谷崎潤一郎 細雪で感想文を ”下痢の美女”か”新しい女”か


サクラさん
谷崎潤一郎の『細雪』で
読書感想文を書こうと
思うんですけど…

ハンサム 教授
それはいい。

いろんなことが書け
そうですね。

サクラさん
でもわからないのは、
四姉妹でいちばんの美人、
雪子の下痢が止まらない
というエンディング…

ハンサム 教授
ハハハ、それはやはり
美人だからこそトイレに
駆け込ませたい…

    

そこに文豪谷崎の美学が
あったのでは?;^^💦

サクラさん
なんすか、それ?


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「感想文の書き方」シリーズも
なんと今回で第189回。

今回はかの文豪、谷崎潤一郎の大長編
『細雪』(ささめゆき。1943-48)に挑戦です!
  


英訳題をThe Makioka Sistersといって、
要するに蒔岡家四姉妹の物語なんですね。

その蒔岡という大阪の豪商(落ち目だが)の
家に生い立った美人ぞろいの四姉妹。

婿を取って船場の本家を継いだ長女鶴子、
やはり結婚して芦屋に分家した次女幸子、
美貌ながら縁遠い三女雪子と、奔放で
恋多き四女妙子が織りなすドラマ…


雑誌連載に5年も費やし、文庫本では
900ページ以上になる大長編で、「上巻」
「中巻」「下巻」の三部構成…

ま、読み通すのに時間はかかります;^^💦

時間をかけずに「あらすじ」だけ
知りたいという人は、こちらを
ご覧ください。

谷崎潤一郎 細雪のあらすじ 💞映画とは違う原作の芸術性は?

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    倚松庵(『細雪』執筆の家。神戸市)


さて、感想文なりレポートなりを書こう
という場合、この長い物語全体を相手に
するのは大変なので、四姉妹のどれか
(またはその夫)…という主要登場人物の
一人に焦点を絞ってしまうのが得策でしょう。

いちばん強い印象を受けた人物を選べば
いいんですが、物語を動かしていくのは、
受けに回って”大人”を演じる鶴子や幸子より、
彼女らを引き回す未婚の雪子と妙子ですよね。

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ですから、若い人なら特にそうなるでしょうが
やはりこのどちらかに焦点化するのが
書きやすいのではないかな。


というわけで、今回の記事は下記のような
内容となります。
💖 もくじ

  1. 雪子の美貌と「下痢」
    • 亡母から受け継がれた「京風」
  2. 谷崎の「厠」礼賛

  3. “新しい女”妙子

  4. まとめ


1.雪子の美貌と「下痢」

連載終結まで5年もかかったこの長い
小説、終わるまでに物語の内部でも
3年ほどが経過します。

四姉妹のうちでもいちばんの美人と
自他ともに認める雪子は、その3年間、
何度も見合いをしながらうまくいかない
のですが、終幕近くなってようやく
かなり年取った華族の求婚を受け入れます。


この婚約にそう嬉しそうな様子を見せる
わけでもない雪子でしたが、さて嫁ぐという
日を前にして下痢に見舞われ、これが当日の
列車の中でも始まって、止まらなくなって
しまうのですね。

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その困った状況がそのまま、大長編小説の
エンディングになっていて、しかも、
だからどうした…というようなことは
いっさい書かれていないので、このあと
どうなるかは読者の想像に任されます。

それが作品の余韻を生んで奥行きを深める
ことにもなるわけですが、ともかく
この先どうなるか、どうなってほしいかを
考えて書く…というのが感想文の一つの
書き方になるのではないでしょうか。

“正解”はありませんから、自由に自分の
願望なり、雪子への批判なり弁護なりを
書いていけばいいんですよ。

              

それにしても、結婚前の美女にひどい下痢を
させ、たびたびトイレに走らせるというのは、
ちょっとひどくありません?

谷崎先生、いったいどういう趣味の
持ち主だったんでしょうか。


💞亡母から受け継がれた「京風」

作者谷崎の趣味・嗜好の問題に入る前に、
雪子という人物の性格について
押さえておきましょう。

これがただの「美人」ではないところが
面白い…というか文学的な深みになって
いるわけですね。

   

ストーリー展開につれて、妹の妙子との
対称がくっきりと浮かび上がっていく
わけですが、奔放な妙子のように外に
自立の道を求めるようなことは一切なく、
あくまで良縁を待つのみの雪子。

そして縁談への対応もいちいち相手の
心理の裏読みを期待するようで、
悪く言えばねちっこく、サッパリしない。


たとえば最後に華族の求婚を受け入れるに
当たっても、決してすんなりというわけ
ではなく、うじゃうじゃ言いつのります。

それはあたしも、貞之助兄さんや
中姉ちゃんが行けと云われるのなら
行くつもりでいるけれども、
人間一生の大事であるから、
せめて二三日の間、心に用意が
できるまで待って欲しかったのに、
……と、お腹の中ではちゃんと
覚悟していることをそんな風に
云うのであった。

そして翌朝、ぐずぐずに納得しては
しまったものの、貞之助兄さんが
一と晩で決心せえと云やはる
よってに、と又しても恨めしそうに
云い、微塵も嬉しそうな顔などはせず、
ましてこれまでに運んでくれた人の
親切を感謝するような言葉などは、
間違っても漏らすことではなかった。

このあたりの、微妙な
いやらしさは、映画などでは
たいてい描かれませんね。

稀代の美女、吉永小百合さんとかに
そんなマイナス・イメージを
つけるわけにいきませんし。

だからやはり読んでいかないと
原作の面白さはわからない…
ということになります;^^💦

そして、このいかにも微妙な個性を雪子が
誰から受け継いだかといいますと、
亡くなった母親が京都の女で、顔も
性格もいちばんよく似ているのが
雪子だとされているんですね。

       IMG_0023

ここで、ははん、なるほどと思う人も
いらっしゃることでしょう。

これ、典型的な京都人(特に女性)の
性格と見られてきたもので、落語に
なっているぐらいなんですよね。

こちらをご参照ください。

京都のお茶漬けは「帰れ」の意味?桂米朝師匠の落語に学ぼう


最後の最後でこの雪子にひどい下痢を
させるという、酷といえば酷な展開も、
この人物が作者によって愛されていなかった
と考えれば、一応の納得がいきますね。

つまり作者によって一種の懲罰が
下された、と。


はい、これを結論としてもいいんですが、
でも、ちょっと待ってください。

ほかの作家ならそうだとしても、谷崎の
場合、これが逆で、雪子を愛すればこそ
トイレに駆け込ませた…ということも
考えられるんですね。

なぜなら、谷崎はトイレが大好き
だったから…。

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2.谷崎の「厠」礼賛

谷崎の有名な随筆に「陰翳礼讃」(1933)
というのがあって、これを巻頭に関連作品を
まとめた本『陰翳礼讃』は英訳、仏訳も出て、
哲学者ミシェル・フーコーにも強い印象を
与えた国際的な名著です。

その「陰翳礼讃」で谷崎は「日本の建築の
中で、一番風流に出来ているのは厠である」
と述べ、二年後にはさらに「厠のいろいろ」
という随筆も書いて『陰翳礼讃』に収めます。


そこで谷崎は、西洋伝来の水洗便所などは
論外で、日本古来の「糞尿の匂」を含む
厠の臭気には「神経を鎮静させる効用が
あるのではないかと思う」と書いています。

たとえば名古屋など大都市の「上流の
家庭の厠は概して奥ゆかしい都雅な
匂」がしたものだ、と。


さらに志賀直哉が芥川龍之介から聞いた
中国の故事として、「蛾の翅を沢山集めて
壺の中に入れ」、そこに脱糞するという
特異な「フンシ」(糞仕。要するに便器)の
紹介にも及びます。

この蛾の翅のフンシばかりは、
考えても美しい。

上から糞がポタリと落ちる、
パッと煙のように無数の翅が
舞い上る、それがおのおの
パサパサに乾燥した、金茶色の
底光りを含んだ、非常に薄い雲母
(きらら)のような集合なのである、
そうして何が落ちてきたのだか
分からないうちにその固形物は
その断片の退席の堆積の中へ
呑まれてしまう。

       

このようにトイレを愛好した文豪のこと
ですから、最後に雪子をそこへ走らせた
のも、むしろ彼女を愛すればこそであった
と考えられなくもないわけです;^^💦

この「厠のいろいろ」を
含む随筆集『陰翳礼讃』は
こちらで。





3.”新しい女”妙子

そしてこの雪子との鮮明なコントラストに
おいて描かれていくのが、四女の妙子。

雪子が縁遠くなってしまったことの一因に、
数年前、20歳だった妙子が駆け落ち事件を
起こし、それを報じた新聞が間違って
雪子の名を出してしまったということが
ありました。


このことによって妙子もすでに”きずもの”に
なっているという側面もあって、良家の
子女としては奔放にすぎる恋愛遍歴を
重ねています。

ただその一方で、人形作りで才能を発揮して
賞などを取ったり、洋裁を学んでは師匠と
いっしょにフランスへ渡ろうかという話の
出るレベルまで邁進してるんですね。

 

このあたり、大正から昭和初期に
かけての社会現象としての
「新しい女」を意識した
人物造型のように思われます。

日本の「新しい女」のさきがけと
いえば、『青鞜』を創刊した
(1911)平塚らいてうですが、
彼女の場合もその3年前のある
事件(塩原事件/煤煙事件)で
”きずもの”になっていたという
経緯があるんですね。

この事件とその後の経緯について
詳しくはこちらで。

平塚らいてう塩原事件💞才ある美人の不倫心中逃避行…なぜ?

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また「新しい女」(New Woman)
というフレーズの発祥の地は
やはりイギリス。

これについてはこちらで
解説しています。

ドラキュラ 原作のあらすじ👻興味つきない吸血鬼小説の金字塔

            



で、その「新しい女」妙子に、かなり
悪女的・悪魔的な側面もあるのが谷崎らしい
ところでもあって、これがまたなかなかの
読み応えを生み出しているのですね。

ただ、それがちょっと中途半端かな…
といううらみはあります。

思い切ってもっと悪くずるい女にして
もらえたら、作品にさらに凄艶な魅力が
加わったのではないか…

そう、あの『痴人の愛』のナオミや
『春琴抄』の春琴のように、です。

これらの谷崎作品については、
こちらの記事をご参照ください。

谷崎潤一郎 痴人の愛のあらすじ💛ナオミと譲治のM的結末…

痴人の愛(谷崎潤一郎)で感想文…💜妖婦ナオミに抵抗できる?

谷崎潤一郎 春琴抄のあらすじ:簡単/詳しくの2段階で

    

春琴抄で感想文💛佐助犯人説を谷崎先生、どう思います?

谷崎潤一郎 刺青のあらすじと考察:若尾文子主演映画も鑑賞                  

そのほか谷崎の本を早く安く
手に入れたいという場合は、
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こちらから探してみてください。


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     doll-977192_960_720



💞 まとめ

さて、いろいろと情報提供してきました。

感想文やレポートを書こうという人も
もうこれでOKですよね。


そうそう、映画を参考にするのも
いい手ですね。

たとえば岸惠子、佐久間良子、
吉永小百合、古手川祐子を四姉妹に、
二人の婿には伊丹十三、石坂浩二という
超豪華キャストの市川崑監督作品(1983)。
  


でもこれ、吉永さんと石坂さんの間に
💕…みたいな感情があったりなんかして、
原作をずいぶんいじってますので
要注意。


え? 書けそうなことは浮かんできたけど、
でも具体的に、どう進めていいか
わからない( ̄ヘ ̄)?

そういう人は、「感想文の書き方
《虎の巻》」を開陳している記事の
どれかを見てくださいね。

当ブログでは、日本と世界の種々の
文学作品について「あらすじ」や
「感想文」関連のお助け記事を
量産しています。

参考になるものもあると思いますので、
こちらのリストからお探しください。

「あらすじ」記事一覧

≪感想文の書き方≫具体例一覧

ともかく頑張ってやりぬきましょー~~(^O^)/


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