ジョーカー(映画)の笑う病気は嘘?原因は?心から笑ったジョークとは?

ジョーカー(映画)の笑う病気は嘘?原因は?心から笑ったジョークとは?

サクラさん
『バットマン』の悪役
“ジョーカー”が誕生
するまでを描いた2019
年映画『ジョーカー』。

心をつかまれるような
怖さがありましたが、
その一方で意味不明と
いうか、もやもやした
ものも残っています。


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ハンサム 教授
どういう”もやもや”?

サクラさん
実際に起こったこと
なのか、主人公の妄想に
すぎなかったのか、
はっきりしない部分が
多いんです。

ラストシーンもそうで、
べっとりと血だらけの
足跡を残して病院を脱走
していくのは、その前に
精神鑑定をしていた女性
を殺したんですか❓




ハンサム 教授
ほかに考えようがない
のでは?;^^💦

サクラさん
その前には主人公が例の
大笑いをして、何が
おかしいのかと質問
されますね。

いやジョークを思いつい
たんだ、でも「君には
わからん」と言うん
ですが、それはどういう
ジョーク❔

ハンサム 教授
「君にはわからん(You
wouldn’t get it)」と
言った時の”君(you)”は
観客みんなに向けて
言われた感じもあるね。

もしそうなら、誰にも
わかりっこないという
ことになるかな;^^💦

サクラさん
いろいろに取れて、
正解はない❔…

メチャクチャ曖昧な
映画ですね。

ハンサム 教授
まさにそこを狙ったと
いうようなことを
フィリップス監督自身が
言ってるんですよ。


さてさて、おなじみ”あらすじ暴露”
サービスも今回で第198弾!
(感想文の書き方シリーズ総計では
281回)

採り上げるのは前回に続き、ヴェネツィア
国際映画祭金獅子賞、アカデミー主演
男優賞をはじめ世界の名だたる映画賞を
総なめにした2019年の傑作『ジョーカー』
Joker((((((ノ🤡)ノ
   👇

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👉まだ見ていない人や、あらすじだけ
知りたいという人は、まず前回の記事の
方をご覧いただければと思います。

ジョーカー(映画)のあらすじ⦅ネタバレなし⦆&⦅あり⦆で詳しく紹介

     


さてこの「あらすじ」紹介に続く今回は、
「意味わからん」「難しい」などと首を
傾げる人も多いこの映画について、
トッド・フィリップス監督の発言にも
耳を傾けながら突っ込んで考察を加え、
可能な解釈を探っていこうというもの。

以下のような内容になります。


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1.先輩”ジョーカー”たちの笑いと違う?

この映画で最も強い印象を残すものの
一つに主人公アーサー・フレックス
(ホアキン・フェニックス)のけたたましい
笑い声がありますね。

この笑いはもちろん、『バットマン』の
悪役”ジョーカー”の原作コミック以来の
お約束。

近年の映画では『バットマン』(1989)の
ジャック・ニコルソン、『ダークナイト』
(2008)のヒース・レジャーの笑い声も
それぞれ忘れがたいもので、一応それらを
踏まえているには違いありません。
👉歴代”ジョーカー”役者の笑いは
こちらでお聴きいただけます。  👇



ただ『ジョーカー』のアーサーの笑いは、
これら先輩たちの、いかにも”ワル”らしい
嘲り挑発するような笑いとはまったく
違いますよね。

なにしろ彼の笑いはほとんどの場合、実は
笑いたくもないのに出てきてしまう
原因不明の発作であり、”pseudobulbar
affect”と呼ばれるレッキとした病気。

そのことで精神科医かカウンセラーに
かかってもいますよね。
👉この病気の実情はこちらでご覧(お聴き)
いただけます。 👇



では映画全編にわたって繰り返される
アーサーの笑いがすべてこの発作で
あったのかといえば、実はそうとも
言えませんね。

つまり”嘘”の笑いもあったようで…


2.アーサーの笑いに3種類あった

そのことは下の予告編動画(👇)をご覧
いただくただけでも一目瞭然。

特に20秒を過ぎたあたりでの
笑いにご注意ください。


自分の意志で笑いを収めていますから、
発作でないことは明らかですね。

そんなわけでアーサーの笑いは決して
単純明快に理解しきれるものではないよう
なのですが、これに関してフィリップス
監督は『ロサンジェルス・タイムズ』の
記事で、以下の3種類の笑いがあると
語っているんですね。

  1. 病苦による笑い(laugh from affliction)
  2. ニセの笑い(fake laugh)
  3. 純粋な笑い(genuine laugh)
上の動画でご覧いただいた笑いが2つ目の
ニセの笑いですが、これは「『人々の
一員』になろうとする」時に出るという、
それなりに切ないもの。

監督自身はこの笑いがお気に入りだ
とも言っています。

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そして3つ目の純粋な笑いは、発作でも
作り笑いでもなく、まったく自然に出る
笑いであり、映画ではラストシーンへ
来て初めて、ただの一度だけ発生した
というのです。

アーサーの笑いのそのような3分法は
『ロサンジェルス・タイムズ』での
フィリップス発言を集成した次の
動画で明快に説明されています。

英語ではありますが、開始後55秒
あたりから出ますので、ご確認
いただければと思います。



3.唯一純粋な笑いを起こしたジョーク

ザっとそういうワケなんですが、ここへ
来て気にかかるのは、主演のホアキン・
フレックスが唯一純粋な笑いとして
笑っているはずのラストシーンでの笑いは
どんな感じで、それまでとどう違って
いたかということでしょう。

これは映画をすでに観ていても、
しっかり思い起こせるという人は
あまりいないのでは?

そしてそれを引き起こしたという
ジョークの内容は…❓


というわけで映画のラストシーンだけを
切り取った動画を(すでに観た人も
おさらいの意味で)ご覧ください。


例の「君にはわからん(You wouldn’t
get it)」を言ったあとに出る
回想シーンのような情景は、殺害された
両親の傍らにたたずむブルース・ウェイン
少年(のちのバットマンと目される)に
ほかなりません。

ところが、原作からの”お約束”と違い、
この映画でウェイン夫妻を殺したのは
アーサーとはまったくの別人で、しかも
アーサーがそれを目撃したはずもないので、
彼があの場面を回想するというのは
まったく理屈に合わないのです。

これは一体どういうこと❔❓❔


もちろんそれも「わからん」のですが、
私がひそかに温めている推理は
以下のようなものです。

(ウェイン夫妻が射殺されて息子だけ
生き残ったことは警察で聞いていて)
もし生き残った息子が成長して、
復讐を志してスーパーマンの
パロディのような馬鹿げた
格好で出てきたら笑える…



しかももし俺が犯人だと思い込んで
付け狙うとしたら、もっと笑える。


この解釈に根拠はなく(その種の根拠を
与えないのがこの映画のスタイル)、まあ、
それこそアーサーの繰り返す「妄想」を
模倣しているようなものなのですが、
このような考え方をする場合に符節の
合ってくる部分は少なくないと思います。


なにしろ初めてその純粋な笑いを経験した
直後にもアーサーは殺人を犯します。

それは連続殺人の一環ともみなされますが、
ただ逃走時の楽しげな様子からすると、
病苦に根を持つそれまでの犯行とは
まったく違うことに気づかれるでしょう。

むしろ純粋な快楽殺人だったのでは❓




病苦から解放された新しいアーサーは
純粋に悪を楽しむ男──つまりは
“ジョーカー”──になりおおせた…
つまりこうして『ジョーカー』の主人公は
先行する『バットマン』映画の”ジョーカー”
たちに融合していくのでは…
という解釈も可能になってきますね。

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ところが、この解釈をフィリップス監督は
“No. Definitely not”と上の動画でも
明確に否定していました。
(3分を過ぎたあたり)

すなわちアーサーは”ジョーカー”ではない。

少なくとも従来の”ジョーカー”たちとは
似て非なるものとして創造したのだと
監督は言いたいのでしょう。

 
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4.”選択肢多数”の物語

では、この差異化のポイントの一つにも
なってくるあの純粋な笑いを引き起こした
ジョークとは❔

これについて監督は「それが何なのかは
言いたくない」としていますが、
私の上記の推理が正解に近ければ、
「言いたくない」のは当然でしょう。

なにしろバットマンの格好や行動自体が
馬鹿げていて笑える…
というシリーズ全体をぶち壊すような
ジョークなのですから:^^💦

   

とはいえフィリップス監督は逃げの一手
だったわけではなく、このジョークを
含む『ジョーカー』の作意について、
かなり率直に語ってくれてはいますよね。

すなわち『バットマン』シリーズ中で彼が
最も影響を受けたという『キリング
ジョーク』(グラフィック・ノベル、1988)
のジョーカーいわく「過去は選択肢多数
(multiple choice)であった方がいい」と。


そして自分の映画『ジョーカー』も
この意味で「選択肢多数の物語」の
一つなのだと。
(1分50秒過ぎから)

そこから監督はこう突っ込みます。

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映画全体がジョークで、精神病院に
入れられた男のでっち上げかも。

(つまりこの映画は)直接的で
まっ正直な物語ではなく、
一連の暗示のようなものなんです。

どう解釈し、どう経験したいかは
君たち(you)に任されています。

👉『バットマン:キリングジョーク』は
こちらでどうぞ。


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さて、そういった意味での「選択肢多数
の物語」は、現代文学の世界にはすでに
頻出していて、もはやそれ自体で新鮮味を
感じることはあまりないかもしれません。

映画の世界も事情は接近してきている
のでしょうが、『ジョーカー』以前で
最も華麗にこれを実現している映画作品に
マーティン・スコセッシ監督の『キング・
オブ・コメディ』(ロバート・デ・ニーロ
主演、1983)があります。 👇


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『ジョーカー』ではそのロバート・デ・
ニーロに大物芸人マレーの役を依頼し、
デ・ニーロも脚本を読んで「面白い」と
快諾したという話で、この配役自体が
『キング・オブ・コメディ』への
オマージュとも見られています。
(こちらを参照👉 シネマトゥデイ
👉スコセッシ監督は映画を含む日本文化に
強い関心を持つ人で、遠藤周作原作の
『沈黙』の映画化でも知られています。

詳しくはこちらで。

沈黙(遠藤周作)のあらすじを短く&詳しく⦅2017映画 原作の世界⦆

     



観客の参加を求める芸術映画

さて、ここからはいわばオマケ情報。

映画やコミックから芸術全般へと
ぐっと話を広げますので、興味のある
読者さんだけお付き合いください。


フィリップス監督へのインタヴューを
まとめた上記の記事からは色々と面白い
ことが見えてきましたが、その核心にある
のは、『ジョーカー』という映画が、
興行収入最優先で作られた単純明快な
娯楽映画とはどうやら毛色が違うこと。

そしてその作り手であるフィリップス
監督はエンターテイナーであるのと同時に、
あるいはそれ以上にアーティスト(芸術家)
であることを優先する人らしいという
ことですね。

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上に引用した発言では、特に「直接的で
まっ正直な物語ではなく、一連の暗示の
ようなもの」というところをもう一度、
しっかりと見直してもらえれば
と思います。

モトの英語は”not straightforward narrative
but as a series of suggestions”で、
これはまさに20世紀以降の先端的な
“物語芸術(narrative art)”全般に見られる
顕著な傾向の一つを言い表しています。

そして欧米主導の芸術の世界にこういう
傾向が強くなった要因には多様なものが
ありますが、その一つとして日本の詩歌、
とりわけ俳句が紹介され、詩人や作家に
強烈な影響を与えたという事実がある
ことも言っておきたいのです。

    

というのも、俳句の粋(エッセンス)は
まさに「暗示」(suggestion)のパワーに
こそあります。

そこからどういう「物語」を紡ぐかは完全に
「君たち(you/つまり読者)次第」だという
次第で、これはまさに上の動画で
フィリップス監督の言っていた読者(観客)の
“参加”(participation)を要求する

ということにほかならないのです。

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たとえば作家・英文学者であり俳人でも
あった夏目漱石は、このような俳句美学を
いちはやく温めていた人でした。

熊本の第五高等学校(現・熊本大学)で
教えていたころ、教え子の寺田寅彦から
いきなり「先生、俳句とは一体どんなもの
ですか」と問われた際に、漱石はこう
即答しています。

扇のかなめのような集注点を指摘し
描写して、それから放散する連想の
世界を暗示する
ものである。
          
 (寺田寅彦「夏目漱石先生の憶い出」)

      7ede860f072f2534e1c9f902c4917158_s
        
この美学からしますと、たとえば
有名なこの俳句

朝顔に
つるべ取られて
貰い水  
 (加賀の千代女)

などは「拙句」だということに
なります。

現に大学時代の親友で俳句の師匠でもあった
正岡子規も「俳句にあらず」とまでけなして
いますが(『俳諧大要』)、それはまさに
この句が「直接的でまっ正直な物語」を完結
させてしまっていて、読者に参加させる
“暗示”を残していないから…


フィリップス監督が俳句に関心をお持ちか
どうかはわかりません。

ただ現代芸術全般の一つの流れとして、
直接的な押し付けでなく”暗示”によって
読者・観客にゆだねる、俳句に通じる
物語方法があり、『ジョーカー』がその
流れに積極的に加わる映画だったとは
言えるのではないでしょうか。
👉漱石・子規のこの俳句美学をめぐっては
こちらの記事もご参照ください。

俳句と川柳の違いは?子規・漱石にその極意を尋ねれば…

夏目漱石「月が綺麗ですね」の出典は?I love youはこう訳せ?

    

芭蕉の俳句 古池や… その意味はどこに?太宰・子規・漱石に聞く

山椒魚で感想文/批評文どう書く?800字/400字の例文つき<



まとめ

おわかりいただけたでしょうか。

映画『ジョーカー』の、とりわけあの
ラストで「意味わからん」状態に投げ
出されてしまったとしても、それは
まあ当然であったのです。

なにしろ監督自身がその「意味」は君たち
(you)次第だ、どう解釈し、どんな風に
経験しようと自由だと言っているのですから。

   

ともかく『ジョーカー』は、一般のアニメや
アクション映画で”正義のヒーロー”に
退治される形で消費されていく”悪”たちを
その発生過程から見届けようとした
アンチヒーロー映画の傑作。

彼らにも言い分はあり、自身の努力では
変えようのない宿命的な境遇もある…
という叫びがホアキンの第一の笑い
(病苦による笑い)からは聞き取れましたし、
周囲に合わせようとする第二のニセの笑い
健常者の多くも思い当たるところでしょう。

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こうしてみると、いちばん怖いのはむしろ
第三の純粋な笑いなのかもしれません。

最も自然で健康的であるはずが、
快楽的・猟奇的な殺人の引き金に
なっているのだとすれば…(叫び)
👉いずれにせよ『ジョーカー』の主人公は
内面に入り込んで複雑に構想された、
まったく新しいアンチヒーロー

この新しい悪人像が出てくる背景には、
これまで映画や文学が生み出してきた
魅力的な悪役たちがひしめいています。

シェイクスピア劇のリチャード三世や
イアーゴ(『オセロ』)、エドマンド
(『リア王』)をはじめ、悪の魅力が光る
過去の諸傑作に関心がおありの場合は、
是非こちらもご参照ください。

オセロのあらすじを簡単に【&詳しく】漱石講義のコメントつきで

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さて、これだけの情報が補給されれば、
もう怖いものなしですね。

読書感想文だろうがレポートだろうが、
どんどん書いていけるでしょう。

    

以上の情報と考察をどう料理するかも
もちろん「君たち(you)次第」、
ともかくなんらかのお役に立てばと
願うばかりです。

👉当ブログでは、そのほか日本と世界の
多様な文学作品や映画について
「あらすじ」や「感想文」関連の
お助け記事を量産しています。

参考になるものもあると思いますので、
こちらのリストからお探しください。

「あらすじ」記事一覧

≪感想文の書き方≫具体例一覧

ともかく頑張ってやりぬきましょー~~(^O^)/


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