卍(小説)のネタバレ 谷崎潤一郎が大阪弁で描くややこしい愛の世界 | 笑いと文学的感性で起死回生を!@サイ象

卍(小説)のネタバレ 谷崎潤一郎が大阪弁で描くややこしい愛の世界

サクラさん
谷崎潤一郎の『卍』
(まんじ)、開いてみると
字がびっしりで
ほとんど空白なし。

メッチャ読みづらそう
ですけど(😹)……


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ハンサム 教授
しかもそれがコテコテの
の大阪弁の女言葉でウネ
ウネと(いや、大阪の人
には失礼;^^💦)続く。

でもいったんその特異な
物語に引き入れられると
ぐいぐい引きずられて
興奮こそすれ退屈は
しませんよ。

サクラさん
タイトルの「卍」とは?

ハンサム 教授
四人の男女が絡み合う…
しかも異性愛・同性愛
入り乱れて…



という変則的な愛の世界
をこの文字の形に象徴
させているのかな。

サクラさん
オオ~(😺)それは読ま
ないわけにいき
ませんね(😻)


というわけで、今回でついに第153
となります”あらすじ”暴露サービス!
(感想文の書き方シリーズ第228回)

採り上げるのは文豪谷崎潤一郎、
前期の超問題作『卍』(1928)!


『卍』原作⦅広告⦆クリックすると楽天市場へ

映画化は1964年の増村保造監督作品
(若尾文子・岸田今日子主演)を皮切りに
1983年、1998年、2006年、そして2023年と
5度も制作されてきた名作です。


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いや実は1985年には舞台をナチス時代の
ベルリンに移してドイツ・イタリア合作
『卍/ベルリン・アフェア』(リリアナ・
カヴァーニ監督)も撮られていますので、
これを含めると6度になります。

ちなみにこの国際映画で原作の「徳光光子」
に当たる魔性の女を演じているのは
高樹澪さんでした。

さてその、実は結構ややこしい原作の
あらすじをしっかりお届けしようという
のが本日の課題なのですが、まずは
ほんのアウトラインだけでいいという
人のための「ごく簡単なあらすじ」から。


ごく簡単なあらすじ

富裕な商家から弁護士の柿内に嫁いだ
園子は、日本画学校で共に学ぶやはり
富裕な家の美しい娘、徳光光子に
心惹かれる。

彼女との間に同性愛の噂を立てられ、
二人が会って親密の度を増していくと、
噂が事実と化してしまい、ついに
夫に知られて夫婦仲が悪化。

光子の妊娠が判明し、婚約者だという
綿貫栄次郎が園子の前に現れて説得し、
彼と光子との関係を強化するための
誓約書を作る。

その誓約書が新聞社の手に渡り、
園子と光子との仲は世間周知に。

 

一緒に逃げた二人は、徳光家の別荘で
手を握り合って服毒。

半日ほどして意識が戻ると柿内が
来ていて、さかんに謝る一方で、実は
光子に初めて「ほんまの男性」を
教えたのは自分だと告白。

夫婦はともに泣いて、光子に言われる
まま「殺される覚悟で」服毒し、
衰弱していく。

太陽のように輝いていた光子もやがて
荒(すさ)み、結局は「三人で死のう」と
改めて服毒するが、園子のみ生き残り、
今も光子が恋しくてたまらない。

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ん? なんだかよくわからない?

はい、そうでしょう、そうでしょう。

そういうわけで、ここはやはりこの後に
準備してあります「より詳しい
あらすじ」の方を読んでいただく
しかないのですね;^^💦


「異性愛+同性愛」の三角関係

さて原作小説ですが、これが文字ばかり
ぎっしりで、しかもいきなり大阪弁で
始まって、それが連綿とどこまでも…
というシロモノ。

サクラさんでなくても二の足を踏むかも
しれませんが、いったん入り込めば、
これほど妖艶で奇態(けったい)でしかも
奥深い恋愛小説はまたとありません。

そこで、ややこしい小説は苦手だと
いう人のために、主要登場人物4人の
関係図を作っておきました。

はじめに見てしまうと完全なネタバレになる
わけですが、それでもかまわない
という人は、これを頭に入れて
ストーリーを追っていただくと
「わけがわからん」ということには
ならないはずです。

つまり「異性愛+同性愛」の三角関係が
物語の軸になるのですが、前半の黄色い
三角形がいつの間にか崩壊して、別個の
赤い三角形が浮上するというのが後半の
どんでん返しになるわけなんですね;^^💦


ともかく主な登場人物はこの4人。

物語は2つの三角形の絡みで進展しますが、
その経緯全体を語る視点人物となるのが
柿内園子で、彼女が「先生」と呼ぶ
小説家に洗いざらい事件の経緯を
語ってゆく…
というのが小説の設定です。

この「先生」が時折カッコ書きで挟んでいく
「作者註」が物語のアクセントにもなって
いるのですが、開幕早々「その一」に出る
「註」から、読者は以下の2点を
知らされます。

  1. 園子はすでに「未亡人」である。

  2. 夫の死去に絡んで「異常なる
    経験」をした。

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かなり詳しいあらすじ

さて、それは一体いかなる「異常なる
経験」でどのようにして夫を喪ったのか、
園子さんの話を聞いていきましょう。

原作は「その一」から「その三十三」まで
園子の話が続くのですが、ここでは
それらを「起承転結」の4部に分け、
それぞれの部の初めの👌に各部の
ごく簡単な概要を置いています。

また「あらすじ」中に挟んでいる
👉印の注釈は、わかりにくい
部分などへの補足説明。

その中には、この時点では園子に見えて
いなかったけれども後になって「実は○○
だった」とわかる…という類のポイントを
先走りでネタバラシ📢してしまうものも
含まれてきます。

なので、そういうのは興ざめだ、知りたく
ないと思う人は飛ばしてくださいね。

なお「 」内は上記文庫本からの引用で、
あて姉ちゃんと此処で…」のような太字
原文では傍点の振られている部分です。


【起】(その一~その八)

👌園子と光子の恋愛が始まり、孝太郎との
夫婦関係が悪化する経緯が描かれます。


富裕な商家の娘で、学者肌の弁護士
柿内孝太郎と「婿を取るのも同様に」
結婚した若奥様、園子は大阪・天王寺の
「女子技芸学校」で日本画を習っていた。

そこの生徒で船場の羅紗(らしゃ)問屋の
お嬢様、徳光光子は美女として有名で、
園子はまだ面識さえないにもかかわらず、
自分の描いている観音が光子に似てしまう。

 

教室に来た校長がそのことを指摘して笑い、
議論になってしまったせいで、「わたしが
光子さんに同性愛捧げてる」という
噂が広まる。

光子と少しづつ話すようになった四月の
ある日、「わたしたち陥れようとしてる
者がいますから」などと言い出すので、
昼食を一緒しながら話すが。

それは校長先生その人で、光子の縁談に
絡んで市会議員に買収されている
のだという。
👉ここで校長のからかいの(背後の
たくらみ)が暴露されるわけですが、
光子のこの発言にもまたのある
ことが後になってわかります。

このように後段でが明らかになり、
さらに後段でそのにもがあったりする……
といった仕掛けがかなり錯綜して
いるんですね。

またこの光子が自分より一歳年下で
生きておられたら今年二十四ですねん」
という園子の語りから、光子もまた例の
「異常なる経験」に関与して命を落とした
のであろうことが示唆されます。

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観音の絵が完成したので夫に見せると、
大いに感じ入って表具屋で仕立てて
もらったらどうかという。

光子にそう告げると、それなら「もう
一ぺん画き直して見(め)えへん?」
「体のつきがちょっとだけ違うよってなあ」
などと言うので、
「そんなら一ぺんあんたのはだかの恰好
(かっこ)見せて欲しいなあ」と頼むと
「かめへんわ」と二つ返事で承知。

   


翌日の午後、光子は柿内家の一室で裸に
なり、あまりの美しさに落涙した園子が
抱きつくと、光子も泣いて二人は愛し合う。


二人は恋文らしき手紙をやり取りする
ようになり、光子は「ハズさん」
(柿内孝太郎)への嫉妬心を伝えていく。

園子はそれに応えて夫を嫌うようになって
夫婦仲は悪化し、お前のは「変態性欲や」
「あんたこそ頭古いねん」と罵りあう。

夫はしまいに灰皿を投げつけ、光子と
だけは交際してくれるなと懇願するが、
園子は「イヤや」とあらゆる束縛を拒絶。

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【承】(その九~その十五)

👌光子が綿貫という男とも恋愛していると
知って嘆く園子は孝太郎との関係を修復
しますが、光子の妊娠を装った騒ぎから
彼女への愛も再燃します。


光子は柿内家に入り浸り始め、食事も
二階で一緒にとり、それに夫も加わって
三人で食べることも多くなった。

6月3日、夕方5時まで遊んで帰った光子
から9時すぎに電話があり、ミナミの
笠屋町の料理屋で入浴中に着物を
盗まれたので、着物とお金2~30円を
届けてほしいと哀願。


女中の「お梅どん」と二人で話しながら
行き、やっとその店を見つけて入って
いくと、27~8歳の「女のような綺麗な」
男が出てきて畳に頭を擦りつけて詫びてから、
「綿貫栄次郎」と名のる。

綿貫の言うには、自分と光子とは前年末から
愛し合っていて結婚の約束もしていた。

ところが光子に縁談が来て、それは
「同性愛の噂」で破談になったので、
まずよかった。

が、光子は今度はあなたを本気で愛する
ようになり、「同じ恋愛でも同性の愛と
異性の愛とはまるきり性質違うよって」
というので、両立させていくことで
合意していた。


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今日は二人で脱衣して休んでいたところへ、
突然、賭博の検挙があり、そのどさくさで
ある夫婦が私らの着物を奪って変装したが、
そのままつかまって警察へ連行された…。
👉この時点では事実そのままとしか
思えない綿貫の話ですが、実はこれも
のある作り話。

綿貫が(したがって彼と連携する光子も)
したたかなクセモノであることが
やがて見えてきます。


光子に裏切られた悔しさを抱えて
帰宅すると、夫にやさしく
抱きしめられて号泣。

「一生この人の愛に縋(すが)ろう」
という気になり、これまでの経緯を
すべて話す。


夏になると、家へ来た光子から堕胎の
責任者(立会人)になってほしいと
懇願され、話すうちに光子は顔が青く
なって「出る出る」の騒ぎになる。

園子は対応しながら「みんな狂言や」と
知って欺されており、「光子さんかて私が
欺されてる振りしてるのん見抜いてながら、
何処までもずうずうしゅう芝居して」
いたのだけれど、「結局私は、見す見す
光子さんの仕掛けた罠(わな)い自分を
落とし込んでしまいましてん」


こうして二人はヨリを戻し、
「もうもう一生仲ようしょうなあ」
あて姉ちゃんと此処(ここ)で死にたい」
などと言い合う。

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【転】(その十六~その二十九)

👌綿貫は光子との関係について同盟しよう
と園子に持ちかけて「誓約書」に
署名させ、それを孝太郎に見せるという
策に出ますが、光子は園子に綿貫は
不能で妊娠はウソだと告げて、
二人での逃走を計画します。


光子の心が「綿貫の方い吸い取られて」
いるとよく分かっていた園子だが、
それでももう二度と別れられないという
気持ちに支配されて綿貫との「焼餅喧嘩」
もしなくなり、二人の間に綿貫も入り込んで
三人で付き合うようになる。

園子と二人きりになると綿貫は、
光子についてあなたに対しては私を
愛してるように見せかけ、私に対しては
あなたを愛してるように見せかけている…
「そんなことするのん好きなたちなんや、
けど、どっちや云うたら」あなたを
愛していると言う。

   

その根拠や自分の嫉妬について長々と
説明した上で、「もうこれからは同盟
しよう」、互いに助け合って馬鹿な目に
合あわないようにしようと言い、
用意してきた「誓約書」2通を取り出す。

園子と綿貫は「骨肉ト変リナキ兄弟ノ
交リヲ締ス」として八か条を並べたもので、
どちらかが「光子ニ捨テラレタル場合ハ
他ノ一人モソレト進退ヲ共ニスベシ」とし、
逃亡や情死を禁じるなどの内容。

綿貫は用意していた刃物で互いの肘を
切って流血させ、血を飲みあった上で、
血判を押させる。


数日後、園子は笠屋町の例の宿屋で
光子に逢い、肘の傷を見とがめられたが、
「あんたかってあてに隠してることある
やろ」と逆に迫って、先日の「出る出る」
騒ぎが狂言だったことを白状させる。

妊娠などあるわけない、と開き直った
光子が言うには、綿貫は幼時に患った
「睾丸炎」のせいで「子供生ます能力の
ない」男なのだ(このことは秘密探偵
にも調べさせた)。

    

「自分の一生は綿貫のお蔭で滅茶々々に
しられた」、綿貫は「結婚々々云うてる
けど、それかて自分で自分を欺くためや
のんで、ほんまに結婚出来るとは
思てエへんねん」などとも言い、
彼を叩きつける「最後の手段」として
狂言の「駆け落ち」でおびき出すことも
考えていると話す。


そこへ現れたのが夫の孝太郎。

ポケットから例の「誓約書」を出して
園子に突きつけ、お前の署名に
間違いないかと尋ねる。

これは綿貫がわざわざ持ってきたもので、
彼の要求は要するに「離縁するな」、
すれば園子がヤケを起こして自分と
光子の結婚を邪魔するから…ということ。

あんたが「うん」というならこの
「誓約書」を預けるというので、
もらっておいたのだという。


追い詰められた園子は「死んであんたに
詫(あや)まります!」と号泣し、
孝太郎はなだめて連れ帰る。


裏をかきあっていた綿貫と光子だが、
綿貫は今度は光子に「あんたも僕に
証文入れなさい」と「永久に一心
同体や」というような文案を見せる。

光子はこれに乗らず、園子と二人で
「逃げる」計画を立てる。

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【結】(その三十~その三十三)

👌二人は別荘で服毒したものの
死にきれず、孝太郎が現れて光子と
深い仲になっていることを告白します。

綿貫のリークで新聞沙汰になったことも
あり、三人で死のうという話になって
実行しますが……


それから3日目に二人は「逃げ」、
浜寺の徳光家の別荘に着くと、
頼んであったお梅どんが遅れて着き、
「さア、今の間アにしやはらんと、
電話かかってきまっせ」と
用意してある薬や水を示す。

二人は互いに書いて持ってきた
「書き置き」を見せ合ってから、
震える手を握り合いながら、
薬を飲む。

      

半日ほどして意識が戻ってくると、
光子が男と話す声がし、はじめ
綿貫かと思ったが、それが夫だと
わかってくる。

「どうぞ堪忍してくれ」
「僕は始めて恋するもんの心を知った。
お前があないに夢中になったのん
無理ない云うこと今分かった」
などと言い出した柿内は、すでに何度も
光子との「間違い」を繰り返していた。

その熱情は光子より「十倍も二十倍も
夢中」なもので、光子は光子で「始めて
ほんまの男性ちゅうもん知んなさった」
(綿貫は不能だったので)

「誰ぞ一人でも不幸になったら三人で
死のやないか」と夫は言い、二人で
夜明けまで泣き通す。


その後、光子は柿内夫妻に薬を
飲ませたがり、二人は「殺される覚悟で」
一緒に飲むようになる。

薬のせいで衰弱してきた夫妻に対し、
光子はつやつやと血色よく
「太陽みたいに輝いて見えた」が、
やがて「綿貫の怨念祟ってるみたいに
日増しに荒(すさ)んで」きて、
ついには「綿貫生き写しに」なる。

   

9月20日ごろから新聞に「醜悪なる
有閑階級の罪状を摘発すべし」という
連続記事が出て、そこに光子と園子の
交換した手紙も出たため、お梅どんと
綿貫がグルになっていたと発覚。


10月18日、三人は一緒に死ぬことに決め、
枕もとの壁に例の観音の絵を飾り、
「あの世行ったらもう焼餅喧嘩せんと
仲好う脇仏(わきぼとけ)のように本尊の
両側にひッついてまひょ」と光子を中に
挟んだ三人で薬を飲んだ。

それが自分一人生き残ってしまった次第で
ただちに跡を追おうと思ったけれども、
もしかしてこれも欺されたのだとしたら、
せっかく死んでもあの世で邪魔にされる
のではないかと疑われてそれもできず…

今も光子さんのこと考えたら、
悔しいより「恋しいて恋しいて」…

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光子の愛は本気か演技か

さて、楽しんでいただけましたか。

ん? やっぱりよくわからん?

ただまあ、タイトルの「卍」の意味が愛欲の
──しかも同性愛・異性愛が絡んでの——もつれ
・錯綜といったところにあったことは
ご理解いただけたのではないでしょうか。
👉同性愛・異性愛が絡まる愛欲の
ドラマとして『卍』は世界的に見ても
先駆的な作品の一つだったと思いますが、
その後に出現した同趣の傑作として
マヌエル・プイグの『蜘蛛女のキス』
(1976)とその映画化(1985)を挙げる
こともできそうです。

詳しくはこちらで。

蜘蛛女のキス…の意味は?映画のあらすじ【ネタバレ】&小説との違い

    


ん? 同性愛の方は自分にその気(け)が
ないから、やっぱりわからない?

そういう人にとっての面白さとしては
《物語自体の危うさ》といったところが
一つのポイントになってくるんじゃ
ないでしょうか。

つまり物語はあくまで園子の目を通して
語られていますから、彼女以外の3人に
ついては、したこと言ったことは正しく
伝えられているとしても、それぞれの時点で
腹の中で何を考えていたのかはわからない
わけですよね。

それが後になってわかってくるところに
この小説の醍醐味もあるわけですが、
それとて「園子がそう理解した」という
ことにすぎないので、奥の奥(裏の裏)は
結局わからない……
という話にもなりますね。

 

とりわけ4人のうち最大のクセモノと
いえるかもしれない徳光光子は、同時に
絶世の美女でもあって、その名の通り
まばゆいばかりの光輝を放っています。

この光子が園子を乗せていく(どこまで
本気でどこから演技かわからない)言動、
立ち居振る舞いの完璧さ。


その超絶技巧はおそらくかつて綿貫を
乗せた際にも、またやがて孝太郎を乗せて
いく過程でも、遺憾なく発揮されたの
だろうなあ……
とだんだんわかってきます。

でも、だからといって憎むべき悪役か
といえば、死への覚悟もそれなりに
あったようですし、深いところに大きな
問題を抱えた不幸な人として読者の共感
を呼ばないでもないでしょう。


超人vs.無意識の偽善者

光子に見捨てられる形になる綿貫という
人物も非常に興味深い造形ですね。

最初は光子の方から本気で
惚れ込んだ可能性も大きいと思いますが、
「不能」を知られてから言うことも
ふるっています。

男子の中で一番えらい精神的な
仕事した人は、お釈迦さんでも
キリストでも中性に近かった
人やないか、そやさかい自分
みたいなんは理想的人間や、
そない云うたら〔中略〕
観音さんや勢至菩薩の姿かて
そうやし、それ考えても人間の
中で一番気高いのんは中性や
云うことわかってる、
       (その二十一)

だから

なんぼでも生きてて、
立派な仕事して、
普通の人よりずっと偉大な超人
云うことを見せてやりたい
       (その二十二)

と言うんですね。
👉「超人」は当時の日本で一つの
流行現象になっていたニーチェの概念。

英語で言えば”Superman”(スーパーマン)
ですね。

詳しくはこちらをご参照ください。

ニーチェ ツァラトゥストラは読みやすい?訳本選びがカギに

ニーチェの結婚観を原典から😻女は男より野蛮で猫的だから?

        


中性の「超人」を自負する綿貫ですが、
この綿貫に愛想をつかした光子が
投げつける言葉は「あんたは偽善者や、
云うことと為(す)ることとまるきり
違てるうそつきや」云々(その二十二)。

この「偽善者」というのも「超人」ほど
ではないにせよ、微妙な流行語の一つ
かと思われるわけですが、この批判、
思えば光子自身に跳ね返ってくる
ものでもありますね。

   

「偽善/偽善者」に文学的表現を与えた
先輩の作家として夏目漱石がいて、
『三四郎』のヒロイン美禰子は漱石
自から「無意識の偽善者(アンコンシャス
・ヒポクリット)」と呼んだことで
有名です。

20代の谷崎が漱石から多くを学んだことは
『三四郎』の二年後の『門』を論じた
批評文からもわかりますが、「無意識の
偽善者」タイプの女性として美禰子を
大きく凌駕した究極的な造形を目指した
のが、この徳光光子だったのではないか…

と考えるのですが、皆さんはどう思われます?
👉『三四郎』と漱石の女性像をめぐっては
こちらもご参照ください。

夏目漱石 三四郎のあらすじ 🏫簡単/詳しくの2段階で解説

三四郎(夏目漱石)で読書感想文 美禰子の真意をどう読むか

   

こころ(漱石)のお嬢さんはなぜよく笑う?先生はそれが嫌いだった?

夏目漱石名言集『こころ』etc.に滲む独特の恋愛観とは?
 


いや、『卍』の光子ばかりではありません。

さらに30年後の『鍵』の郁子はさらに
その上を行く造形とも読めますし、
むしろ前期の『痴人の愛』のナオミで
完成していた、あるいはそれ以前、
初期短編『少年』のヒロインにすでに
その骨格はあって、同じ「光子」という
名が与えられているのがその証拠だ…

等々いろんな意見が出そうです。
👉谷崎の生み出した特異な女性像は
ほかにも多種多様で興味が尽きません。

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ともかく掘り下げていくテーマに
事欠かない傑作小説のがこの『卍』。

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👉当ブログでは、日本と世界の多様な
文学や映画の作品について「あらすじ」や
「感想文」関連のお助け記事を
量産しています。

参考になるものもあると思いますので、
こちらのリストからお探しください。

「あらすじ」記事一覧

≪感想文の書き方≫具体例一覧

ともかく頑張ってやりぬきましょー~~(^O^)/

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