谷崎潤一郎 少年のあらすじと感想 その妖しいSM/BL的世界 | 笑いと文学的感性で起死回生を!@サイ象

谷崎潤一郎 少年のあらすじと感想 その妖しいSM/BL的世界

サクラさん
谷崎潤一郎の『少年』
って自分の少年時代を
回想した青春小説?

ハンサム 教授
う~ん…こんな少年時代
だったらスゴいな
というか、お~怖(叫び
というか;^^💦


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サクラさん
ほほ~…やはりSとか
MとかBLとか足フェチ
とかの谷崎ワールド
全開?(😻)

ハンサム 教授
いやまだ半開なんで
しょうけど、弱冠25歳
の作家が10歳の少年を
描いてこの世界…
というのがなんとも
空恐ろしい。

  



サクラさん
ふ~む。そういう妖しい
世界なら、ぜひ迷い
込んでみたいですね。


というわけで、おなじみ「あらすじ」
暴露サービスの第157弾(“感想文の
書き方”シリーズ第222回)は文豪
谷崎潤一郎、初期の問題作短編『少年』
(1911)です!

いくつかの文庫本に収録されていますが、
新しくて、かつ同系統作品を集めてある
おすすめの文庫本がこちら。👇


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短篇とはいいながら、かなりの長さが
ありますので、手っ取り早く概要を
知りたいという人のために、まずは
「ごく簡単なあらすじ」から。

ごく簡単なあらすじ


下町に住む小学生の「私」は裕福な
同級生信一と親しくなり、その
豪邸を訪れるようになる。

これに学校で幅を利かせる仙吉を
加えた三人は、信一の異母兄弟の姉、
光子をいじめる遊びで愉悦を感じる。

  

ある夜「私」と仙吉が光子のピアノの
音がする洋館へ忍び込むと、そこで
強く出た光子に這いつくばらされ、
燭台にされる。

以降、光子は「此の国の 女王」となり
三人を奴隷のように扱った。

ん? これじゃあ何が何だかわからない?

そうでしょうね。

そういうわけで、ここはやはり「かなり
詳しいあらすじ」の方へ入って行って
いただく必要があるわけです;^^💦

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かなり詳しいあらすじ

それでは初期谷崎潤一郎の妖しい世界に
迷い込んでいただきましょう。

原作は文庫本で50ページ強。

短編と小説しては長めで、章分けや
切れ目(行あけ)は全くありませんが、
当方の判断でこれを「起承転結」の4部に
分けています。

もちろん完全⦅ネタバレあり⦆で行きます
ので、結末どうなるかを知りたくない人は
最後まで読まないようご注意ください。


【起】

10歳ぐらいの「私」(萩原の栄ちゃん)が
学校の門を出ると、同級でいつも女中に
付き添われている良家の子で、美形だが
意気地なしの塙信一に呼び止められた。

今日は「お庭でお稲荷のお祭りがある」
から遊ぼうと、初めて誘われる。

いったん帰宅してから、塙の屋敷へ行き
裏木戸から入っていくと、広大な庭が
あって、すでに多勢の子供たちが遊び、
屋台もところどころにあって「真っ黒に
人が集まっている」。


やがて女中の目にとまって座敷へ案内
されると、学校では女子のように臆病な
信一が「こっちへお上がんな」と甲高い
声で怒鳴るので驚く。

「ここは本当は姉さんの所(とこ)なの」
と言って信一は奈良人形や絵本をたくさん
取り出して見せてくれる。

    
   奈良人形(手掘りの伝統工芸)


そこへ友禅の振袖を着た13,4歳の姉(光子)が
来て「また信ちゃんは人の物を徒(いたず)
らして」と詰るので、信一も怒って口論に
なり、人形を投げつけるが外れる。

姉は「打(ぶ)つならたくさんお打ち」と
裾をまくって、以前に打たれてできた
「真っ白な右脚の脛(はぎ)に印せられた
痣(あざ)の痕」を見せ、父に言いつける
と脅す。


人形をめちゃめちゃに蹴倒した信一は
私を庭へ連れ出し、姉を気の毒に思う
私に対して、「毎日喧嘩して泣かして
やるんだ。姉さんたってあれは妾の子
なんだもの」と言い放つ。

やがて西洋館の二階から「異人の女」に
習っているという姉のピアノの音が響き、
私は「ecstasy(エクスタシー)」に入って
二階を見つめる。

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【承】

「坊ちゃん、三人で何かして遊びませんか」
と声をかけたのは塙家の馬丁の子で、
一、二歳年長のガキ大将、仙吉。

「泥坊ごっこ」をすることになり、警官に
なった信一は泥坊役の仙吉を捕まえるや、
仙吉の締めていた帯を解いて後手に縛り、
その余りで両脚のくるぶしまでくくる。

信一は捕縛された仙吉をいたぶり、
「貴様は罪人だから額に入墨をしてやる」
と炭をこするなどの「滅茶苦茶」をし、
仙吉は「ひいひいと泣いていた」。

   

次に信一は「あたしが狼になるから、
二人旅人に」なり「しまいに狼に
喰い殺される」という遊びをしようと
言い、仙吉が「やりましょう」と応じて
これを始める。

狼に噛まれ土間に横たわった仙吉は
着物の裾をまくられて腰から下を露出し、
背中に乗った信一は「むしゃむしゃと
やっている」。

同様に横たわっている私にも乗ってきて
鼻の頭から「むしゃむしゃ」をやり
始めたが、この「奇怪な感覚は恐ろしい
という念を打ち消して魅するように
私の心を征服して行き、果ては愉快を
感ずるようになった」。

泥の付いた草履で顔を踏みにじられても…

私はそれをも愉快に感じて、
いつの間にか心も体も全く信一の
傀儡(かいらい)となるのを
喜ぶようになってしまった。

     

【転】

明くる日の学校では、相変わらず
仙吉はガキ大将で信一は意気地なし。

四五日後の放課後、信一の女中に
呼び止められ「今日はお嬢様の
お雛様が飾って」あるから遊びに
来るよう誘われる。


訪問すると仙吉が出てきて、信一と
光子のいる雛段のある部屋に案内。

四人で白酒を飲んで酔い、仙吉が
「狐ごっこをしませんか」と提案。

      
田舎侍になった仙吉と私の前に、美女に
化けた狐の光子が現れ、「二人とも
化かされてるんだから、糞(うんこ)を
御馳走のつもりで食べるんだよ」などと
言って、足で踏みつぶした饅頭や、
痰や唾吐(つばき)を吐き込んだ
白酒をすすめる。

私たちは舌鼓を打って「おおおいしい」
とたいらげ、菓子皿を頭にのせて
踊りだす。

そこへ信一が現れて、人間をだます
「不届きな奴だ」と退治にかかる。

  
光子は抵抗するが、信一の号令のもと
私たちは光子の両脚を抱きかかえ、
信一は姉を縛り上げる。
  
    

信一が口に含んだ餅菓子をぺっぺっと
光子の顔に吐き散らし、私たちも
真似たので、顔じゅう真黒になる。


光子はやがて逃げ出して顔を洗って
戻ってきて、今度は「犬になる」
遊びをしようと提案。

これをやりだすと、信一は「緋縮緬の
ちゃんちゃんを来た本当の狆を二匹」
連れてくる。

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お菓子を平らげてしまった狆は、
信一の指の先や足の裏をぺろぺろ
やり出す。

三人も負けない気になって
その真似を始める。
〔中略〕
「綺麗な人は、足の指の爪の
恰好まで綺麗に出来ている」

こんな事を考えながら私は
一生懸命五本の指の股を
しゃぶった。

       

翌日からは毎日のようにこのような
遊戯を続け、三人はいじめられるのを
喜んだが、なかで一番ひどい目に
合わされるのは光子だった。

やがて信一は本物の小刀を持ってきて
「これで少し切らせないか」と
言いだし、三人は素直に足の下に
組み敷かれて肩や膝を少し切らせる。

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【結】

こういう遊びが一と月も続いたある日、
信一は歯医者に行き留守で、西洋館の
二階からは例のピアノが響いていたので、
仙吉と私は「光ちゃん、お遊びな」と
呼びかける。

光子が突然現れてげらげら笑い、
ピアノなど弾いていないと言うので
仙吉は「白状しないとこうしますよ」
と手首をねじ上げる。

私も「拷問にかけるよ」と言って
二人で押さえつけ、仙吉は光子の
顔に尻を押し付けるなどし、
「夢中になって折檻した」。


光子はついに降参し、二人を西洋館に
入れてあげるから水天宮の縁日の夜に
待ち合わせようと約束する。

    

その夜、約束通りに入っていくと暗がりに
蝋の流れ出した手燭、緞子(どんす)の
帷(まく)、天使の肖像画などが見えて来、
置物の蛇は「本当に動いているよう
である」。

やがて肖像と思った天使は光子だとわかり、
いつにない洋装の光子は「仙吉に会わせて
あげる」と私の手首をとり、薄気味の悪い
部屋へ連れていく。

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そこには手足を縛られてもろ肌を脱いだ
仙吉が「額へ蝋燭を載せて仰向いて坐って」
おり、「鳥の糞のように溶けだした蝋の
流れは、両眼を縫い、唇を塞いで」顎から
膝へぽたぽたと落ちている。

「お前もおれも不断あんまりお嬢様を
いじめたものだから、今夜は仇(かたき)
を取られるんだよ」と仙吉。

光子は「もうこれから信ちゃんのいう
事なんぞ聴かないで、あたしの家来に
ならないか」、さもないと「お前の
体へ蛇を何匹でも巻きつかせるよ」
と気味悪く笑う。

   

たちまち私も仙吉同様に縛られて
「熱い蝋の流れ」で眼も口も塞がれ、
光子は消えたが、やがて例の幽玄な
ピアノの響きに恍惚と耳を傾ける。


明くる日から私も仙吉も光子の前では
「猫のようにおとなしくなって跪(ひざまず)
き」、信一も逆らえば私たちに折檻される
ので「すっかり姉の家来となり」、家でも
学校でと同じく意気地なしになった。

「次第に光子は増長して
三人を奴隷の如く追い使い」、
「長くこの国の女王となった」。

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“女王”光子は『卍』に再来

さて、楽しんでいただけましたか。

世間でよくいう”S/M”すなわち”サディズム
/マゾヒズム”のテーマが前面に出ている
ことは明白ですが、それに加えて少年愛、
すなわち今風にいえば”BL”(Boy’s Love。
腐女子の好きな…)の世界でもありましたね。

「私」と仙吉の信一への愛はどう
見ても性的…ですものね。
(足フェチも出ますし;^^💦)


性に目覚めた4人の子供の衝動が絡み合う
ドラマが展開するわけですが、この中で
唯一の女性が光子。

「私」も仙吉も彼女をも愛する(というか
信一から光子へと愛を移すのでしょうか)
わけで、ストーリー的には結局、彼女が
「女王」として君臨するので、女性の勝利
(男たちの女性拝跪)を謳いあげている
ようにも読めます。

  

また”S”から”M”、”M”から”S”へという
反転が起こりやすいというか、両者は
むしろ表裏一体ではないのか…という
認識も織り込まれているようです。

そのように読んでいくと、この短編が
その後の谷崎ワールドをほぼ全面的に
予告る作品だったということが
言えてくるわけですね。

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すなわちデビュー作の『刺青』もそうなら、
長編で初期・中期を代表する『痴人の愛』
『卍』『春琴抄』…いずれもこのパターンを
なぞっているといえます。

『卍』のヒロインが徳光光子で、
『少年』と同じ「光子」だというのも
気になるところです。
👉このような「女性拝跪」パターンと
それぞれに特異なヒロインの活躍する
谷崎ワールドをめぐっては、こちらで
まとめて情報提供していますので、
お好みのものをお探しください。

谷崎潤一郎でおすすめの小説は?絢爛豪華 妖艶な文章美で魅了する10冊    
  
    

👉また谷崎その人の創作意欲を
掻き立て、ヒロインの「モデル」
ともなった生身の女性たちの
実態や葛藤をめぐっては
こちらの本がオススメです。

デンジャラス(桐野夏生) のあらすじ 谷崎潤一郎を囲む女たちの執念

          
 


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谷崎潤一郎の本:ラインナップ
 


ともかくノーベル賞候補に何度も上がった
文豪・谷崎潤一郎の世界をほぼ全体的に
予告してしまったかのような、珠玉の
短編がこの『少年』。

読書感想文やレポートにとりあげるにも
最適とおもいますが、上記のあらすじと
補足情報があれば、どんどん書けてしまう
ことでしょう。

👉当ブログでは、日本と世界の種々の
文学作品について「あらすじ」や
「感想文」関連のお助け記事を
量産しています。

参考になるものもあると思いますので、
こちらのリストからお探しください。

「あらすじ」記事一覧

≪感想文の書き方≫具体例一覧

ともかく頑張ってやりぬきましょー~~(^O^)/



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