はかせ/はくし…どっち? 博士の読み方で正しいのは? | 笑いと文学的感性で起死回生を!@サイ象

はかせ/はくし…どっち? 博士の読み方で正しいのは?

やあやあサイ象です。

『カリガリ博士』に『目羅博士』、
『博士の異常な愛情』、
『博士の愛した数式』に
『博士と彼女のセオリー』、
それから、お茶の水博士に水道橋博士……
 
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これらみな、有名な映画や小説のタイトル
だったりマンガのキャラだったり、
はたまたタレントさんの芸名なんですが、
ところで、全部ちゃんと読めます?

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おまえはどうなのかって? 

実は自信がないんです。

「博士」は「はかせ」ですか、
それとも「はくし」ですか?

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ドクターなら「はくし」

いや、水道橋博士さんの場合は
「はかせ」という読みが”Wikipedia”に
出ていますので、たぶんそれでOK
なんでしょうけど、そのほかは……

これ、もし大学が授与する学位や大学院の
「修士課程/博士課程」という場合の「博士」、
つまり英語の「ドクター」(doctor, Dr.)
に相当する日本語ということなら、
「はくし」の方が正式だといえます。

「はかせ」は一般に通用している
その俗称…ということなんですね。

   Scientists

なので、水道橋博士さんはともかく、
お茶の水博士をはじめ、ちゃんと学位を
お持ち(たぶん)の学者の場合、
正式な場合には「はくし」とお呼びする
のが礼儀だろうと思うんです。


ところが、テレビのニュースなどを 
聞いていると、あれ? と思うこと
しばしばなんですね。

アナウンサーやレポーターが
「山中はかせ」とか「ホーキング
はかせ」とか平気で言ってます。

さすがにNHKではそれが少ない
ような気がしますが……

     教授 professor_at_board

もっともこれ、あまりアナウンサーの
方たちを責められた話ではないんで……

というのは、その学位を出す当の大学の
教授たちも、教授会や研究科委員会
(大学院担当教員の総会)で平気で
「はかせ」「はかせ」を連呼している
そうですから……

下手をすると、この人、ひょっとして
「はかせ」が正式だと思い込んで
るんじゃ……と思わされるとか。

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「はかせ」は律令制の官職

そもそもなんで「はかせ」という俗称が
定着したかといえば、もちろん
「ドクター」の対応物が必要になる
ずっと前から「博士(はかせ)」という
日本語があったからですね。

では、「ドクター」とは異なる
この「博士(はかせ)」とは
いったい……。

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これ、律令制(日本では飛鳥時代~
平安時代の政治制度)で定められていた
官職の名なんですね。

大学寮(官吏養成機関)には明経(みょうぎょう)
博士・紀伝(のち文章〔もんじょう〕)博士・
明法(みょうぼう)博士・算博士・音博士・
書博士が置かれ、

陰陽(おんよう)寮(陰陽道を司る役所)
には陰陽博士・暦博士・天文博士・
漏刻博士が、

また典薬寮(陰陽道を司る役所)には
医博士・呪禁(じゅごん)博士などが
置かれて、それぞれ専門の分野ついて
研究と教育を仕切っていたわけです。

全国の天満宮に祭られているのあの
菅原道真公はもちろん文章博士でした。




それにしても、本来「博」は「はく」、
「士」は「し」としか読めないはず
なのに、なんで「はかせ」なんて
奇妙な読みが定着したんでしょうか。

これも謎で、定説はないんですが、
応神天皇の御世に朝鮮半島の百済(くだら)
から「博士」が来て『論語』などを日本に
もたらしたという記述が『日本書紀』などに
あるところから、起源は百済語だという
説もあります。

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律令時代の博士は世襲

さて、この「博士(はかせ)」が『枕草子』
(第23段)の「すさまじきもの」というのに
出てくるんですね。

「昼ほゆる犬」とか「牛死にたる牛飼ひ」
とかに続いて、「博士のうち続き女子
(をんなご)生ませたる」と出ます。

    

つまり律令制の官職は世襲なので、
男子を産んでくれないと困っちゃう、
「牛に死なれちゃった牛飼い」も
同然だという話です。

これを裏返すと、男子なら少々
オツムの働きが遅れ気味でも、
立派に「はかせ」になれちゃう…
ということですね。

バカ殿様と同じことで……;^^💦

    

そこへ行きますと、現代の「はくし」は
絶対にそういうものではない(はず)
ですから、「はかせ」と混同するのは
失礼ではないか、と私は思うんです。

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漱石と博士号

律令制はもちろん廃されましたが、
その後も俗に博識な人を「物知りはかせ」
と呼ぶような形で「はかせ」という
日本語は生き続けました。

これが、明治に入って決められた学位の
「博士」と字が同じとあれば、やはり
「はかせ」と読む人が多いのは当然で、
この読みが今日まで残っているわけですね。


というようなわけで、明治以降は
「博士」が親譲りでなく、自力で
勝ち取らなければならない称号になった
のは大いに結構なことと思うんですが、
そうなればなったで、これに
いやらしくしがみつく輩もいて……。
    
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夏目漱石はいろんなエピソードに
事欠かない人ですが、日本国家が「特別に
差し上げます」という博士号を、あくまで
「いりません」と辞退し通したことも
その一つ。

ところで、この学位辞退事件より前に
漱石を一躍スターダムにのし上げていた
『吾輩は猫である』(明治38-39)には、
「鼻子」という実業家夫人が出てきて、
「博士」にえらくこだわるんですね。

その偉大な鼻により「鼻子」と呼ばれる
わけですが、その娘の富子と結婚話の
持ち上がっている水島寒月君
(寺田寅彦がモデル)のことを聞きに
苦沙弥(くしゃみ)先生(漱石自身が
モデル)を訪ねて来ます。



二人の会話はこんな感じ。

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「大学院では地球の磁気の
研究をやっています。」

「へえー〔中略〕それを
勉強すると博士に
なれましょうか」

「博士にならなければ
遣れないと仰るんですか」

「ええ。只の学士じゃね。
いくらでもありますからね。」
   (『吾輩は猫である』三)


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「学士」は今でこそ「大卒」というのと
同じで、あまりたいしたことないわけ
ですが、当時は今の「東大卒」と同格か
それ以上でした。

うちの娘にはそれでも不足で、
ぜひとも「博士」でなきゃ、という次第。

これにはも苦沙弥先生も激怒して、
寒月との結婚話は消えていきます。
👉この話の詳しい経緯、また
『吾輩は猫である』という作品を
めぐっては、こちらをご参照ください。

夏目漱石 吾輩は猫であるのあらすじ:簡単/詳しくの2段階で

吾輩は猫である(夏目漱石)で感想文:魯迅も学んだ「人間批判」



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まとめ

さて、おわかりいただけましたか?

「はくし」と「はかせ」……
同じようでもちと違う。

「はくし」は大学が授与する学位の
正式な読みで、「ドクター」に相当。


「はかせ」はもともと律令制の官位で、
この制度が消えてからは、博識な人を
俗にそう呼ぶようになっていたものが
現代の「博士」の俗称として残った、
ということですね。
👉大学の「教授/准教授」などの
職位との関係については、
こちらをご参照くださいね。

教授と准教授、講師と助教の違いは?いつから変更されたの?

名誉教授ってただの教授とどう違うの?報酬・給料や条件は?


👉そのほか日本語の使い方で
迷った場合はこちらへ。

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違いにこだわる人もいますので、
なるべく気をつけて、その場に最も適切な
読みをするよう心がけましょう(^^)y



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