やあやあサイ象です。

「かちかち山」はご存じですよね?

これ、実は数ある日本昔話のなかでも
コトノホカ怖~いものの一つ。

今日はこのお伽話のあらすじをあらためて
たどったうえで、ジワジワとその怖さの
核心に迫りたいと思うんですが、その場合、
ふれないですまされないのが、太宰治の
連作短編集『お伽草紙』(1945)中の一篇、
「カチカチ山」。

これ実は『人間失格』も『斜陽』もしのいで、
太宰全作品中の最高傑作!という声もある
異色の短編なんです。

Sponsored Links



というわけで今回はこの太宰版「カチカチ山」
で読書感想文を書くことも視野に入れつつ
昔話「かちかち山」の怖さに探りを
入れて参ります。



🐰 あらすじ

まずはあらすじを押さえておきましょう。

室町時代末期には成立していたとされる
基本的なストーリーは以下のようです。

おじいさんとおばあさんが耕す畑に
毎日、悪い狸が来て、せっかく
まいた種や芋をほじくり返して
食べていました。

怒ったおじいさんはこの狸を罠で
捕まえ、狸汁にするようにおばあさんに
言ってから畑仕事に向かいました。

     3ad9f9d9b01070d34a5e087cecbee3ec_s

縛られた狸が「もう悪さはしません、
家事を手伝います」と言うので、
おばあさんが信用して縄を解くと、
狸はおばあさんを杵で撲殺し、
その肉を鍋に入れて「婆汁」
(ばばあじる)を作ります。

さらにおばあさんに変身し、帰って
きたおじいさんに「狸汁です」と
偽ってこの婆汁を食べさせてから、
嘲り笑って山へ逃げました。


おじいさんから事のてんまつを
聞いた仲よしの兎は、憤慨して
狸を懲らしめることを考えます。

まず金儲けだと言って狸を柴刈りに
誘い、その帰り道、狸の背負った柴に
後ろから火打ち石で火をつけます。

     kachi-kachi-yama
     江戸時代の草双紙『兔大手柄』から


火打ち道具を打ち合わす「カチカチ」
という音を不思議に思った狸が兎に
尋ねると、「ここはカチカチ山だから、
カチカチ鳥が鳴いている」と答え、
狸は背中にひどいやけどを負いました。

次に、狸を訪問した兎は薬と称して
トウガラシ入りの味噌を渡し、これを
塗った狸はさらなる痛みに苦しみます。

  nature-816072_640

最後に、木の舟とそれより大きな
泥の舟を用意した兎は、狸を漁に
誘い出して舟を選ばせます。

思わく通り狸が泥の舟を選ぶと、自分は
木の舟に乗って沖へ出てしばらくすると、
泥の舟は溶けて沈んでしまいます。

助けを求める狸を兎は艪で叩いて沈め、
狸は溺れて死にました。

Sponsored Links




🐰 「狸さん、かわいそうね」

さて、いかがでした?

だいたいこんな話だったと思われる、
絵本の「かちかち山」を5歳の娘に
読み聞かせた太宰治は、「狸さん、
かわいそうね」と娘が言ったので
ハッとし、そこから太宰版「カチカチ
山」を発想したというのですね。

ところで太宰作品にはけっこう笑えて
愉快なものがたくさんあって、この
「カチカチ山」なんかその典型。

この意味でも大傑作なんですが、
太宰の笑いの特徴としては、たんなる
ゲラゲラ笑いでも人を見下す皮肉な嘲笑の
たぐいでもない、微妙に”泣き笑い”に
近いものを感じさせる、というところが
ありますね。

笑うよりむしろ笑われる側に立って、
そこから突き出す「抗議」めいたアイロニー
を伴うところに太宰ならではの魅力が
発生しているように思えます。

  人形Bloody-Rain-s

アイロニー(irony)は、よく「皮肉」と
訳されますが、日本語の「皮肉」が帯びる
攻撃性や嫌味は必ずしもなくて、ものの
味方をひっくり返すことで発生する笑い、
その種のユーモアがそう呼ばれることも
あるわけです。



🐰 恋愛小説「カチカチ山」

そのようなユーモアを実現した小説の
極めつけ、傑作中の傑作が今日、紹介
したい「カチカチ山」だと思うんです。

東京大空襲のさなか、防空壕の中で
五歳の娘に絵本を読み聞かせながら
発想していった、太宰版昔話の連作
『お伽草紙』(1945)中の一篇です。




もちろんおとぎ話の改作なのですが、
出てくる兎を十六歳の美少女に、狸は
自称17歳、実は37歳のモテない男に設定して
笑える恋愛小説に仕上げているんですね。

話の成り行きと結末は原話どおりで、
兎の計略どおり泥の舟に乗せられた狸が
まんまと沈められてしまいます。

  
  『講談社の絵本 かちかち山』より
  (1941年刊行で絵・尾竹国観。太宰が防空壕で
   娘に読み聞かせた絵本もこれだったかも…)


その、やすやすと計略に乗せられてしまう
要因を「恋は盲目」という心理に設定した
ところに太宰版のミソがあるわけでして、
そこがまた、なんというか、
たいへん切ないわけですな。
(すくなくとも、モテない男の
視点で読んでしまう人には)

Sponsored Links




🐰 兎の酷薄さ

ラストシーンで、助けを求める狸に
兎は言い放ちます。

 「うるさいわね。泥の舟だもの、
どうせ沈むわ。
わからなかつたの?」
「わからん。理解に苦しむ。
筋道が立たぬ。
それは御無理といふものだ。
お前はまさかこのおれを、
まさか、そんな鬼のやうな、
いや、まるでわからん・・・」

狸はごちゃごちゃと訴え続けますが、
兎はこれをすべて無視。

  ウサギ2 082275

ぽかん、ぽかん、と無慈悲の櫂
(かい)が頭上に降る。
狸は夕陽にきらきら輝く
湖面に浮きつ沈みつ、
「あいたたた、あいたたた、
ひどいぢやないか。
おれは、お前にどんな
悪い事をしたのだ。
惚れたが悪いか。」と言つて、
ぐつと沈んでそれつきり。
兎は顔を拭いて、
「おお、ひどい汗。」と言つた。

👉兎がかなり”悪い”のが
意外でした?

でも兎の”悪さ”は日本の伝統に
立てば驚くに足りません。

遠い神代の「因幡の白兎」の
時代から、悪いと言えば
悪かったのです。

こちらを参照してください。

因幡の白兎のあらすじを簡単に🐰 古事記はこう語っていた

    %e7%99%bd%e5%85%8e%ef%bc%92img_20160927_0005_new

こういう兎のキャラクターの
ルーツを探る場合、中国、
さらにはインドへと話は
広がります。

こちらもご参照ください。

月でうさぎがお餅つき 🐰その由来は釈迦、前世での焼身…?
  



🐰 社会は狸を助けない

それにしても、すごかったですね。

兎(=モテる女)の冷酷さ、
そこに発生する笑いの残酷さ。

そしてそのユーモアに忍ばせられた
「抗議」の棘(とげ)・・・

このの方を強く読む人は、狸の最期の言葉
「惚れたが悪いか。」に笑ってなど
いられない。

むしろ泣くのではないでしょうか。

     たぬき大b2246956c3e8903ae23856bb04ad7e72_s
     これはただのタヌキ。なんだか哀愁を帯びています)


ただ、この種の「抗議」はどこまで
通用するのか・・・。

兎の側に立つ人からすれば、狸がなんと
訴えようと「惚れたが悪い」、のである。

セクハラ、なのである。

狸くん、社会は君を助けてくれません。
残念ながら、助けようもないのですよ。

太宰の時代より、現代ではもっと
そうでしょうね。

Sponsored Links



🐰 書き方の基本

が、それはひとまず横へ置いて、ここで
当ブログ「感想文の書き方」シリーズの
秘伝となっている《虎の巻》を
広げさせてもらいます。

名付けて「サイ象流・感想文の書き方
《虎の巻》
」。

これはもともと「Yahoo!知恵袋」での
「ikemen_busaiku」さんの回答をヒントに
て構成していったものです。

  • 学校で評価される感想文は
    作品を読んでの素直な「感想」
    などではなく、それを機に
    自分の生活を反省する」作文である。
  • これを書くには、まず、たとえば
    登場人物が何らかの行動を
    とったとき、「自分にはこんなことは
    できない」
    のではないかとか、
    あるいは性格的に「自分には
    こんなところはないか」と反省する。

  •      疑問009093

  • その上で、「これからは自分もこうしよう」
    という類の前向きな結論
    を決めて書く。

なんでそうなるかって?

「ikemen_busaiku」さんは
こう答えています。

なぜそう言い切れるかというと、
少なくとも学校の求める
読書感想文とはこういうもの

だからです。

それは、コンクールで賞を取って
いる作品を眺めてみればわかります。

ほとんどこんな作品ばかりですから。


したがって、この方式でいくならば、やはり、
自分が「狸」なら……、自分が「兎」なら……、
と物語内の特定の時点に立ちどまって
反省」してみる必要があるでしょうね。

そして結論部では「前向きになる」必要が
ありますから、「僕もきっと狸のように
沈められてしまうと思います。オシマイ」
ではやはり具合が悪いですね。

ではどうするか。

    脳images

狸さんには、どこかある時点で、
頭を冷やしてもらいましょう。

「自分が狸なら、この時点(たとえば漁に
誘われたとき)で引き返す。
そして兎ともよく話し合って
解決の道をさぐる」

というふうにもっていくことを考えるべきで、
それがうまくいけば、学校的評価にたえる
感想文となる可能性大でしょう。

Sponsored Links




🐰『人間失格』の世界を予告?

さてこれでめでたく”優等”感想文の完成!

もう言うことなし……ではあるのですが、
これを天国(または地獄)の太宰先生に
読んでもらったら……とちょっと
想像してみたくなりました。

どんな顔するかな?
苦笑……といったところでしょうか。

    

冒頭に述べました太宰文学のキモ、
笑われる側からの「抗議」めいた
アイロニー
」のようなものは、死に至る
悲劇においてこそ強烈な光を放つ
のであって、途中で引き返したんでは、
どうも……ということになるんじゃ
ないでしょうか。

ついでにいうと、37歳という狸の実年齢は
執筆時の太宰の年齢と同じです。

この狸に太宰自身が強く投影されていた
ことの一つの傍証ともなるでしょう。


そう考えると、この「カチカチ山」は、
太宰最後の長編となった『人間失格』の
世界を予告するものとも読めてきます。


もちろん『人間失格』は、主人公が女性に
もてるという点で「カチカチ山」と
違いますが、笑われる側からの「抗議」
めいたアイロニー
に貫かれている
という質感においては酷似しています。

👉『人間失格』をめぐっては
こちらの記事をご参照ください。

太宰治 人間失格のあらすじ:生田斗真主演映画の原作をネタバレありで

太宰治 人間失格で感想文:「恥の多い生涯」という名言から

👉そのほか太宰の他の作品や生涯に
関心のある人はこちらもどうぞ。

浦島太郎 玉手箱の意味は?パンドラの箱を重ねた太宰治

斜陽(太宰治)のあらすじと感想◎簡単/詳しくの2段階で解説

感想文で抜け出そう:太宰『人間失格』から芥川『河童』へ

     河童846223d120766a4aca01d1377954c31b

太宰治 走れメロスのあらすじ:「簡単/詳しい」の2段階で解説

太宰治 走れメロスで感想文:人質や王の心理を考えよう

👉そのほか太宰の本を早く安く
手に入れたいという場合は、
Amazonが便利です。
こちらから探してみてください。


🐰太宰治の本:ラインナップ🐰


ん? 書けそうなテーマは
浮かんできたけど、具体的に
どう進めていいかわからない( ̄ヘ ̄)?

そういう人は、「感想文の書き方
《虎の巻》」を開陳している記事の
どれかを見てくださいね。

👉当ブログでは、太宰のみならず
日本と世界の種々の文学作品について、
「あらすじ」や「感想文」関連の
お助け記事を量産しています。

参考になるものもあると思いますので、
こちらのリストからお探しください。

「あらすじ」記事一覧

≪感想文の書き方≫具体例一覧


ともかく頑張ってやりぬきましょー~~(^O^)/

(Visited 2,042 times, 1 visits today)
Sponsored Links