トロイラスとクレシダのあらすじ⦅シェイクスピア問題劇を結末まで詳しく⦆

トロイラスとクレシダのあらすじ⦅シェイクスピア問題劇を結末まで詳しく⦆

サクラさん
『ロミオとジュリエッ
ト』はあまりに初々しい
十代の恋物語で、『アン
トニーとクレオパトラ』
になるともう互いに過去
を引きずる中年の恋。

真夏の恋を燃やす二十代
の男女をシェイクスピア
は書かなかった?

ハンサム 教授
書きましたとも。それが
『トロイラスとクレ
シダ』ですよ。


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サクラさん
二人とも聞きなれない
名前ですが、古代ギリ
シャのお話ですか?

ハンサム 教授
トロイ戦争の
まっただなか。

サクラさん
ああ、世界三大美女の
一人、ヘレネを奪われた
のでギリシャがトロイに
仕掛けた戦争ですね(😹)

ハンサム 教授
ヘレネを奪ったトロイの
王子がパリスですが、
弟のトロイラスも
惚れっぽくてクレシダ
という美女と恋仲に。

サクラさん
で、悲劇的に引き
裂かれるとか❔

ハンサム 教授
ええ。人質のようにして
ギリシャ側に取られて
しまうんですが、問題は
取られた先で別の男と
いちゃついている;^^💦

サクラさん
キャー(叫び) つまりは
いわゆるビッチだった…❓





ハンサム 教授
そうも見えるし、真実の
愛はトロイラスだけに
向けられていたという
解釈も可能でしょう。

ともかく皮肉たっぷりの
作品で、ギリシャの英雄
アキレウスが怠慢で卑怯
な男にされているところ
も痛快です;^^💦

サクラさん
う~む(🐱)。これは
じっくり読みこんで
おきたいですね。


というわけでおなじみ”あらすじ暴露”
サービスの第231弾(“感想文の書き方”
シリーズとしては第318回)となる今回は
シェイクスピアの後期の歴史劇にして
悲劇のようでいてそうでもない…
というので”問題劇”に分類されることの
多い『トロイラスとクレシダ』(1601~02)
に挑戦で~す((((((ノ゚🐽゚)ノ
 👇


蜷川幸雄演出の彩の国シェイクスピア
・シリーズでも2012年にオールメール
キャストで公演がありました。

まずはそのサワリをどうぞ。👇


またもう一つ。

こちらはヒルクレスト(Hillcrest)
高校(同名の高校は各地にあるよう
なので、どこの学校か不明ですが)
による2013年公演。

ほとんどプロ並みで舌を巻く
パフォーマンスも参考までに。



さて、一口に”あらすじ”といっても、
話の骨子だけでいいという場合から、
読書感想文やレポートを書くんだから、
ある程度詳しくないと……
という場合まで、読者さんにより
需要は千差万別でしょう。

そこで大盤振る舞い!

“ごく簡単なあらすじ(要約)”と
“やや詳しいあらすじ”の2段階で
お届けしますよ~(^0^)📢

内容はザッと以下のとおり。


簡単なあらすじ(要約)

はじめにお断りしておきますと、物語の
舞台が古代ギリシャであるため、混乱
しやすいのが登場人物の名前。

ギリシャ語に忠実に日本語表記するか
英語読みに従うかで、だいぶ違ってくる
場合があるのですが、ここでは上記の
松岡和子訳にしたがい、日本人になじみの
ある「ユリシーズ」のみ英語読みで、他は
すべてギリシャ語読みにし、( )内に
英語読みを補うという方針で進めます。

では参りましょう。

まずはぎゅっと要約した”ごく簡単”
ヴァージョンのあらすじ。

トロイ戦争も膠着状態で7年目。

トロイの王子トロイラスは、神官
カルカスの娘クレシダへの恋を
彼女の叔父パンダロスの取り持ちで
叶える。

が、クレシダはカルカスの寝返りに
より、捕虜のアンテノルとの交換で
ギリシャ側へ引き渡される。


(Saga Egmont[E-book]表紙 出典:👉bookbeat)

トロイラスの兄ヘクトルはギリシャ側に
1対1の決闘を申し出るが、ギリシャが
立てた武将は、豪傑アキレウスでなく、
ヘクトルの従弟にあたるアイアス。

高慢で怠慢になったアキレウスを
問題視したことによる苦肉の策だった
が、ヘクトルは血縁のゆえに戦闘を
中止してギリシャ側に敬意を払われ、
宴に招かれる。

その流れでトロイラスも入り込んで
クレシダの様子をうかがうと、彼女は
人質交換の際の責任者ディオメデスと
いちゃついており、トロイラスは
衝撃を受ける。

翌日、両軍は戦闘し、ヘクトルと
1対1では勝てないと見たアキレウスは、
卑怯な手段でヘクトルを殺し、死骸を
馬で引きまわす。

トロイラスは激怒し復讐心に燃える。

ん? なんだかよくわからない?
作品のテーマが見えてこない?

まあ、それはそうでしょうね;^^💦

面白味はストーリーラインよりむしろ
登場人物の性格(キャラクター)と
その発展のドラマの方にありますから。

というわけで、どうしても「かなり
詳しいあらすじ」の方をご覧いただく
ことになるのです。

かなり詳しいあらすじ

お待たせしました。
それではホントの始まりです。

「”」印のある白い囲みの中は原作
(上記ちくま文庫の松岡和子訳)からの
引用で、名言と思われるセリフは赤字
示すなどしていきます。
     
👉印の注釈は、より深く理解したい
人に向けてかなり突っ込んだ解釈や
解説を試みたものですが、お急ぎの
方は飛ばして行ってかまいません。

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【第一幕】

スパルタ王メネラオス(メネレイアス)の
妻ヘレネ(ヘレン)がトロイ王子パリスに
奪い去られたことに端を発するトロイ
戦争も7年を経過。

パリスの弟、トロイラス(22歳)はこの
戦争に大義名分を感じられず、それより
神官カルカスの娘クレシダに思い焦がれ、
彼女の叔父であるパンダロスに
取り持ち役を哀願する。

意を受けたパンダロスはクレシダに
トロイラスの美点を述べ立てるが、
クレシダは機知に富んだ応答で受け流す。
👉二人のこのかなり長い会話で
クレシダの特異な性格(キャラクター)が
早くも観客に伝えられます。

たとえばギリシャ軍のアイアス(エイ
ジャックス)について従者が「抜きん
出て一人立つといった人物だそうです」
と評すると、

クレシダ 男なら誰だって立つわ

トロイラスが長兄ヘクトル(ヘクター)
より「上等」だというパンダロスの
主張を否定しては、

クレシダ とんでもない。
比べものにならないわ。
パンダロス なに、トロイラスが
ヘクトルにか?
お前、上等かどうか見分けが
つくのか?
クレシダ ええ、前に会って
わけありになっていれば。

「わけありになる」の原語は”know”で
「性的関係をもつ」という意味もあり
ますので、未婚女性の発言としては非常に
きわどい(少なくともシェイクスピア時代
のイギリスでは)ものと受け取られます。


    
    (ケンブリッジ大学出版版表紙 出典:👉Cambridge Univ. Press)

パンダロスは「ヘレネはパリスより
トロイラスに惚れてるぞ」などと繰り返して
クレシダの恋心を掻き立てようとするが、
クレシダ軽くあしらう。

戦場から帰還してきたトロイラスの雄姿を
見守った後、一人になって思うには、
トロイラスはパンダロスが言うより
「数千倍も素敵」だが、

でもつれなくしていよう。
女は口説かれているうちが花、
落とされたらおしまい、
楽しいのは落とされるまでだもの。
〔中略〕
女なら誰だって知っているわ、
男にとっては、手に入った恋より
憧れ求めている恋のほうがずっと
甘美なもの。
だから私が恋からおそわった
格言はこう、
手に入ったら命令者、
入らぬうちは嘆願者


一方、ギリシャ軍陣営では総司令官の
アガメムノン以下の各将が、7年を要して
なおもトロイを攻略できないことの
原因をめぐって議論。

豪傑アキレウス(アキリーズ)の高慢と
怠慢が軍全体の士気低下の元凶だと、
知将ユリシーズ(オデュッセウス)が論じて
いるところへ、トロイの使者が来訪。

  
  ブラッド・ピット演ずるアキレウス(映画『トロイ』から)


明日、両陣営の中間点で、王子ヘクトルと
ギリシャを代表する勇士とで一対一の
決闘を行いたいという意向を伝える。


ヘクトルの狙いがアキレウスにあることは
明白だったが、仮にアキレウスが勝てば
彼はますます慢心してギリシャ軍を劣化
させると憂えたユリシーズは、かつてトロイ
から嫁いだプリアモス王の妹の子でヘクトル
の従弟に当る「あの愚鈍なアイアス」を
ぶつけるという妙案をひねり出す。

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【第二幕】

 
トロイ陣営では「ヘレネを引き渡せば
無条件で終戦とする」というギリシャ側の
申し出への対応をめぐって、ヘクトルと
トロイラスが対立して激論となる。

「あの女には犠牲を払ってまで保持する
値打ちはない」と言うヘクトルに、
「何だって人が価値を認めないかぎり
何でもありゃしない」とトロイラス。

ヘクトル いや、価値は個人の意志で
決まるものではない。
何かに優れた価値があるのは、
人が高く評価するからだけではなく
それ本来の貴重さがそなわっている
からでもある

〔中略〕
対象の価値も見えないままに、
熱に浮かされたように執着するなら
そんな意志は耄碌している。

これにトロイラスは反論する。

ヘレネは現に「一千を超える船を海に
送り出し」ただけの「価値がある」と
「言わざるを得ない」、パリスのギリシャ
行きをみんなで「行け、行け!」と鼓舞し、
持ち帰った戦利品(ヘレネ)にみんなで
「素晴らしい!」と拍手喝采した以上…と。

  

続いて狂った妹カッサンドラが「トロイは
必ず滅びる」との予言を行い、パリスも
ヘレネをとどめることで「誘拐の汚名を
そそぎたい」のだと訴える。

ヘクトルもついに「実は俺もお前たちの
決意に賛成なのだ」、これは「我々の
威信に関わる重大問題だからな」と
立場を変える。
👉何かに「価値がある」のは、
「人が高く評価する」からというより
「それ本来の貴重さ」によるのだ
という「価値」の内在性を説く哲学を
ヘクトルがあっさり引っ込めてしまう
のは、やや肩透かしの感もあります。

ただ、ともかくこれで、ヘレネの
内在的な「価値」が否定されることで、
彼女の奪い合いという戦争の大義の
馬鹿馬鹿しさが浮き彫りになった
とも見られます。


ギリシャ陣営ではヘクトルとの決闘に
アイアスを選出することで合意し、
本人も乗せられてその気になる。

【第三幕】

 
パンダロスの取り持ちでトロイラスと
クレシダは対面し、長いキスへ。

「私の身内は、口説き落とすまでは
時間がかかりますが、いったん落ちたら
心変わりはなし」と請け合うパンダロス。

クレシダはトロイラスに「私、夜も昼も
あなたに恋してました、何か月もずっと」
「あなたを一目見たときから」、今では
もう「抑えがきかないほど好き」などと
愛の言葉を重ねる。

   <


キスをしてから「今日はこれでお別れ
します」と言うので、トロイラスが
不審がると…

別の私をおそばに置いてゆきます、
でもそれは、私を離れて誰かの
おもちゃになる不実な私。
〔中略〕
私がお見せしたのは、殿下、
愛ではなく手管だったりして、
こんなにあけすけに何もかも
打ち明けたのも
あなたの本心を釣り上げるため
かもしれないわ。
あなたが賢明なら、恋はしない
でしょう──だって、賢明でいて
恋をするなんて人知を超えている

神々にしかできないことだもの。

「僕の忠実さは単純なくらい一途だ」と
強調するトロイラスに、クレシダは
「仮に私が裏切るとか、髪の毛ひとすじ
でも忠実さに背いたなら」と仮定して
華麗な比喩をいくつも並べた上で、

〔みんなに〕こう言わせて不実の
心臓にとどめを刺しなさい、
不実なることクレシダのごとし

👉この一連のクレシダのセリフは
トロイラスへの熱愛、その永久的な
忠実さを真っ向から表現するもので
ありながら、「不実」の語の多用
などによって、後半で明らかになる
「不実」さをほのめかすものとも
なっています。

このような、裏読みを呼び込む類の
二重性の仕掛けこそシェイクスピアの
真骨頂──高度な読みどころ──の一つ
でもあります。




そのころクレシダの父であるカルカスが
ギリシャ陣営を訪ね、前日捕虜となった
重要人物アンテノルを返してほしいので、
これまでギリシャ側から要求されながら
トロイが拒否してきた条件──クレシダを
差し出す──を呑むと告げる。

これを受けたアガメムノンは司令官
ディオメデス(ダイオミディーズ)に
「アンテノル⇄クレシダ」の引き渡し
役を命じる。


司令官たちに無視され始めていると
感じたアキレウスは、ヘクトルと
闘うのがアイアスだと聞いて「俺の
名声が深傷(ふかで)を負いかねない」
と焦り、「掻きまわした泉のように
心が乱れ、自分でも底が見通せない」。

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【第四幕】

 
未明、ディオメデスとアンテノルを連行
したパリスらがトロイの宮殿へ帰還し、
中庭で出迎えた司令官に事情を説明して、
カルカスの留守宅への同行を依頼する。

パリスが、ヘレネにふさわしいのは
私かネメラオス(元夫)かどちらだと
思うかと尋ねると、ディオメデスは
「似たようなものだ」と皮肉に答える。

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あの男はめそめそ顔の
寝取られ亭主らしく、酒樽の底の、
気の抜けた澱(おり)だのかす
だのを飲みたがり、
あなたは助平らしく、淫売女に
自分の跡取りを生ませたがっている。

自国の女にひどいことを言うんだなと
パリスが言うと、

あの女こそ自分の国にひどい
ことをした。
なあ、パリス、あの女の淫乱な
血管を流れる不実な血一滴のために
ギリシャ人が一人ずつ命を落とす。
あの女の穢れた腐れ肉一グラムの
ためにトロイ人が一人ずつ殺される。

      
      ヘレネとパリス(映画『トロイ』から)


カルカスの家でクレシダとの別れを
惜しんでいたトロイラスは事情を聞いて
従い、クレシダは「心臓を切り裂きます。
私はトロイを離れません」と泣くも、
トロイラスの説得を受け入れる。

離れても「心変わりしない」ことの
しるしに、トロイラスは服から外した
袖をクレシダに渡し、クレシダからは
手袋を受け取ってキスし、彼女を
ディオメデスに引き渡す。


ギリシャ陣営に連行されたクレシダは
居並ぶ司令官たちから歓迎のキスを
受けるが、メネラオスとユリシーズに
対しては色々と条件をつける。

ユリシーズは友ネストルにささやく。

くそ、とんでもない女だ!
目にも、頬にも、唇にも
言葉がこもっている、いや、
足さえものを言っている。
浮気心が体の節々や一挙一動から
のぞいている。
ああいう色っぽい女は口が立って
男を立たす、自分のほうから
言い寄って、やりたがってる男と
みれば、淫らな思いをしたためた
胸の手帳を開いてみせる

肝に銘じておけ、ああいう手合いは
機会さえあれば男をものにし、
男のものになる尻軽だ。


ヘクトルとアイアスの決闘が開始されるが、
介添え役のディオメデスから「そこまで」
との声が入り、ヘクトルは続行意志の
有無を問われる。

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従弟同士で「血を流し合うことは許され
ない」と言ってヘクトルはアイアスと
抱き合い、武装を解いてギリシャ陣営での
宴に参加するよう求められる。

ヘクトルは司令官らに順々に引き合わされ、
温厚に歓談するが、以前から彼の妹
ポリュクセネに恋慕しているアキレウス
からは下心のある絡み方をされ、
「明日は不倶戴天の敵として会おう」
と握手して宴席へ。

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【第五幕】

 
ポリュクセネとその母(ヘカベ王妃)から
「愛の印」を受け取って喜ぶアキレウスは
「ギリシャよ、負けろ」「名誉など知った
ことか」とつぶやき、宴が終わると、
ヘクトルを自らのテントへ招き入れる。

アキレウスの道化であるテルシテスは
クレシダのところへ入り浸っている
ディオメデスについて「二心(ふたごころ)
ある」「悪党だ」とののしり、「どいつも
こいつも色気違いだ!」と嘆く。

ユリシーズに導かれてトロイラスは
ディオメデスの動きを監視し始め、
テルシテスもそのあとについていく。

監視に気づかぬまま、ディオメデスは
クレシダといちゃつく(叫び)。
👉ここから邦訳で9頁にも及ぶ
長い場面は、ディオメデスとクレシダ
のやりとりと、それをはたで見ている
トロイラスら三人が傍白で入れる
ツッコミとが入り混じる、特殊な展開。

たとえば、こんな調子。

クレシダ かわいいギリシャの方、
そんなに誘惑しないで、罪だわ。
テルシテス (傍白)罪つくり!
ディオメデス え、それじゃあ──
クレシダ だって、それはね──
〔中略〕
クレシダ いやよ、怒ったまま
お帰りになるなんて。
トロイラス (傍白)それが悲しいのか?
何たる心変わり!
〔中略〕
トロイラス (傍白)あの男の頬をなでている!
〔中略〕
テルシテス (傍白)どうだい、情欲って悪魔が
むっちりしたケツと助平な指先で
やつらをくっつけようと
くすぐってら!
燃えろ、淫乱め、地獄の火で焼かれろ。

    


👉見ている方は嫉妬でジリジリ
して、危うく叫びそうになるわけ
ですが、これに酷似した場面設定を
シェイクスピアは制作年の近い
悲劇『オセロ』でもやっています。

悪役のイアゴーが、オセロが妻との
姦通を疑っているキャシオーに
女性関係の話をさせ、それを傍らで
オセロが聞くように設定するという
スリリングなシーンですが、
『トロイラス』のこの場面ほど
長くはありません。

詳細はこちらをご参照ください。

オセロ(シェイクスピア)のあらすじを簡単に/&詳しく漱石コメントつきで

       


続いてディオメデスは「今度はいい」
という「保証のしるし」を要求し、
クレシダはトロイラスからもらった
「袖」をもってくる。

受け取ろうとするディオメデスに
クレシダは「あの人は私を愛していた
──ああ、不実な女──返して」などとも
言いだし、誰にもらったか言えと
迫られても口を割らない。

心の揺れを見せながらも、結局
「取られちゃしょうがない、あげるわ」
と袖を渡し、ディオメデスは明日は兜に
この袖をつけて戦うと奮い立つ。

あとで「いらして」と誘ったクレシダは
彼が去ってから思う。

トロイラス、さようなら!
片方の目はまだあなたを見ている、
でももう片方の目は心と一緒に
別の方を見ている。
ああ、女って哀しい!
この落ち度は女の性(さが)。
目の間違いが心を導く。
間違いが導けば道を踏み外すに
決まっている、
心が目に支配されれば
堕落するに決まっている。

クレシダが消えてから、トロイラスは
ユリシ-ズに言う。

唯一のものは二つにならない
という法則どおりなら、
あれはあの人ではない。
ああ、論理の狂気だ、一つのことを
同時に肯定し否定するとは!
〔中略〕
あれはクレシダであって、
クレシダではない


翌朝、ヘクトルは、不吉な夢を見た妻や
予言者カサンドラ、父王の制止をも
振り切って出陣。

トロイラスはパンダロスからクレシダの
手紙を受け取るが、「言葉、言葉、
ただの言葉」「行為と言葉がそっぽを
向き合っている」と破って投げ捨て、
出陣する。
👉この「言葉、言葉、ただの言葉」
とか「あれはクレシダであって、
クレシダではない」などの論理的に
矛盾した表現は、『トロイラス』の
すぐ前の制作ともいわれる傑作
『ハムレット』の主人公との
性格的な共通性を示しています。

『ハムレット』のセリフについては
こちらで詳しく考察しています。

ハムレットの名言 英語原文では何と? 生きるべきか死ぬべきかetc.

       


戦闘が始まり、トロイラスとディオメデス、
ヘクトルとアキレウス、パリスと
メネラオスはそれぞれ剣を合わせては
離れ、一進一退。

日ごろの怠慢のせいで「腕が思うように
動かない」と実感したアキレウスは、
鎧を脱いで休んでいるヘクトルを
見つけると、手下にて四方から一斉に
斬りかからせ、殺してしまう(ドクロ)。

両軍から退却ラッパが鳴らされ、
ヘクトルの死骸はアキレウスの馬の
尾にくくりつけられ、引き回される。

怒りと復讐心に燃えるトロイラスは
パンダロスを怒鳴りつけ、パンダロスは
取り持ち役は損な役回りだとぼやく。

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シェイクスピアの恋愛劇
~その多様性と進化

いかがでした?

お気づきの点は多々あったことと思い
ますが、全体的な構成としてまずいえる
のは、これがいわゆるダブル・プロット
の劇であること。

つまりトロイラスとクレシダの恋物語の
一方に、ヘクトルとアキレウスが雌雄を
決するに至るまでの戦争活劇のドラマが
あって、はじめは別々のようだった両者が
やがて絡み合って大団円を迎える…
という巧妙なストーリー構成。

これは特に後期、脂の乗り切ったシェイク
スピアが得意としたところで、この趣向
での傑作に『トロイラスとクレシダ』から
数年後の作品で”四大悲劇”の一つとされる
『リア王』(1605-06)があります。
👉『リア王』についてはこちらで
くわしく情報提供しています。

ぜひご参照ください。

リア王のあらすじ(簡単/詳しく) シェイクスピア悲劇のフーガ<

       


このダブル・プロットの片方で進展し、
微妙だった部分が明るみに出て来るのが
“トロイラスとクレシダの恋物語”であり、
もう一方が英雄(ヒーロー)であるはずの
アキレウスを反英雄(アンチヒーロー)に
仕立てたドラマで、どちらもとても皮肉の
きいた、苦みのある趣向ですね。

冒頭でふれたように、シェイクスピアの
恋物語としては『ロミオとジュリエッ
ト』(1594-96)と『アントニーとクレオ
パトラ』(1607)があって、『トロイラス
とクレシダ』は執筆時期も主人公の年齢も
この二つの中間に位置します。

これらを並べてみると、恋愛心理は決して
単純明快なものでなく、お互いの背景には
いろんな事情があり、また本人同士にも
相手に明かせない種々の思惑や駆け引きが
あって、見通せないからこそ面白い…
という方向にシェイクスピア劇は進化して
いったようにも解釈できます。

  


その意味では『ロミオ』以前の最も単純
明快な恋愛劇として『じゃじゃ馬ならし』
(1590-94)を挙げることができる
かもしれませんね。

なにしろそこでは”じゃじゃ馬”だった
女性が恋愛の作用でたちまち貞淑なる
妻に変貌してメデタシメデタシ…
なのですから。
👉『ロミオとジュリエット』
『アントニーとクレオパトラ』
『じゃじゃ馬ならし』については
こちらで詳しく情報提供しています。

ぜひご参照ください。

ロミオとジュリエットのあらすじを簡単に【&詳しくラストまで】

   


アントニーとクレオパトラ【あらすじと解説】シェイクスピアの恋愛史劇

       


じゃじゃ馬ならし(シェイクスピア)のあらすじ 女性差別劇をどう読む? 


⦅付録⦆映画『恋におちたシェイクスピア』

さてさて、これだけ深くかつ面白く
恋愛の種々相を描き切ったわけですから、
シェイクイスピア自身もさぞかし豊富な
恋愛経験の持ち主だったのではないか❓
…とは当然、考えられるところですよね。

実際、彼は18歳で23歳の女性を妊娠させて
結婚し、3児の子持ちになってから
ロンドンへ飛び出して役者になった人。

その後もそれなりの経験は重ねている
というのは誰でも推測しそうなところ。

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その経験を、あくまで想像で作り上げた
フィクションが『恋におちたシェイクス
ピア』(アメリカ・イギリス合作、ジョン・
マッデン監督、1998)です(👇);^^💦

『ロミオとジュリエット』を着想した当時の
シェイクスピアが、実はロミオばりの
熱い恋のさなかにあった…
という設定のロマンティック・コメディで、
アカデミー賞では作品賞のほか脚本賞・
主演女優賞・助演女優賞・音楽賞・美術賞
・衣装デザイン賞と7つの受賞に輝きました!
👉詳しくはこちらでどうぞ。

恋におちたシェイクスピア(映画)考察!どこまで実話かネタバレする

     


もちろん1990年代の発想で作られて
いますので、これがシェイクスピアの
実像だなんて思い込むのはとんでもない
早合点で、シェイクスピアをある程度
読みこんで来た人が観れば、おかしいと
感じるところはたくさんあるでしょう。

それを見つけていくのも、一つの皮肉な
(シェイクスピアらしい)楽しみ方に
なるでしょう。

まとめ

さて、これだけの情報があれば
もうバッチリですよね。

こと『トロイラスとクレシダ』に
関するかぎり。

誰かさんにちょいと知ったかぶりを
してやろうかという場合も、
あるいは感想文やレポートを書こうか
という場合も…。

        


『ロミオ』など、シェイクスピアの
ほかの作品と比較対照してみると
いうのもよい方法です。

当ブログでは上記のもののほか、
喜劇・悲劇・問題劇・歴史劇など
21以上について「あらすじ」などの
情報を提供しています。

気になる作品をこちらから
お探しください。

シェイクスピアの本でおすすめは?喜劇・悲劇…各ジャンル21作品の紹介!

          

そのほか、シェイクスピアの本を早く安く
手に入れたい場合は、Amazonが便利。

こちらから探してみてください。

🔱シェイクスピアの本:ラインナップ🔱
   


ん? 書けそうなことは浮かんで
きたけど、具体的にどう進めていいか
わからない( ̄ヘ ̄)?

そういう人は、ぜひこちらを
ご覧くださいね。
👉当ブログでは、日本と世界の
文学や映画の作品について
「あらすじ」や「感想文」関連の
お助け記事を量産しています。

参考になるものもあると思いますので、
こちらのリストからお探しください。

「あらすじ」記事一覧

≪感想文の書き方≫具体例一覧


ともかく頑張ってやりぬきましょー~~(^O^)/
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