める訳は?
・ニーチェ:人生の名言「復讐と恋愛にかけては女は男より野蛮
👉また日本に「不条理」劇を根づかせた最大の
功労者とみられる劇作家、別役実を
めぐっては、こちらで。
・愛のサーカスの問題とは?別役実ドラマのテーマ考察からテスト対策へ
・マッチ売りの少女は火で何を見せる?本当は怖い童話の現代的”真実”とは?
・バカボンのパパはどこが天才か?名言「これでいいのだ」から別役実へ
まとめ
さあ、見えてきたでしょうか。これが『カリギュラ』、そしてこの
怪物的な皇帝を生み出した
カミュ文学の世界です。
ともかくどの作品からでも読んで
みられることをお勧めします。
さて、「あらすじ」に加えてこれだけの
情報が補給されれば、もう怖いものなし。
読書感想文だろうがレポートだろうが、
どんどん書いていけるでしょう。
以上の情報と考察があなたの参考に
なればと願う次第です。
👉当ブログでは、そのほか日本と世界の
多様な文学や映画・演劇作品について
「あらすじ」や「感想文」関連の
お助け記事を量産しています。
参考になるものもあると思いますので、
こちらのリストからお探しください。
・「あらすじ」記事一覧
・≪感想文の書き方≫具体例一覧
ともかく頑張ってやりぬきましょー~~(^O^)/
こんなコメントが来ています