又吉直樹 火花で感想文・批評文を☆火花を散らす”ボケ”師弟

 


やあやあサイ象です。

「感想文の書き方」シリーズ、
記念すべき第85回は、
あれよあれよと思う間に、
2015年上半期芥川賞をゲットしてしまった
又吉直樹さんの『火花』です。



お笑いコンビ”ピース”のあの又吉さんが
まさにお笑いの世界を描いた小説ですから、
学校が期待する「感想文」の素材からは
外れるでしょうね。

でも、学校や先生によっては
「なんでもいいから本を読んで
感想文を書きなさい」といわれる場合も
あるでしょう。

それよりなにより、「芥川賞」という
お墨付きをいただいちゃったんですから、
どうだ、オラ!(=`(∞)´=)
ともうドヤ顔で出していいんですよ。

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さて、感想を書くにはもちろん
読んでおく必要があるわけですが、
それがメンドクサイという人、
あるいはほんとに面白く読めるか
心配な人は、こちらで「あらすじ」
だけでも頭に入れてくださいね。

ピース又吉 火花のあらすじ:笑いながら泣く芸人哲学の世界



Ψ 「啐啄同機」の物語

さて、突っ込めるポイントは
いろいろありますよね。

たとえば「師弟関係」。

「啐啄同機(そったくどうき)」
という四字熟語がありますね。

卵の内と外の親子2つのくちばしが
同時に突っつきあってこそ、
見事に殻が割れて雛は真に誕生する……。

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4歳年上の先輩芸人、神谷と
最初に差し向かいで呑んだ夜、
漫才を地で行くような会話を続けるうち、
「弟子にして下さい」という言葉が
主人公(徳永)の「心の底から
溢(あふ)れ出」ます。

「いいよ」と即答して、ただしその条件は
「俺の伝記」を書くことだ、と要求する
神谷もスゴイ((((((ノ゚⊿゚)ノ。

「神谷」のネーミングはおそらく
”神”に重ねたものでしょう。

あ、この人こそオレの師匠だ    ゼウス41aXFyo9zCL._SY355_  

と電流の走る瞬間、師匠の側でも
オオ、こいつこそオレが待ってた弟子だ
と体感している……

「師弟関係」成立の一つの理想型が
見事に物語化されています。


感想文・批評文のテーマとしては、
まずこの二人の希有の「師弟関係」に
注目し、自分の経験と照らし合わせる、
という方法が考えられますね。



Ψ 「出藍の誉れ」の悲痛な変形

もっと面白いのは、このように成立
した「師弟関係」がその後、どの
ように変質して行くかを追う
ことでしょう。


かつて圧倒的な師匠として”神”のオーラを
身にまとっていた神谷が後半では、徳永の
上昇と入れ替わるように、坂道を転げ
落ちるばかりにその威光を弱めます。

しまいには、徳永の髪型や服装を   
露骨に模倣するという(叫び)、
笑っていいのか、泣いていいのか
わからない、困った展開です。

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「弟子にして下さい」と今度は神谷が
徳永に言っているのでしょうか。

「師弟関係」は逆転したのだ、と読むな
らば、これもまた「出藍の誉れ」の
悲痛な変形として、感想文・批評文の
テーマとなるに十分ですよね。



Ψ 「大人に怒られなあかんねん」

またそれ自体として面白いのが、前半、
”神”のごとき師匠であった神谷が
弟子になったばかりの徳永に語る
特異な”笑いの哲学”。

そして、さらに面白いのは、そこで神谷が
語る言葉に、彼自身の将来を予言する
ような側面があることです。

「美しい世界を、鮮やかな世界を
いかに台なしにするかが肝心なんや。 〔中略〕
なんでも過度がいいねん。
やり過ぎて大人に怒られな
あかんねん」

ここで徳永が突っ込んで     046716
「大人に怒られなあかんねん、という表現
も、もはや月並み過ぎな不良ですもんね」
と反論すると、神谷はこう返します。

「でもな、聞いたことがあるから、
自分は知ってるからという理由
だけで、その考え方を平凡なもの
として否定するのって、
どうなんやろな?
〔中略〕
自分がそういう物差しで
生きていっていいのかどうか
という話やねんけどな」


小説的な伏線もはらみつつ、
師弟はまだまだ”笑いの哲学”の
火花を散らしていきます。

「批評をやり始めたら漫才師としての
能力は絶対に落ちる」と断言する神谷。

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でも「物事を批評することからは
逃れられへん」と徳永。

たとえば彼は露骨な性表現には自主規制を
かけていきますが、それさえも神谷は
「不真面目だ」、「面白いかどうか以外の
尺度に捉らわれるな」と批判します。

「自分とはこうあるべきやと
思って、その規範に基づいて生きてる
奴って、結局は自分のモノマネ
やってもうてんねやろ?
だから俺はキャラっていうのに
抵抗があんねん」。

「一切ぶれずに自分のスタイルを   119e08cb740e1d63b5de76a4c92ee8f3_s 

全うする」神谷を見ていると、徳永は
自分が「軽い人間」に思えてきます……。


このあたりをしっかり読み込んで、     
自分の生き方を振り返ってみませんか。

「大人に怒られ」ることとか、自分の
「キャラ」の作り方とか、いろいろと
考え直して書いてみれば、もうそれ
だけで立派な感想文になるはずですよ。



Ψ 不思議で切ない会話

このように火花を散らす師弟関係が
後半で変形し崩れていくその過程が、
また切ない笑いに満ちて、
読み応え十分なんですね。

一例を挙げましょう。

神谷が同棲していた真樹さんに男ができて、
神谷とは別れることになり、
部屋から荷物をまとめて持ち出すのを
徳永も手伝うのですが、
そのあと歩きながらの会話です。

「徳永、なんでお前が泣いてんねん?」
 そう言って、神谷さんは笑った。
僕は未(ま)だ泣いているつもりは
なかった。
僕は真樹さんといる時の神谷さんが
好きだった。
「泣くにしても早くない? 夜、
酒でも呑みながら一番泣き浴びよう
と思ってたのに」
「風呂みたいに言わんといて
下さい」
 つらい。
「お前、かけ泣きもせんと、
いきなり泣き舟に浸かるって
常識ないんか」
「だから、風呂みたいに言わん
といて下さいよ」


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 つらいと感じることは、こんなにも
つらいことだったのだ。
「せめて、○ンコと○ツくらい
泣いてから、泣き舟に入れや」
「文法おかしなってますやん。
○ンコと○ツくらい泣くって、
なんですの」
 つらいという言葉や概念を
理解しても、つらいことの
強度は減らない。
「しゃあないから、泣きタブに
泣きの実入れて入ろ、
今日は泣き色にしよかな」
「もう何のこと言うてるか
わかりませんわ」
 こんな時でも、僕たちは笑わ
なくてはいけないのだろうか。

「○ンコと○ツ」は念のため伏せ字に
しましたが、もちろんお分かり
ですよね。男性が隠す部分です。


こんな不思議で切ない会話が
作品中、いくどか出てきます。

「おかしみ」と悲痛さとを同時に
表現してしまうこのテクニックは、
又吉文学の出発点にあった太宰治の
得意としたところに通じますね。

でも、上記引用部分などの芸術性は    シュールな顔 mural-464229_640 
すでに太宰を超え、ピースのコントにも
漂うシュールさ――ある種のシュル
レアリスム――をを実現している
ようにも思えます。

「シュール」とシュルレアリスムに
関してはこちらの記事も覗いて
いただけるとありがたいです。

シュールの意味と使い方:お笑いの世界から芸術的”超現実”へ


Ψ 太宰治への傾倒

ところで、又吉文学の出発点に
太宰治があったことは、又吉さんご自身
いささかも隠しておられません。

特に『人間失格』は100回以上読んでいて、
重要な部分にピンクのマーカーで
線を引き続けていたら、今や全ページが
ほとんどピンクでどこが重要か
わからないそうです。

そのことを語っている談話を
お聞きください。



どうしても「人間」とか「女」とかの
カテゴリーで一括りにできない
各個人の個別性(singularity)……

これは『人間失格』にかぎらない
太宰文学全般のまさに核心を突いた
批評であって、それが特に強く表現
されているのは、『人間失格』より
むしろ『斜陽』だろうと私は
思っています。

『斜陽』についてはこちらをご参照ください。

斜陽(太宰治)のあらすじと感想◎簡単/詳しくの2段階で解説



Ψ まとめ

ともかく、ほんとうに、笑いながら
泣けてくる、読み応え十分の小説ですよ。

人気芸人の作だから、という理由だけで
売れたわけではないことを
「芥川賞」が証明してくれました。

感想文・批評文を書こうという場合も、     
上に見てきたように、
いろんなとっかかりがありますよね。

火花 sparkler-677774__180

え? 書けそうなことは
浮かんできたけど、でも具体的に、
どう進めていいかわからない( ̄ヘ ̄)?

それならまず、当シリーズ
取っておきの感想文の書き方
《虎の巻》の適用例をご覧ください。

当ブログでは、
日本と世界の種々の文学作品について、
「あらすじ」や「感想文」関連の
お助け記事を量産しています。

参考になるものもあると思いますので、
どうぞこちらのリストからお探しください。

「あらすじ」記事一覧

≪感想文の書き方≫具体例一覧


ともかく頑張ってやりぬきましょー~~(^O^)/

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5 Responses to “又吉直樹 火花で感想文・批評文を☆火花を散らす”ボケ”師弟”

  1. すん より:

    自分のキャラの事を言っている名言の部分は、何ページですか?

    • サイ象 より:

      すんさん

      コメントありがとうございます。

      「自分のキャラの事を言っている名言」とおっしゃるのは
      下記の引用部分のことですか?

      「自分とはこうあるべきやと思って、
      その規範に基づいて生きてる奴って、
      結局は自分のモノマネ
      やってもうてんねやろ?
      だから俺はキャラっていうのに
      抵抗があんねん」


      それでしたら、71ページにあります。

      今後とも、どうぞよろしく。

  2. すん より:

    いくら、探しても見当たらないのですが。

  3. S より:

    私も火花を読んだのですが、最初は花火から始まっているのに何故火花なのかがよく分かりません。
    サイ象さんはどう思いますか?

    • サイ象 より:

      「火花」というタイトルには、
      「ぼく」(徳永)と神谷の師弟間での、
      あるいはもっと広く芸人たちのライバル関係での
      火花を散らす熾烈な闘い、せめぎ合い……
      といったものが暗示されているように思えます。

      コンビ名「スパークス」にもその意味が
      託されていますし、最初に出る「花火」も
      「火花」の一種として象徴的な役割を
      負わされている……と。

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