バカボンのパパはどこが天才か?名言「これでいいのだ」から別役実へ
バカボン』には多くの
名言(または迷言)が
ちりばめられています
が、そのきわめつけと
いえば?
いいのだ;^^💦
赤塚不二夫の自叙伝
(2008)のタイトルにも
なり、彼を主人公とした
映画も『これでいいのだ
!! 映画★赤塚不二夫』
(浅野忠信主演、2011)
でしたね。
「これでいいのだ」と
パパが言うのは「 」
場合ですよね。
迷惑を及ぼし、怒りを
買っているかもしれ
ません。
タガがはずれたバカボン
父子と、より常識的な
人々(ママなど)との間
での葛藤がある。
のだ」という宣言と
「いや、それはよくない
のだ」と否定する勢力
との衝突…
とのたまうパパの表情や
状況を見ると、パパ自身
の内部に「「実はよく
ないのだ」という意識が
あるようにも見える;^^💦
が葛藤を抱えている❓
に「天才」の冠がつけ
られるゆえんはそこに
あり、かつそこには
不条理の匂いも漂って
います。
確立者と言われる別役実
さんが、彼の戯曲『天才
バカボンのパパなのだ』
(1979)の「あとがき」に
書いていますので、その
解説を覗いてみましょう。
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というわけでおなじみ”あらすじ暴露”
サービスの第242弾(“感想文の書き方”
シリーズとしては第329回)となる今回は
なんと赤塚不二夫の伝説マンガ『天才バカ
ボン』(1967年初出 👇)に挑戦((((((ノ゚🐽゚)ノ
さて、この名言中の名言「これでいいのだ」
こそ『天才バカボン』の核心。
そのド真ん中を貫く言葉であるらしい
ことは、テレビアニメ(1971~)の
テーマソングでもサビとしてリフレイン
されていることからもわかります。 👇
のだ」は、通常の感覚(常識)からすれば
「実はあまりよろしくない」場合だ
ということは、この歌からも
明白ですよね。
そのような「これでいい(実はあまり
よろしくない)」状況がどんどん生まれ、
次々に更新されていくところに
『天才バカボン』の天才性──バカボンの
パパの天才たるゆえん──がありそうです。
そのパターンがどのような構造から
成り立っているのかの解析を進めて
いこうという本日のリサーチはザッと
以下のような内容になります。
まとめ
1 衝突の奇妙な進展──
第7話「赤ちゃんはハジメちゃんなのだ」を例に
名言(迷言)をボロボロ落としながら、《バカ vs 利口》または《非常識 vs 常識的》の
衝突が妙な具合にねじれて実はあまり
よろしくない状況とそれに伴う葛藤を
生んでいく……
という『天才バカボン』の天才的な
進展パターン。
言葉だけでの説明ではわかりにくい
でしょうから、一つの作品例に即して
そのパターンを分析的に記述して
みましょう。
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素材としては竹書房文庫『天才バカ
ボン①』に収録されている第7話
「赤ちゃんはハジメちゃんなのだ」
を採り上げます。
物語の進展には、2つほど切れ目がある
ようですので、その切れ目により
~ の3部に分けています。
- 悪童二人が「ズボンやぶけて
ない?」と尻を向け、顔を寄せた
バカボンに放屁した上、
暴力をふるう
👉怒ったバカボンが生後間もない
弟(ハジメ)と二人で仕返ししようと
するが、ママに止められる - 「どったの?」と尋ねるパパに
バカボンはやられたのと
同じ方法で放屁する
👉パパは「こりゃおもしろい」
と喜ぶ - 「お仕事は?」とママに言われた
パパはクリーニング屋に戻り、
冗談好きのマスターに同じように
放屁を試みる
👉誤って脱糞(💩)してしまい、
自分で洗濯し、アイロンをかける - そこへバカボンがスルメを持って
きて「大きくして」と頼むので、
アイロンで伸ばして特大にする
👉奥さんが怒り、
「もうスルメエ」と甘いことを
言うマスターの顔にアイロンを
かける
- バカボンとパパが赤ん坊を抱いて
散歩しているとボールが飛来し、
パパはそれを受けようと赤ん坊を
投げすて、バカボンがかろうじて
受け止める
👉「赤ちゃんがけがすると困る」
とバカボンが言うと、パパが
棺桶を持ってくる - 二人は赤ん坊を棺桶に入れて運ぶ
👉近所のおじさんが目撃して
妻に話し、二人はバカボン家を
弔問し、笑っているママを難詰 - そこへバカボン父子が棺桶を運び
ながら「ただいま」と帰宅
👉ママは怒り、パパは
クリーニング屋へ戻る
- クリーニング屋ではまた失敗で、
シャレを言ってマスターには
許されるも、奥さんから配達を
命じられる
👉配達の途中、おもちゃ屋で
バカボンに会い、二人で鉄砲の
撃ち合いを始める - 風船をたくさん買ってきたバカボン
がベビーベッドに付けると、
ベッドごと飛んで行ってしまう
👉二人ははしごと竿でなんとか
地上に戻すが、またママに叱られ、
パパはクリーニング屋へ戻る - パパがアイロンつけっぱなしで出た
ためにクリーニング屋は全焼して
おり、マスターは激怒している
👉トイレも焼けたなら「これが
ほんとのやけくそだ!」とパパは
シャレで許してもらおうとするが、
アイロンで殴られる - 帰宅後、「赤ちゃんの名前」の案を
バカボンとパパが出しあうが、
ママはもう「ハジメ」に決めた
と言う
👉「ハジメや、ハジかしくない
人間になれよ」とパパ
おわかりですか?
たとえば では、相手をだまして
屁を食らわせるというイタズラの経緯が
1~3へと発展しますが、そこにパパの失禁
(脱糞)という副次的な物語が発生します。
その流れで、アイロンめぐる話という横道に
それ、パパがそのアイロンでバカボンの
スルメを拡大すると、遊んでいると見られて
奥さんにアイロンで殴打される…
というふうに進展していってますね。
つまり初めは放屁のイタズラの経緯が
メイン・ストーリーであるかのように始まり
ながら、それにからんで出てきた副次的な
物語の方へと話は移り、メインかと思われて
いたものは忘れられてゆくのです。
『天才バカボン』のこのズレていく
物語パターンにインスピレーションを
受けて、それへのオマージュ(称讃)の
ようにして書かれたのが別役実さんの
傑作戯曲『天才バカボンのパパなのだ』
(1978年初演 👇)なのですね。
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『天才バカボン』から拝借したと自ら認める
このドラマツルギーを「一口に言って
しまえば」こうなると、別役さんは後年の
エッセイのなかで書いています。
ある行為が、辿り得る可能な筋道の
最も枝葉末節と思われる方向に
枝別れし、そこからまたさらに
枝葉末節と思われる方向に
枝別れし、それを限りなく
繰り返しながら、本来の
筋道から全く離れてゆく。
『台詞の風景』(1991)
つまりサミュエル・ベケットの不条理劇
(『ゴドーを待ちながら』など)の衝撃から
出発した別役劇が試行錯誤を重ねた結果、
1978年に辿り着いていた地点に、この
いわば”バカボン流不条理“が
あったのです。
単行本『天才バカボンのパパなのだ』に
書かれた「あとがき」では別役さんは
この作劇法を解説して、別の言い方も
していますので、これが逆に元祖『天才
バカボン』の考察・研究にも大いに役立つ
ものとなっているのですね。
2 『天才バカボンのパパなのだ』「あとがき」の
葛藤線理論
『天才バカボン』には「独自のドラマツルギー(作劇法)がある」とする別役さんは
そこで、それを「一口に言ってしまえば」
こうなると解説しています。
まず「本筋に関わる基本的な葛藤線」が
「本筋と関係のない補助的な葛藤線」に
「枝わかれ」するのですが、ふつう
後者はあくまで「補助的」なもののはず
なので「やがてカーブを描いて基本的な
葛藤線に収束されてゆく」ものと
観客は期待してしまいます。
それが「そうはいかない」ところに
『天才バカボン』独自のドラマツルギー
があるというのです。
逆に、こちらの方が基本的葛藤線
なのではないかと、それが
維持され、強調され、しかし、
我々がそう思いはじめたとたん、
それがまた、更に補助的な
葛藤線に枝わかれしてゆく。
このようにして、基本的葛藤線が
補助的な葛藤線へ、そしてまた
それが更に補助的な葛藤線へと
枝わかれをしてゆき、遂に基本的
葛藤線に立ち戻ることなく、
とめどもない迷路に
踏み込んでゆく。
どうでしょう。
「葛藤線」という用語がわかりにくい
かもしれませんが、これは要するに
前章で「《バカ vs 利口》または
《非常識 vs より常識的》の衝突とか
葛藤とか呼んでおいたものに重なります。
この「葛藤線」にからんで新しく出て
きた副次的な物語の方へと話が移り、
メイン・ストーリーと思われていた
ものは忘れられてゆく…
という前章での『天才バカボン』解析と
ほぼ同じことが言われているものと
理解しえよいのではないでしょうか。
👉『天才バカボンのパパなのだ』および
その他の別役作品に興味を持たれた
場合は、こちらもご参照ください。
・愛のサーカスの問題とは?別役実ドラマのテーマ考察からテスト対策へ
・マッチ売りの少女は火で何を見せる?本当は怖い童話の現代的”真実”とは?
3 不条理のいろいろ──
カフカ、カミュ、&シュール?
『天才バカボンのパパなのだ』のドラマツルギーを別役さんは赤塚さん
から「借りた」のですが、それは
この方法が「近代劇的な葛藤の論理を、
破壊するための手法にもなり得る」
と考えたからだとも書いています。
ところで、近代劇的な葛藤の論理を破壊する
不条理劇自体は別役さんの発明という
わけではなく、彼が強い衝撃を受けた
サミュエル・ベケットなど、やはり
西洋の劇作家によって創造されたもの
と見られています。
フランス演劇ではアルベール・カミュが
有名で、その代表的な不条理劇
『カリギュラ』は日本でも何度か
上演されてきました。
菅田将暉が主演した栗山民也演出による
2019年の舞台のダイジェストを
こちらでどうぞ。👇
カミュという作家についてもっと詳しく
知りたいという人はこちらを
ご参照ください。
・舞台カリギュラを楽しむのに必須!カミュ原作のあらすじと解説はこちら
・カミュ 異邦人のあらすじ//太陽のせいで殺人!その”不条理”とは?
・ペスト(カミュ)のあらすじ⦅2020コロナ禍を予言する本があった?⦆
👉そのカミュを含め、二十世紀の多くの
作家に強い影響を与え、不条理文学の
始祖のように見られている小説家が
フランツ・カフカ。
その怪しい面白さについては
こちらで。
・カフカ 城のあらすじ⦅ネタバレあり⦆ “もてる男”Kをどう解釈?
・カフカ 変身のあらすじと解説:簡単/詳しくの2段階で考察
👉上の『変身』の画像を見て、わかった!
『不条理』ってつまり『シュール』
なんだな…
なんて早合点した人もいるかも
しれませんが、『シュール』と
『不条理』はまったく別物です。
『シュール』の語源や正しい意味については
こちらを参照してください。
・シュールという言葉の使い方 間違いでは? 元のフランス語から押さえよう
ルネ・マグリット「共同発明」(1934)
☺ まとめ
さて、どうでしょう。まさに天才的とも見える『天才バカボン』
の”不条理な笑い”がどのように仕組まれた
ものなのか、ある程度には合理的に理解
できたのではないでしょうか。
もちろん上の議論は一つの解釈にすぎず、
ほかにもいろんな議論・考察ががある
ものと思いますが、ともかく上記程度の
見識をそなえたあなたはすでに
“バカボン博士”。
どんなツッコミにも対応できるはずですし、
レポートやら感想文やらを書こうかという
場合も、へっちゃらでしょう。
ともかく頑張ってやりぬきましょー~~(^O^)/
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