近松門左衛門 冥途の飛脚(文楽)のあらすじ 現代語訳でわかりやすく

近松門左衛門 冥途の飛脚(文楽)のあらすじ 現代語訳でわかりやすく

サクラさん
“冥途の土産(みやげ)”
といえば、あの世へ行く
人があちらへ持って行き
たいもの。

“冥途の飛脚”というのは
そちらからの飛脚便で
来る何かという意味?

ハンサム 教授
いや、むしろ逆で”冥途
への飛脚”かな。

しかも行くのが飛脚
問屋の主人とその愛人と
いう一種の洒落(シャレ)
になっているのが近松
門左衛門の傑作浄瑠璃
『冥途の飛脚』;^^💦


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サクラさん
でもそれは悲しくて
洒落にならない(😿)

なぜ飛脚屋さんだったん
でしょうか?

ハンサム 教授
それはホントに飛脚問屋
だったから。




近松の世話物はどれも
実際にあった事件を
伝えるニュース的な
物語でしたからね。

サクラさん
そうなんだ~(😹)

それにしても、洒落を
含めた言葉遣いや
ドラマ展開の絶妙さ
には溜め息が出ます(😻)

ハンサム 教授
近松は”日本のシェイク
スピア”と呼んでもいい、
日本の宝ですよ。

ともかくどこがどう
凄いのか、ストーリーを
しっかり辿って
いきましょう。


というわけでおなじみ”あらすじ暴露”
サービスの第221弾(“感想文の書き方”
シリーズとしては第308回)となる今回は
近松門左衛門の人形浄瑠璃(文楽)で世話物
の代表作『冥途の飛脚』((((((ノ゚🐽゚)ノ

社会の実際の出来事に取材した実話報道的な
作品が「世話物」と呼ばれ、特に男女の道行
(みちゆき:命がけの逃避行)が山場となる
物語は近松の真骨頂でしたが、『冥途の
飛脚』(1711)はまさにそれ。

まずはYouTubeで公開されている文楽座
公演『冥途の飛脚』「封印切の段」を
覗いてみましょう。 👇


そして今回の内容はザッと以下のとおり。



ごく簡単なあらすじ(要約)

ではまずぎゅっと縮めた”ごく簡単”な
あらすじ(要約)から。

飛脚問屋「亀屋」の若主人忠兵衛は、
大和国新口(にのくち)の大百姓からの
養子で、義父の死後、商売を継ぎ、
遊里では梅川と恋し合っている。

12月、届くはずの金が届かないと
あちこちから苦情が入るが、それは
田舎客に身請け身請けされそうに
なった梅川をわがものにするため
店の金を流用し始めたことによる。

友人の丹波屋八右衛門にも金が払えず
ごまかしていたが、急に店に大金が
入るや否や、忠兵衛はこれを懐に入れ
顧客に届けようと飛び出すも、足は
梅川のところへ向かってしまう。

行けば八右衛門が遊女たちに忠兵衛の
窮状を暴露している最中で、怒った
忠兵衛は八右衛門に金を投げつけ、
ついでに梅川の身請け代などに
持ち金のほとんどを使ってしまう。

  

こうなればただちに「飛脚仲間」の
捜査の手が来るからと、二人は急ぎ
大和国新口村を目指して旅立つ。

何日かして新口村に入るも、すでに
捜査の手が回っており、実父の
孫右衛門はたまたま道で転んで梅川に
助けられ、話すうち事情を知るも、
忠兵衛との対面はかなわない。

この孫右衛門と小作人で旧友の忠三郎
との協力で、二人はなんとか村外へ
逃げのびかけるも、役人につかまって
引っ立てられる。

いかがでした?

ん? これではあまりにも骨ばかりで
肉がなく、洒落も悲しみもないし、
どこがそんなに傑作なのか分からない?

それはまことにその通り;^^💦

というわけで、以下では要所要所に
“泣ける”原文もはさみながら”かなり
詳しい”あらすじを書いていきますので、
どうぞご堪能ください。

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かなり詳しいあらすじ

ではさっそく入っていきましょう。

角川文庫(諏訪春雄 👇)からの引用で
原文と現代語訳を適宜織り交ぜつつ、
【上之巻】~【下之巻】の3部構成で
あらすじを述べて参ります。
  

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ところどころ、👉印で注釈を入れて
いきますが、うるさいと思われる
場合は飛ばしてかまいません。

【上之巻】淡路町亀屋の場

大坂淡路町の飛脚問屋「亀屋」の主人
忠兵衛は、もとは大和国新口(にのくち)
村の大百姓、勝木孫右衛門の一人子で、
20歳で持参金つきで養子に来て4年。

先代なきあと、義母の妙閑(みょうかん)
の後見で商売に手抜かりはなく、茶の湯、
俳諧などの遊芸も字も上手、あかぬけした
男で、酒もたしなみ遊里にも通う。

   


12月のある夕刻、忠兵衛不在のところへ
大名屋敷の侍が来店し、江戸から届いて
いるはずの300両が未納だと苦情を言い、
ついで友人でもある中之島の丹波屋
八右衛門が同じく50両について催促する。

丹波屋の金が届いたのは十日も前だし、
今朝から他にも二三軒、催促が来て…
と妙閑は忠兵衛が最近そわそわしている
ことが心配の種。


やがて忠兵衛は恋焦がれる遊女、梅川の
ところから帰ってくるが、店の事情が
気がかりで敷居を跨げない。

そこへ飯炊き女のまんが出てきたので、
彼女から聞き出そうと色仕掛けで口説き、
深夜の密会を約束。


まんが去ると丹波屋八右衛門が現れて
金の催促、「飛脚仲間へ訴えようか。
まずお袋に会おう」と店に入ろうと
するので、手を合わせて止め、
泣きながら事情を話す。
👉「飛脚仲間」は事故の場合の保障など
共同責任を負うべく組織されている
18軒からなる問屋組合。

亀屋はついぞ「仲間に難儀をかけず
十八軒の鑑(かがみ)」といわれてきたと
前の部分で妙閑が誇らしく言及しています。




実はある田舎客が梅川の身請けを申し出て
いるので、対抗するための手付金にその
50両は流用したが、4,5日で返すから
待ってほしいと。

相手もほろりとして「八右衛門、男じゃ」
と猶予を与え、忠兵衛は「ご恩を忘れない」
と額を土につけて泣く。


ところがそこへ妙閑が出てきて、
八右衛門が待つというのを押して
すぐに金を出すようにと忠兵衛に命じる。

忠兵衛は納戸に入って陶器の鬢水
(びんみず)入れを見つけると、
小判包みに包んで持ち出し八右衛門に
渡し、妙閑には字が読めないのをいい
ことにデタラメな証文を書いて渡す。
👉「鬢水入れ」は整髪用の油などを入れる
容器で、鬢盥(びんだらい)ともいい、
小判を重ねたような形のものが
一般的でした。

  


こうして夜も更けたところへ馬の荷が
到着し、例の大名屋敷への送金300両を
含む、あちこちの為替の総額800両が
届けられる。

大名屋敷への金は忠兵衛自身が急ぎ
届けることにして飛び出したが、
「心は北へ行く行くと思ひながらも
身は南」、知らぬ間に梅川のいる
新町へと足が向いている。

行ってしまおうか、やめようか…

一度は思案 二度は不思案(ぶしあん)
三度飛脚(さんどびきゃく)。

戻れば合せて六道(りくどう)の
冥途の飛脚と

👉「三度飛脚」は江戸・大阪間を毎月3度
定期的に往来する飛脚で、亀屋の主要な
収益源。

その前、妙閑をだました場面でも
「仏の顔も三度」ということわざとの
地口(シャレ)に使われています。

「戻れば」とは新町へ行くことで、
それすなわち死者のさまよう冥途への
飛脚という次第。


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【中之巻】新町の茶屋越後屋の場

見世女郎(下級の遊女)の梅川は茶屋の
越後屋へ来て、そこのお内儀や二階で
客待ちする遊女仲間と話す。

例の田舎客の強引さへの怒りや
忠兵衛のみを恋焦がれる思いを語り、
遊女らはもらい泣き。

気が滅入るので浄瑠璃でもと勧められ、
梅川は三味線をとって唄いだす。

傾城(けいせい)に誠なしと
世の人の申せども。それは皆僻事
(ひがごと)訳知らずの言葉ぞや。
嘘も誠も本(もと)一つ。
〔中略〕
逢ふこと叶わぬ男をば思ひ思ひて
思(おもひ)が積り。思ひざめにも
醒むるもの。

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近くまで来ていた八右衛門がこれを
聞きつけ、「男ならここにいるぞ」と
わめくが、それが八右衛門だと聞いた
梅川は断りを入れてもらい、お内儀と
女郎衆はみな階下で八右衛門をもてなす。

八右衛門が「忠兵衛のことで…」と暴露話を
始めたちょうどその時、忠兵衛当人が
到着し、その話を立ち聞きしてしまう。


忠兵衛の窮状をぶちまけた八右衛門は、
あいつが「五十両」と称して「戻した小判
お目にかけうか」とばかり、例の鬢水入れを
出して見せ、これはさらし首に値する行状、
友達さえだますこの悪党は廓へも出入り
禁止にしろと息巻く。

立ち聞きの忠兵衛はどうしてやろうかと
身を引き裂かれる思い。

二階の畳に耳を当てて聞いていた
梅川は「舌を切つても死にたい」と
忍び泣き。



生来短気の忠兵衛がついに飛び出して
罵倒するや、これはお前の根性を
入れ替えるための方策だったのだと
弁解する八右衛門。

収まらない忠兵衛は懐から50両を出して
投げつけ、これに怒って投げ返す相手と
つかみ合いの喧嘩。

二階から降りてきた梅川が必死に
なだめるが、のぼせ上がった忠兵衛は
梅川の身請け代として不足の110両を
はじめ、各種の支払いを一気に済ませる。


晴れて廓を出るのだから挨拶もしたい…
と悠長な梅川を忠兵衛はせかし、
ばらまいたのはすべて預かり金だから
飛脚仲間からの詮議は今にも来よう、
「地獄の上の一足飛び飛んでたもや」
とすがりついて泣く。

震え出した梅川は「なぜに命が惜しいぞ
ふたり死ぬれば本望」と応じ、生きられる
だけ生きて最後は死ぬばかり…
と腹を固め、二人は大和路を落ち延びる。

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【下之巻】忠兵衛梅川 相合駕籠

河堀口(こぼれぐち)あたりで相合駕籠
(あいあいかご)を降りた二人は
冬枯れの道を語り合いながら歩く。

奉納提灯(ちょうちん)の思い出から
梅川の語る

定めぬ契(ちぎり)提灯の消ゆる。
命の夕(ゆふべ)には此の紋つけて
我が仲の。経帷子(きゃうかたびら)
と観念し。冥途の道を此のやうに
手を引かうぞや引かれう

といった言葉に、二人はまた
手を取り合って泣く。


映画『Dolls』から(後出の動画参照)


藤井寺、富田林を経て竹の内峠を越え、
奈良や三輪に宿を取って進み、ようやく
実父の住む新口村に入るも、未対面の
継母への遠慮もあり、とりあえず
幼ななじみの小作人、忠三郎の家へ。

忠三郎は不在で初対面の妻が応対し、
当人が忠兵衛とは知らぬまま、
村はすでに忠兵衛捜索で大騒ぎに
なっていると語る。

妻に忠三郎を呼びに行ってもらい、
家で二人きりになると、夫婦になった
ことを互いの親に認めさせたいなどと
語り合うが、梅川は「私が母は京の六条」、
すでに捜査の手が伸びていようと嘆く。
👉「京の六条」は被差別部落の所在地でも
ありました(その後、「七条」に移転)。

詳しくはこちらで。

竹田の子守唄 原曲歌詞全文&赤い鳥版 これがなぜ”放送禁止”に?

     


家の障子を細目にあけて、雨の中、
お寺参りのよく知る村人たちが通るのを
見守るうち、実父の孫右衛門が通り、
二人は手を合わせて涙にくれる。

と、高下駄の鼻緒が切れて孫右衛門が
泥田に横転し、飛び出したくても
出られない忠兵衛に代わって、
梅川が走り出て親切に介抱する。

感謝する孫右衛門が素性を尋ねると、
「自分の舅があなたに似ているので」
などとごまかすが、言葉の端々から
実相を推量した孫右衛門は、忠兵衛への
思いを吐露する。

「憎い奴とは思へども、可愛うござる」
とわっと泣き伏し、持ち金を与えると、
これを路銭に「一足(ひとあし)も早う
退(の)かっしゃれ」、忠兵衛に一目
会いたいのは山々ながら、「アア大坂の
義理は欠かれまい」と立ち去る。

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家に戻った忠三郎は、今まさに孫右衛門の
家が捜索されている、次はここだから
すぐ裏道から御所街道へと山越えして
行きなさいと蓑笠を出してやる。

二人を逃がすことに成功した忠三郎と
孫右衛門が喜んでお寺へお礼参りに
行こうと歩くうち、忠兵衛梅川
「たつた今捕(と)られた」との騒ぎ。

孫右衛門は気を失い、それを見た梅川は
目もくらんで泣きくずれ、忠兵衛は
大声でこう叫んで泣く。

身に罪あれば覚悟の上
殺さるるは是非もなし。
御回向頼み奉る
親の嘆(なげき)が目にかかり、
未来の障(さはり)これ一つ、
面(つら)を包んで下されお情けなり


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シェイクスピアにどこで匹敵?

さて、いかがでした?

さすが近松…というところが、
ある程度にはご堪能いただけたのでは
ないでしょうか。

いくつか引用した原文の美しさもさること
ながら、たとえば【上之巻】で遊里から
帰った忠兵衛が敷居を跨ごうとする前に、
次々と人物が登場することで物語が
スピーディに二転三転していくあたり。

あるいは【下之巻】で、相手がその本人とは
知らぬまま忠兵衛捜索の騒ぎについて話す
忠三郎の妻、またも相手が実子の妻とは
知らぬまま(途中からは知らぬふりで)
話をすることで発生するドラマティック・
アイロニーの絶妙さ。

そして何より、主人公たちを押し流してゆく
運命のいかんともしがたい急流が、その
一因をなす彼らの持ち前の性格とともに
しっかりと胸に迫ってくること。

この劇作の巧みさとそこに底流する哲学が
実際、シェイクスピアに匹敵すると称して
過言でもなさそうに思われます。
👉シェイクスピアがなんぼのもんじゃい
と思われた方は、ぜひこちらでその世界に
足を踏み入れてみてください。

シェイクスピアの本でおすすめは?喜劇・悲劇…各ジャンル21作品の紹介!

  


北野武映画『Dolls(ドールズ)』とは?

さて、このような近松の世界、なかでも特に
『冥途の飛脚』を大きなモチーフとして
創作された現代の芸術映画として北野武
監督の『Dolls(ドールズ)』(2002)に
ふれておきましょう。

この映画はいきなり『冥途の飛脚』の
上演風景に始まって、終盤へ来てから再び、
忽然として梅川・忠兵衛が出現します。

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その間はどんなドラマかというと、
多少とも心を病んだ恋人とその相手という
現代の3カップル(菅野美穂+西島秀俊、
松原智恵子+三橋達也、武重勉+深田恭子)
が絡み合うというほどでもなく接触する
という筋立て。

世を捨てた「道行」で梅川忠兵衛に重なり
あう主役はやはり菅野+西島コンビです。


予告編動画をお見せしたいところですが、
なんと浄瑠璃場面は全然出て来ないという
悲惨さ(製作者の芸術的センスが悲しい😿)

代わりに、久石譲の音楽をメインに編集
されたこちらの動画をご覧ください。

3分40秒あたりに出ますので、乞うご期待。 👇


👉3カップルのうち《武重+深田》の
ストーリーが谷崎潤一郎の『春琴抄』を
踏まえていることは明白です。

『春琴抄』についてはこちらで詳しく
情報提供していますので、ぜひご参照を。

谷崎潤一郎 春琴抄のあらすじ 簡単/詳しくの2段階で

    

👉北野武(ビートたけし)の世界に関心を
おもちの方は、彼を映画の世界に導く
機縁のひとつとなった大島渚作品
『戦場のメリークリスマス』も
覗いて見てください。

こちらで情報提供しています。

戦場のメリークリスマス 原作を考察⦅映画との違い・あらすじを押さえて⦆ <

     


まとめ さて、いかがでしょう。

ともかく、コト『冥途の飛脚』に関する
かぎり、これぐらいの情報があれば、
もうバッチリでしょう。

ん? 近松門左衛門の世界をもう少し
知っておきたい?

それでしたらまず、「心中物」というか
「心中」自体の大流行を招き、幕府から
「『心中』と言うな。『相対死に』と言え」
というお触れが出たというイワクつきの
世話物の最初の傑作『曽根崎心中』、
そして円熟期の『心中天網島』が必見。
👉こちらで詳しく情報提供して
いますので、ぜひご参照ください。

近松門左衛門 曽根崎心中のあらすじ 現代語訳でわかりやすく

心中天網島 現代語訳あらすじ(原文つき) おさんの手紙が生む義理とは

    

さあ、これで万全。

読書感想文だろうがレポートだろうが、
スイスイと書けてしまうのでは
ないでしょうか。

ん? 書けそうなテーマは浮かんで
きたけど、具体的にどう進めていいか
わからない( ̄ヘ ̄)?

そういう人は、「感想文の書き方
《虎の巻》」を開陳している記事の
どれかを見てくださいね。
👉当ブログでは、日本と世界の多様な
文学や映画の作品について「あらすじ」や
「感想文」関連のお助け記事を
量産しています。

参考になるものもあると思いますので、
どうぞこちらのリストからお探しください。

「あらすじ」記事一覧

≪感想文の書き方≫具体例一覧

ともかく頑張ってやりぬきましょー~~(^O^)/



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