武者小路実篤 友情のあらすじ 漱石を受け継ぐ〈三角関係〉文学
やあやあサイ象です。
「感想文の書き方」シリーズも
はや第95回にして、
「あらすじ」暴露サービス
第61弾となります。
今回は長く読みつがれてきた
武者小路実篤の名作恋愛小説
『友情』(1919)で行ってみま~す。
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さて、一口に「あらすじ」をといっても、
話の骨子だけでいいという場合から、
読書感想文を書くんだから
分析・解説つきの詳しいものがほしい、
という場合まで、千差万別でしょう。
そこで出血大サービス((((((ノ゚🐽゚)ノ
「ごく簡単なあらすじ」と
「やや詳しいあらすじ」の
2ヴァージョンを用意しましたよ~~(^^)у
ごく簡単なあらすじ(要約)
まずはぎゅっと要約した「ごく簡単なあらすじ」。
16歳の杉子に恋し、尊敬する親友の
小説家、大宮にこの恋を打ち明ける。
杉子目当てで仲田家を訪問し、
杉子ともピンポンなどで交流。
夏休みになると、鎌倉にある仲田の
別荘に友人たちが集まり、杉子は
野島のほか、早川という男、それに
大宮とも交遊する。
「あの人は早川を愛しているだろうか」
という野島の不安を大宮は打ち消し、
君は君の良さをわかってもらうために
どんどん押せばいいと進言する。
数日後、大宮は急に洋行することにし、
みなで東京駅で見送ることになるが、
このときの杉子の態度から、野島は
杉子の大宮への恋を直覚。
それでも一年後、野島は杉子の家に
結婚の申し込みをするが、体よく
断られる。
さらに一年後、杉子は友人夫婦に
同行して洋行し、その3、4か月後、
大宮は、杉子との往復書簡を小説の
ような形で同人雑誌に発表した
と知らせてくる。
その往復書簡は、杉子が大宮への
恋を告げ、はじめ拒否した大宮も
けっきょく受け入れて相愛が成立し、
結婚を決めるに至る、というもの。
どうでしょう?
え? なんだかよくわからん?
なんでそうなるのか……
ではこちらの動画でも
ご覧いただきましょうか。
だいたいわかりました?
「文学史上、最も健全な青春恋愛小説」
というのが笑えますね。
え? 「健全」はいいが、
どうもよくわからん?
それにやはり、文章がないと
感想文は書けない?
ハイ、そういうわけで、やっぱり
「やや詳しい」ヴァージョンの
「あらすじ」を読んでいただくほかない、
ということになります。
やや詳しいあらすじ
では参りましょう。この作品、「上編」と「下編」の2部構成で、
「下編」は主要登場人物である大宮が
発表した「小説(?)」とはいえ、要するに
実際にやりとりされた手紙そのもの……
ということですから……これはつまり
夏目漱石の『こころ』に似た構成ですね。
ストーリー展開としては、「上編」で
「起・承・転」と進んで、「下編」が
「結」としてこれらを落とす形。
そこで、以下の「やや詳しいあらすじ」も
「上編/起・承・転」「下編/結」の
4部構成で行きたいと思います。
「 」内と「”」印の囲みは
原文の引用です。
💕【上編/起】
新進脚本家の野島は、友人で小説家として活躍している大宮と
切磋琢磨して仕事に励んでいる。
別の友人、仲田に誘われた劇場で、
仲田の妹、16歳の杉子を一目見て、
その清らかな美貌に心を奪われる。
彼は自分にたよるものを
要求していた。
自分を信じ、自分を賛美する
ものを要求していた。
そして今や杉子自身にその役を
してもらいたくなった。
杉子は彼のすることを絶対に
信じてくれなければ
ならなかった。
世界で野島ほど偉いものはない
と杉子に思って
もらいたかった。
思いをつのらせた野島は
大宮にこの愛を打ち明ける。
仲田と親交のない大宮は、杉子に
会ったことはなかったが、美人だとは
知っており、「うまくゆくといい」
と応援する。
野島は杉子と夫婦になることを「楽園に
いる」気分で空想し、新聞・雑誌・本を
読んでも「杉」という字に
ハッとしてしまう。
仲田に会うという口実のもと、
実は杉子目当てで仲田家を訪問し、
杉子も無邪気な笑顔を向けてくれ、
ピンポンなどで交流するようになる。
💕【上編/承】
大宮は夏休みを鎌倉の別荘で過ごすというので、野島もそこに寄宿する。
近くに仲田家の別荘もあって、そこに
杉子とその1歳上の友人の武子や、
仲田の友人の早川らも来ていて、
大宮も交えての交流がはじまる。
ピンポンでは、杉子を立てようとする
男たちを尻目に、大宮は容赦なく
彼女を打ちのめす。
杉子は、スポーツマンの早川に
好意を示すようにも見え、また女優
として舞台を踏むという話も出るが、
その芝居が野島の嫌いな村岡という
劇作家のもの。
早川との間で「神」の有無をめぐって
議論になった野島は、「それでは君は
僕たちや、杉子さんを蛆虫だと思って
いることになりますね」とやりこめ
られる形になり、早川らが去ってから、
急に泣き出す。
武子は「女のような気のしない女」
だが、野島を心配し、彼の部屋に
来て本を借りようとする。
その後ろ姿を見て「武子の心が杉子に
入っていたら」と思う野島は、
自分はやはり杉子の心を
愛しているのではなく、
美貌と、からだと声とか、
形とかを愛している
のだなと思った。
「あの人は早川を愛しているだろうか」
と野島に問われた大宮は
これを否定する。
しかし「だれか一人を愛し、たより
たがっている」ようだから、君は君の
良さをわかってもらうためにずうずう
しいくらいに会えばいいんだ、
と進言する。
杉子は、兄や武子のいうとおり、
村岡の芝居に出ることについて
野島と大宮の意見を聞きに来、
野島は自分は嫌われていない、
もしかしたら愛してくれているかも…
と空想して幸福になる。
翌朝、大宮は野島に、きのう自分は
今まで低く見つもっていた
「杉子さんの価値」を見直した、
それで君の恋の理由もわかったという。
💕【上編/転】
野島は38度9分の熱を出して寝込み、翌日、大宮が見舞いに訪れる。
以前は32、3歳になってから行く
と言っていたヨーロッパへ、
急に行くことに決心したと言う。
これを野島は「腹の底のどこか」で
喜んだが、それは杉子にかんして
「大敵は実に親友の大宮だ」と
感づいていたから。
横浜から船で洋行する大宮を東京駅で
友人一同が見送ったが、このときの
杉子の態度と目から、野島は「杉子が
大宮を恋していること」を直覚。
東京駅
大宮が旅立って一年後、野島は間に
人を立てて杉子の家に結婚の
申し込みをし、体裁よく断られる。
さらに一年たって、結婚した武子が
夫婦で洋行することになり、杉子も
同行することを野島は知る。
杉子がヨーロッパへ発って3、4か月して
大宮から来た絵葉書には英語でこう
書かれていた。
「自分は君に謝罪しなければなら
ない」、某雑誌に出した「小説(?)」
が「自分の告白」だから「それで
僕達を裁いてくれ」
💕【下編】
👉下編は全12章からなり、はじめの10章は大宮が「小説(?)」と称して
同人雑誌に発表した杉子と大宮との
間の往復書簡。
その読みどころはほぼ全面的に杉子
からの手紙にあり、その押しに
はじめ抵抗した大宮も結局
押し切られる形なのですね。
そのサワリは以下のとおり。
私は野島さまを二番目に
尊敬しております。
〔中略〕
ですが、私は野島さまの妻には
死んでもならないつもりで
おります。
〔中略〕
野島さまのわきには、一時間
以上はいたくないのです。
あなたにお目にかからなかった
なら、私はむしろ早川さんの
妻になっていたでしょう。
〔中略〕
大宮さま、私を一個の独立した
人間、女として見てください。
野島さまのことは忘れて
ください。
私は私です。
あなたはうそつきです。
〔中略〕
私はちゃんと知っています。
何もかも知っております。
〔中略〕
あなたこそほんとうに私を
愛していてくださるのです。
〔中略〕
野島さまは私というものを
そっちのけにして勝手に私を
人間ばなれしたものに築き
あげて、そして勝手にそれを
賛美していらっしゃるのです。
ですから万一いっしょに
なったら、私がただの女なのに
お驚きになるでしょう。
あなたが私に冷淡になさろうと
努力なさるたびに、かえって
私はあなたが私を愛していて
くださることを信じることが
できました。
〔中略〕
あなたの義侠心と男らしさと
〔中略〕心づかいとを私は
ちゃんと感じておりました。
〔中略〕
大宮さま、あなたは私を
とるのがいちばん自然です。
友への義理より、自然への
義理の方がいいことは
「それから」の代助も言って
いるではありませんか。
の小説で、これが出た時、武者小路が
ただちに書いた書評「『それから』論」
(『白樺』創刊号)はよく知られています。
この『友情』という作品自体、
極論すれば『それから』の焼き
直し……いやそれは言いすぎかな?
詳細はこちらをご参照ください。
・漱石 それからのあらすじ:簡単/詳しくの2段階で解説
このように押しまくる杉子の手紙5通と
それに心揺すぶられた大宮が、ついには
「愛する天使よ、パリに来い」
とほざくに至る返信5通が交互に
並べられるのが1章から10章まで。
次の11章は大宮から野島への
謝罪と婚約通知の手紙。
最終12章はそれを読んで泣いた野島が
大宮にあてて書く「仕事の上で、
決闘しよう」という返書。
大宮にはムカツクよね
さあ、どうでしょう。書けそうですか? 読書感想文。
これ、要するに「三角関係」を主軸
とした小説ですから、とうぜん書けます
よね、経験のある人なら……。
大宮のモデルは志賀直哉だということが
発表当時から言われていますが、
誰だろうとどうでもいいけど、
まあ、ムカツキますよね。
モテまいとしながらモテてしまう、
しかもその相手は垂涎の美女……
クソ~(=`(∞)´=)~
なので、そんな奴はほっといて、
やはり可哀想な野島くんの側に
立ちましょう。
あるいは杉子さんでもいいんですが、
自分が彼または彼女だったら
どう振る舞ったろうか……
とか考えてみるのが、まずは
読書感想文の王道ですよね。
野島の独白や杉子の手紙を
じっくり読み直して考えてみる
ことから始めたらどうでしょう。
漱石的”三角形”🔺の世界?
え? 三角関係は経験ないからそんなリアルなことは書けない?
ふーむ、それならブッキッシュに
勉強しましょう。
「あらすじ」内の注で『それから』の
焼き直しではないかと放言しましたが、
そのことは、武者小路自身も作品内で
あえて言及することで認めている
(”オマージュ”というやつですね)
ともいえます。
「三角関係」にあった女性を親友から
「義侠心」で譲られてしまったら、
どうなるか。
譲られた妻を返させられてしまう
カアイソウな平岡(『それから』)に
ならずにすんだ野島は、傷が浅くすんだ
ぶん、まだ幸せだったともいえるんじゃ
ないでしょうか。
杉子は、この不幸を未然にストップした
点で立派だったともいえますが、
なんだか立派(というか、それこそ
「健全」すぎてリアル感に乏しい
ともいえます。
この意味では、杉子ほど立派でない
『三四郞』(『それから』の前作)の
美禰子や『こころ』のお嬢さんの方にこそ
「女が描かれている」と評したくも
なりますね。
ともかく、この『友情』に漱石文学が
大きく影を落としていることは
疑いの余地がありません。
👉そのことは、たとえば
以下の記事でご納得いただける
のではないかと思います。
・漱石 三四郎で感想文:美禰子の愛は?”無意識の偽善者”とは?
・こころの先生とKとはBL?腐女子による漱石新解釈で名言も見直すと…
・こころ(漱石)のお嬢さんはなぜよく笑う?先生はそれが嫌いだった?
・漱石の名言でたどる恋愛💛『吾輩』猫が読み直す『こころ』etc.
というわけで、もし高度な感想文で
賞でも狙おうというような場合は、
漱石作品のどれかと比較対照してみる
というのがウマい方法ですね。
うまくやれば、もう感想文どころでなく、
大学・大学院の論文のレベルにまで
駆け上がってしまうかもしれません。
まとめ
ん? 書けそうなテーマは浮かんできたけど、でも具体的に、どう進めて
いいかわからない( ̄ヘ ̄)?
それならズバリ、こちらの感想文例を
参考にしてみてください。
👉・友情で感想文だ!【高校生男女による600字/800字の例文つき】
👉当ブログでは、漱石ばかりでなく、
日本と世界の種々の文学作品について、
「あらすじ」や「感想文」関連の
お助け記事を量産しています。
参考になるものもあると思いますので、
こちらのリストからお探しください。
・「あらすじ」記事一覧
・≪感想文の書き方≫具体例一覧
ともかく頑張ってやりぬきましょー~~(^O^)/
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