インセプション(映画)はパプリカのパクリ?着想源には全く別の小説が? | 笑いと文学的感性で起死回生を!@サイ象

インセプション(映画)はパプリカのパクリ?着想源には全く別の小説が?

サクラさん
『インセプション』
(2010)は高度の電子装置
でつなぐことで他人の
夢の中に侵入したり、
複数の人で同じ夢を共有
したりするというまさに
“夢のような”映画(叫び)



地球のあちこちを瞬間
移動しての激しい戦闘…
それらの場面もいちいち
現実なのか夢なのか、
はたまた”夢のまた夢”
なのか判別不可能に
なってしまう難解さも
ありました。


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ハンサム 教授
そうですよね。

ところでそういう設定
自体も、また個別の場面
のいくつかも、日本の
アニメ映画『パプリカ』
(2006)に似すぎている
という声が世界の
あちこちから上がって
いるんですね。

サクラさん
えー(🙀) そうなん
ですか。

で、ノーラン監督はその
ことについて…❔

ハンサム 教授
『パプリカ』を見たか
どうかを含め、明確に
言及した形跡はあり
ませんね。

『インセプション』の
着想は20年も温めてきた
ものだと強調しています
から、無関係だと言い
たいのかもしれません。

サクラさん
似ているのは全くの
偶然の一致だ…と。

ハンサム 教授
う~ん。でもそう言い
きるにはあまりに酷似
している部分も…;^^💦

サクラさん
ふ~む。それはひとつ、
じっくり比較検討して
おきたいですね(😹)


というわけで、本日はクリストファー・
ノーラン監督の大ヒットSF映画『インセプ
ション』(2010,Inception 👇)の壮大な世界の
着想源に何があったかをたずねる、
これも壮大(❔❓)な探求の旅に
お付き合いください((((((ノ゚🐽゚)ノ
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探りを入れていく上でまず考えざるを
得ないのが『パプリカ』ですが、でも
実はその問題だけで話は終りません。

着想のインスピレーションとして
ノーラン監督は全く別の小説を挙げて
いますので、そちらもの世界にも
入っていかなくてはならないのです。

ともかくまずは『パプリカ』(2006。
今敏監督、筒井康隆原作 👇)


(出典:So What Happen Next?)


この2作品が「似すぎている」という指摘は
すでにWEB上に多数出回っているもようで、
今やこんな合成画像さえ登場している
のですね。


(出典:Steemit)


さて、そのようなわけで、本日の旅は
以下のような内容になります。



他人の夢に入る…
【設定はほぼ同じ】

ある人(Aさん)が夢に出てくれば、
それはAさんが自分のことを
思っている証拠?

そんな非科学的な…
と思われるかもしれませんが、これ実は
『万葉集』の時代ならむしろ常識で、
古代には日本だけでなく世界各地に
かなり広く見られた信仰なんですね。

つまり夢は複数の人によって共有される
一種の”客観的世界”であると。

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高度に進化したIT技術は今やこの
“客観的世界”を人工的に作り出して
しまう…
というやはり”夢のような”お話が可能に
なってしまった近未来世界。

そこで展開されていく、夢と現実が
ゴチャゴチャになって進行する
アクションあり恋愛あり怪異現象あり、
破天荒の盛り沢山ドラマ…
といったところが『インセプション』と
『パプリカ』とに共通する基本的な
設定だといえます。

そのことは両作品の予告編からも
見て取れます。

まずは『インセプション』から。



続いて『パプリカ』の予告編を
ご覧ください。 👇


『パプリカ』では「DCミニ」と呼ばれる
“のような形の髪留めのようなものが
予告編にも出ましたが、これ、筒井さんの
原作では「底面の直径が六、七ミリで
高さ一センチほどの円錐形」の物体で
頭皮につける(禿げ頭ならテープで)
小型装置(第一部12章)。

アニメではもっと絵になる形状にした
かったのか、やや大型化されましたが、
ともかく『インセプション』でこの
「DCミニ」に相当する装置はさらに
大きいというか、もっともらしくなり、
ドリーマー(夢見る人)とその夢を共有する
メンバーとの脳をケーブルでつなぐ
精巧な電子マシーンです。

なにしろその解説に1本の動画が
必要とされるほど。 👇


👉なんだかよくわからないので、
とりあえず『インセプション』の内容を
もう少し詳しく知りたいという人は
是非こちらをご参照ください。

インセプション(映画)のあらすじを簡単に【 &詳しくネタバレ解説】
         
   


また日本および海外でのその評価を
めぐっては、こちらで。

インセプション(映画)の評価は?海外でも絶賛?or意味不明?盗用?

     



ノーラン監督は影響を認めた❓

さて、本日の検討課題はこの2作品の
比較検討。

『インセプション』のこの特異な世界が
そもそもどのように発想され、制作されて
いったのか。

そして公開の4年前にすでに公開され、
第63回ヴェネツィア国際映画祭のコンペ
ティション部門に正式出品されるなど
世界的な評価も受けていた『パプリカ』
はそこにどう関わるのか、あるいは
なんら関わりはないと言いきれるのか…
といったあたりに絡んで参ります。


まずはフェイスブックへの2020年
2月のある投稿をご覧ください。


引用元:Facebook

画像の下の英文を日本語にすると
こうなります。

クリストファー・ノーランは
今敏による2006年の幻想的作品
『パプリカ』が彼のインスピレー
ションの源だと認めた。

両方のストーリーに、外部者が人の夢に
アクセスし、影響を与える電子装置が
持ち込まれていることにおいて。


後半で言われている、「認めた」ことの
内容は、『パプリカ』を見た、あるいは
筒井康隆の原作を読んだ人ならたいてい
うなずかれるものと思われます。

が、前半で言っている、ノーランがそれに
インスパイアされたことを「認めた」
という部分はどうなのか。

これについては、いろいろ調べても全然
出てこないので、フェイブック上で
上記の投稿者に問い合わせていますが、
いまだ回答が来ていません。

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それはともかく『パプリカ』との類似に
ついては、『インセプション』公開直後
からぽつりぽつりと声が挙げられていた
ようです。

『インセプション』へのレビューを3789個
も集めている英語圏のサイト”IMDb”では、
そのうち6%超の248個が☆1つの評価
(5段階評価)ですが、それらのうち
少なくとも3個が『パプリカ』の名を挙げ
(1個は名は挙げず日本アニメとして)
明らかに盗用だと非難しているのです。
(引用元:IMDb 2020.06.17閲覧)


似すぎている場面たち

この問題をめぐっては、英語やフランス語の
ネットの世界ではかなりの数の記事が
書かれているようで、その一つ、2019年
9月のある投稿ではこう断定されています。

Christopher Nolan has never listed
Paprika as an inspiration for his movie.
(ノーランが彼の映画にインスピレー
ションを与えたものとして
『パプリカ』を挙げたことは
かつてない。)

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(引用元:Noah from Fleet:”5 films inspired
by Japanese movies you probably
haven’t seen” [多分あなたが見ていない
日本映画にインスパイアされた
5本の映画] in Fleet of Creators)

インタビューなどでのノーランが繰り
返しているところによると、『インセプ
ション』は公開の20年も前から温めてきた
構想であって、制作着手も近くなった
2006年になって出現した『パプリカ』に
ついては、観たかどうかを含めて一切
言及していないようです。

なので、基本的な構想は偶然の一致と
認めるとしても、細部にはどう見ても
似すぎている部分がいくつもあり、
『パプリカ』の影響が全くないという
のはちょと信じがたい話なのですね。

それらを集めて対照させたのが
こちらの画像。  👇


(引用元:Harvey Birdman)

これらの類似を動画で確認したい場合は
こちらでどうぞ。
👉 INSPI

ここまでやるのなら「今監督への
オマージュだよ」とどこかで示して
ほしかった!
と今敏ファンなら思うでしょうが、
『インセプション』全編にわたって、
『パプリカ』への言及はもちろん、
目配せのようなものも一切感じとる
ことができません。


今監督はこれをどう思っていたのか?

しかし、ガンに襲われてしまった監督の
死去は奇しくも『インセプション』公開と
ほぼ同時の2010年夏でしたので、おそらく
見ないまま逝かれたものと拝察します
(その方がよかったかな…(😿))。


その今は亡き今監督はもちろん自作が
何からインスピレーションを受けた
ものかについて、完全にオープンでした。

筒井康隆さんの原作小説がそれである
ことは明記されているわけですし。
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ただ原作の忠実な再現を狙うよりは、
アニメにしかできない冒険を最大限に
試みようとした野心作でもありましたから、
登場人物間の錯綜した関係は多少、単純化
するなど原作をだいぶ崩してはいます。

逆に言うと、原作はより複雑な問題を
抱え込んでいて、アニメとはまた違う
面白みと哲学を含んでいますので、
こちらもぜひご一読を。

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ボルヘスの小説とは

さて、いくつかの場面について、
『インセプション』が『パプリカ』の
影響下に制作されていることは、以上の
証拠画像からもはや否定できないことの
ように思われます。

ただ、それら一つ一つのシーンは
さておいて、その基本的構想からして
『パプリカ』を盗んだものだったのか
といえば、そこまでは言いきれない
というのが妥当な見方でしょう。

ノーラン監督の言を信じるなら、構想が
生まれたのは1990年ごろで、これが奇しくも
『パプリカ』の原作が発表されたころなの
ですが、もし彼が読んだとしても、英訳の
出た2009年以降のはずですし。


実は構想の発端にあったものとして、
ノーラン自身はまったく別の作品を
挙げているのですね。

それすなわちアルゼンチンの作家ホルヘ・
ルイス・ボルヘスの短編小説「円鐶の廃墟」
と「隠れた奇跡」です。
(👉 questia:inception and jorge luis borges)

この2作はともに『伝奇集』(1944。👇)に
収められていますから、読んでみると
なるほど『パプリカ』のパクリという
わけではないのだろうと思えてきます。


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というわけで、ノーランの名誉のために
ここで「円環の廃墟」と「隠れた奇跡」の
概要をごく簡単に紹介しておきましょう。

円環の廃墟

南方から円形の神殿に来た「彼」の
「一人の人間を夢み」、それを
「現実へと押しだすこと」。

ようやく「完全な人間を、一人の
若者を夢みたが」、その「夢みて
いた男の夢のなかで、夢みられた
人間が目覚めた」。

  


「彼」は「円環の廃墟」で彼と同じ
儀式をしているこの若者が自分が
「べつの人間の夢」にすぎない
ことに気づくのではないかと
恐れ始め、やがて悟る。

自身もまた「幻」にすぎず、
「他者がおのれを夢みている
のだ」と。

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隠れた奇跡

1939年、プラハのユダヤ系作家
フラディークはドイツ官憲に逮捕され、
10日後の死刑執行を宣告される。

恐怖の中で彼は「ある情況の細部の
予見によってそれが起こるのを妨げる」
という「奇妙な論理」を信奉し、
「まさに起こらしめないために」
望まないことをあえて予想する。

  

処刑の朝、未完の戯曲『仇敵たち』の
完成まで生かしてほしいと神に祈る
夢をみたフラディークは、「人間の
夢は神のものであることを思いだす」。

銃殺の号令がかかった瞬間、時間が
止まり、神が「隠れた奇跡」を
行なったのだと思う。

一日が経過し、彼は作品完成のために
なお一年の猶予を神に乞うた。

辛苦の末に戯曲が完成した瞬間、
一斉射撃を受け、死ぬ。
   
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しばしば哲学的な批評の素材となって
きたボルヘス、さすがに難解!…

と見えるかもしれませんが、ともかく
この二作に共通するポイントは「現実に
生きている自分も実は他者(「神」を含む)
のみている夢なのでは?」という
恐ろしく根源的な問いかけでしょう。

    


ところで、「自分の存在は他者(神)のみて
いる夢?」というこの想定は、映画を含む
「物語」全般もまた作者のみている「夢」
のようなものではないか…
という認識に重なってきます。

ボルヘスの世界がノーラン監督に与えた
という着想もまたそれに重なるはずで、
「現実/夢」図式の徹底的な攪乱を企んだ
映画『インセプション』は、それ自体が
「物語」への批評たりえているという点で
高度に現代芸術的であったといえます。

もっとも同じことは『パプリカ』にも
(あるいはより強く)言えるのですが。


まとめ

さて、いかがでしょう。

ここ10年での世界最高傑作とさえ評価
される大ヒット映画『インセプション』。

広くて深いその世界を、着想の源にまで
遡及し、今敏/筒井康隆の『パプリカ』
のみならず、難解をもってなるボルヘスの
文学にまで探りを入れてみました。

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『インセプション』の台本はノーラン
監督のオリジナルですが、さすがによく
練られたスグレモノで、全米脚本家組合賞
のオリジナル脚本賞を受賞しています。

劇映画はやはり脚本が重要なので、
ヒット作は原作を文学作品に仰いで
いる場合が多いのですが、ノーランは
原作から一人でやりとげました。

ただその着想においてボルヘスから
インスピレーションを受けたことだけは
自ら認めていたわけですが。
👉すぐれた文芸作品から着想された名作映画は
数知れませんが、当ブログではその多くについて、
あらすじなどの情報提供をしていますので、
ぜひご参照ください。

たとえばこちらなど。

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さて、これだけの情報があれば
もうバッチリですよね。

誰かさんにちょいと知ったかぶりを
してやろうかという場合も、
あるいは感想文やレポートを書こうか
という場合も…。


ん? 書けそうなことは浮かんで
きたけど、具体的にどう進めていいか
わからない( ̄ヘ ̄)?

そういう人は、ぜひこちらを
ご覧くださいね。👇
👉当ブログでは、日本と世界の多様な
文学や映画の作品について
「あらすじ」や「感想文」関連の
お助け記事を量産しています。

参考になるものもあると思いますので、
こちらのリストからお探しください。

「あらすじ」記事一覧

≪感想文の書き方≫具体例一覧

映画のまとめと解説:最新作から歴史的名作までネタバレありで


ともかく頑張ってやりぬきましょー~~(^O^)/


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